ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

金融所得課税は見直されるか

2022年10月06日 00時00分00秒 | 国際・政治

 今日(2022年10月5日)付の朝日新聞朝刊7面13版Sに「金融所得課税、議論再び 『1億円の壁』問題視 政府税調」という記事が掲載されています。以前、相続税・贈与税の見直しについて記しましたが、そうとなれば金融所得課税につながらない訳がありません。

 政府税調の会合は10月4日に行われました。その折に「1億円の壁」の是正を求める指摘が相次いだとのことです。

 「1億円の壁」については、上記記事に簡潔なグラフがあるのですが、著作権の関係もあるので引用はできません。そこで、文章で説明しましょう。

 所得税法は総合課税の原則をとり、超過累進税率を採用しています。そのため、所得金額が高くなれば高くなるほど、所得税の負担率は高くなるはずです。但し、最高税率の関係により、或る程度の金額に達すると負担率は横ばいになるでしょうが、それは脇に置いておきましょう。

 現実はどうかというと、たしかに、所得金額が高くなるにつれて、負担率は高くなっています。しかし、それは1億円までの話です。1億円を超えると100億円まで負担率は低くなります。これが「1億円の壁」です。その原因は、上記記事において「給与所得の所得税率(地方税を含む)は金額に応じて55%まで上がる一方、株式の売却益や配当といった金融所得の税率は一律20%(同)と低い。このため、金融所得が多い富裕層ほど税負担が軽くなり、不公平な状態になっている」と書かれているとおりです。もう少し述べておくと、利子所得、配当所得、一定の譲渡所得などについては総合課税の原則に対する例外というべき分離課税が採用されています。この分離課税が採用されているものについては超過累進税率ではなく、比例税率が採用されています。その上、一般的な傾向として、所得が高くなればなるほど、分離課税・比例税率が採用されている金融所得の比率が高くなっています。

 金融所得課税は、長らく税制改正の検討課題とされていました。現在の内閣総理大臣も自由民主党総裁選で「1億円の壁」を取り上げていたのですが、議論が再び湧き上がるような形となりました。

 上記記事によれば「財務省はすべての人を対象とした課税強化は目指しておらず、一部の超富裕層に絞る方針。この日も、総所得が一定額を超えると追加的に税負担が増える米国の課税方式などを紹介。『負担の公平感にかなっているかどうか。国民的な議論が必要だ』とした。与党内には『総所得10億円以上を対象にするのも一つの考え方だ』という声もあがる」とのことです。「1億円の壁」を正面から問題とするのであれば「総所得10億円以上を対象にする」のは甘いとも考えられますが、妥協的な観点によるのかもしれません。

 その一方、NISAの拡充が打ち出されています。矛盾するようにも見受けられますが、NISAが騒がれている割にはあまり利用されていないから、ということでしょう。


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