ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

教室での講義とオンライン講義との併用は難しい(続)

2022年05月31日 00時40分00秒 | 受験・学校

 昨日(2022年5月30日)の講義のうち、2つでオンライン併用の教室での講義を行いました。

 2022年度は、原則として教室での講義を行うのですが、学生からの申出により、オンラインの併用を行うことになっています。

 事情があってWi-fiを使うのですが、接続が不安定になることがあります。その上、PowerPointかKeynoteを使いますので(場合によってはWordやSafariも使います)、MacBookにはかなりの負荷をかけることになります。結果として、途中で接続が切れてしまいました。

 オンラインで受講する学生には申し訳なく思っています。

 どうしたものかと考えました。私が所有しているMacBookは、既に現在のアップル社のカタログにはなく(少なくとも日本ではなくなってしまいました)、iPadを使うべきなのか、他のパソコン、例えばMacBook AirかMacBook Pro、あるいはWindows Surfaceに買い換えるべきなのか、単にWi-fiの問題なのか、よくわからないところがあるのです。MacBookを購入したのは2019年4月1日ですが、特にカスタマイズなどをしていないため、かなり非力ではあるのです。軽くて持ち運びが楽であり、電車の中で使ったりするのはよいのですが、自宅でメイン機とするようなものではありません。実際に、2020年度と2021年度のオンライン講義のほとんどでMacBook Proを使ってきました。酷使に近い状態かもしれません。

 あれこれと考えてしまう今日この頃です。

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財政再建の目標は維持されるものの……

2022年05月27日 12時00分00秒 | 国際・政治

 今日(2022年5月27日)の朝日新聞朝刊4面14版に「財政再建の目標維持 自民、異論あったが…原案通り決着」という記事が掲載されていました(https://digital.asahi.com/articles/DA3S15306623.html)。小さな記事ですが、見落とせないものなので、ここにも少しばかり記しておきます。

 長らく、日本の国家財政はかなりひどい状況でした。財政赤字は日本だけのものではありませんが、日本の場合は国家財政も地方財政(全体)も悪いのです。そのため、財政再建の必要性は度々主張されています。実際に、COVID-19の猛威を前にして、財政赤字にまみれた日本では、ドイツなどと異なって思い切った政策を打ち出すことができなかったとも言われています。しかも、例の布マスク配布およびその保管を象徴されるような無駄遣いは止まりません。

 このような状況の中で、詳しいことはわかりませんが、自由民主党の財政健全化推進本部は議論を重ね、今月26日に提言をまとめました。同日に同党の政調審議会において了承されています。

 提言については今月19日および20日に議論されているのですが、自由民主党には財政改革検討本部もあり、そのメンバーから財政再建について異論があったようです。そこで、財政健全化の目標は維持するものの「内外の経済情勢によっては必要な検証を行う」ということで、原案には書かれていた「平時からの財政秩序が必要」という部分が削除されたとのことです。勿論、「平時からの財政秩序が必要」なのは「感染症の流行や大災害時に十分な支出ができるようにするため」であり、これまでの日本の経験からすれば至極当然の話であるはずですが、安倍晋三元内閣総理大臣のサイドから「今こそ十分な支出をするべき時だ」という趣旨の指摘がなされたことで削除されたようです。

 その結果、第二次安倍内閣〜第四次安倍第二次改造内閣の時と同様に「全体として『経済成長と財政健全化の両立を目指す』という方針をより強調する書きぶりに変更した」と言います。これは実質的に財政健全化に対するブレーキの役割を果たすものです。私が論文で度々引用していますが、当時の与党税制改正大綱においては「経済成長なくして財政健全化なし」というフレーズが書かれており、経済成長が優先されてきたからです。しかし、財政だけで全てを測ることはできないものの、財政に不安がある国家など国際的に評価される訳がなく、経済成長のためということで進められた円安政策のおかげで国民の生活は(平均的に)困窮のほうに進むばかりです。食糧など多くの資源を輸入に頼っている日本ですから、円安になれば資源購入の費用ばかりがかさむのは当たり前のことでしかありません。敢えて弱い通貨を目指すことの意味は、とくに現在の状況からすれば理解されにくいでしょう。

 そして、提言では「過去30年を通じてみれば我が国の経済成長は主要先進国の中で最低レベル」であると指摘されているようですが、OECD加盟国に拡げても同じようなことが言えるでしょうし、視野が狭いという印象を受けます。さらに気になるのは「アベノミクスは道半ばであると言われるゆえんであり、今後、強い日本経済をつくるため、経済政策に取り組む必要がある」という文です。過去の政策に対する検証の姿勢が全く見えません。これでは失敗を繰り返すだけでしょう。明石順平さん、金子勝さんなど多くの方が分析し、指摘されているように、アベノミクスにより、確かに東京証券取引所第一部上場株式の平均株価は上昇したかもしれませんが、目に見える成果はそれだけであり、例えば平均所得は下がり続けています。しかも、数少ない(唯一とは言いません)頼りの綱である平均株価も、ここに来て下落しています。ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済に大きな打撃を与えていることが一因であることは明確ですが、それだけが原因ではありません。大体、政策の失敗の原因は複合的であることが多く、短期的なものもあれば長期的なものもあります。

 常に思うのですが、「失敗は成功のもと」という日本の諺は罪作りなものです。2021年に開催された東京オリンピック、2025年に予定されている大阪万国博覧会に典型として示されているように、成功体験に目がくらみ、「夢よもう一度」となる訳です。しかし、時間は確実に経過し、背景、情勢も刻々と変化します。1964年および1970年は日本の高度経済成長期でしたから多少の無理はカヴァーできたのです。1973年に高度経済成長期は終了し、1975年から(ほんの一時期を除いて)赤字国債が発行され続けます。無理が利かなくなって慢性の病気となり、病状は悪化していきます。昭和の最後の数年間と平成の最初の数年間にバブル経済の似非(?)好景気がありましたが、崩壊してから深刻化していく一方です。

 私はこのブログで何度も「成功は失敗のもと」と書いています。新聞、雑誌、書籍などを見ていると、同じようなことを述べているのは安藤忠雄さんだけかと思っていました。最近になって、吉見俊哉編著『検証 コロナと五輪 変われぬ日本の失敗連鎖』(2021年、河出新書)を入手し、読みました。そのあとがきにおいて「人は、成功体験の繰り返しよりも失敗の経験からこそ多くを学ぶ」と書かれていました。その通りでしょう。1998年の長野冬季オリンピックは、その後の長野県や長野市の財政に大きな負の遺産を残していますし、2020年から2021年に延期された東京オリンピックに至っては、開会の何年も前から下手なドタバタ喜劇などお呼びでないような混迷ぶりを露呈していました。オリンピックのために造られた施設の多くは、これから重荷となるでしょう。ツケは東京都民さらに日本国民に負わされたのです。それなのに、国や東京都に東京オリンピックの検証を行う動きはないようです。

 東京オリンピックだけではありません。アベノマスク、地方創生など、検証すべき事柄は多いのです。ただアベノミクスを実施し続けることが果たしてよいことなのでしょうか。

 もう一つ、提言についての記事で非常に気になることがあります。岸田内閣が発足したのは2021年10月であり、その頃に「新しい資本主義」というフレーズが繰り出されました。その「新しい資本主義」と提言との関係がよく見えません。敢えて記せば岸田色、独自性があるのかないのかわからないのです。

 首相官邸のホームページによると、「新しい資本主義」について次のように書かれています(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seisaku_kishida/newcapitalism.html)。

 「私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。成長を目指すことは極めて重要であり、その実現に向けて全力で取り組みます。しかし、『分配なくして次の成長なし』。成長の果実を、しっかりと分配することで、初めて、次の成長が実現します。大切なのは、『成長と分配の好循環』です。『成長も、分配も』実現するため、あらゆる政策を総動員します。」

 アベノミクスとの違いは分配の強調の有無でしょうか。しかし、「成長を目指すこと」に新味はありません。その点において「新しい資本主義」はアベノミクスの延長とも考えられます。もっとも、さらなる検討は必要ですが、大筋では延長と捉えて間違いないでしょう。財政の健全化を期待するほうが無理なのかもしれません(よいことでないのは明らかです)。

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都営三田線にも8両編成が

2022年05月25日 00時02分50秒 | 写真

 長らく、東京メトロ南北線を経由して東急目黒線との直通運転を開始する前から6両編成が走り続けた都営三田線ですが、2022年5月14日から8両編成が走るようになりました。その8両編成用として東京都交通局が登場させたのが6500形です。これまで、西台駅に隣接する志村車両研修場に停められている様子を何度か見ていますが、ようやく、営業運転に就いているところを撮影し、乗車することができました。

 たしか、JR東日本のE235系を基にしていると聞いたことがあります。その点は東急2020系などと共通します。しかし、外見でここまでE235系に似ている車両も他にないでしょう。E235系は、山手線で活躍している、トースターの出来損ないのようなデザインの車両です。

 格好の悪い車両といい、駅でうるさい馬鹿メロといい(東急田園都市線のよいところは、南町田グランベリーパーク駅を除き、こういう馬鹿メロがあまり流れないことです)、鉄道会社にはもう少しセンスを磨いて欲しいものですが、6500形についても妥当するのは残念です。実際に乗車してみると、6300形と比べても安っぽい内装なのでガッカリしました。いや、比べること自体がおかしいかもしれません。

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川越市駅(TJ22)にて

2022年05月23日 22時05分00秒 | 写真

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体言止めはなるべく避けよう 役所関係の文書には多いけれども

2022年05月22日 00時00分00秒 | 受験・学校

 先日、法律用語の問題として、次のようなものを出題しました。

 

 次の(1)〜(6)の不等式を、法律用語の「超え」、「以上」、「未満」、「以下」という言葉を用いて表現しなさい。数字は算用数字を使うこと。

 (1)X>300

 (2)X≦500

 (3)X<400

 (4)X≧200

 (5)1000≦X<5000

 (6)2000<X≦10000

 

 どう考えても「以下」と「未満」との違い、「超え」と「以上」との違いを理解していないことが見受けられる答案が多かったのですが、正答であっても表現としてどうなのかと思うものも多かったのです。

 具体的に記すと、例えば(1)について「(Xは)300以上」という表現です。意味はわかるのですが、このような体言止めは、あまり良い表現と言えません。文章が完結していないからです。「以上」の後に「である」が続くのか「でない」が続くのかがわかりませんし、「である」が続くことがわかっているとしても、やはり動詞がないのでは不明瞭な部分を残します。

 或る意味では不思議なことですが、役所関係の文書では「〜すべき」という表現をよく見かけます。「〜すべきである」とも「〜すべきでない」とも記されておらず、「〜すべき」で止まっているのです。「べき」は「べし」の連体形ですので、「〜すべき」では文章が完結しません。悪しき風習とは記しませんがあまり良くない表現と言えますので、改めていただきたいものです。

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桜新町駅の駅名標

2022年05月21日 07時00分00秒 | 写真

 1977年に新玉川線の駅として開業した桜新町駅は、「2010年10月1日、桜新町駅」という記事において書いたように、日本で初めて、急行用の通過線を設けた地下駅です。そのため、各駅停車が急行を待避する光景が見られます。もっとも、準急は桜新町駅を含めて渋谷駅〜二子玉川駅の各駅に停車しますし、準急の運行時間帯も増えました。平日朝ラッシュ時など、急行が走らない時間帯もあります。

 そして、桜新町駅は、日本で最も有名な漫画、サザエさんの舞台の最寄り駅です。というより、舞台の中にあると記すほうがよいでしょう。朝日新聞に連載されていた時期には東急玉川線(多摩川線ではありません)が活躍しており、その玉川線に桜新町電停があったのですが、漫画にはそれとわかる形で登場していません。また、テレビアニメ版の設定は玉川線が廃止されてから新玉川線が開業するまでの間となっているので、桜新町駅は登場しません(但し、私自身は少なくとも12年以上、アニメ版を見ていませんので、最近の設定は知りません)。

 桜新町駅から歩いて10〜15分ほど、商店街を国道246号および首都高速3号線の方に歩いて行くと、長谷川町子美術館があります。「2010年10月1日、桜新町駅」を記した時にはまだ入ったことがなかったのですが、2011年3月下旬に入りました。その1回だけですが……。

 駅名標の下にある案内標の左側には、サザエさん一家が1人ずつ登場します。上の写真ではカツオ君ですが、他の案内標ではサザエさんであったりワカメちゃんであったり波平さんであったりします。桜新町駅ならではの仕様であり、他の駅では考えにくいでしょう。

 何年前からであるかを覚えていないのですが、東急では駅名標の下に最寄りの施設を示す案内標が付けられるようになっています(但し、全駅ではありません)。田園都市線では、池尻大橋駅(東邦大学医療センター大橋病院)、三軒茶屋駅(昭和女子大学)、高津駅(帝京大学溝口病院前)などです。桜新町駅は、こうした案内標が最も早く付けられた駅であると思われます。なお、東急の車両に限られますが、最寄りの施設については自動放送でも案内されますことがあります。例えば、池尻大橋駅であれば「東邦大学医療センター大橋病院 最寄り駅です」と案内されます。

 田園都市線の駅でも、この桜新町駅は私が好きな所の一つで、時々利用しては、短い時間でありながらも街を歩いたりしています。また、歩いて写真を撮ったりしたいと思っています。

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第2部:所得税法 第16回:所得税法における税額の計算

2022年05月19日 07時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 1.概説

 「12 収入金額と必要経費」の冒頭において、課税総所得金額の算出の仕方を説明した。なお、分離課税の対象となる退職所得については課税退職所得金額、山林所得については課税山林所得金額という。

 ここから税額を計算する訳であるが、基本的な手順は次のとおりである。

 まず、課税総所得金額、課税退職所得金額および課税山林所得金額に税率を乗じる。税率は所得税法第89条に規定されている。この規定を読めばわかるように、所得税の税率は累進税率である。この税率には度々変更が加えられているが、現在〔2005(平成27)年1月1日以降〕においては次のとおりである。なお、簡易計算法で示す。

 ・課税総所得金額が195万円以下の場合:5%

 ∴(課税総所得金額)×5%=(所得税額)

 ・課税総所得金額が195万円を超え330万円以下の場合:10%

 ∴(課税総所得金額)×10%-97,500円=(所得税額)

 課税総所得金額が330万円を超え695万円以下の場合:20%

 ∴(課税総所得金額)×20%-427,500円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が695万円を超え900万円以下の場合23%

 ∴(課税総所得金額)×23%-636,000円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が900万円を超え1800万円以下の場合:33%

 ∴(課税総所得金額)×33%-1,536,000円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が1800万円を超え4000万円以下の場合:40%

 ∴(課税総所得金額)×40%-2,796,000円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が4000万円を超える場合:45%

 ∴(課税総所得金額)×45%-4,796,000円=(所得税額)

 次に、課税総所得金額、課税退職所得金額および課税山林所得金額に税率を乗じて得られた額から税額控除を行う。こうして、最終的な納税額が決定される。

 税額計算についても特例が存在する。その代表が平均課税である〈山林所得に対する課税(五分五乗方式)も平均課税の一種である〉。これは、変動所得および臨時所得について認められるものである。

 所得の中には、定期的に生じるとしても年によって変動が激しいものがある。これを変動所得という。第2条第1項第23号は、漁獲から生じる所得や著作権の使用料に係る所得を変動所得の例として掲げており、所得税法施行令第7条の2は、他に海苔の採取やはまち、真珠(貝)などの養殖から生ずる所得、原稿料、作曲料をあげている。

 また、所得の中には臨時に生じるものもある。一時所得もその例であると考えることもできるが、上述のように、所得税法における一時所得は、営利を目的とする継続的な行為から生じた所得でない一時的な所得であり、役務や資産の譲渡の対価としての性質を有しないものである。そのため、役務の提供を約束することによって得られる契約金などの一時的な所得は該当しない。しかし、超過累進税率を採用すると、或る年について著しく納税負担が増えることになる。そのため、所得税法第2条第1項第24条は、契約金など臨時に発生する所得を臨時所得として区別している。詳細は所得税法施行令第8条に定められている。

 変動所得および臨時所得は、或る年度に集中して生じることが多い。そのため、所得税法第90条により、およそ5年間にわたり平準化することとされている。これが平均課税である。同条によると、居住者の或る年度の総所得金額のうち、第1号に規定される、変動所得および臨時所得の合計金額(平均課税対象金額)が2割以上を占める場合には、課税総所得金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除して得られた金額をその年の課税総所得金額とみなして計算して得られた税額と、第2号に規定される、課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額―第1号によって得られた課税総所得金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除して得られる―を控除して得られた金額に、第1号によって得られた金額の調整所得金額に対する割合を乗じて得られた金額をそれぞれ算出し、その合計額を所得税額とするものである。

 

 2.所得控除と税額控除

 所得税法に規定される控除には、所得控除と税額控除の二種類がある。いずれも、納税負担を軽減するためのものであるが、双方には相違点も多い。とくに、行われる段階が異なるので、混同しないように注意が必要である。

 所得控除は、前章において触れたように、所得金額から一定の金額を控除するもので、第72条以下の規定に列挙される控除である。第86条の基礎控除も所得控除の一種であり、他に配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除などがある。納税義務の有無の判断や計算などの際などに簡便であるという利点もあるが、高額所得者に有利となるという問題点もある。

 これに対し、税額控除は、課税総所得金額(など)に税額を乗じて得られた算出税額から一定の金額を控除するもので、第92条および第95条に定められるものである(配当控除、外国税額控除)。所得税法制定時からしばらくの間は種類が多かったが、所得控除に切り替えられたものが多いため、現在は政策的見地によるものしか残っていない〈その代表が、負担軽減措置法第6条および地方税法附則第40条に定められた定率控除であった〉

 

 3.累進税率

 税率についての一般的な説明は「02 課税要件」において行った。第89条に定められる税率は、比例税率ではなく、累進税率であるが、単純累進税率(課税)ではなく、課税標準を多段階に区分した上で段階ごとに逓次に高い税率を適用する超過累進税率(課税)を採用する。

 同第1項は「その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額」と記している。この表現は少々わかりにくいが、単純累進税率ではなく、超過累進税率を採用するという趣旨である。

 単純累進税率とは、課税標準が大きくなるにつれて、その全体に従って単純に高い税率を適用するというものである。計算が楽であるし、直感的にわかりやすいので、多くの人々は所得税の税率を単純累進税率であると誤解している。しかし、次のような欠陥があり、不合理な結果が生じるため、単純累進税率は採用されていない。例に従って説明する。

 A、Bの2017年度の課税総所得金額が、それぞれ195万円、196万円であるとする。所得税法第89条の表を参照すると、上の欄には195万円以下、195万円を超え330万円以下と出ている。Aの課税総所得金額は195万円なので、そのまま税率を適用すると、

 1,950,000×0.05=97,500

となるから、Aが納付すべき所得税額は9万7500円であり、手許に残る金額は185万2500円となる。

 次にBの課税総所得金額は196万円なので、単純に、195万円を超え330万円以下の場合の税率を適用すると、

 1,960,000×0.1=196,000

となるから、Bが納付すべき所得税額は19万6000円であり、手許に残る金額は176万4000円となる。

 ここで計算した結果を比較していただきたい。課税総所得金額は、BのほうがAより1万円多いだけであるが、納税を済ませた後に手許に残る金額は、逆にAのほうがBより8万8500円も多い。課税総所得金額が多いほうが、手許に残る額が少なくなるという不合理な結果を生じているのである。

 そこで、このような結果を生じさせないために、超過累進税率を採用している。まず、課税標準を多数の段階に区分する。この段階を課税段階、または所得段階という。そして、上の段階に進むに従い、逓次に高い税率を適用する、というものである。各段階に適用される税率を段階税率という。

 先ほどのA、Bの例を使い、超過累進税率によって計算してみる。甲の場合は先ほどと同じであるが、乙の場合が異なる。再び、所得税法第89条の表を参照した上で、次のように計算する。

 まず、196万円を同表に従って区分する。そうすると、最初の195万円までの部分と、195万1円から196万円までの部分とに分かれる。この「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのである。実際には、既に示したように速算表(簡易計算法)があり、それに具体的数字を当てはめれば計算ができるようになっているが、ここでは、超過累進税率の基本を理解するため、まずは第89条に忠実な計算を行うこととする。

 1,950,000×0.05=97,500

 (1,960,000-1,950,000)×0.1=10,000×0.1=1,000

となるから、結局、Bの納税額は9万8500円となる。Bが納税を済ませた後に手許に残る金額は186万1500円となるから、単純累進税率であれば生じる不合理な結果には至らない。

 同じように、2017年の課税総所得金額が350万円である丙の例で計算してみる。表の上の欄には、195万円以下、195万円を超え330万円以下、330万円を超え695万円以下と出ている。そこで、350万円をこれらに区分する。そうすると、

 ①最初の195万円までの部分

 ②195万1円から330万円までの部分

 ③330万1円から350万円までの部分

に分かれる。この「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのであるから、

 ①の部分1,950,000×0.05=97,500

 ②の部分:(3,300,000-1,950,000)×0.1=1,350,000×0.1=135,000

 ③の部分:(3,500,000-3,300,000)×0.2=200,000×0.2=40,000

 これらを合計すると、97,500+135,000+40,000=272,500

 27万2,500円が税額控除前の納税額であり、税額控除の適用がなければ最終的な納税額となる。

 最後に、課税総所得金額が1000万円であるとする。やはり所得税法第89条に従うと、表の上の欄には195万円以下、195万円を超え330万円以下、330万円を超え695万円以下、695万円を超え900万円以下、900万円を超え1800万円以下の金額と出ている。そこで、1000万円をこれらに区分する。そうすると、

 ④最初の195万円までの部分

 ⑤195万1円から330万円までの部分

 ⑥330万1円から695万円までの部分

 ⑦695万1円から900万円までの部分

 ⑧900万円を超えて1000万円までの部分

に分かれる。やはり「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのであるから、

 ④の部分:1,950,000×0.05=97,500

 ⑤の部分:(3,300,000-1,950,000)×0.1=1,350,000×0.1=135,000

 ⑥の部分:(6,950,000-3,300,000)×0.2=3,650,000×0.2=730,000

 ⑦の部分:(9,000,000-6,950,000)×0.23=2,050,000×0.23=471,500

 ⑧の部分:(10,000,000-9,000,000)×0.33=1,000,000×0.33=330,000

 これらを合計すると、176万4000円となる。これが税額控除前の納税額であり、税額控除の適用がなければ最終的な納税額となる。

 ■速算表(簡易計算法)の種明かし

 「課税総所得金額が195万円を超え330万円以下」を例として計算例を示す。

 課税総所得金額をa円(但し、195万円<a≦330万円)とすると、

 1,950,000×0.05+(a-1,950,000)×0.1=97,500+0.1a-195,000=0.1a-97,500

 他の税率についても同様に計算すればよい。

 

 4.復興特別所得税

 2011(平成23)年12月2日、法律第117号として東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(東日本大震災復興財源特別措置法)が公布され、一部の規定を除いて即日施行された。この法律により、復興特別所得税および復興特別法人税が創設されており(第1条を参照)、復興特別所得税については課税の対象が「平成二十五年から平成四十九年までの各年分の所得」とされている(同第9条)。

 復興特別所得税の課税標準は、個人の「その年分の基準所得税額」(同第12条)および法人の基準所得税額(同第26条)である。ここで基準所得税額とは、所得税法などの「所得税の税額の計算に関する法令の規定により計算した所得税の額」をいう(同第10条)。そして、復興特別所得税の税額は、「その年分の基準所得税額に」2.1%の税率を乗じて得られた金額である(個人については同第13条。なお、同第14条以下も参照。法人については同第27条)。

 なお、復興特別法人税については「19 法人税額の計算、および同族会社に対する法人税など(および復興特別法人税)」を参照されたい。

 

 ▲第3版における履歴:2022年5月19日掲載。

 ▲第2版における履歴:「13    所得税法における税額の計算(および復興特別所得税」として、2011年3月16日掲載。

            2012年8月6日補訂。

            2012年8月8日修正。

            2013年10月17日補訂。

            2017年10月18日修正。

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京王5000系5734F

2022年05月17日 23時50分00秒 | 写真

神奈川県最北端の駅である京王稲田堤駅(KO36)で、回送として到着するところを撮影しました。

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不等号の意味を理解していない? 2022年も

2022年05月11日 00時10分00秒 | 受験・学校

 2021年5月21日22時23分30秒付で、このブログに「不等号の意味を理解していない?」という記事を載せました。まだ私が大分大学教育福祉科学部(現在は教育学部)に勤めていた時に岡部恒治氏らの共編による『分数ができない大学生』という本が出版され、私も読んで驚愕したのですが、「いやいやそんなもんじゃないよ」と言われても仕方がないような話を目の当たりにするとは思ってもいなかったのでした。

 2022年度も2年生のクラスを担当しています(一体何年担当しているのか?)。昨年と同様に「採点していて、意味を理解していない、あるいは不等号そのものがわからない、と感じられる答案が多かったのでした」。

 意図的に、2021年度と同じ問題を出しました。ここで問題を再現しておきます。

 

 設問7 所得税法第28条第3項第2号に「収入金額が百八十万円を超え三百六十万円以下」という文言がある。この場合、180万円は含まれるか、含まれないか。

 設問8 設問7にあげた条文によると、360万円は含まれるか、含まれないか。

 設問9 設問7にあげた条文の「 」内の意味を等号や不等号を使った式で示しなさい。但し、収入金額をX(大文字、小文字を問わない)とすること。

 

 設問7の正答は「含まれない」です。「超え」と書かれているのであって「以上」とは書かれていないからです。

 設問8の正答は「含まれる」です。私は小学生時代に算数の授業で教わっていますが、「以下」と書かれていたら360万円を含むのであり、「未満」と書かれていたら360万円を含みません。

 ここまではよいのです。問題は設問9です。

 正答は次のとおりです。

 1,800,000<X≦3,600,000

 なお、算数または数学の表記としてはおかしいのですが、180万円<X≦360万円も正答としています。

 誤答で一番多かったのは、単純に180<X≦360と書いていたものです。これではXが180を超えて360以下の数字であるということになってしまいます。「万円」を省略したのであれば、そのことを断っておくべきです。

 この程度であればまだよいのですが、不等号の向きなどがおかしな答案が見受けられたのです。

 一番深刻であるのは、無回答、つまり空欄のままというものです。これも少なくなかったのでした。法学部の講義での小テストで算数または数学の問題が出されたので面食らったのか、それとも全くわからなかったのか。いずれにしても困ったものです。以上、以下、未満などという言葉は数字に関わるからです。それほど難しい話ではないので、理解していないということであれば、社会に出て仕事をすることができないかもしれません。

 以下、今回見られた誤答の例を示しておきます。

 ①1,800,000≦X<3,600,000(または180万円≦X<360万円)

 これは不等号の意味を理解していないか、「超え」、「以下」の意味を理解していないか、のいずれかです。

 ②180>X<360

 「万円」という言葉が抜けているという点も問題ですが、それ以上に不等号の向きが違うこと、「以下」の意味が表されていないことが問題です。この不等式ではXは180未満であって360未満であるということになり、あまり意味のないものになります。X<180で十分です。勿論、「収入金額が百八十万円を超え」という部分とは全く意味が異なり、180万円未満ということになります。

 ③X=180<360

 条文の意味を全く理解していないと思われても仕方がないでしょう。そもそも、Xは180であって360未満であるというのは当然のことです。条文は「百八十万円を超え」とあるのにX=180では意味が通じません。また、X<360ではXが360未満、つまり360を含まないということになります。「万円」が抜けている点も忘れてはなりません。

 ④180万<X≧360万

 よく見れば意味をなさない不等式であることは明白です。これを分解するとX>180万であり、かつX≧360万円ということですから、Xは180万円を超え、かつXは360万円以上であるということになります。それならX≧360万円だけで十分です。

 ⑤180<X=360

 これも無意味な式です。等号では「以下」の意味が出ません。この数式が意味するところは、Xは180より大きく360と等しいということですから、180<Xの意味がなくなります。

 ⑥360<X<180

 Xは360を超えて180未満であるということになります。このような数字があるのであれば御教示ください(私はこういう数字を知らないので)。

 ⑦180万円>X≦360万円

 これも条文の意味を理解していないものです。180万円>XはX<180万円ということですから、X≦360万円の意味が失われてしまいます。「収入金額が百八十万円を超え」という部分とは全く意味が異なることは言うまでもありません。

 ⑧X<360

 単純にXは360未満であるというだけのことです。180万円は何処へ行ったのでしょうか。この不等号では「以下」の意味がこめられないことは当然です。

 

 以前から、法律の条文に示されていることを図示する、一次方程式程度の簡単な数式で表現するという内容の問題を小テストで出しています。どちらも法律学に取り組む者に必要な事柄であると考えています。

 このブログにも何度か書きましたが、私の大学院時代の恩師、新井隆一先生は「法律学は言葉の学問である」とおっしゃっていました。大学院生時代以来、この言葉がいつも私の頭の中にあります。

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かつては田園都市線を走っていた東武30000系 31607F+31407F

2022年05月10日 00時30分00秒 | 写真

 性能などはともあれ、スタイルという点において、この30000系は東武鉄道の通勤型車両で最も優れていたような気もします。東急田園都市線および東京メトロ半蔵門線と東武伊勢崎線・日光線との直通運転が始まった時に、正直なところ東武からどのような電車が乗り入れてくるのかと心配していたものですから。

 ただ、この30000系には難点もありました。東武線内であれば6両編成と4両編成との連結でもよいかもしれませんが、東急田園都市線および東京メトロ半蔵門線の混雑状況に対応するためには、6両編成+4両編成ではなく、10両編成でなければならなかったのです。途中に乗務員室があるということは、その分だけ乗客のためのスペースがなくなるということでもあります。これが、東急田園都市線および東京メトロ半蔵門線から30000系が消えた理由の一つでしょう。

 この車両のデザインは10000系シリーズ(10030系など)の踏襲であり、小田急9000形などを参考にしたのではないかと思われます(余談ですが、東急8500系も、当初は小田急9000形のようなデザインとなる可能性があったようです)。

 また、30000系は東急車両や富士重工で製造されましたが、これらの会社で製造された車両としては最後のものとなりました。また、50000系シリーズ以降はアルミ車ですので、ステンレス車も30000系が最後となります。

 なお、東武の車両は●●系とする場合と▲▲型とする場合とがあり、どうやら30000系も本来であれば30000型であるらしいのですが、私は30000系と記しています。

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