『朝日』と対がん協会に抗議が集中――山下俊一氏に「朝日がん大賞」
週刊金曜日ニュースから
九月二日、鹿児島市で開かれたがん征圧全国大会(日本対がん協会
など主催)は、市民による抗議のビラ配りを受けるという異例の幕開
けとなった。大会で、山下俊一・福島県立医科大学副学長に「朝日
がん大賞」が贈られたからだ。
朝日がん大賞は、日本対がん協会に朝日新聞社が協力し、将来性
ある研究者に贈られるもの。山下氏は、長崎で放射線と甲状腺がんの
治療と研究に従事してきた研究者だが、福島原発事故後、福島県放射
線健康リスク管理アドバイザーに就任。「一〇〇ミリシーベルトまで
は大丈夫」など、安全神話を県内で振りまいた。
こうした御仁に、なぜ賞を贈るのか。対がん協会は「業績として
評価されたのは主に長崎大学時代のこと。福島での先生の言動への
社会的批判は、詳細を承知していない」(事務局)と弁明に躍起だ。
子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク(中手聖一・代表
世話人)は三日、「(山下)氏の発言は、多くの方の避難を躊躇させ、
また、福島に住み続けることについて安心感を得させ、家族不和
まで生んでいる」とする抗議声明を発表した。対がん協会にも「二日
夕方までに九四件の抗議や問い合わせ」(事務局)があった。
全国大会会場前のビラ配りに駆けつけた鹿児島市議の小川みさ子さん
は、「脱原発を社説で打ち出した朝日新聞社が、なぜなんでしょう。
大会は民生委員やPTAなどの動員が目立ち、原発のセレモニーに似た
嫌な感じでした」と話す。
朝日新聞社は「朝日がん大賞は、日本対がん協会が選考し、(中略)
弊社はご質問にお答えする立場にございません」とした。だが、対がん
協会理事長は、武富士裏金(広告費)問題で社長を辞任した箱島信一・
朝日新聞社顧問。対がん協会事務局によれば、朝日新聞社は協会に社員
を四人出向させ、昨年度は四六七一万円もの寄付をしている。朝日新聞社
は今回の授賞を、他人事では済まされまい。
(北健一・ジャーナリスト、9月9日号)
天声人語 2011年9月21日
花火は遠いのに限ると書いたのは、独文学者の高橋義孝さんだ。両国の
川開きの夕、師と仰ぐ内田百けん(けんは門がまえの中に月)宅に招か
れた折のこと、なぜか障子がぴたりと閉めてある。酒の合間の短い沈黙
を狙ったように、トントントトーンときた▼その趣に打たれた高橋さん
は、見えるが音なしの遠花火にも触れる。「郊外の畑の向(むこ)うの、
はるかかなたの夜空に、ぱっと拡(ひろ)がる花火も味のあるものだ」
と。欠けた情報を心で補う時、想像の大輪はしばしば現実を超える▼
さて、想像力が過ぎるのも考えもので、愛知県日進(にっしん)市の
花火大会で福島製の花火だけが外されたという。「放射能をまき散らす」
などの苦情が、復興を後押しする催しに水を差した▼花火工場の放射線
は十分に弱く、品は屋内に置かれていた。漠たる不安への感度はそれ
ぞれだろうが、これはもう風評被害というほかない。一部の異論に
折れた主催者に、情けない思いを抱いた市民も多かろう▼とはいえ、
やれば叱られ、やらねば叩(たた)かれ、どちらにしても角が立つ。
これでは自治体も、福島を応援する企画に二の足を踏むことになる。
被災地を支える決意と、心配を丁寧に取り除く気配りが、これまで以上
に求められる▼朝日歌壇に、京都から鮮烈な一首が届いた。〈桃買うを
迷いてポップ確認す「福島」とあり迷わずに買う〉中野由美子。手書き
広告の産地名に店の心意気を感じ、思わず手に取る人がいる。被災地
の産品を気負いなく買える日まで、絆を欲する遠花火に耳を澄ましたい。