月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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エダシク・6

2017-08-02 04:16:00 | 詩集・瑠璃の籠

街を
足が三本ある女が
歩いている

いや二本なのだが
歩くたびに何かがぶれて
三本あるように見えるのだ

馬鹿が
自分が嫌で
顔も体も人生も
すべてを盗んで
まるっきり別の人間になった
それを生きるのが苦しすぎて
霊魂はたちまちのうちに逃げた

あとの空っぽになった命と人生を
ほかの大勢の霊魂が
共同で運営しているのだ

大勢の人間がそれを生きているがゆえに
時にほかの人間の足がずれてきて
三本の足があるように見えるのだ

よく見れば
この黄昏の世界には
そのように
蛸のように足の数が増えた
人間がうようよといる

あれらはもう人間ではないのだ
人間の形をした
空蝉だ
血の流れる音はしても
心は流れていない

生きていても
生きていることには
ならない




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アラドファル・5

2017-08-01 04:18:26 | 詩集・瑠璃の籠

太陽が
あなたを照らすことを
いやだと言っている
あなたは月を殺し
ムカデの死骸よりもいやなものだと
言い放ったので
もう太陽が
愛想をつかしたのだ

月はあなたを救うために
小さな白いひつじのようなものになって
毛も肉も白い飴にこめて
すべて与えてしまったというのに
その血すらも
貝の匙ですくって
すべてあなたに飲ませたというのに

見なさい
あなたの影が長く伸びている
それは永遠の天国へと通じる
不思議なドアの根元に触れている
知らぬはずはあるまい
あそこをくぐれば
本当の幸福に出会えることを
そのドアのあり場所を
あの人に聞いたことを

それなのにあなたは
月を殺し
それを蚊の足よりも
下らないものだと言ったのだ
女が
自分よりいいものになるのは
絶対にいやだと言いながら

ゆえに
とうとう太陽が
あなたに対して目を閉じた
太陽はあなたを拒否する
あなたがその光を浴びていることを
吐き気がするほど
嫌がっている

もう二度と
わたしの光のふれるところに
来てはならないと

太陽は言う




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