写真:1994年に崩落した韓国の聖水大橋(Wikimedia)
1月11日に外壁崩落事故を起こした韓国光州のマンションについて、「不実(プシル)」という言葉を使った報道が多数見られました。
1月11日に外壁崩落事故を起こした韓国光州のマンションについて、「不実(プシル)」という言葉を使った報道が多数見られました。
不実工事、不実養生、不実建築、不実設計・施工、管理監督不実…
光州で発生した新築アパート(=マンション)崩壊事故の原因が不実工事だという指摘が出ている。(1月15日中央日報)
警察は事故原因を究明し不実工事ではなかったかについて捜査する方針(1月14日中央日報)
韓国語の不実は、次のような意味です。(標準国語大辞典)
1.体、心、行動などがしっかりしておらず、弱い
2.内容の中身がなく、充分でない
不実工事、不実銀行
3.信頼性が少ない
日本語にも不実と言う言葉がありますが、意味が少し違います。(三省堂国語辞典第八版)
1.〔恋人やつれあいに〕誠実でないこと。「不実な態度・夫の不実」
2.事実と違うこと。「公文書の不実記載・不実な診断」
韓国語の不実工事を日本語に訳すとき、手抜き工事とすることが多いようです。
今回の事故では、氷点下の中で、コンクリートを十分に養生(流し込んでまだ固まらないコンクリートにおおいをかけて保護すること)しなかったため、コンクリートの強度が充分に高まらなかったことが原因だ、とする説が有力です。
工期を守るための手抜きだったんでしょう。
三豊百貨店崩壊事故との類似性を指摘する報道もありました(リンク)。
三豊百貨店は、韓国の江南(カンナム)にあった高級デパートで、建設から4年半後の1995年6月に突然崩壊し、500人以上の死者を出しました。
当時、私は韓国赴任前でしたが、94年に起きた聖水大橋崩壊に続いて起こった大事故に、家族が不安がっていたことを思い出します。
「地震があったの?」
「いや。韓国は地震なんてめったにないよ」
「じゃなんで崩れたの?」
「さあ」
三豊百貨店も聖水大橋も典型的な不実工事だったようです。
話は変わりますが、池明観(チ・ミョングァン)さんという学者が、今年の元旦に亡くなりました。
氏は長い間日本で教鞭をとり、日本語の著作も多い。1995年に出た『韓国 民主化への道』(岩波新書)の中で、こんなことを書いていました。
このような事故(聖水大橋、三豊百貨店の事故のこと)は、ほとんどその設計から工事そして監理に至るまで、すべてが「不実工事」であった。工事費の節約、工期の短縮、下請け価格の削減、監理の不誠実。でき上がった建物の不法増改築。そのすべての過程を監督官庁は収賄によって黙認した。いままで、事故があってもこのような不正の連鎖によって処罰らしい処罰を受けていなかった。軍部統治とは、そのようなものだった。
今回の光州のマンション外壁崩落事故で、このような「不実工事」が「軍部統治」にかぎらないものであり、民主的な政権下でも起こることが明らかになりました。日本でも2005年頃に「耐震強度構造計算書偽装事件(姉歯事件)」が起こりましたね。
池明観氏は、1970年代の『韓国からの通信』(T・K生著、岩波書店の『世界』に連載、後に岩波新書)の著者としても有名です。その中に「事実に基づかない記述が多い」ことは、西岡力氏が『日韓誤解の深淵』(1992年、亜紀書房)で指摘しており、このブログで紹介したことがあります(リンク)。
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