通常、胎盤は児娩出後に自然に子宮から剥がれてきます。ところが、常位胎盤早期剥離という病気では、まだ胎児が子宮の中にいるのに胎盤が子宮から剥がれてしまいます。
胎盤が子宮から剥がれると、胎児への酸素の供給は突然ストップしてしまいます。剥がれる面積が小さいうちは胎児は何とか生きていますが低酸素のため弱ってきます。広い範囲で剥がれると胎児死亡となります。 発症直後に胎児死亡となる例もめずらしくありません。胎盤後血腫のために母体の血液の状態が変化してDICという状態になると、血が止まらなくなり、出血のために母体の生命が奪われることもあります。
常位胎盤早期剥離は全妊娠の0.44~1.33%程度に発症し、母体死亡率は4~10%、児死亡率は30~50%と言われています。自宅で発症した場合や他院からの母体搬送例では、来院時にすでに胎児死亡となっている場合が非常に多いです。
この病気で児が助かるかどうかは全くの偶発性に依存しており、手術の主な目的は母体の救命にあると考えています。
常位胎盤早期剥離がどの妊婦さんにいつ発症するかは全く予測できません。早急に無過失補償制度を整備する必要があると考えられます。