ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

日本周産期・新生児医学会からの緊急声明

2010年08月07日 | ホメオパシー関連

       緊 急 声 明

 厚生省(現厚生労働省)研究班が推奨した新生児へのビタミンK予防投与を意図的に実施せず、当該児に頭蓋内出血などの重篤な疾患を発症した事例が過日報道されました。

 本学会は、新生児へのビタミンK投与による頭蓋内出血の予防効果には強い科学的根拠があり、全ての新生児に提供されるべき医療と考えております。また日本小児科学会もこれを強く推奨しています。

 本学会は新生児に関わる医師、助産師、看護師がビタミンK投与の重要性を再確認されるよう強く要望するとともに、行政当局の積極的な指導を要望する次第です。

    2010 年8 月5 日

           日本周産期・新生児医学会
                理事長  田村 正徳

****** コメント(2010年8月8日)

 最近の一連の朝日新聞記事(1234)を読むまで、「ホメオパシー」について私自身は一度も聞いたことがありませんでした。しかし、勤務する病院の助産師達に聞いて回ったところ、どの助産師も「ホメオパシー」についてよく知ってました。病院の助産業務に「ホメオパシー」を取り入れている者はいないと思いますが、自分自身で「ホメオパシー」を実践している助産師は何人かいるようです。社団法人・日本助産師会の多くの地方支部で「ホメオパシー」を好意的に取り上げる講演会が開催されたり、2008年の日本助産学会学術集会のランチョンセミナーで「ホメオパシー」推進団体の会長が講演したりしているので、助産師の間ではこの療法が広く浸透しているようです。

 万が一、今後、標準医療を否定する立場の医療従事者が増えるようになれば、非常に困った事態も予想されます。日本周産期・新生児医学会が緊急声明を出すくらいなので、すでにかなり危機的な状況なのかもしれません。実態調査が必要だと思います。

****** コメント(2010年8月10日)

 医療従事者が、患者さんのためによかれと思って最善を尽くしたとしても、必ずしも100%期待通りの結果が得られるとは限りません。現時点での標準医療が提供されていれば、結果の善し悪しに関わらず、その結果を厳粛に受け入れるしかありません。

 医療従事者は、職務として患者さんに関わる以上、患者さんに対して現時点での標準医療は何かを説明して、患者さんに標準医療が提供されるように最大限努力する義務があります。

 医療従事者が現時点での標準医療を否定して、エビデンスに乏しい「代替療法」を患者さんに実施した場合は、その医療従事者にその「代替療法」を実施したことによる結果責任が問われるのは当然です。

 患者さん自身が御自分の意思で標準医療を拒否して、自己責任において「代替療法」を選択した場合は、結果責任を他人に押しつけることは難しいと思います。

****** 以下、朝日新聞記事(12)から抜粋

「ホメオパシー」とは?

 山口市の女性(33)が同市の助産師(43)を相手取り、約5600万円の損害賠償を求める訴訟の第1回口頭弁論が8月4日、山口地裁であった。訴状などによると、女性は2009年8月に長女を出産。助産師は出血症を予防するためのビタミンK2シロップを投与せず、長女はビタミンK欠乏性出血症にもとづく急性硬膜下血腫を発症し、同年10月に死亡したという。女性は、助産師が母子手帳にあるK2シロップ投与欄に「投与した」とウソの記録を残していた▽K2シロップを投与しない場合の出血症の危険性も説明しなかったなどと主張している。一方、助産師は関係者などに対し、「ホメオパシー」の「レメディー」を与えたと説明しているという。ビタミンK欠乏性出血症は、K2シロップの適切な投与でほぼ防ぐことができるとされる。

 「ホメオパシー」とは、約二百年前にドイツで生まれた代替療法で、「症状を起こす毒」として昆虫や植物、鉱物などを溶かして水で薄めて激しく振る作業を繰り返したものを、砂糖玉にしみこませて飲む。この玉を「レメディー」と呼んでいる。100倍に薄めることを30回繰り返すなど、分子レベルで見ると元の成分はほぼ残っていないが、「ホメオパシー」の推進団体は、この砂糖玉を飲めば、有効成分の「記憶」が症状を引き出し、自然治癒力を高めると説明している。

 自然なお産ブームと呼応するように、「自然治癒力が高まる」との触れ込みで「ホメオパシー」の人気が高まるが、科学的根拠ははっきりしない。約8500人の助産師が加入する社団法人・日本助産師会の地方支部では、東京、神奈川、大阪、兵庫、和歌山、広島など各地で、この療法を好意的に取り上げる講演会を企画し、2008年の日本助産学会学術集会のランチョンセミナーでも、「ホメオパシー」の推進団体「日本ホメオパシー医学協会」の会長が講演をした。新生児はビタミンK2が欠乏すると頭蓋内出血を起こす危険があり、生後1カ月までの間に3回、ビタミンK2シロップを与えるのが一般的だ。これに対し、「ホメオパシー」を取り入れている助産師の一部は、自然治癒力を高めるとして、ビタミンK2シロップの代わりに「レメディー」と呼ぶ特殊な砂糖玉を飲ませている。社団法人・日本助産師会は実態調査に乗り出した。

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ビタミンK欠乏症とは?

 ビタミンK欠乏症は、新生児の4000人に1人の割合で発症する。生後1か月頃に頭蓋内出血を起こして死亡する症例が多いが、ビタミンK2を生後1か月までに3回与える予防法は確立している。厚生省(当時)も1989年、投与を促す指針を策定し、10万人当たりの発症率は平均18人(78~80年)から2人(90年)まで低下した。