無知の涙

おじさんの独り言

自転しながら公転する

2021年02月05日 | 小説

先週木曜日の5時に夢中で中瀬親方が絶賛していたので買ってみました。

都という32歳の女性を主軸に、身の回りで起こる様々な出来事にスポットを当て展開してゆくストーリー。

更年期障害を患った母の世話をするために東京暮らしをやめ、茨城の実家に戻り、近くのショッピングモールで働き始めた都。

そこで貫一という男性と知り合い、付き合いはじめるが、中卒で元ヤンで読書家で今は回転寿司で働く寿司職人という彼に少なからずの不安を感じていた。

仕事に恋、親の世話、確実に年を取りつつある自分、そして結婚。

どれも答えがでず解決もしない。自分を中心に物事が回っているのではない。

現実的な数々の問題の周りを自分がただ巡っているだけ。自転しながら公転を続けてゆく地球のように。

それでも答えにありつかんとあがき続け、彼女が最後に手を伸ばしたもの。

それが幸せかどうかの答えは明確にはでていないし、何が正解かなんて死ぬまでわからないが、最後の都の言葉がすべてを物語っていると思いました。

 

なかなか面白かったけど、女性が読んだほうがいろいろ共感できるような気がしました。

個人的には寛一の視点でこの物語を追ってみたい気分でした。あのとき寛一はなにを考えてのだろうとか、都のあの言動にどう思っていたのだろうとか、都の父親に対してどう思ったのだろうとか、気になります。

 

 

 

 


猫を棄てる

2020年06月08日 | 小説

村上春樹氏の新刊を読みました。

 
思えば彼の新刊を手にするのは海辺のカフカ以来だろうか。
 
ハルキストなんていう言葉を耳にするようになってから、店頭に並んでいる彼の新刊を手に取る事に少し抵抗を感じるようになってしまった。
 
いったい今回はどういう風の吹きまわしかと言うと、単純に興味がある内容だったので。
 
そう言ってしまうとハルキスト云々の件が完全に言いがかりだというのがバレバレだが。
 
自分が読んでいたごく狭い範囲に限っていえば、あまり幼少期の育った環境や境遇について多くを書き記さない印象があり、取り分け血縁関係については意識的に避けているようにさえ思え、一体どのような環境で育ってきたのか昔から興味があった。
 
この著書を通してその理由が少し分かったような気がした。
 
ねじまき鳥で垣間見えた戦争の匂い、アンダーグラウンドという作品に着手した背景、それらは彼の持つそうした幼少期の体験によって生まれたのだろうと想像する。
 
内容はとても濃いが簡潔にまとめられていて、1時間かからずに読めるかと思います。
 
 

テロリストのパラソル

2014年09月14日 | 小説
気に入った作品を何度も何度も観たり読んだりする性癖がある。

ついでに言うと気に入っている本は何冊でも買ってしまう。古本屋で売られているのを見かけると、どうしても買ってしまう。病的である。最近は読書量そのものが激減しているので、古本屋もほとんど行かないが、一時期はひどいものだった。

音楽はバンドでありさえすれば、新しいものにも積極的に手を出すのだが、とりわけ小説は狭い。

たまに最近の小説を読むこともあるが、2ヶ月くらいすると何も残っていない。名前とかはどうでもいいが、人物たちがどういう事を思い、どういうふうに物語を結んだのかそれさえも忘れてしまうのは、なんというか、やりきれない思いがこみ上げてくる。

もちろんそれは作品のせいというよりは、個人的な能力の問題である。なにしろ容量が少ないので、必要と思うものを残すだけで精一杯で、結局忘れてしまった作品というのは、僕にとって必要のないものとして脳が取捨選択をした結果なのだ。

そうなるとますます新しいものを読もうという気がなくなってしまう。

でもさすがにそれではイカン
という事で、以前にI課長と飲んでる時にオススメ本を訊いてみた。

僕とはおよそ正反対で一定のジャンルに偏らず幅広く読んでいる方なので、そういう方が推す本というものに興味があった。

イチオシが高村勲のリビエラを撃て。

とりあえずこの本から読んでみようと書店に行ってみたが、リビエラを撃てだけがない。三軒まわったが、ない。

仕方ないのでレディージョーカーを購入。その際にテロリストのパラソルも購入。



I課長と飲んでる際にこのテロリストのパラソルが大変面白かったという話題で盛り上がり、また読みたくなっていた。

二十歳の頃にダヴィンチという小説専門の雑誌で紹介されていたのを見たのが読んだきっかけでしたが、その頃には既に、かの性癖がニョキニョキ芽生え始めていたので、この本を手に取ったことはまさに僥倖というしかない。

中年のバーテンで、しかもアル中。そんな男が物語の主人公なのであるが、これがまたハードボイルドでカッコいい男なのである。

文章もすごく情景的で、まるで映像を観ているかのように読み進められる。

だいたいその本が自分に合うか合わないかというのは、冒頭の1ページくらいで決まってしまうように思う。腕相撲をする時に、相手の手を握り込んだ瞬間に勝つか負けるか分かってしまうが、あの感覚によく似ている。

テロリストのパラソルについては、冒頭の8行でもうのめり込んでいた。 

特にこのバーテンが作るホットドッグが美味しそうで、この本を読む度にホットドッグが食べたくなって仕方ない。




小松左京を思いながら呑む会

2012年01月30日 | 小説

昨日は仕事帰りに図面屋Oさんに誘われて、「宇宙に行った小松左京を思いながら呑む会」というのに行って来ました。

知らない人には何がなにやらという感じでしょうが、大丈夫。僕も何がなにやらでしたから。

会場が新宿ロフトと聞いて、かつてライブした会場なので懐かしくて楽しみにしていたら、そのロフトではなく、ロフトプラスというトークライブハウスでした。


小松左京さんとは有名な小説家で、作品で言うと「日本沈没」が一番有名ですかね。SF小説の第一線を張りつつ、多方面でもご活躍されていましたが、残念ながら去年の7月に逝去されました。


その小松さんを偲んで、故人と縁のある方々によるトークライブショーが行われたという次第です。

狭い会場に20才から70才くらいの幅広い年齢層のファンが200人は来ていましたか。すごい熱気でした。

小松左京を全く知らずに来ている阿呆など、僕一人だったのではないでしょうか。

本当に申し訳ないが、名前も知らなかった。SFはむしろ好きなのだが、SF小説は全く手に取った事がなく、おまけに無学なのだから知る由もないわけである。

しかし、このトークライブは、そんな無知な僕でも小松左京さんという方の人となりが分かるように構成されていて、むしろ真っさらな状態でこのトークライブにおいて小松左京さんという小説家と出会えたのは、とても貴重な体験でした。

トークライブも決して重くなく、オーディオコメンタリーのようなノリで笑いあり、裏話ありで楽しかったです。

宇宙とは何だろうか、人って何だろうか、死とは何だろうか。決してそんな重々しいトークテーマは無かったのだが、ふとそんな事に思いを馳せた不思議な時間でした。

こういうのは良いですね。願わくば、こういった貴重な話は、このようなアンダーグラウンドな場ではなく、公共の電波を使って、もっと多くの人に伝えられる機会を作って欲しい、と思いました。


長いお別れ

2010年08月28日 | 小説
突然、ハードボイルド小説が読みたくなり、新宿南口の紀伊國屋へ行って衝動買いしてしまいました。


そのうちの一冊。

長いお別れ

レイモンド・チャンドラーというアメリカの小説家の代表作。


僕自身アメリカの小説はあまり馴染みがなく、小説家もあまり知らない。

フィッツジェラルド
カポーティー
ヘミングウェイ
そしてチャンドラー。
それくらいしか知らない。

作品も全く読んだことない。老人と海は最初だけ読んで終わってしまった。

別に毛嫌いしてるとかではなく、なんとなく読まずに来てしまった。


小説を読むというのは義務ではない。必要に迫られて読むものである。


この「長いお別れ」に関しては、かの村上春樹氏も翻訳しているが、村上春樹色が強すぎるようなイメージがあったので、清水俊二氏が翻訳してるものにした。