ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師不足 地域と診療の偏在

2008年05月14日 | 地域周産期医療

最近の産婦人科医の予想以上の減少のために、全国各地で産科医療が崩壊の危機に直面しています。産婦人科医が減少している要因としては、高い訴訟リスク、長い拘束時間、過重労働、女性医師の高い離職率など、さまざまな因子が考えられます。

現在の日本では、診療科別の医師の定員枠が全くないので、どうしても一部の人気のある科だけに志望が集中しがちです。どの診療科を選ぶのも全くの個人の自由ということになれば、どうしても、『当直回数が少なく、拘束時間も短く、訴訟リスクも低く、待遇もいい』というようなイメージの診療科に志望者が集中しがちなのは当たり前の話でしょう。

これ以上の産婦人科医の減少に歯止めをかけるためには、強力な国の施策が必要だと思います。

今、産科医療の現場を支えている多くの産婦人科医達が、いつ辞めようか、いつ辞めようかと思いながら働いています。実際に、相当数の医師がやる気をなくして、病院を離れています。このため、全国各地で産科医療の継続が困難になって国家的な問題になっています。今後、産婦人科医療を再建していくためには、この国の産婦人科医療を提供する体制を根本的に再構築していく必要があります。

北里大学の海野信也教授(日本産科婦人科学会・産婦人科医療提供体制検討委員会委員長)は、最近の御講演の中で、産科医療を再建するための必要条件として以下の8項目を挙げられました。

(1) 分娩取扱病院:半減(1200施設→600施設へ)
(2) 分娩取扱病院勤務の産婦人科医数:倍増
  (1施設当たり3人→6人へ) 

(3) 女性医師の継続的就労が可能な労働環境の整備
(4) 病院勤務医の待遇改善:収入倍増
(5) 公立・公的病院における分娩料:倍増
(6) 新規産婦人科専攻医:年間500人(現行より180人増)を
  最低限確保

(7) 助産師国家試験合格者:年間2000人(現行より400人増)
(8) 医療事故・紛争対応システムの整備

上記のどの項目をとってみても、個人や自治体レベルの努力だけではどうにもならないようなことばかりで、達成は非常に困難と考えられます。しかし、現実に産科崩壊の危機に直面している地域が全国的に続出していますので、国レベルの政策によって早急に対応する必要があります。

****** 産経新聞、2008年5月12日

医師不足 地域と診療の偏在なくせ

(略)

 医師不足には大別して(1)医師数そのものの不足(2)地域的偏在(3)診療科ごとの偏り-の3つがある。医師不足の問題を解決しないと少子高齢化の進展とあいまって医療が根本から揺らぎかねない。

 平成18年の人口1000人当たりの日本の医師数は2・1人で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均を下回る。厚生労働省の試算でも需要に対する医師数は不足している。それゆえ厚労省と文部科学省は医師の定員(医学部の学生数)を増やしてはいる。しかし、医師の養成には時間がかかる。まずは可能な地域的偏在をなくすことから取り組みたい。

 厚労省が18年12月末時点の届け出をもとに、女性と子供それぞれ10万人当たりの産婦人科と小児科の医師数を都道府県別に初めて集計したところ、最多と最少でいずれも倍以上の開きがあった。都道府県内でも都市部に医師が集中し、郡部に少ないとの調査結果もある。間違いなく地域的に医師が偏在している。

 厚労省は医師数が足りている地域から医師不足の地域に医師を短期間派遣するシステムの構築を進めている。この対策を全国でもっと活性化させる必要がある。

 一方、拘束時間が長く、勤務がきつい診療科ほど医師が減る診療科ごとの偏りもある。産婦人科や小児科、麻酔科、救急医療を中心に勤務医が不足し、彼らがさらに過重労働となる。

 厚労省は(1)医師の事務を補助する医療クラーク(事務員)制度を導入する(2)診察時間を延長した診療所に対する報酬を手厚くして開業医に患者を分担する-といった対策をとっている。こうしたきめの細かい対策を施していくことも重要だろう。

(以下略)

(産経新聞、2008年5月12日)