化け物の正体

2011-12-19 09:35:10 | 日常

東京新聞朝刊火曜日に掲載される「記者の目」。
大変興味深くて毎回丹念に読んでいます。
最近特に良かったのは、今月6日に掲載された橋本充孝記者による
コラム。多くの方に読んで頂けたらと思い、転載しました。
これをきっかけ
に、東京新聞の読者が一人でも増えると、
コロ子もうれしい!

メディア展望 失言に見えた「国家の意思」 坂本 充孝 
 女性を貶める発言をした沖縄防衛局長が更迭された。オフレコの縛り
を振り払って報じた琉球新報によると、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)
の辺野古移設に関わる環境影響評価の評価書提出について「これから
犯しますよと言いますか」と述べたという。
 比喩の下品さは論外だが、同紙が「発言内容を報じる公共性、公益性
がある」と判断した理由は、それだけではなかっただろう。
     ■原発の推進力
 沖縄県民の感情を考量したのだと言い訳する高級官僚の言葉の裏に、
いざとなれば問答無用、何が何でも屈服させる、やってやるという猛々
しい「国家の意思」の存在を感じ、看過できないとおきて破りを決断
したのではないか。
 「国家の意思」。この言葉をこれほど深く考えさせられた年はない。
三月に発生した福島第一原発は、日本中どころか世界に放射能をばらまき、
故郷と生活を奪って、多くの人を絶望に陥れた。
 おかげで誰もがエネルギー問題を考えるようになった。
 毎週のように脱原発を求めるデモや集会があり、数万人の人が集まる。
原発の永久停止や全廃炉を求める自治体も続々と出てきた。電力会社の
中には明らかに「原子力の平和利用」への意欲を失っているかに見える
会社もある。
 それでも野田佳彦政権は原発の再稼働、輸出に向けてひた走る。暴走の
向こうに見えるのは、「民意」とは大きく異なる「国家の意志」だ。
     ■首相も降ろす
 それは、ときの政権が目指すものとも少し違う。
 たとえば、二〇〇九年九月に熱狂的な歓迎を受けてスタートした鳩山
由紀夫政権は、普天間飛行場について「最低でも県外移設」と意欲を見せた
ものの、実現できず、急失速した。九カ月後に辞任した政界の名門の御曹司は、
すっかりおびえた目をしていた。
 今年四月に浜岡原発(中部電力)を停止させ、再生エネルギーへの転換
をほのめかした菅直人首相は、猛烈な「菅降ろし」の風を受けて退陣に
追い込まれた。
 見事なまでの相似形。いずれも政治が「国家の意思」を無視して走ったときに
生じた軋轢のようにみえた。
     ■地元紙の英断
 「国家の意思」は、どこでどのように形成されるのだろうか。霞ヶ関の高級
官僚が仕掛け人なのだろうか。それとも米国の圧力だろうか。
 いずれにせよ、化け物はなかなか正体を現さない。だからこそ、たとえ尻尾
の先でも捕まえたときは離してはいけない。沖縄防衛局長のひとことは、その
尻尾の先であったように思える。国を動かす意志を探るのはメディアに課せ
られた最も重要な役目だ。
 したがって琉球新報の判断は正しかったと信じる。(特別報道部)

 


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