コメント(私見):
日本のお産の47%は診療所(病床数19以下)で扱われていますが、診療所の半数近くは助産師がいないか一人しかいないのが現実です。新卒の助産師で診療所に就職するのは2%で、助産師全体の八割が病院(病床数20以上)に集中しています。
多くの実際の医療現場で助産師が圧倒的に不足しており、助産師が現実の出産現場に対応しきれてない以上、現在ある戦力をいかに有効に使って、この危機を乗り切ってゆくのか?を社会全体で考えていく必要があると思います。
ただでさえ、診療所の先生方が次々に分娩取り扱いを中止している影響で、地域基幹病院へ分娩が集中しパンク寸前で対応に苦慮していたところに、この問題を契機に残りの診療所の先生方がなだれ現象的に一気に分娩を中止するような事態になれば、地域基幹病院側もとても対応しきれません。時代は移り変り、世の中の仕組みもどんどん変化してゆくのは仕方がないとしても、理想の実現のためには準備期間が絶対に必要だと思います。
****** 参考:
****** 読売新聞、2006年9月6日
横浜・堀病院事件、捜査批判に県警が異例の反論
横浜市瀬谷区の堀病院で無資格の看護師らが助産行為をしていたとされる事件で、日本産婦人科医会などが神奈川県警の強制捜査を批判していることについて、井上美昭・県警本部長は6日の定例記者会見で、「不当と言われるいわれはない。関係機関の法的な解釈を事前に照会したうえ、厳正に捜査している」と異例の反論をした。
県警は8月24日、保健師助産師看護師法違反の疑いで堀病院を家宅捜索。
日本産婦人科医会と日本産科婦人科学会は9月1日に見解を公表し、「大がかりな捜査は極めて不当。産婦人科医療の現場に深刻な打撃を与えた」と批判。
県産科婦人科医会も「堀病院を全面的に支援する」と表明している。
(読売新聞、2006年9月6日)
****** 読売新聞(川崎版より)
無資格助産行為捜査批判に反論 「法的解釈踏まえ捜査」 県警本部長「不当のいわれない」
横浜市瀬谷区の堀病院への捜査批判が医療関係者 の間からあがっていることに、井上美昭・県警本部 長が6日、正面から反論した。捜査中の個別の事件について、県警幹部が反論するのは異例。「不当」などといわれる筋合いではないという立場を、明確に した。
井上県警本部長の一問一 答は次の通り。
--掘病院への家宅捜査について、日本産婦人科医 会など医師側から「捜査が 不当」という声があるが。
法的な手続きに従って、 厳正に捜査を進めていきた い。「不当」という指標は、 いかがかなあという感じは 持っている。ただ捜査中なので、どこがどうなんだ、ということは控えたい。感想と しては、そういうふうに言われるいわれはないと思っている。
--法律解釈に議論がある時点での家宅捜査に反発 があるが。
被害の申告がなされ、当然、捜査をする責務がある。 こういう捜査をする場合、 関係機関の法的な解釈ということについても、事前に照会している。そういうことを踏まえ、非常に慎重に捜査をしていた。
--結果として医療界に大きな影響をおよぼしているが。
関係機関、行政、医師会が事実を踏まえ、議論して、対策を取ることが大事なのではないか。県警が投げかけた事案を受け止めていただければ、ありがたい。むしろ今回の事案を経験し国民にとっていい方向に関係機関が進めていくことがだいじなこと。粛々と捜査を進めていく。
(読売新聞、川崎版より)
****** 毎日新聞、2006年9月6日
問われる「日本一」:堀病院・無資格助産事件 県産科婦人科医会が県警批判 /神奈川
県警捜査を批判 日産婦と認識にズレも--見解公表
横浜市瀬谷区の産婦人科病院「堀病院」の無資格助産事件で、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)は「強い遺憾の意を表明する。堀病院への全面的支援を表明する」と県警の捜査を批判する見解を公表した。
八十島会長によると、同医会は8月30日、医会事務局で約1時間半にわたり堀健一院長から聞き取り調査した。見解は4日付で、県警が先月24日、同病院を保健師助産師看護師法違反容疑で家宅捜索したことについて、「異常な捜査および大々的報道は、現在、既に分娩(ぶんべん)受け入れが限界を超えている県内の分娩医療機関に深刻な影響を及ぼしている」とした。
また、堀病院における看護師らの内診(産道に手を入れてお産の進行状況を診ること)については「分娩経過の全体を医師が把握しつつ、十分な経験がある看護師が観察」しているとし、「観察は担当医が補助情報として利用する範囲内で、現行法に背反するものではないと確信している」として、保助看法で規定する「助産行為」ではなく、看護師にも認められた「診療の補助行為」であるとの見解を示した。
日本産婦人科医会(日産婦)は陣痛開始から子宮口全開までの分娩第1期の内診は看護師にも認めるよう主張しているが、同病院で行われていたとされる出産直前(分娩第2期)の看護師らによる内診は1日の記者会見で「やってはいけないこと」(清川尚副会長)と否定している。日産婦との認識のズレについて八十島会長は「分娩第1期と2期は明確に線引きできないケースもある。医師の監視下であれば、流れの中で(分娩第2期に)看護師らが内診するのは致し方ないと考えている」と話す。【伊藤直孝】
(毎日新聞、2006年9月6日)
****** 毎日新聞、2006年9月7日
問われる「日本一」:堀病院・無資格助産事件 県警本部長が反論 /神奈川
「厳正に捜査中」--県産科婦人科医会の批判に
横浜市瀬谷区の産婦人科病院「堀病院」が保健師助産師看護師法違反(無資格助産)容疑で県警の家宅捜索を受けた事件で、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)などが捜査批判を展開していることに、井上美昭県警本部長は6日の定例会見で「法的手続きに従い厳正に捜査を進めている。捜査中なので詳細は控えたいが(捜査が)不当という指摘はいかがなものか」と反論した。
同法について、日本産婦人科医会は陣痛開始直後の分娩(ぶんべん)第1期に産道に手を入れてお産の進み具合を診る「内診」は助産行為に当たらないと主張している。
これに対し、井上本部長は「関係機関の法的解釈を事前に照会し、それを踏まえて慎重に捜査している」と述べ、分娩第1期を含め看護師の内診は許されないとした厚生労働省の行政通知(04年)に従ったとの見方を明らかにした。
さらに「捜査側ではなく一県民、一国民としての考え」と断った上で「関係機関、行政、医師会などがこういう事案を踏まえて議論されて、対策を取られることが大事ではないか。県警が投げかけた事案をそう受け止めていただければありがたい」と述べた。【伊藤直孝】
(毎日新聞、2006年9月7日)
*** 神奈川県産科婦人科医会、2006年9月4日
堀病院に対する警察の家宅捜査に関する見解
今般の横浜市瀬谷区堀病院における神奈川県警生活経済課による保健師助産師看護師法違反容疑での、警察官60名にもおよぶ異常な家宅捜査および大々的報道は、現在、すでに分娩受け入れ状況が許容限界を超えて破綻状態にある神奈川県内の分娩医療機関ならびに妊婦に深刻かつ多大な影響を及ぼしております。
当神奈川県産科婦人科医会は、神奈川県の産科救急システムの創設・充実等、神奈川県における母子の健康と安全のため最大限の努力をしてまいりました。この立場から、今般の事態により、きわめて深刻な県内の産科診療環境の悪化が加速することを憂慮しております。
当会は、堀病院での診療内容が、分娩経過の全体を産科医師が把握しつつ、担当医の監督責任のもとで十分な経験・技量を身につけた看護師による産婦の正常経過の観察を担当医が補助情報として利用する範囲内であることを確認しており、現行の法令に背反するものではないと確信しております。
神奈川県産科婦人科医会は、神奈川県警の家宅捜査に強い遺憾の意を表明するとともに、今後の堀病院への全面的支援を表明いたします。今後想定される事態に対しても、全国の皆様にご支援を賜りたく、お願い申し上げます。
2006年9月4日
神奈川県産科婦人科医会
会長 八十島 唯一