既に平成30年度税制改正関連法律は国会で成立した上に公布されていますので、今更書いてどうするのかとも思うのですが、やはりおかしい部分があると思われます。
平成30年度与党税制改正大綱には、次のような文があります(3頁)。
「経済社会の著しい構造変化の中で、働き方が様々な面で多様化している。(中略)わが国の個人所得課税は、こうした多様な働き方の拡大を想定しているとは言い難い。様々な収入の中でも、給与収入と公的年金等収入のみに給与所得控除や公的年金等控除といった所得計算上の控除が認められ、働き方や収入の稼得方法により所得計算が大きく異なる仕組みとなっている。/様々な形で働く人をあまねく応援し、『働き方改革』を後押しする観点から、特定の収入にのみ適用される給与所得控除や公的年金等控除から、どのような所得にでも適用される基礎控除に、負担調整の比重を移していくことが必要である。」
そもそも、この前提に根本的な疑問があります。既に私はこのブログに「平成30年度税制改正に向けての二題」(2017年11月21日23時13分45秒付)「給与所得控除は『会社員にだけ恩恵がある』?? 馬鹿なことを書いている記事」(2017年12月29日0時0分0秒付)においても記しているのですが、給与所得控除および公的年金等控除と基礎控除は、性格がまるで異なるのに、平然と同じようなものとして扱っていると思われるのです。
この点については、このような場所で大変失礼であることは重々承知しておりますが、税理2018年3月号に掲載された藤曲武美氏の「所得税関係(1)〜所得税改革」から引用させていただきます。
「平成30年度改正においての大きな特徴は、『給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除へのシフト』である。大綱等においては、基礎控除の機能的側面である給与所得者以外の全ての人に影響するということは言われているが、そもそも基礎控除とは何か、給与所得控除とは何か、公的年金控除とは何かの基本的論議・考察との関係がほとんど行われていない。」(31頁)
「ただ所得区分に関係なく所得金額を減額するものであるという所得計算上の機能的・結果的効果のみから比較し、『シフトする』というのでは何の理屈もないといわざるを得ない。給与所得控除の有する給与所得者と他の種類の所得者との負担調整(いわゆるクロヨン問題など)についてどのように考えて、今改正を行ったかは全く素通りになってしまっている。」(31頁)
「給与所得控除の意義性格には、①概算経費控除、②資産性所得などに比した担税力の低さ、③所得把握率の高さ、④源泉徴収税額前取り調整があるといわれている。さらに、給与所得控除が課税最低限を構成していることとの関係も問題となる。」(32頁)
「所得再分配機能の強化についても、最も検討されるべきは、現状、どのような階層にどのような不均衡が生じているのかを明確にする必要がある。」(32頁)
全く同感です。
そもそも、給与所得者、年金所得者が多いから今回のような改正が行われたと言えるのですが、やはり、全く違うものであるのに同じ控除という言葉を用いることに問題があるのです。これでは意図的な混同を招くのも仕方のないところです。