ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

絶滅危惧種: 産科医

2006年07月01日 | 地域周産期医療

 大学病院以外の病院・診療所の産婦人科医数は、昨年7月現在で、1施設当たり平均1.74人であった。1人勤務の産科施設が非常に多い。しかも、全国の産婦人科医の4分の1は60歳以上である。

 毎年4月に全国の大学病院産婦人科に入局する新人医師数は、3年前までは350人前後だったが、新臨床研修制度への移行期(一昨年、昨年)の2年間は新人医師の入局はなく、今年の新規入局者は213人(従来に比べて4割減!)だった。大学病院の産婦人科は自らの診療態勢の維持が精いっぱいで、従来通りの地域への医師派遣は非常に困難な状況に陥っている。

 福島県立大野病院での「癒着胎盤による患者死亡事例」において、担当医師が逮捕、起訴された事件は、現役の産婦人科医達にも非常に大きな衝撃を与えた。予後不良の疾患に対して、患者救命のために治療に最善を尽くした医師が、治療の結果次第で、凶悪事件の犯人と全く同じに扱われるようになってしまえば、救急医療や産科医療に従事しようとする者など、この世の中からすぐに消えていなくなってしまうのは当然だ。「犯罪者」扱いされてまでも医療を続けたいとは誰も思わない。

 この事件の影響もあって、1人勤務の産婦人科では分娩取り扱いの継続は非常に困難な状況にある。1人勤務の産科施設のほとんどは、今後数年以内に分娩取り扱いが中止されるだろう。また、現在60歳以上の産婦人科医のほとんど全員が10年後には現役を引退していることも間違いないだろう。

 このままでは、10年後には、日本中で、妊娠しても分娩を受け入れてくれる産科施設がどこにもみつからないような事態となっていることが危惧される。国、自治体、医療界、医学教育界、市民が、挙げて、この問題の解決に真剣に取り組んでゆく必要があると思う。