ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

尾鷲市で産婦人科医消滅の危機

2006年09月03日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

報道によれば、三重県の場合、県と大学とで協議して、産科医療を集約化する重点化病院が決定され、産婦人科医の集約化がきちんと実行に移されつつあるようです。最終的には、県内の産婦人科を8病院ほどに集約する方針とのことです。

現場の産婦人科医達が職場放棄せざるを得ない極限状態になるまでとことん放置すれば、最悪の場合、県内の病院の産婦人科が全滅してしまうかもしれません。全滅してしまってから、一から立て直すのは大変なことですから、手遅れにならないうちに、将来残すべきいくつかの重点化病院を決定し、残すべき病院がちゃんと残るように対策を講ずる必要があると思います。

集約化によって産婦人科が消滅してしまう地域には、負担を強いることになってしまうかもしれません。このことで地域住民の理解・納得を得るのは非常に難しいかもしれません。しかし、一人医長の産婦人科を県内に万遍なく点在させて、県内すべての地域で産婦人科がどんどん消滅してしまえば、かえって住民のためにはならないと思います。

参考:産婦人科医を集約 「大病院に偏在」拍車 三重大

****** 地元の報道記事へのリンク

「三千万なら大学病院の助教授が来る。報酬高すぎ」 産科医消滅の危機、実は中傷が原因…三重・尾鷲

8月25日午前の尾鷲市議会生活文教常任委員会の記事

8月25日午後の尾鷲市議会全員協議会の記事

産科医師との契約断念(9月1日:南海日日記事)

妊婦や市民に戸惑い(9月2日:南海日日記事

****** スポニチ、2006年9月1日

尾鷲市で産婦人科医消滅の危機

 三重県尾鷲(おわせ)市の市立尾鷲総合病院が雇用していた唯一の常駐の産婦人科医(55)との継続契約で交渉が折り合わず、市は31日、雇用を断念した。早ければ10月にも市内から産婦人科医が消える可能性があり、市民からは「これでは子供を産めない。ますます高齢化が進んでしまう」と危ぶむ声が出ている。

 尾鷲市が市内の産婦人科医を失う危機に再び陥った。昨年7月、市立尾鷲総合病院に医師を送っていた三重大が、付属病院の医師不足を理由に派遣を中止したことを受け、市は独自に津市の男性開業医を1年契約で雇った。同9月から医師は24時間、病院に常駐し、夜昼問わずの出産に備えた。この1年間でこなした出産は152件(病院調べ)で、休みは年末の2日間だけだったという。

 今回の継続交渉で市は年間報酬額4800万円を提示。医師側は現状維持の5525万円と月1回の週末連休などを求めていた。市が条件面の見直しを示したのは、医師の年間報酬額がほかの医師に比べ約3倍も高額だったため。病院関係者らからも批判の声が上がっていた。市は最終的に報酬面で譲歩したものの、休日問題などで折り合えず、医師から「心身ともに疲労した」との訴えもあり、結局交渉は決裂した。

 同病院では今月に出産を控えている妊婦もいることから、医師に1カ月間に限り雇用延長を了解してもらうという緊急措置で対応。10月以降の出産予定者については「他の病院を紹介していくことになる。この1カ月の間に新しい医師を早急に見つける。休診にしたくない」としている。

 出産できる最寄りの病院は約45キロ先。峠道で、同地区は年間降水量が多いことでも知られ、大雨が降れば道路は通行止めになってしまう。三重大が医師派遣の中止を決めた際に署名活動を行った「紀北地区に産婦人科の存続を願う会」の久保田忠利さんは「医師は評判も良かった。せっかく出産できる状況が整ったのに非常に残念。会では最善策を協議していく」と話した。

(スポニチ、2006年9月1日)

****** 伊勢新聞、2006年9月1日

産科医と契約できず 市立病院産婦人科10月から再び休止 尾鷲市

 尾鷲市の伊藤允久市長は三十一日の会見で、尾鷲総合病院に迎えた産婦人科医師との交渉決裂の原因が報酬額の折り合いではなく、医師の高額報酬への攻撃、中傷が原因との見解を示した。五嶋博道病院長も「報酬の条件もあるが、気持ちが切れた方が大きい」と認めている。

 伊藤市長によると、七月中旬から八月中旬までの二年目の更新交渉で、「最長で来年三月まで残る、と医師から言われていた」といい、同市長が八月二十一日、市議会に交渉経過を説明し、二十五日に再度開いた市議会委員会で交わされた、一部市議の「三千万円出せば大学病院の助教授が飛んでくるのに、四千八百万円は高過ぎる」「津で開業したころのうわさもいろいろ聞こえてくるのに」などの意見を知った医師が「残る気持ちをなくした」という。

 伊藤市長はこれまで「医師は非常に責任感が強く、交渉が不調に終わっても、三カ月は残ってくれる」と繰り返していたが、八月三十日夜の交渉で、医師は市議会での議論を引き合いに出し「気持ちが続かない。九月中の出産予定者までは引き受ける」と期間短縮を申し出た上「事故があったら大変だから」と語ったという。

(伊勢新聞、2006年9月1日)

****** 中日新聞、2006年9月1日

来月以降休診も 尾鷲総合病院の産科医、交渉決裂

 「6万3000人の署名でともした光が、わずか1年で消えてしまった…」。尾鷲市が31日、5520万円の報酬で確保した尾鷲総合病院の産婦人科医との契約延長交渉の決裂を発表したことで、地域の妊婦や住民に戸惑いと落胆の声が広がっている。 (鈴木龍司)

 伊藤允久市長はこの日の会見で、30日夕の男性医師(55)との最終交渉について説明。「市として提示額を現行の5520万円まで譲歩したが、休日かそれに見合う補償の部分で折り合いが付かなかった」とした。また、男性医師が「心身ともに疲れ、休みたい。一部の議員の批判的な発言で気持ちの糸が切れてしまった」と話していることも明かした。

 市長は「9月の出産予定者(12人)は男性医師が責任を持つと話している」としたが、現段階で発表できるような後任候補は見つかっておらず「最大限努力するが、10月以降は休診になる可能性が極めて高い」との見通しを示した。ただ後任候補の何人かとは既に接触しているという。

 また、これまで男性医師が1人で切り盛りしてきた産婦人科の体制については「2-3人でやっていかないと、医療事故の危険も含めて厳しいのではないか」と語った。

 同病院は、9月の出産予定者以外には、ほかの病院への紹介状を書くとしているが、妊婦の不安は消えない。尾鷲市内に住む妊娠5カ月目の女性(32)は「産むこと自体が大変なのに、病院を変わることで新たな心配もしなくてはいけない」と戸惑いを見せる。その上で「男性医師は、人柄もよく、信頼できる人だった。条件交渉だけで決裂しましたという市の報告には納得できない」と行政への不満ものぞかせた。

 署名活動を展開した「紀北地域に産婦人科の存続を願う会」の浜田捷穂代表(63)も「妊婦やその家族から『お医者さんを呼んでくれてありがとう』と言ってもらったのに、突然のことで残念」と肩を落としていた。

  <交渉の経緯>  8月末日の契約切れを前に、7月から続けられた。市側は、給与面などほかの医師との格差や出産数の減少などを理由に4800万円への減額を要求した。しかし、男性医師は過酷な勤務実態を理由に、現行額の維持と月1回の週末休みかそれに代わる補償を求め、交渉は難航していた。

(中日新聞、2006年9月1日)

****** 共同通信、2006年9月1日

交渉不調で産婦人科医ゼロ 三重・尾鷲の市立病院

 三重県尾鷲市の市立尾鷲総合病院が雇用していた、唯一の常駐の産婦人科医と9月以降の継続契約で交渉が折り合わず、市は31日、雇用を断念した。出産できる最寄りの病院は、尾鷲市街から約30キロ、車で約1時間の同県御浜町内となり、緊急時の不測の事態を懸念する声も出ている。

 市は年間報酬4800万円を提示したが、医師は現状維持の同5520万円や月1回の週末連休などを求めていた。

 昨年7月、三重大(津市)が付属病院の医師不足により尾鷲総合病院への産婦人科医の派遣を中止。常駐の医師がいなくなり、尾鷲市は同9月、独自に探した津市の男性開業医(55)を雇った。しかし、ほかの医師の約3倍の報酬額に周囲から不満が出たため、市は条件面の見直しを示していた。

 男性医師は昨年9月から約150回の出産をこなし、休みは年末の2日間だけだったという。市は最終的に報酬面で譲歩したが、医師が求めた休日確保や休日出勤の補償金で一致せず、医師の「心身ともに疲労した」との訴えもあって交渉は決裂。市は「多雨地域で道路の寸断なども多いので、新たな医師を早急に探したい」としている。

(共同通信、2006年9月1日)

****** 毎日新聞、2006年9月1日

揺らぐ医の足元:三重・尾鷲総合病院、産科医と契約更新せず 10月から休診余儀なく

 三重県尾鷲市の市立尾鷲総合病院の産科医不在を補うため、市が昨年9月から年間報酬5520万円で招いた男性医師(55)について、9月からの2年目の契約を更新しないことになり、10月以降は産科休診を余儀なくされる可能性が高くなった。4800万円の年間報酬を提示した市と、1年目と同額報酬に加えて月1回の定期休暇を求めた医師との交渉がまとまらなかったためだ。後任も確保できておらず、地元の妊婦に不安が広がっている。

 市は報酬減額の理由として、同病院での年間出産数が医師着任前の1年と比べて着任後は約80人減って赤字幅が約2700万円増えたことや、他の診療科医の給与(年平均1500万円)との格差が大きいことを挙げていた。

 31日会見した伊藤允久市長は「報酬額維持まで譲歩したが、休暇の面で折り合わなかった」と説明した。医師は、市議会での「4800万円では他の医師がむくれる」という市議の発言や、非難のメールを受けるなどで心身ともに疲労したと話しているという。医師の契約は8月末で切れたが、医師は9月末までに出産予定の妊婦12人は診察し、10月以降に出産を控える妊婦については市外の他の病院を紹介する。

 10月に2人目の出産を控える尾鷲市矢浜の主婦、○○○さん(23)は、産科休診になりかねない状況に「昨日も診察してもらったけれど、そんな話はなかった。患者を途中で見捨てるなんて無責任」と話した。【七見憲一、樋岡徹也】

(毎日新聞、2006年9月1日)