コメント(私見):
帝王切開後の経腟分娩(VBAC, Vaginal Birth After Ceasarean)では、一定頻度の子宮破裂は絶対に避けられません。子宮破裂の際の母体死亡率は1%、周産期児死亡率:6%、児死亡+神経学的後障害:23~42%と報告されてます。
前回帝王切開時の子宮切開方法と、VBAC(帝王切開後の経膣分娩)における子宮破裂の発生率の関係は、以下の通りです(アメリカ産婦人科学会、1999)。
古典的帝王切開(子宮縦切開) 4~9%の子宮破裂
T字切開 4~9%の子宮破裂
子宮下部縦切開 1~7%の子宮破裂
子宮下部横切開 0.2~1.5%の子宮破裂
古典的帝王切開(子宮縦切開)の時代には、『一度帝王切開受けたのなら、ずっと帝王切開(Once a cesarean, always cesarean)』が常識でした。
1980年に米国NIH(国立衛生研究所)はVBACを推進する勧告を発表し、1990年に米国厚生省は2000年までに帝王切開率を15%、VBAC率を35%にする目標を掲げました。これらの国策によって、米国では1990年代の半ばには帝王切開の既往のある妊婦の約6割に試験分娩が行われるまでになり、1996年のVBAC率は29.8%にまで達しました。
しかし、その後の大規模研究で、選択的帝王切開群に比べ、試験分娩群での子宮破裂の頻度上昇とそれに伴う児の予後の悪化、母体合併症の増加、医療費増大などの報告が相次ぎ、 エビデンスに基づきVBACの安全性をもう一度考え直す機運が高まりました。帝王切開率も1996年の20.7%から上昇に転じ、VBAC率も1996年以降低下しつつあります。
1999年にアメリカ産婦人科学会はVBACに関するエビデンスに基づいた勧告を発表し、米国においては、現在、従来より慎重な対応が求められるようになり、十分なインフォームドコンセント(説明と同意)が強調される傾向にあります。
我が国における帝切率、VBAC率の全国統計はありませんが、我が国のVBACのトレンドはほぼ米国の動向に追随する傾向にありますので、1995年当時の我が国のVBAC率は現在よりもはるかに高率だったと思われます。事実、当科においても1995年当時は、既往帝切回数が1回、単胎・頭位、児頭骨盤不均衡がない場合であれば、ほとんど全例で試験分娩をお勧めしてました。しかし最近では、既往帝切妊婦には、ほぼ例外なく選択的帝王切開をお勧めしていますので、VBAC率は毎年ほぼ0%の状況です。