ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

がん患者に漢方薬

2009年08月03日 | 東洋医学

がんの治療には、手術療法、化学療法、放射線療法、さらに免疫療法などが行われます。それらの標準的治療と併用して、漢方薬が治療の一助となる場合もあります。がんの治療における漢方薬治療の主な目的は、術前術後の全身状態の改善、全身倦怠感などの症状の緩和、化学療法や放射線療法の副作用の軽減、免疫賦活作用などと言われています。

漢方薬ががんそのものに有効という証明はなく、がんの患者さんの多様な症状に対して、どの漢方薬がどの程度有効なのかは個人差も非常に大きく、薬効のメカニズムもほとんど解明されていません。

しかし、日本を代表するがん専門病院である癌研有明病院にも漢方サポート外来が設置され、各診療科の腫瘍専門医による標準的治療と併用して、漢方薬による治療も実施されています。各診療科から多くの患者さんが紹介されてくるそうです。

当科においても、婦人科がんの標準的治療の一助として、漢方薬治療を行っている患者さんが少なくありません。患者さんのいろいろな症状に応じて、例えば、十全大補湯、補中益気湯、牛車腎気丸、半夏瀉心湯、加味逍遥散、大建中湯などの漢方薬を処方し、中には全く無効の場合もありますが、「今回の漢方薬は非常によく効きました、是非また処方してください。」と患者さんに喜んでもらえる場合も少なくありません。

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****** 読売新聞、2008年12月12日

がん患者に漢方薬

しびれ、食欲不振など軽減

 がんに伴って起きる全身の倦怠感や食欲不振、不眠などの症状、抗がん剤や放射線治療の副作用など、がん患者の悩みは多い。こうした症状を漢方薬を用いて軽減しようという試みが注目を集めている。【館林牧子】

 東京都江東区の癌研有明病院。消化器内科部長の星野惠津夫さんは、週2回、「漢方サポート外来」で診察をする。

 星野さんは消化器がんの治療を専門にする傍ら、若いころから漢方医学を学んできた。「西洋医学はがんを攻撃するのは得意だが、がんに伴って起きる多様な症状は、それだけでは解決しないことが多い。そんな時こそ、漢方の出番」と話す。

 疲れやだるさ、食欲不振、病気のストレスによる不眠などのよくある症状に加え、手術後の傷の痛みや抗がん剤による手足のしびれ、胃を切った後の食欲不振など個別の訴えもある。患者の状態と症状の診断から、保険のきく147種類ある漢方のエキス剤のうちから最適なものを選択。個人差があるので、効き具合を見ながら、組み合わせを調整する。

 全身症状の改善には、「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」のいずれかを処方する。最もよく使うのは十全大補湯で、不眠や不安など精神症状が強ければ補中益気湯、また肺転移や肺炎などによるせきや息苦しさがあれば人参養栄湯を選ぶ。

 食道がんが肺などに転移した東京都内の男性は、ひどい息苦しさを訴えて同外来を訪れた。ところが、漢方治療を始め2週間ほどで呼吸が楽になった。5か月後に亡くなったが、その間、家族と2度の海外旅行を楽しむことができた。

 漢方でがんそのものが治るという証明はなく、様々な症状にどのようにして効果をもたらしているのか詳しい仕組みはわかっていないが、星野さんは「西洋医学による従来の治療に行き詰まっても、漢方という別の方法があることを、患者に提示できる意義も大きい」と話す。

 抗がん剤の副作用で起きる手足のしびれには「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」など、乳がんのホルモン治療や、子宮・卵巣がんの手術で卵巣を取った後に起きるほてりには「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」や「加味逍遥散(かみしょうようさん)」など、のどや耳下腺がんなどの放射線治療の後遺症で、だえきが出ず、口が渇く症状には「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」などを使う。

(以下略)

(読売新聞、2008年12月12日)