月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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ルナ・37

2017-08-12 04:15:01 | 詩集・瑠璃の籠

潮騒に
宇宙の音が聞こえる

瑠璃玉を溶かした
青い真空の中に
幾億の星があり
それが波のように
騒いでいる

何と静かなのだろう

神よ

記憶のない闇が
横たわっていることにさえ
気付かないわたしに
潮騒が押し寄せてくる
繰り返し
繰り返し

わたしを濡らそうとして
暖かい手を
さしのべてくる

ああ
あれが
あいの
うみなのだ

太古の太古の太古から
無尽蔵に
蓄えられてきた
闇よりも
透き通った
膨大な
愛の
宇宙なのだ

美しい

忘却の
川の
無音の
ささやきが
わたしの
耳道をなでる

もう永遠に
もどらなくてよい

どこに

ああ
どこでもいいのだ




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トゥレイス・2

2017-08-11 04:14:32 | 詩集・瑠璃の籠

人から盗んだ
花を返しなさい

神が
もうやめなさいと
おっしゃった

遠く離れた
田舎の町に住む
果物を商う翁から
あなたはそれを盗んだのだ

白玉を積むように
少しずついいことをして
陰で人々を支えてきた
小さな 翁から

翁がいいことをすると
その肩に美しい花が咲く
それを見ればみなが
これは何とよい人なのだろうと思う
その花を
あなたは盗んで
自分の肩に植えたのだ

平気で
いいことをしている人の
ふりをして
みんなをだましてきたのだ

人から盗んだ
花をもう返しなさい

神がもう
やめなさいとおっしゃった

あなたはもう
泥沼に沈む
亀のように
みじめにならねばならない




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トゥレイス

2017-08-10 04:14:59 | 詩集・瑠璃の籠

蛋白石の白に
真珠の白で
月の顔を描くのだ

幽玄微妙な
かすかな影と光と色の違いが
見分けられる霊魂にのみ
見ることができる
美しい肖像を描こう
あの永遠に美しい人のために

モナリザよりも美しい女性を
生き方で描いたあなたを
真珠の光で描こう
それは美しく
わたしならできるのだ

いらだちを
貴い銀のため息で薄め
愛のまなざしの中に
幾千の花を植えていった
凍りつく寂しさの
果てしない絶望の氷原の中にさえ
美しく咲いてくれる花だった

月よ

あなたのために
永遠の肖像を描こう




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アルマァズ・49

2017-08-09 04:14:40 | 詩集・瑠璃の籠

青い透明な魚が
砂漠の思想を背負って
世界の空を泳いでいる

おのれ
まだせぬのか
まだ悔いぬのか

金色の焦りを
ほとばしらせながら
青い透明な魚が
鳴かぬ声で叫んでいる
沈黙は
重い岩となって
世界に落ちてくる

おのれ
まだせぬのか
まだ悔いぬのか
ならば
痛烈な
清めの砂を
落としてやろう

それに触れるものは
もう永遠に
星を見ることはないだろう
もう永遠に
花の露をなめることはないだろう

愚か者め

まだせぬのか
まだ悔いぬのか

繰り返し灯る
神の永遠の
ちぎりの玉を
清らかな愛の勲章を
おまえは目の中に
見ることはできないだろう




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ケバルライ・6

2017-08-08 04:15:03 | 詩集・瑠璃の籠

谷間に
月影は落ち
ひともとの百合となる

谷間に
月影は落ち
一匹の蟹となる

谷間に
月影は落ち
真夜中に薔薇が咲く

谷間に
月影は落ち
幻の芥子となる

谷間に
月影は落ち
群星の的となる

谷間に
月影は落ち
潮騒を聞きながら
眠る

誕生と
死は
潮騒の中の
砂の
騒ぎ

谷間に
月影は落ち
永遠の
朔となる




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アンタレス・29

2017-08-07 04:14:36 | 詩集・瑠璃の籠

ルソンがおまえの家にやってくる
おまえの本当の故郷が

国人はだれもよりつかなくなるだろう
親でさえもよりつかなくなるだろう
なぜならおまえは
本当はこの国の民ではないからだ

ひとから身分と人生を盗み
この国の民になりすましたのだ
そして何もかもを得た
幻の人生の中で
幻燈のような甘い幸福を味わった
そのツケがとうとうくる

おまえは刀の錆をなめるように
本当の自分を見るだろう
それがどんなに醜く
おかしいものかを知るだろう
何もかもはおまえが
無理に自分をゆがめたからそうなったのだ

おまえはひとりでその家に住み
だんだんと本当の故郷に慣れていく
水も空気ももうその国のものではないのだ
食い物を買いにいくときは
鼠のようにみじめな顔をしなければならない
誰かに必ず見られるからだ

嫌になるほど長い間
そうしておまえは
嘘をついたツケを払わねばならない
もう二度としないと
まことで誓えるようになるまで
阿呆の後始末を
これでもかとしなければならない





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エダシク・8

2017-08-06 04:14:56 | 詩集・瑠璃の籠

黄昏になると
蒼白い老爺があなたを訪ねてくる

あのときなぜ
妻が摘んできてくれた林檎を
色が青くてまずいなどと言ったのですか
あのときなぜ
子が釣って来てくれた魚を
小さくてみっともないなどと言ったのですか

知らぬはずはない
ごまかせはしない
あなたは
自分がつらかったのだ
勉強をしていない自分の恥ずかしさを
つかれて馬鹿にされるのがいやで
人を馬鹿にしてばかりいたのだ

あのときなぜ
一番きれいな少女に
あんなものはドクトカゲみたいに醜いと
言ったのですか

知らぬはずはない
ごまかせはしない
愛して
求めても
自分を訴えていく力さえ
自分にはないと思い込んでいるから
何もできない
その激しい辛さを
あなたは少女を憎むことで晴らそうとしたのだ

愚かなことよ

黄昏になれば
その真意を尋ねにくる
蒼白い老爺があなたの元に来る
そして問いただす
答えられなければ
最も苦い玉をあなたに飲ます
これは
決して愛さなかった
馬鹿なのだというしるしを

それを飲めばもう
誰にも愛されない
不可思議な氷のような人生を
ひとりで生きねばならなくなるのだ




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エダシク・7

2017-08-05 04:14:57 | 詩集・瑠璃の籠

お若い方々よ
精出して働きなさい
怠ってはならない

寸分も惜しまず
いいことはなんでもやり
気が付くことはなんでもやりなさい
明日のことも
明後日のことも
今やりなさい
それくらいやらなくては
働いたことにはならない

焦らずにのんびり行こう
マイペースでやろう
などというのは
傲慢な子供のすることです
のんびり行っている人間を
ひとり支えるために
どれだけの人間が身を粉にして働いているのか
まだ気が付かないのか

あなたがたの動ける回転数は
もっと速いのですよ
あなたがたがの思考の速度も
もっと速いのですよ
焦るほどに
焦るほどに
焦るほどに
働かなくては

食事をする時間さえ惜しむほどに
眠る時間さえもったいないというほどに
働かなくては
それくらいしても足りないくらい
多くの課題をかかえているというのに
なぜ今
疲れているから後でなどということが
できるのか

本当に疲れているときは
もう死ぬときです
人間いつもは
それほど疲れてはいないものだ
疲れているなどというのは
だるいからやりたくないと
言うことなのです

働きなさい
目まぐるしいほど
働きなさい
蟻よりも蜂よりも忙しく
働きなさい
もうそろそろ
それくらいのことはできるでしょう




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トゥバン・4

2017-08-04 04:14:34 | 詩集・瑠璃の籠

若草色の
清らかな祈りを積みなさい
わたしが来る時のために

竜のように長い時を隔てて
わたしは
約束もない夜に
突然来る時がある
そして
あなたがガラスで作った奇妙な菓子を
食う前に
粉々に砕いてしまう

それは食べてはならないのだ
どのようにうまそうに見えようとも
どのように美しく見えようとも
一口食べれば
悪魔の鏡のかけらよりも重い棘を
あなたの心臓に刺してしまうのだ

もはや何をしても遅い
そういう暗闇の暗闇の中にさえ
わたしは来る時がある
そしてあなたの手の中の
実にやさしそうに見える
ガラスのトカゲを燃やす

それを飼ってはいけない
それに従ってはいけない
そうすればあなたは
蜘蛛の性欲よりも淫らな食欲にむしばまれ
永遠に穢れたものとなる

ついに救われないかと思う
ついに夜明けは来ないかと思う
深更の深更の闇にさえ
わたしは光ることがある

若草色の
清らかな祈りをつみなさい
わたしが来る時をねがって




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アラドファル・6

2017-08-03 04:16:15 | 詩集・瑠璃の籠

繰り返し寄す
潮騒の音に
あなたの長い髪を洗い
つらい記憶をすべて
流してしまおう

泡のように
記憶は濡れ落ち
あなたはかなしいことを
すべて忘れてしまうだろう
もうそれでいいのだ

あなたは
信じられないほど清められて
軽い月のように浮かんでいく
明るく澄んだあなたの光は
銀よりも白く
はかないほど愛おしい

神はあなたを
永遠に
地上からは見えない星にするだろう
それでいいのだ

満天の星空から
ただ一つの星が消えた
それだけであじわう
永遠の孤独を
彼らはなめていかねばならない
それほど
愛を愚弄したのだ
愛によって許され
すべてを支えてもらっていたものを

あらゆる逆風に耐え
渾身の力を持って
ほぼたったひとりの力で
彼らのために救いの一手を打った
そのあなたを
彼らはいやだと言って
消したのだ
その報いを彼らは受けねばならない

空に決して見えぬ星を
見るたびに
彼らは永遠に忘れることのできない記憶を
思い出すのだ




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