ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産婦人科医療の崩壊をくい止めるために、国が早急に実施すべきことは何か?

2009年08月14日 | 地域周産期医療

産婦人科医は、24時間365日、いつ病院から呼び出されるか全く予測ができません。

常勤産婦人科医が1人になってしまった場合には、たとえ分娩予約件数を月10件程度に絞り込んだとしても、その絞り込んだ10件の分娩がいつになるのか全く予測できませんから、結局その産婦人科医は、24時間365日、病院の近辺から離れられず、いつ病院から呼び出されても対応できるように準備を整えておく必要があります。お酒が好きな先生でも、常勤医が1人になってしまったら禁酒せざるを得ません。家族旅行もできなくなってしまいますし、学会やセミナーなどにも全く出席できなくなってしまいます。そんな状況では、とても長続きする筈がありませんから、ベテラン産婦人科医も不本意ながら次々に戦線を離脱せざるを得ませんし、次世代の若い産婦人科医も育ちません。

たとえ分娩予約件数が月100件程度であっても、産婦人科医7~8人、助産師30~40人のスタッフが交代で勤務すれば、スタッフ一人一人の負担はそれほど過重にならなくて済みます。次世代の産婦人科医や助産師を養成する余裕も生まれます。

従って、多数の分娩や手術を取り扱っている中核病院の常勤産婦人科医を増員する必要があります。たとえ産婦人科医の総数が増えたとしても、中核病院の常勤産婦人科医数が増えてくれないことには、状況は決して改善されません。単なる医学部の定員増や病床整備だけではなく、勤務条件の厳しい職場への医師の誘導策などの国の取り組みが不可欠と考えられます。

****** 毎日新聞、奈良、2009年8月13日

公的7病院で産科休診 慢性的な人手不足 「365日、1人では無理」

 昨年2月、桜井市の済生会中和病院に県立医大から一通の通知が届いた。「産婦人科医を県立三室病院(三郷町)に異動させる。後任人事はない」という内容だった。当時、同病院の常勤産婦人科医は2人。「24時間365日呼び出される産科は、とても1人では務まらない。休診せざるを得なかった」。杉本勉・総務課長(当時)は振り返る。

 県立医大は、県内の病院に医師を派遣している。異動は、三室病院の医師を別の病院に異動させたことによる玉突きだった。中和病院は昨年4月から産科を休診し、残った1人で婦人科だけを継続する。再開のめどは立たず、産科の診察室は現在、女性外来用に改造している。

 三室病院も常勤産科医は、異動した医師を含め2人だけだったが、今年3月、もう1人の医師が開業のため退職し、4月から休診に追い込まれた。2病院で取り扱う分べん数は年間約300件。特に中和病院のある中南和地域は、出産に対応できる病院が少なく、影響が大きい。

 1人の医師の異動や退職が休診につながる不安定な状態。05年以降、町立大淀病院や県立五條病院など七つの公的病院で産科の休診が相次いだ。厚生労働省によると、県内の産婦人科医数は02年の99人から06年は87人に減少。人口10万人当たり6・2人で全国平均を下回る。

(以下略) 

(毎日新聞、奈良、2009年8月13日)