ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

九州・沖縄地区の産婦人科希望医師が激減

2006年07月03日 | 地域周産期医療

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地方大学の産婦人科は、新規入局者獲得競争ではどこも相当な苦戦を強いられていますが、九州・沖縄地区全体で、今年の産婦人科の新規入局者がたったの14人(従来の3分の1!)しかいなかったとの報道です。この数字だと、おそらくは、大学病院の診療体制の維持が精一杯で、関連病院の診療体制の維持はかなり厳しいのではないか?と思われます。

参考:

本年度の医学部産婦人科への新規入局状況

朝日新聞 関西: 産婦人科選んだ研修医、3年で半減

必修初期研修修了後の進路の動向

絶滅危惧種: 産科医

****** 読売新聞、2006年6月29日

産婦人科希望医師が激減、九州・沖縄11大学病院は14人

 国家試験に合格し、2年間の臨床研修を終えて、今春、九州・沖縄地区にある11大学病院の産婦人科を勤務先に選んだ医師が計14人だったことが、日本産婦人科学会九州連合地方部会のまとめで分かった。

 2年間の臨床研修を義務づけた新制度の導入前に比べると、3分の1に落ち込んでおり、ゼロだった大学病院もある。過疎地の医療機関は、大学病院から医師の派遣を受けているケースが多く、若手医師の産婦人科離れで、地域の産科医療は一層、厳しい状況に追い込まれそうだ。

 同部会のまとめによると、宮崎、鹿児島大が3人、九州、佐賀、大分大は2人、長崎、熊本大が1人で、久留米、福岡、産業医、琉球はゼロだった。2004年度に新しい研修制度が導入される前は、11病院で計50人前後が産婦人科に入っていたという。

 これまでの研修制度では、国家試験に合格した新人医師は、卒業した大学病院の医局で研修することが多かった。新制度では2年間の研修が義務づけられ、研修先も自分で選択できるようになった。このため、教育や研究など診療以外の仕事がある大学病院より、臨床経験を積めるうえ、給与も高い民間病院を選び、そのまま勤務を続ける医師も目立った。

 ここ数年、小児科、産婦人科など夜間の呼び出しや当直勤務のある診療科を敬遠する若手医師が増えていることも背景にある。とりわけ、大学病院の産婦人科は、妊娠中毒症など重症患者の治療や帝王切開に当たることが多く、医療過誤訴訟に発展するリスクが大きいことも、産婦人科離れにつながったとみられる。

 すでに、大学病院から医師派遣を受けられなくなって、産科を休止した医療機関も出ている。この状態が続けば、大学病院の当直体制も維持できなくなり、関連病院や過疎地の病院からの医師引き揚げが拡大する懸念も広がっている。

 部会長の柏村正道・産業医科大病院長は「産婦人科の希望者の減少が続けば、地域の産科医療を守ることは難しい。6月上旬にも、異常分娩(ぶんべん)の救急患者の受け入れ先がなく、熊本から北九州まで運んだケースがあった。出生率が低下するなか、妊産婦の安心や安全を守る制度や取り組みが求められている」と話している。


病院の産科における助産師の役割

2006年07月02日 | 地域周産期医療

病院産科において助産師の役割は非常に重要であり、今後、助産師はますます活躍の場が広がってゆくと思います。

病院産科における助産師の数が足りない場合は、本来、助産師のやるべき仕事(正常分娩の助産業務)まで産科医がやらなければならなくなってしまって、産科医の負担がますます増えてしまいます。

ですから、病院の分娩件数にみあった助産師数を確保する必要があります。分娩件数が倍に増えれば助産師数も倍に増やす必要があります。行政側の誘導で産科施設を集約する場合は、産科医、小児科医などの集約と同時に、助産師も同じ施設に集約しなければならないことを必ず考慮していただきたいと思います。産休や結婚退職、定年退職などによる自然減も当然ありますから、毎年ちゃんと新規に採用し続けなければなりません。

病院の産科部門が閉鎖されて、産科以外の部署で働いている助産師は大勢います。また、今は専業主婦だが子育ても一段落してまた助産師として働きたいという意欲のある有資格者も大勢います。そういう地域内に埋もれた経験豊富な有資格者達を、うまく病院の産科業務に復帰させることも行政の大事な仕事だと思います。

地域内で助産師を養成し、助産師の数をしっかりと確保し続けるシステムを確立することも非常に重要だと思います。

最近、産科医不足の対策として、病院の中に産科とは別組織として院内助産院を創設しようとする動きもありますが、いくら病院内に院内助産院という組織ができても、分娩経過中の異常はいつ発生するか全くわかりませんから、結局、その病院の産科医は24時間体制で病院に待機して緊急に対応しなければなりません。また、生まれた児に異常があれば新生児科医に至急診てもらう必要があります。緊急帝王切開の場合や、分娩時大出血などでは、麻酔科医の助けも必要です。結局、分娩件数に応じた医師達の本来の仕事(異常への対応)は全く同じですから、院内助産院を病院内に創設したからと言っても、医師のやるべき仕事の量は従来と同じです。要するに、院内助産院が院内にあってもなくても、(異常時にはその病院の医師が呼ばれるのであれば)その病院の産科で必要とされる常勤医師数や医師の負担にはそう大きな変わりがないと思われます。


絶滅危惧種: 産科医

2006年07月01日 | 地域周産期医療

 大学病院以外の病院・診療所の産婦人科医数は、昨年7月現在で、1施設当たり平均1.74人であった。1人勤務の産科施設が非常に多い。しかも、全国の産婦人科医の4分の1は60歳以上である。

 毎年4月に全国の大学病院産婦人科に入局する新人医師数は、3年前までは350人前後だったが、新臨床研修制度への移行期(一昨年、昨年)の2年間は新人医師の入局はなく、今年の新規入局者は213人(従来に比べて4割減!)だった。大学病院の産婦人科は自らの診療態勢の維持が精いっぱいで、従来通りの地域への医師派遣は非常に困難な状況に陥っている。

 福島県立大野病院での「癒着胎盤による患者死亡事例」において、担当医師が逮捕、起訴された事件は、現役の産婦人科医達にも非常に大きな衝撃を与えた。予後不良の疾患に対して、患者救命のために治療に最善を尽くした医師が、治療の結果次第で、凶悪事件の犯人と全く同じに扱われるようになってしまえば、救急医療や産科医療に従事しようとする者など、この世の中からすぐに消えていなくなってしまうのは当然だ。「犯罪者」扱いされてまでも医療を続けたいとは誰も思わない。

 この事件の影響もあって、1人勤務の産婦人科では分娩取り扱いの継続は非常に困難な状況にある。1人勤務の産科施設のほとんどは、今後数年以内に分娩取り扱いが中止されるだろう。また、現在60歳以上の産婦人科医のほとんど全員が10年後には現役を引退していることも間違いないだろう。

 このままでは、10年後には、日本中で、妊娠しても分娩を受け入れてくれる産科施設がどこにもみつからないような事態となっていることが危惧される。国、自治体、医療界、医学教育界、市民が、挙げて、この問題の解決に真剣に取り組んでゆく必要があると思う。