まあどうにかなるさ

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小さなバーにて

2022-09-18 22:33:15 | 創作
仲のいい女友達がいた。
彼女は大学の同級生の仲のいいグループの一人だった。
社会人になってからはちょいちょい二人で会うことも多くなった。ホワイトジーンズの似合う、少し痩せた明るい女性だ。
でも、彼女に対して僕はいつしか友達以上の気持ちを抑えられなくなっていった。
やがて、自分の気持ちを伝えることを決意する。
「話したいことがあるから会いたい」
電話をすると彼女も「私も話しがある」と言う。何の話か気にはなったが、夕食の後でしゃれたバーに彼女を誘う。
ゆっくり話せるバーを予め見つけておいた。まだ早い時間のバーのカウンターの客はふたりだけ。バーテンは客との距離のとり方を心得ており、自分の気持ちを話すにはうってつけの環境である。
夕食から続く他愛のない話で少し気持ちを和らげて、本題を切り出そうとした時、彼女が先に口を開く。
「私結婚するの」
え?
みるみる変わりかける表情を何とか元に戻して気持ちを悟られないように微笑みを見せる。
「そうなんだ、おめでとう」
友だちの役を懸命に演じる。
「何か話があったんじゃないの?」
一通りの話が終わると彼女は言う。
返事に困り「今度話すよ」そう言ったけど、その気持ちは永久に封印することになる。
そろそろ帰ると言う彼女に「もう少し飲んで行く」と告げる。
店を出ていく彼女を笑顔で見送った後に少しきつい酒を注文する。
静かに流れるジャズの曲名を僕は知らない。オンザロックの氷の音の方が今は耳に心地いい。
早い春のある夜のことだった。


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