これまでの七宝とは趣が異なる、盛上げ七宝といわれる品です。
巾 17.3㎝ x 長 29.7㎝、高 1.3㎝。大正ー戦前。
確かに、色釉が盛り上がっています。
胴の地をそのまま生かして、彩色部が盛り上がっています。
裏側は濃紺の釉ですが、よく見ると舞美人が凹型に押されています。
なんだ、底上げ菓子箱みたいなもんか?
気を取り直して、美人のお顔をナデナデしてみると・・・
顔には、眉毛、目、鼻が刻まれています。
また、桜の花などには、銅板の底上げは見られません。
さらに・・・
桜の花びらには、輪郭が彫ってあります。
着物の縁や帯の菱形模様も、銅板に溝が刻まれて、縁取りがしてあります。
盛上げ七宝では、普通の七宝のような植線縁取りをしないのですが、よく見ると、内部の模様は金線で縁取りされています。
手抜きのお手軽七宝かと思われた盛上げ七宝ですが、いろいろ工夫がなされた工芸品なのですね。
盛上げ七宝は、鎚起七宝ともよばれます。まず、金鎚で銅板を叩き出し、焼きなましを繰り返しながら成形をします。そして、出来上がった銅板に色釉をおき、焼成します。これを繰り返しながら釉薬を盛り上げていきます。釉も、高温での垂れが少ない特殊な物を使ったようです。
盛上げ七宝を作ったのは、安藤七宝店を興した安藤重兵衛です。当時、尾張七宝は非常に隆盛していて、後発組の安藤七宝としては、新しい技法が必要と考えたのでしょう。その後、あれだけ盛んであった尾張七宝も急速に衰退し、現在、安藤七宝店がほとんど唯一、命脈を保っています。今の店舗は、名古屋のど真ん中、栄のデパートビル群の隙間にポツンとあります(銀座にも支点有り)。店内には、きれいな七宝(現在の品)が並んでいて、目の保養になります。財布がゆるせば購入も。奥には、尾張七宝の名品を展示した部屋があります。今の七宝と較べてみるのも一興かと(^.^)
【おまけ】
鎚起の結果、ボディは微妙に歪んでいます。
光の当て方により、何かが・・
国芳の浮世絵、お化け?(^^;