犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

伴侶動物は日本語に定着したか?

2021-12-24 23:57:24 | 言葉
写真:わが家の伴侶犬ハイジ(右)。犬種はウィペット

 三省堂国語辞典の「伴侶」を、新旧対照してみました。

 2014年版(第7版)は次のようになっていました。

はんりょ【伴侶】(名)〔文〕①道連れ。つれ。②配偶者。つれあい。「人生の伴侶」

 それに対して新しく出た2022年版の第8版は次の通り。

はんりょ【伴侶】〔文〕①いつもそばに〈いる/ある〉大事な存在。とも。「伴侶動物〔=家族のようなペット〕」②配偶者。つれあい。「人生の伴侶・好伴侶」

 ①の語釈は一変し、「伴侶動物」という用例が追加されました。

「家族のようなペット」というのは、ペットの中で家族のようなもの(すべてのペットではない)ということなのでしょう。

 なるほど。

 ヘビとかカブトムシをペットとして飼う人がいるけれども、それは「伴侶動物」ではない。特に犬、猫のように、家族の一員とみなされる(ある程度長生きする)ペットを指すのだと思われます。

 ちなみに、第8版の「ペット」は、

ペット〔pet〕①かわいがって飼う動物。「ペットショップ・ペットフード・ペットシーツ〔室内で犬に排尿・排便させるための、紙や化学繊維などでできたシート〕」②〔俗〕お気に入りの年少者。「社長のペット」

 こっちはヘビ、カブトムシ、金魚、ハムスターなどにも当てはまりそうです。

(なお、ペットシーツは犬に限定して書かれていますが、別に「猫砂」という言葉が立項されています。)

 韓国では、従来のペット=愛玩動物(エワンドンムル)が、伴侶動物(パッリョドンムル)に言い換えられ、定着しています。

 私は日本で伴侶動物という言葉を聞いたことがなかったので、この漢字語はてっきり韓国で作られたものだと思っていました。

 前にも書いたように(リンク)、伴侶動物とは、1983年にヨーロッパでペットの言い換え語として提唱されたCompanion Animalを漢字語に翻訳したものです。

 調べてみると、Companion Animalをカタカナ表記したコンパニオン・アニマルは、日本でも1985年頃から使われるようになったとのことです(知恵蔵)。

 そして漢字語の伴侶動物のほうも一部では使われていて、2012年には日本伴侶動物協会という団体が設立されていますし、東京農業大学には「伴侶動物学研究室」というのがあるそうです。

 韓国語は、歴史上、日本で作られた漢字語(和製漢語)を大量に取り入れていますが、「伴侶動物」も日本で先に作られたものが韓国に輸入されたのかもしれません。

 逆のケースはめったにないので、たぶんそうなのでしょう。「韓流」(かんりゅう/ハンリュウ、実際の発音はハッリュ)はその珍しいケースです。ただし三省堂国語辞典では語源が「中国語」になっているので、中国生まれの漢字語の可能性もある。

 今回、伴侶動物は三省堂国語辞典に用例として採用されましたが、独立した項目として立てられたわけではないので、「完全に日本語に定着した」と見るのは難しいと思います。

 コンパニオン・アニマルもしくは伴侶動物がなぜ日本語に定着しないのか。

 韓国の場合、ペットを意味する一般的な言葉は愛玩動物であり、「愛玩」は「玩具(おもちゃ)」に通じ、「おもちゃのようにもてあそぶ」というマイナスイメージがあったため、伴侶動物への言い換えが進みました。

 これに対して、日本語のペットは別にマイナスイメージはないと思います。

 三省堂国語辞典の定義は、先ほど見たように、「かわいがって飼う動物」です。

 これは、家畜とは違います。家畜は食用にしたり、乳や毛をとったり、使役したりするのに使いますが、ペットはもっぱら「かわいがる」ために飼います。そこに「もてあそぶ」ニュアンスは無いと思います。

 犬の場合、中国・ベトナム・韓国に存在する「食用犬」以外に、警察犬、災害救助犬、麻薬探知犬、猟犬、番犬のような「使役犬」もありますが、ペットと呼ばないでしょう。

 また、コンパニオン・アニマルは、ペットに比べて長すぎるし、伴侶動物は、なんか大げさな気がします。

 まあ、盲導犬などの障害者補助犬は、人間と一心同体で生活するイメージが強いので、伴侶犬と呼ぶのにふさわしいかもしれませんが。

 コンパニオンを調べてみましょう。

コンパニオン〔companion〕①もよおし物などで、案内や接待をする女性。(1964年の東京オリンピックで採用)②酒の席で、客を接待する女性。

 語義②は、ペットよりよっぽどイメージが悪いですね。コンパニオン・アニマルが定着しない理由の一つかもしれません。

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