犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

チャドルパギ

2007-04-04 00:00:59 | 食べる
 家族来韓三日目の夕食は,チャドルパギ(薄切り牛肉)の名店。

 ある商社マンが数年前,

「チャドルパギのおいしい店があるんだ。すごく混んでいて,むやみに日本人に教えると,いよいよ行きにくくなっちゃうから,わが社の機密になってたんだけど,どうせぼくもうすぐ帰任だから,教えてあげる」

(なんという利己主義!許せん!!)

 で,さっそく行ってみると,確かに旨い。裏道にあるなんの変哲もない食堂ですが,夕食時には長い列ができる。7時半から8時半ぐらいまでは30分待ちがザラ。予約もきかないので,7時前あるいは9時すぎに行かなければならない。

 メニューはたった4つ。

 まずチャドルパギ。ほぼ全員がこれを頼みます。ほかに,ヤン(ミノ)とサテコギ。サテコギは軽くヤンニョムで和えられて出てくる。これら3種類の肉を,もちろん炭火で炙っていただきます。

 そしてシクサ(食事)は一つ,テンジャンチゲのみ。

 肉を食べるときの薬味がシンプルです。酢醤油にネギと青トウガラシの刻んだものが入っている。薄いチャドルパギで,ネギを包むようにして食べます。

 ミッパンチャン(サービスで出るおかず)は,それに輪をかけてシンプル。なんと,生のキャベツを4等分にしたぶつ切りがお皿に乗ってくる。これを一枚一枚はがしてはコチュジャンをつけてかじる。これだけです(ただし,シクサとしてテンジャンチゲを頼むとキムチが出る)。

 確かにチャドルパギは旨い。でも,しょせん冷凍肉だし,抜群に旨いというわけではない。

 では,なんでこんなに人気があるのか。

 その秘密はテンジャンチゲにあります。最後にテンジャンチゲを頼むと,炭火の上のアミを取り去り,まだ残り火のある炭の上に,直に鍋を置く。昔懐かしい手鍋。長年直火にさらされたため,熱で形がゆがんでいて,その歪み具合も趣がある。そこに各自自分のスプーンを突っ込んで食べる(取り皿などない)。

 これが絶品なのです。

 ふつうのチゲと違って,牛肉が入っている。牛肉の脂と味噌が幻想の調和をなします。

 ある若い韓国人男性をここに連れてきたとき,彼,これを食べて涙していました。事情があって,母親を一人日本に置いたまま韓国で独り暮らし。突然ヒャンスビョン(郷愁病=ホームシック)にとらわれたようです。

「ああ,オモニにこれを食べさせたい…」

 考えようによっては,このテンジャンチゲこそがメインディッシュであって,チャドルパギは前菜であるかのようにも思えます。

 かようにして,このたびの家族会食も,非常な満足のうちに終わりました。

 というわけで,この店の詳細については,私の帰任が決まったら書こうと思います(これ以上客が増えたら困るので)。

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2 コメント

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三角地? (しんこぶ)
2021-04-08 17:54:21
現役駐在員です。
10年来の読者ですが初めてコメントさせて頂きます。
このお店、三角地ですよね?
私も良く利用します。江南にも支店が有りますが、味・雰囲気共に本店の方が断然良いそうです。
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三角地のボンサンチプです (犬鍋)
2021-04-11 17:35:20
コメントありがとうございます。

長い間読み続けていただいて、とても嬉しいです。

江南の支店は知らないので、私の帰任(2007年)以降にできたのでしょう。オーナーのハラボジはかなりの御歳だったと思いますが、お元気でしょうか。

閉店間際になると、店員の態度が豹変するので、ご注意を。
https://blog.goo.ne.jp/bosintang/e/f4d122e779afe225c9fe341d1fb35647
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