
Q&Aで、もうひとつ。
閑猫堂ではなく、出版社経由でいただいたお手紙から。
絵本『みんなで!いえをたてる』(偕成社・2011年)を読んで、5歳の息子さんが「これ、まちがってるよ」と言うのだそうです。
「うえきやさんが ちいさい ショベルカーで にわに きを うえています」(p.20)というところ。
ショベルカーに乗っている人は『ざっくん!ショベルカー』(偕成社・2008年)にも出てきた人で、この人はショベルカーの運転手さんだから、植木屋さんではない…と。
えええ? うわあ、どうしよ。
問題の『みんなで!いえをたてる』は、

これ、ですね。
このショベルカーの運転手さんは、

同じ本の最初のほうで、もっと大型のショベルカーで基礎工事をしているのと同じ人。
そして、『ざっくん!ショベルカー』は、

これ。植木屋さんの親方も、トラックも同じ。
『ざっくん!ショベルカー』を読んだ子なら、このお兄さんが自分で3台のショベルカーを持っていて、水道工事や家屋の解体などいろんな現場で働いていることを知っている。つまり「植木屋さんの人」ではない、ということを知っているのです。
これはね、この息子さん(Yくん)がすごいと思いました。
シリーズ物ですが、2冊の絵本はそれぞれ独立した別の話。その2冊のメインストーリーだけでなく、設定から細部の絵まですっかり頭に入っていて、画面の中から「おなじひと」を見つけて、関連性を考えることができて、疑問をちゃんと言葉にすることもできている。まさに「作者冥利に尽きる」といえます。
で、間違ってる、のか?
えーと、この文章を、Yくんは「うえきやさんが」「ショベルカーで」「きをうえています」と読んで、違和感をおぼえたわけですね。
ショベルカーを運転しているのは「ショベルカーの運転手さん」であって、「植木屋さん」ではない。それに、もちろん、ショベルカーが直接木を植えるわけではない。木を運んできたのはトラックで、吊って降ろそうとしているのはクレーンです。これ、通称ユニック、いわゆる「積載型トラッククレーン」というやつ。
ですが、絵を見ていただくとわかるように、ここは「植木屋さんが庭に木を植える」という仕事を、できるだけ簡潔に説明したかった場面であり、木を植える一連の作業の中でショベルカーが使われています。このとき運転手のお兄さんは、ショベルカーごと植木屋さんに雇われているので、ここだけみれば「植木屋さんチームの一員(穴掘り担当)」といっても、大きな間違いではない、んじゃないかなあ。
この乗り物シリーズは、一度主役で出てきた車が、そのあともあちこちにゲストで顔を出すのがお約束のようになっていて、本筋とは関係なく、それらを見つけて楽しむことができるという趣向なのですが、正直なところ、小さい読者さんがそこまでしっかり見ているとは、絵を描いた人も出版社も想像しておらず、詰めがやや甘いところがあったかもしれません。
今後は(今後があれば、ですが)そこのところも、よくよく気をつけようと思います。Yくん、ありがとう。
ショベルカーは、『おはよう!しゅうしゅうしゃ』『いそげ!きゅうきゅうしゃ』にもちらっと出ているので、ぜひさがしてみてください。
ちなみに、このお宅では、Yくんの提案で「ちいさいショベルカーで にわにほったあなに、うえきやさんが きをうえています」と変更して読んでおられるそうです。素晴らしい。
これは、集団読み聞かせではできないこと。ひとりひとりに合わせた読み替え、いわば「サイズオーダー」が可能だというのが、おうち読みの最大のメリットですから、もちろん歓迎です。
わたしも、子どもが2、3歳のとき、絵は魅力的だけど文章が長すぎるような絵本を「よんでー」と持ってこられると、わかりやすく短縮して読んだりもしました。
大事なのは、そのとき、その場で、絵本の世界を共有するということ。アナウンサーのように一字一句正確に読まないと、子どもが正しく字を覚えられないのではないか…などと「教育的」なことを考える必要はまったくないと、わたしは思います。