ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

浜松市の行政区の再編

2023年12月31日 21時30分00秒 | 国際・政治

 最初に。行政区は、横浜市の中区、川崎市の川崎区のような区をいいます。地方自治法第252条の20第1項は「指定都市は、市長の権限に属する事務を分掌させるため、条例で、その区域を分けて区を設け、区の事務所又は必要があると認めるときはその出張所を置くものとする」と定めており、ここに登場する区が行政区にあたります。

 東京都の区は特別区といい、地方自治法第281条以下に定めがあるほか、同第1条の3第3項において特別地方公共団体とされる他、第2条第1項によって法人とされます。これに対し、行政区は法人格を有していません。そのため、分区または合区は市の条例で定めることができます。私が住んでいる川崎市では1982年に高津区から宮前区が分区し、多摩区から麻生区が分区していますし、奇しくも同年に福岡市では西区が早良区、城南区および西区に分区されています。

 さて、今回は浜松市の行政区の再編です。共同通信社が今日(2023年12月31日)の16時13分付で「浜松市の行政区、三つに 再編でコスト削減」(https://www.47news.jp/10335106.html)として報じているところを基にしました。

 2005年、浜松市は浜北市、天竜市などを編入合併しており、2007年に指定都市となりました。その際、7つの行政区が設けられました。中区、東区、西区、南区、北区、浜北区および天竜区です。しかし、2011年には早くも行政区の再編が協議されるようになります。2019年4月7日、区再編に関する住民投票が行われました。同年中に再編に関する協議は再開されましたが、住民投票の結果が今回の再編にどの程度生かされたのかについては疑問が残ります。

 住民投票においては、設問1として3区案(天竜区、浜北区、その他の5区)での区の再編を2021年1月1日までに行うことについて問われ、設問2として、設問1で反対の意見の場合に2021年1月1日までに区の再編を行うことについて問われました。この2つしか設問がなかったことが妥当なのかという問題はあるのですが、それを脇に置いておくとして、次のような結果となりました。

 有効投票数:322,600。

 設問1に賛成:132,249(約41%)。

 設問1に反対で設問2に賛成:31,722(約9.8%)。

 設問1に反対で設問2にも反対:158,629(約49.2%)。

 浜松市は、設問1に反対の意見が多数を占めたことを認めつつ、「区再編を行うことについては、設問1で賛成した票と設問1に反対で設問2に賛成した票の合計が50.8%となり、賛否は拮抗」と分析したようです。確かにその通りですが、設問1にも設問2にも反対の意見がほぼ半数であったということを無視してはいけないでしょう。住民投票の限界を示すものである可能性の一つが現れているような気もします。

 また、2020年2月に行われた浜松市議会特別委員会において協議がスタートし、区の再編のメリットおよびデメリットが議論されたようですが、果たして、住民投票の前に住民に対して説明されたのでしょうか。何の説明もなく再編に関する住民投票が行われたとは考えにくいのですが、説明がなければ賛成のしようも反対のしようもありません。

 2020年9月28日、浜松市議会の全議員が無記名投票を行い、賛成38、反対4、棄権4で再編が決議されました。具体的な再編案は2021年になってから検討されており、同年4月には市内各区にある区自治会連合会および区協議会における説明が行われ、パブリック・コメントも実施されています。

 そして、2023年2月の浜松市議会において「浜松市区及び区協議会の設置等に関する条例の一部を改正する条例」が可決・成立し、同条例附則第1項に従って2024年1月1日から施行されることとなりました。

 改正前の「浜松市区及び区協議会の設置等に関する条例」第2条第1項は、浜松市の区を上記の7区としていましたが、改正後の同条例第2条第1項は浜松市の区を中央区、浜名区および天竜区としています。再編前と再編後との比較は、別表第一を見ることでわかります。

 中央区:再編前の中区、東区、西区、南区、北区の一部。

 浜名区:再編前の北区の一部、浜北区。

 天竜区:再編前の天竜区と同じ。

 これにより、中央区の人口が約61万、浜名区の人口が約16万人、天竜区の人口が約3万人となります。かなり極端な差がありますが、天竜区の面積が広大であることを考慮しなければならないでしょう。何せ、天竜区の面積は、指定都市の区としては静岡市の葵区に次ぐ広さであり、天竜区だけで広島市の面積を上回るほどです。

 地理感覚のない人が、国会で浜松市への森林環境譲与税の配分額が多いことを問題視して質疑を行っていましたが、地図を見ればわかるように、天竜区の大部分は森林地帯であり、かつ、指定都市の区としては人口も人口密度も最少です。鉄道に関心がある方であれば、天竜区には飯田線が通っていると記せば、どういう状況であるかはすぐに察しが付くのではないでしょうか。秘境駅として有名な小和田駅があるのですから。

 再編後の中央区の人口密度がどの程度になるのかはわかりませんが、人口だけで見ても20倍以上の格差があります。このような指定都市が他にあるでしょうか。

 勿論、区は人口、面積など様々な要素によって分けられることとなります。ただ、中央区については、2つか3つに分けてもよかったのではないかと考えられます(無理に3区に再編することもなかったのではないか、ということです。ただ、私は浜松市民でも何でもないので、この辺りの事情はよくわかりません)。

 上記共同通信社記事には「将来の人口減少や経済状況の変化に合わせて行政コストを減らす狙いがある」、「市は区役所業務の集約により、人件費など年間約6億5千万円のコスト削減を見込んでいる」、「人口規模の違いで市民サービスに差が出ないようにするため、市は業務のデジタル化を進める方針」であるとのことです。

 2024年1月1日以降の推移を見守っていく必要があると言えますが、各区の特性をどう生かすのか、バランスをどのようにとるのかが問われるところでしょう。

 なお、分区とは逆の合区の例としては、大阪市(東区と南区とを統合して中央区、北区と大淀区とを統合して北区)、神戸市(葺合区と生田区とを統合して中央区)があります。

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年末年始も仕事

2023年12月29日 23時40分40秒 | 日記・エッセイ・コラム

 ありがたいことに、この年末年始も仕事をしています。講義などはないのですが、うちで原稿などを、今年の東急ジルヴェスター・コンサートがどうなるかと楽しみにしながら書いています。

 例年と同じく、田園都市線を走る東急の電車には東急ジルヴェスター・コンサートの広告が出ています。指揮者の小林研一郎さんは久しぶりに登場されるということでした。4度目ですが、もう少し頻度が高かったように思っていたのです。

 前回のジルヴェスター・コンサートに登場された原田慶太楼さんは、4月22日、横浜のみなとみらいホールで行われた日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で指揮をされました。前半はチェリストのジョヴァンニ・ソッリマさんの独奏チェロによるドヴォルザークのチェロ協奏曲でしたが、前に書いたように、第1楽章が終わってすぐに、何故かファゴット奏者がステージを離れ、ソッリマさんのテクニカルなソロが数曲演奏されました。未だに、第1楽章と第2楽章との間の出来事が何だったのかわかりません(仕掛け?)。後半は、吉松隆さんの交響曲第6番が演奏されました。非常に興味深い曲であり、今年、吉松さんの交響曲第1番および第3番のCDを購入したほどです(第6番はまだです)。

 そのソッリマさんのチェロ演奏は、5月3日に青葉台のフィリアホールでも聴きました。そのことについては既にこのブログで記しています。

 前回のジルヴェスター・コンサートには阪田知樹さんも登場しました。その阪田さんの生演奏も、6月24日にフィリアホールで聴きました。ヴァイオリニストの山根一仁さんとのデュオです。この時、阪田さんは当初のプログラムにはなかった曲も演奏されています。

 フィリアホールに行ったのは、上記の他、9月23日に行われた吉野直子さんとマリー=ピエール・ラングラメさんのハープ・デュオ、11月3日に行われたハーゲン弦楽四重奏団と藤田真央さんのフィリアホールオープン30周年記念コンサート、そして12月16日に行われた三浦友理枝さんのドビュッシー・ピアノ作品全曲演奏会第3回(回を追うごとに良くなっている印象を受けます)、以上の5回です。

 ハーゲン弦楽四重奏団によるドビュッシーの弦楽四重奏曲を聴いて、もっと弦楽四重奏曲の生演奏を聴いてみたいと思っています。

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いつまで走るか 東急9000系9007F

2023年12月28日 00時00分00秒 | 写真

 このブログでも何度か東急9000系を取り上げています。あと数年で東急大井町線および田園都市線から姿を消すことは確実になっていますが、どの編成がいつ西武鉄道に譲渡されるのかはわかりません。

 現在は5両編成15本が大井町線各駅停車用として運用され、田園都市線にも乗り入れる(そもそも、大井町線の営業区間のうち、二子玉川駅から溝の口駅までの区間は正式には田園都市線です)9000系ですが、元々は東横線で8両編成として運用されていました。横浜高速鉄道みなとみらい線でも運用されました。1本を除いて。

 高津駅4番線に大井町線B各停大井町行きの9007Fが入線してきました。先頭はクハ9007です。その後ろにデハ9207、デハ9407、デハ9607、クハ9107が連結されています。

 田園都市線の高津駅および二子新地駅に停車するB各停(またの名を青各停)は、車内放送で「田園都市線経由」と案内されます。これに対し、高津駅および二子新地駅を通過するのがG各停(またの名を緑各停)で、こちらのほうが圧倒的に本数が多いのです。

 先程、「1本を除いて」と記しました。その1本が9007Fであり、この編成だけは、製造当初から5両編成で大井町線を走り続けています。8両編成になったこともなく、東横線を営業運転したことはないはずです。

 自由が丘駅2番線から発車するところです。最後尾がクハ9107です。九品仏駅ではこの車両のドアが開きません(かつては戸越公園駅でもドアカットが見られましたが、クハ9007およびデハ9207のドアが開かなかったのでした)。

 1980年代と言えば、この9000系の他に新造車として8090系、8590系、1000系、改造車として7700系(初代7000系からの)や7600系(7200系からの)が登場しましたが、現役で運用されているのは9000系と1000系のみとなりました。

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再び、国木田独歩碑

2023年12月27日 22時30分00秒 | まち歩き

 今から12年ほど前に、このブログに「川崎市高津区溝口 旧大山街道散歩 その3」という記事を載せ、溝口4丁目にある溝口緑地と高津図書館を取り上げました。そこで、溝口緑地にある国木田独歩碑を紹介しました。

 冬、再び石碑を取り上げます。

 通勤などのために田園都市線の駅に向かう際、あるいは駅から自宅に向かう際に、溝口緑地を通ります。ここで必ず私が目にするのが、この国木田独歩碑です。

 溝口緑地は旧大山街道沿いにあり、府中街道(国道409号)にも近い場所です。おそらく、国木田独歩は旧大山街道か府中街道を歩いているはずです。そして、旧大山街道沿いには岡本かの子の生家である大貫家の屋敷の跡、濱田庄司の生家の跡などがあります。

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いつまで走るか 東急9000系9006F

2023年12月26日 23時58分00秒 | 写真

 かつては東急東横線の、そして現在は東急大井町線の主力である東急9000系は、東急の新車としては初のVVVF制御車であり、かつ、現在の東急では最古参となる系列でもあります。ただ、この9000系について置き換えが検討されているようであり、しかもこのブログでも「あまり類例のない譲渡 大手私鉄から大手私鉄へ」において記したように、東急9000系および9020系の一部が西武鉄道に譲渡され、西武多摩川線(武蔵境〜是政)、多摩湖線(国分寺〜多摩湖)、西武秩父線(吾野〜西武秩父。但し、運転系統としては飯能〜西武秩父)、狭山線(西所沢〜西武球場前)で運用されることとなっています。

 2025年度から2029年度にかけて東急から西武に譲渡される予定なので、2024年度までは9000系が大井町線(および田園都市線)で活躍しますが、2025年度からは徐々に姿を消していくこととなります(もう少し早まるかもしれませんが)。

 さて、今回は、このブログの「かつては東横線のTOQ BOX号 東急9000系9006F」においても取り上げた9000系9006Fです。渋谷・大井町側の先頭車であるクハ9006を撮影しました。

 大井町線の各駅にはホームドアが設置されています。ただ、9000系には車両のドアとホームドアとの連動のための装置が付けられていないようで、車両のドアもホームドアも車掌が操作します(今は備え付けられている可能性もありますが)。そう言えば、2023年中に東横線がワンマン運転化されたので、車掌が乗務するのは田園都市線および大井町線のみとなりました。

 2000系(現在の9020系)まで、東急の車両は御覧のような切妻形ばかりでした。これは、本当かどうかはわかりませんが、かの五島昇氏の意向であったという話を読んだことがあります。また、初代6000系から2020系・6020系・3020系に至るまで、東急の車両の先頭車には貫通扉が設けられています(8090系と、世田谷線用の300系を除きます)。ただ、貫通扉が前面の中央でなく、左側(運転席から見れば右側)にオフセットされるようになったのは9000系が最初となります。

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プリンタの寿命は何年だろう?

2023年12月25日 12時05分00秒 | デジタル・インターネット

 2010年に購入し、自宅で使い続けてきたプリンタ(複合機)、Canon Pixus TR8530が故障しました。

 13年以上使い続けてきたので、修理を頼むとしても部品があるかどうかわかりませんし、仕事などで急を要することもあるでしょうから、買い換えることとしました。突然故障したのには参りましたが、うちの近く(と言っても半径2キロメートルほどですが)には大型家電量販店がいくつかあるので、これから購入のために行くこととします。

 パソコンを使い始めてから28年以上、これまで購入した自宅用プリンタ(TR8530を含めて3台)は、全てCanonの製品です。研究室用としてはEPSONの製品を購入したこともありますが、EPSONよりもCanonのほうが長持ちするという印象を持っています。

 ところで、プリンタの寿命は平均で何年くらいなのでしょうか。

 10年持てば十分である、ということかもしれません。こう思ったのは、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号。現在は財務省令として効力を持っています)の別表第一を参照したからです。

 別表第一には「事務機器及び通信機器」の項目があり、次のように定められています。

 「謄写機器及びタイプライター」:「孔版印刷又は印書業用のもの」ならば3年、「その他のもの」ならば5年。

 「電子計算機」:サーバー用でないパーソナルコンピュータならば4年、「その他のもの」ならば5年。

 「複写機、計算機(電子計算機を除く。)、金銭登録機、タイムレコーダーその他これらに類するもの」ならば5年。

 「その他の事務用品」ならば5年。

 「テレタイプライター及びファクシミリ」ならば5年。

 「インターホーン及び放送用設備」ならば6年。

 「電話設備その他の通信機器」:「デジタル構内交換設備及びデジタルボタン電話設備」ならば6年、「その他のもの」ならば10年。

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いつまで贈与税の基礎控除について特別措置を続けるのか

2023年12月24日 02時00分00秒 | 法学(法律学)ノート

 2023年12月14日に「令和6年度税制改正大綱」(以下、与党税制改正大綱)が自由民主党および公明党によって決定され、12月22日には「令和6年度税制改正の大綱」(以下、政府税制改正大綱)が閣議決定されました。

 毎年行われる税制改正の方針などを決定し、かつ、国会に提出される改正法律案の骨子を示す重要な文書です。改正が多岐にわたることもあって、租税法の改正の内容を理解するためにも欠かせません。

 与党税制改正大綱および政府税制改正大綱と現行法とを見比べるとわかることがあります。それは、改正の対象とされる事項の多くが租税特別措置法および地方税法附則に関わるということです。勿論、所得税法や法人税法などのいわゆる本則を改める改正も多いのですが、租税特別措置法および地方税法附則の改正の多さも負けず劣らずというところです。

 この租税特別措置法および地方税法附則が、租税法をいたずらにわかりにくくするものであり、公平性などの問題を引き起こすものでもあります。そればかりでなく、租税特別措置法および地方税法附則のおかげで本来の制度が見えにくくなるという難点もあります。最近、政府の各審議会などで「見える化」という馬鹿げた表現がよく使われますが(可視化と書けないのか?)、「『見える化』を言うなら特別措置こそどうにかしろよ」と言いたいところです。まして、租税特別措置法の規定には、とにかく一文が長いものもあり、話の要領を得ない人の語りを聞いているような気分になるものが多いのです。

 また、私のように大学の法学部で租税法の講義を担当する者からすれば「いい加減にこんな特別措置などやめてしまえ」、あるいは「こんな特別措置を続けているならもう本則のほうを改正してしまえ」と思わざるをえないものも少なくありません。

 「こんな特別措置を続けているならもう本則のほうを改正してしまえ」。その代表が贈与税の基礎控除です。

 さて、ここで「問題」です。

 ①贈与税の基礎控除は何円でしょうか。但し、相続時清算課税を選択した場合は除きます。

 ②その金額は何法の何条に書かれていますか。

 両方ともに正解という方は少ないと思われます。

 ①の正解は110万円です。これは多くの文献などにも書かれていることですから、御存知の方も多いでしょう。

 ②については、相続税法と答える方も多いと思われます。たしかに、相続税法第21条の5が贈与税の基礎控除に関する規定です。しかし、同条は次のように定めています(以下、都合上、条文中の漢数字を算用数字に改めています)。

 「贈与税については、課税価格から60万円を控除する。」 

 「おかしい」とお思いの方が多いのではないでしょうか。「贈与税の基礎控除が110万円というのは常識だろ?」、「贈与税の基礎控除が110万円であると本に書かれているぞ!」とおっしゃる方もおられるはずです。お気持ちはわかりますが、相続税法第21条の5が贈与税の基礎控除額を60万円と定めているのは紛れもない事実です。

 いつまでも引っ張らないで、②の正解を記しましょう。租税特別措置法第72条の2の4第1項です。条文を読んでみてください

 平成13年1月1日以後に贈与により財産を取得した者に係る贈与税については、相続税法第21条の5の規定にかかわらず、課税価格から110万円を控除する。この場合において、同法第21条の11の規定の適用については、同条中「第21条の7まで」とあるのは、「第21条の7まで及び租税特別措置法第70条の2の4(贈与税の基礎控除の特例)」とする。

 租税特別措置法第72条の2の4第1項により、23年にわたって110万円とされている訳です。ここまで続けるならば、もう租税特別措置法第72条の2の4を削除し、相続税法第21条の5を改正して恒久的に基礎控除の額を110万円とするほうがよいでしょう。ここで租税特別措置法第72条の2の4の立法趣旨などを探ることはしませんが、租税特別措置法に設けられた規定である以上、当時の経済事情などを念頭に置き、あくまでも臨時的措置として考えられていたはずです。いつまでも特別措置として扱うことの意味がわかりません。

 先程の「問題」で相続時清算課税制度を除外しましたが、2024年1月1日から相続時清算課税制度についても基礎控除が設けられます。実はここにも相続税法という本則に対する租税特別措置法の規定が存在します。しかも、改正当初から特別措置が適用されるのです。

 2024年1月1日から施行される相続税法第21条の11の2第1項は、次のように規定しています。

 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、贈与税の課税価格から60万円を控除する。

 しかし、やはり2024年1月1日から施行される租税特別措置法第70条の3の2第1項は、次のように規定しています。

 令和6年1月1日以後に相続税法第21条の9第5項に規定する相続時精算課税適用者(第3項において「相続時精算課税適用者」という。)がその年中において同条第5項に規定する特定贈与者(第3項において「特定贈与者」という。)からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、同法第21条の11の2第1項の規定にかかわらず、贈与税の課税価格から110万円を控除する。

 結局、2024年1月1日から適用されるのは相続税法第21条の11の2ではなく、租税特別措置法第70条の3の2です。特別措置の期限が明示されていないので、恒久的に基礎控除を110万円とするのでしょう。最初から相続税法第21条の11の2は死文化していると言わざるをえません。死文化ではなく冷凍保存でもしているような感覚なのでしょう。いつか目覚めさせようと……。

 しかし、立法当時の事情はともあれ(ここでは参照しません)、基礎控除額を110万円としている以上、60万円に改めるべき時期の見通しはあるのでしょうか。むしろ、その時期は到来しそうにないと考えるべきでしょう。相続時清算課税を強化するというのであれば、相続税法第21条の11の2第1項において基礎控除額を110万円と定めるべきでした(ついでに、相続税法第21条の5も改正して基礎控除額を110万円と改め、租税特別措置法第72条の2の4を削除すべきでした)。そうすれば、同じ「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年3月31日法律第3号)において相続税法第21条の11の2と租税特別措置法第70条の3の2の両方を新設するという無駄もなくなります。そもそも、何より同じ改正法律に本則と特別措置が並べられているのもおかしなことであると言えないでしょうか。施行したところで適用の機会のない規定を定める、あるいは残しておく意味がどれほどあるというのか、疑わざるをえません。

 今回は贈与税の基礎控除について記しました。前述の通り、代表例としてあげましたので、他にも「こんな特別措置を続けているならもう本則のほうを改正してしまえ」というものはあります。機会を見つけて紹介することといたしましょう。

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期末試験の答案などについて

2023年12月22日 14時15分00秒 | 受験・学校

 1月の後半には期末試験、という大学も多いでしょう。そこで、過去に私が記したことへのリンクを示しておきます。なお、レポートについても妥当します。

 https://blog.goo.ne.jp/derkleineplatz8595/e/ffa21de58e583fece7480e19f39d3ce2

 https://blog.goo.ne.jp/derkleineplatz8595/e/e74927f8d1caa0425845970d0a652af9?fm=entry_awp

 https://blog.goo.ne.jp/derkleineplatz8595/e/e724eae889b77bf2805c524070418431

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長津田厚生総合病院が閉院へ

2023年12月22日 01時45分00秒 | 社会・経済

 最初に。横浜市は緑区の長津田は「ながつた」と読みます。「ながつだ」ではないので御注意を。横浜市の北部では、他に高田(たかた)、山田(やまた)の例があります。

 本題に移ります。

 昨日(2023年12月21日)の夜、TVK(テレビ神奈川)や神奈川新聞で報道されていたのが目に付きました。

 東急田園都市線・JR東日本横浜線・横浜高速鉄道こどもの国線の長津田駅から北のほうに歩くと、長津田厚生総合病院があります。こどもの国線に乗ると、長津田駅を発車してすぐに右にカーブし、恩田川の手前、右側に長津田厚生総合病院が見えます。私は、祖母の見舞いのためにこの病院に行ったことがあります。

 閉院の理由が、実に情けないものでした。

 2014年10月から3年間、診療報酬の不正請求があったのでした。実に6605件、1億8000万円です。私は医療関係に詳しくも何ともないので、業界事情や背景などを知る由もありませんが、複数の匿名による情報提供があり、厚生労働省関東信越厚生局による監査の結果、看護師の人数の水増しなどがあったことがわかったそうです。今から9年前より続けられてきた訳で、行政のほうで見破れなかったのかとは思いました。

 ともあれ、不正請求が発覚したため、関東信越厚生局は長津田厚生総合病院に対する保険医療機関(TVKのサイトではTVKのサイトでは「保健医療機関」と書かれていますが、誤字です)の指定を2024年3月1日付で「取り消す」、行政法学者としての表現を使えば撤回することとなりました。

 長津田厚生総合病院のサイトには、2023年12月21日付で「長津田厚生総合病院 閉院のお知らせ」という記事が掲載されています。「一般社団法人日本厚生団 長津田厚生総合病院」の院長名によるものですが、一読して違和感を覚えました。

 まず、この記事には「一般社団法人日本厚生団 長津田厚生総合病院は、関東信越厚生局による監査の結果、平成26年10月から平成29年6月の間に診療報酬の基本診療料(一般病棟入院基本料10対1)に不正な請求が行われていたこと等が判明し、令和6年3月1日に保険医療機関の取消処分を受けることとなったため、令和6年2月29日をもって保険診療が停止となり、令和6年3月31日に閉院することとなりました」と書かれています。

 当事者のはずですが、第三者的な視点で書かれています。どこか他人事という感じがします。

 保険診療が行われるのは2024年2月29日までであり、2024年3月1日から同月31日までは「健康保険を使った診療ができませんので休診といたします。他院への紹介状は作成いたしますのでお問い合わせ下さい」。閉院にも準備が必要でしょうから、この点はよいとします。

 私が最も違和感を覚えたのは「不正請求の要因としては、病院のコンプライアンス及びガバナンスの問題と思われます」という文です。この一文だけで一段落が構成されています。「当事者だろ!」という突っ込みが入ってもおかしくありません。ここで長々と詳細を書く必要もありません。また、2014年から2017年までの間の出来事なので、院長など人事に変化があったことは理解できます。それでも「病院のコンプライアンス及びガバナンスの問題と思われます」で終わらせるのはどうなのでしょうか。

 ちなみに、記事には「平成29年7月以降は、法令を順守し運営しておりました」と書かれています。そうであるならば、2017年6月までの出来事などについて内部での検証は行われたのでしょうか。

 閉院となれば、最も影響を受けるのは入院患者でしょう。長津田厚生総合病院は「令和6年4月1日以降の診療につきましては、新たな医療機関にて現在の場所で診療を継続できるようお願いしております。診療科目は、内科外来・眼科外来・泌尿器科外来・人工透析・健診センターです。入院診療は行いません」と表明しているので、入院患者は別の病院に転院しなければならないということになります。

 入院患者ほどではないとしても、通院患者も大きな影響を受けます。「新たな医療機関」による診療科目は、現在の長津田厚生総合病院における診療科目よりも少なくなるようですし、長津田厚生総合病院から「新たな医療機関」に移行するとなれば、医師や看護師といったスタッフの異動もありえます。

 「叩けば埃が出る」ではないですが、診療報酬の不正請求は、実のところ少なからぬ医療施設で行われている可能性が低くないでしょう。それだけに、結局は患者が不利益を被ることになる訳でして、もう少し早くわからなかったのかという疑問は拭えません。

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忘年会離れと言いますが

2023年12月21日 00時00分00秒 | 社会・経済

 月曜日の朝、電車に乗って仕事へ行く際にiPhoneで忘年会離れの記事を読みました。私は、若い頃から飲み会のようなものをあまり好まなかったため、「そうだよね」などと共感しながら読んでいました。紙面記事として朝日新聞2023年12月18日付朝刊15面東京四域14版△に「コロナ5類移行 街はにぎわい それでも進む 忘年会離れ」がありますが、私は2023年12月17日20時付の「進む『会社の忘年会』離れ 『ニーズ高くない』コロナ後やめた企業も」(https://digital.asahi.com/articles/ASRDK5KGPRDHOXIE01P.html)に目を通していました。書かれている内容に違いがありますが、私は神奈川県人ですのでインターネットの記事のほうを参照します。

 今年、東京の地下鉄に乗る度に「COVID-19の前より混んでいるんじゃないか?」と思えるほどに乗客が増えたことを実感します。2020年春の状況などを身をもって体験した者として、あまりの違い戸惑いを覚えたほどです。

 しかし、飲み屋さんなどの場合は違うようです。

 上記インターネット記事に東京商工リサーチによるアンケート調査(10月実施)のことが書かれています。何社を対象にしたのかはわかりませんが、回答は4747社から得られたようです。

 この年末年始に忘年会や新年会を予定していると回答した企業は54.4%、予定していないと回答した企業は21.8%でした。

 まだまだ多いと言えますし、忘年会離れという表現が妥当なのかなと疑いたくなるかもしれませんが、2019年以前よりは減少しているのでしょう。

 予定していないという回答の理由が気になるところでしょう。私も気になったので目を通すと、開催ニーズが高くないという答えが最も多くて53.8%、続いて「参加に抵抗感を示す従業員が増えたため」という答えが42.2%とのことです。この両方の答えには共通する部分が多いと思われますが、別の回答としておきましょう。一方、中小企業については費用の問題をあげるところが多かったようです。

 一方、実施予定の企業では、従業員の親睦を図るという回答が最も多くて87.0%、続いて従業員の士気向上を図るという回答が53.2%であったとのことです(明らかに複数回答です。一つだけを選択するというのは趣旨に合わないからでしょう)。ただ、親睦なり士気向上なりにつながるかどうかは個別事情に左右されるのではないでしょうか。

 労働者はどう考えるのか。これも千差万別でしょう。記事にも賛成派と反対派の双方の意見が書かれていました。かなりの部分は企業の事情に左右されるような気もしますが、「上司にお酌させられるんじゃないかと心配」という意見は多くの企業に共通するでしょうか。今でもこういう上司はたくさんいるのでしょうか。私のように、お酌も何もいらないから自分で加減を合わせて飲んだりしたいと思う人は少ないのでしょう。

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