最近、全国的に「医師不足」がよく問題となっていますが、今後、いくら医師を大量に養成し続けたとしても、その新しく医師になった者達が、特定の地域、特定の診療科だけに集中してしまうようであれば、永久に「医師不足」の問題は解決しません。
また、全体の頭数では医師数が十分に足りていても、地域内で医師が分散して多くの施設にばらばらに別れて配置されていれば、どの施設も「医師不足」に陥ってしまって、地域内のどこに行ってもまともな治療を受けることができなくなってしまいます。
医師を適正に配置することが非常に重要です。
****** 読売新聞、2006年7月27日
医師不足、新研修制度のせいではない
医師の人数は年々増えているのに、各地で医師不足が叫ばれている。
厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」が、将来の見通しをまとめた。全体的に見れば医師の数は十分確保できる、という。
試算では、過重労働が日常化している医師の勤務時間を週48時間以内に収めるには、全国で9000人足りない。
だが、医師の総数は毎年3000人以上のペースで増え続けている。減少傾向にある都道府県は無い。
にもかかわらず、「医師がいない」という悲鳴が聞こえるのは、自治体病院など地域医療を担う中核病院で、突風的な医師の減少が生じているためだ。
2年前に導入された新人医師の新しい研修制度が、きっかけだろう。
以前の研修はほとんどが大学病院で行われていた。新人医師は狭い専門領域しか身につかず、徒弟制度のような医局で雑務を担うことも多かった。
幅広い医療知識を習得させるために、一般病院でも研修できるようにしたところ、ほぼ半数が大学病院ではなく、主に都市部にある症例豊富な一般病院を選んだ。その反動で人手不足となった地方の大学病院が、自治体病院などに派遣していた中堅医師を引き揚げてしまった。
加えて、産科・小児科など昼夜無く診察を求められる診療科から、医師がじわじわと逃げ出している。
各病院に医師が広く薄く配置されているため、診療体制に余裕がなく、医療事故のリスクも高い。耐えかねた勤務医が開業医に転身し、新たな医師もやって来ない。大学病院の医師引き揚げは、こうした状況にも拍車をかけた。
大学側は、新研修制度が混乱の原因、と批判している。これは筋違いだ。新制度に見直しは必要としても、根本的な問題は大学病院のあり方や、無計画に医師が配置されている現状にある。
大学は一般病院に勝る研修環境を用意することで、研修医を呼び戻すのが常道だろう。自治体も隣接の市町村が協議して、地域の拠点となる診療科を割り振って医師を集中的に配置するなど、診療体制に余裕を持たせることが重要だ。
新制度下で2年の研鑽(けんさん)を積んだ医師が第一線に出始めた。この人材を生かすことが、医師不足を解消するカギだ。
若い医師は、必ずしも都会を志向しているわけではない。地方であっても、地域医療に情熱をもって取り組んでいる病院には研修医が大勢集まっている。
地域をあげて、先駆的な医療体制の構築に取り組むことが、若い医師を引きつける近道ではないか。