ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師不足対策

2009年08月11日 | 地域医療

総選挙の前で医療の問題がいろいろと報道されていますが、現在の日本の医療の最大の問題は、急性期医療体制が現場の人手不足のためにどんどん崩壊している点だと思います。

最新技術を駆使して、夜昼かまわず、必死で頑張ってきた急性期病院の勤務医達が、医療現場の実働医師不足で、「もうこれ以上頑張れない、もはや力尽きた」という極限状態まで追い詰められています。燃え尽きるように医師は疲れ果て、退職が相次いでいます。

特に、産科、外科、麻酔科、救急科などの急性期を扱う分野で実働の病院勤務医が減っています。開業の先生方が診ていた患者さんが急変した時に、時間外でもとにかく送り込んでしまえば、何とか対応してくれていた急性期病院の機能が縮小し続けています。

医師の総数を単純に増やすだけでは、この問題は解決しないと思います。いくら医師の総数が増えても、急性期の患者さんを送り出す側の医師ばかりが増えて、受け入れる側の医師がどんどん減っていくようでは、医療崩壊は今後もますます進行していくことでしょう。

****** 毎日新聞、長野、2009年8月7日

医師不足、広域で分担の動きも

 松本市和田の主婦(26)は、第1子を妊娠して22週目に入った。健診は塩尻市のクリニックで受け、波田町の総合病院で出産を予定する。波田まで妊娠検査に行った時、検査や健診は別の病院で受ける仕組みと、初めて知った。

 松本市、塩尻市などの3市1町5村(松本医療圏)は08年5月、「松本地域出産・子育て安心ネットワーク協議会」を設立。連携する病院やクリニックを受診した妊婦には、カルテと同じ役割を持つ「共通診療ノート」を渡している。分娩(ぶんべん)を扱わない開業医などでも健診を受け易くすることで、分娩可能な特定の病院に集中していた妊婦を分散させ、産科医の負担を軽減する狙いだ。休日は当番医が、夜間は信大病院や相沢病院などで対応する。

 主婦は「しっかり診てもらえるし、カルテが手元にあると安心感が大きい」と評価するが、産科医不足には「何か起きた時に診てもらえないかも」と不安を吐露した。高額な出産費も、若い世代が出産に踏み切れない要因の一つだ。

 連携制度を考案した信州大医学部の金井誠教授は「地域全体が一つの大きな病院というイメージを描いた」。だが産科医の減少による激務と、出産に伴う事故が訴訟に発展するケースが増え、そもそも「医学生は産科に魅力を感じていない」と指摘する。金井教授は「医師が分娩を積極的に扱えるような社会を」と強調、産科医の待遇改善や産科を志望する学生への奨学金などの必要性も訴えた。

(以下略)

(毎日新聞、長野、2009年8月7日)

****** 中日新聞、長野、2009年8月9日

医療 求められる安心

 全国的な医師不足と偏在の流れの中で、特に医師の負担が重い出産を扱う病院は減少傾向にある。県医療政策課によると、2001年に68あった県内の分娩(ぶんべん)医療機関は現在、46まで減少している。

 昭和伊南総合病院(駒ケ根市)は、08年4月から出産を扱わなくなった。同じ上伊那地域で、同病院から10数キロ離れた伊那中央病院(伊那市)に産科医を集約するため、2人いた産科医が引き揚げられたためだ。

 駒ケ根市など上伊那南部4市町村の多くの妊婦は、移動に20分~1時間以上余分にかかる伊那市で出産しなければならなくなった。「できるならば昭和伊南でお産がしたいのに」。駒ケ根市の妊婦(42)は打ち明けた。

(以下略)

(中日新聞、長野、2009年8月9日)