東京新聞9月11日朝刊に面白い書評が載っていたので紹介します。
盆踊り 乱交の民俗学 下川耿史著(作品社)
評者 礫川全次(庶民史研究家)
夏の風物詩や年中行事として今も至る所で催される「盆踊り」が
つい最近まで、乱交すなわち「見知らぬ相手との性関係」を取り持つ
出会いの場であったという「事実」を改めて確認しようとした本
である。因につい最近までとは「太平洋戦争が終わったころ」まで
だと著者は言う。
そうした「事実」はかつでは誰でも承知していることで、同時に
公には語ってはならないことでもあった。本書はさまざまな文献・
記録・図像等の資料を駆使しながら、この「事実」を白日の下に
曝したのである。
日本の民俗学は、戦前から性の問題を忌避してきた。文献よりも
フィールドワークを大切にしてきた日本の民俗学が「盆踊り」の
性風俗、「よばい」の民俗などについて「聞き取り」を行ってこな
かったのは、怠慢というよりは、意図的な隠蔽と捉えるべきだろう。
人間の本源の行為や観念である性の民俗に光が当てられたのは、
むしろ近年のことだ。そうした民俗学の欠落部分を、著者は記録と
文献で補う。その博引旁証はとどまるところを知らず、このテーマ
に賭けた著者の執念を窺わせる。
問題の書である。異端の書である。同時に画期的な書でもある。
「盆踊り」の起源とその歴史について綿密な考証が行われる。古代の
歌垣に起源を発し、雑魚寝・踊り念仏・念仏踊り等を経由して「盆踊り」
にいたったという主張は、多くの史料と先行研究を踏まえており、
反論を許さない説得力がある。
しばしば土俗学者・中山太郎の諸論考が援用される。中山は日本
民俗学の主流から文献派と位置づけられ、不当に低く評価されてきた。
本書の刊行を機に、中山土俗学の再評価も期待したい。
数多くの図説が収められているが、そうした図像自体が、筆者の
主張の正しさを裏付ける感がある(例えば「亡者踊り」の写真)。
これには思わず見入ってしまった。
コロ子は「盆踊り」を、お子ちゃまの行事だと理解していたのですが、
大人のお楽しみイベントだったとは知りませんでした。昔は日本も
おおらかだったのですねぇ。