ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

2017(平成29)年もあと少しとなりました

2017年12月31日 00時00分00秒 | 日記・エッセイ・コラム

 このところ年末年始と言えば、講義などはないものの仕事はあるということで、ありがたいと思っております。皆様にとりまして、いかなる年であったでしょうか。

 毎年一度も欠かさず見ているジルヴェスターコンサート(テレビ東京系)のカウントダウンは展覧会の絵のオーケストラ版です。さすがに全曲ではなく、「キエフの大門」など一部だそうです。楽しみにしていましょう。

 今でも忘れられないのは「ニュルンベルクのマイスタージンガー」序曲がカウントダウンに使われた時です。この時はカウントダウンの曲を投票で選ぶというものでしたが、私は時機を逸したのでした。でも、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が選ばれたので楽しく聴けました(ちなみに、YouTubeでも見られます)。

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再掲載:若さ(続編)

2017年12月30日 01時01分00秒 | 日記・エッセイ・コラム

(2008年9月20日付で、私のホームページに掲載した雑文を、ここに再び掲載いたします。)

 先日のことである。

 某所で様々な年代の人が集まる機会があった。ぼくもメンバーになっているから、その集まりに参加しなければならなかった。

 あれこれと話が進む。そのうち、メンバーのうちの誰かが近所の洋菓子屋へ行ってケーキの類を買ってきた。その日、30歳の誕生日を迎えた人がいたからである。

 その場にいた全員でケーキの類を食べ、誕生日を祝ったのであるが、ぼくには非常に気になることがあった。

 この人(どちらの性別であるかは忘れた)が「自分がもう30歳になってしまった」などと、驚きの中に失望が入ったような調子で語ったのである。

 それに続いて、先ほどとは別の性の人が「私もあと●●で30歳になるんですよ」と、それがあたかも自分にとってはショックであるかのように話した。●●の部分は、多分あと何ヶ月かとか何週間とか何日とかと言ったのだろうが、覚えていない。

 冗談か本気かは知らないが、冗談としても半分は本気であろうから、30歳になることがよほど何かの意味を持っていたのだろう。

 この二人の言葉が、ぼくには非常に気になったし、驚かされた。

 すぐ後に、ぼくはこう言いたかった。

 「おれが30歳になった時には、そんなことを考えている暇もなかったね。」

 本当に、講義の際に出す音量で口に出しそうになったが、言わなかった。雰囲気を壊したくはなかったからである。

 しかし、ぼくの口からもう少しで漏れ出しそうになった言葉は、ぼく自身の本当の気持ちである。反発も覚えたし、以前、「若さ」で記したことを瞬時に思い出した。

 よく考えてみると、たしかに、30歳になるということは、20代ではなくなるということである。20代から抜け出さざるをえなくなったことが、彼らにとってはよほどショックであるらしい。或る程度は悲しみもあるのだろうか。体感的には理解できないが、頭では理解できることである。

 でも、ぼくが見れば30歳なんて十分に若い。むしろ、これからが大事な時期である。30代になってたくさんのことを経験したりして、大きくなることができる。仕事にもよるが、30代は修行の時代であったり、飛躍の時代でもある。あるいは、20代が基礎的な能力をつける時期、30代が技量を発展させる時期ともいえるかもしれない。つい最近まで30代だったぼくは、その10年間にあれやこれやの事象に遭遇した。その意味では、大変ではあったが一番楽しい時期でもあった。

 いや、あるいは、とも考える。 もしかしたら、ぼくが鈍感なだけかもしれない。あるいは或る種のオブセッションに囚われているのかもしれない(それが何かはわかっているが、ここには記さない)が、そのオブセッションはぼくにとって必要なものでもある。

 10歳になったばかりの子どもが「もう10代になっちゃった」などと思うことはまずないと思うが、20歳になった人が「ああ、もう10代じゃなくなっちゃったよ」と思うことは、むしろ普通なのかもしれない。「若さ」で記した学生の件は、まさにこのパターンであろう。

 しかし、1年間浪人して大学に入り、1年生の時に20歳になったぼくには、20歳になったからと言って特別な感情などは一切浮かばなかった。せいぜい、「これでおれも選挙権を行使できるな」とか「これで、悪いことをやったらおれの名前が新聞やテレビなどに出ちゃうから気をつけないと」などと考えたくらいで、それも、誕生日から少し経ってからのことである。

 それから10年経ち、大分大学教育学部の講師2年目という生活を送っていて、30歳の誕生日を迎えた。それでも、特別なことは何もない。元々、友達を含めて他人から誕生日を祝ってもらうという習慣などが、ぼくにはない。その必要もない。経験はあるが、それは数回しかない。

 満30歳となった1998(平成10)年7月5日の日曜日も、いつものように、当時は既に第二の自宅と化していた研究室へ行って仕事などをしている。本当に、特別なことは何もない。講義の準備やら何やらという仕事をしなければならなかったし、読書をしたりインターネットをしたりで、あれやこれやの情報を仕入れたり考えたりしていた。また、その頃は、ぼくが担当していた学生が教育実習に行っていたし、後に「地方目的税の法的課題」という論文を作成するきっかけとなる研究会に参加することになっていた。もっと重要なことがあった。当時は教育学部の改組問題で大変な状況になっていた。周囲にあれこれのことがあった。

 ぼくが30歳になったという実感を持ったのは、およそ4ヶ月ほど後、或る人と川崎駅付近で酒を飲んだ時のことだった。日記にも、12月になってからそのように書いている。しかし、それが何か特別な意味を持っていたのかと自問しても、肯定の答えが見つからない。多分、ただそう感じたというだけであろう。日記を書いていた時点では別の印象が浮かんでいたのかもしれないが、とうの昔に忘れている。

 今もぼくは、毎日のようにあれこれと考え事をしていて、東急目黒線・都営三田線の電車の中では読書を欠かさないし、「今度はこんなことをやってみたい」などと思い続けている。しばらく中断しているDTMもやりたいし、マスターしてみたいこともある。そして、様々なことに挑戦してみたいと思っている。

 考え事ができなくなるくらい、ぼくにとってつらいことはない。だから、常に前進するしかない。そのためには「もう20代前半を卒業だよ」とか「もう40代になっちまったよ」などとは考えない。自分の能力や性格に照らして、やれることをやるしかない。

 いつものとおり、何のまとまりもない駄文のままに終わることとなることをお許し願いたい。

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給与所得控除は「会社員にだけ恩恵がある」?? 馬鹿なことを書いている記事 

2017年12月29日 00時00分00秒 | 国際・政治

 切り抜いた記事の整理などを兼ねて、改めて日本経済新聞2017年11月22日(水)付朝刊4面13版に掲載された「自民税調、本格議論始動へ 官邸との調整に軸足 所得税や法人税改革 焦点」という記事を読んでみました。

 その中に「会社員にだけ恩恵がある『給与所得控除』の高額所得者の控除引き下げ」というフレーズがあります。

 読んだ瞬間に「何を馬鹿なことを書いているのだ?」、「日経でこれかよ」という気分になりました。もっとも、すぐ後に「所詮はこの程度なんだろうな」と思いました。

 敢えて、タイトルにも本文にも「馬鹿なこと」と記したのは、次に挙げる理由によります。

 第一に、給与所得控除は会社員にだけ適用されるものではありません。公務員にも適用されます。給与、給料、俸給など(名称は問いません)をもらっている者であれば適用されるのです。所得税法第28条第1項において「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう」と定義されている通りです。

 第二に、このブログでも何度か書いていますが、相も変わらず給与所得控除を何か特別措置のようなものであるかのように扱っていることです。しかも、日経記事のこの「恩恵」という表現は、朝日新聞の「減税措置」(「平成30年度税制改正に向けての二題」も参照)と同じような意味にしてそれよりもさらに悪い表現です(記事を書かれた方は給与所得者でないのかもしれません)。「流石だ」という気もしますが、大日本帝国憲法時代の人権の扱いを語る場ではないのです。それに、「恩恵」というのであれば、租税特別措置法や地方税法附則などに定められる多くの減免措置のほうが「恩恵」という表現に相応しいでしょう(その「恩恵」に最も与ることができない存在が給与所得者です)。相も変わらず新聞でも地下鉄の広告でも喧伝されている「ふるさと納税」は「恩恵」以外の何物でもありません。まさにこれこそ「恩恵」に相応しいものです。どうせのことであれば、日本の地方公共団体は「ふるさと納税」をもっと宣伝してタックスヘイブンのような存在を目指したらいかがでしょうか。

 所得の基本形を知っていれば、給与所得控除が給与所得者にとっての必要経費そのもの、とまでは言えないとしても必要経費の代用品のようなものであることくらい、すぐにわかりそうなものです。具体的なものを示すのが困難であるとは言え、給与所得者でも、給与収入を得るために必要な出費(経費)があるということは、観念的にではあれ指摘できるはずです。

 所得税法に定められる10種類の所得には、純粋に必要経費が認められないものがあります。利子所得です。これは収入=所得となっています。また、配当所得も同様です。但し、必要経費の代わりと言いうるかどうかは疑問ですが負債の利子を収入から控除することが認められます。

 必要経費とは言い難いが収入を得るために必要な支出もあります。例えば譲渡所得の場合、資産の譲渡による収入から、その資産を取得するために支出した費用(取得費)および譲渡に要した費用(譲渡費としておきます)の合計額を控除し、さらに特別控除額を控除します(所得税法第33条第3項)。このうち、特別控除額は「恩恵」に近いものですが、取得費および譲渡費は必要経費に相当するものです。これに近いのが一時所得です(同第34条第1項および第2項を参照してください)。取得費および譲渡費を「減税措置」だの「恩恵」だのと理解する人はいないでしょう。

 新聞記事にはわかりやすさが求められることくらい、こちらにもわかります。しかし、だからといって給与所得控除を「恩恵」などとするのは正確さを欠くこと甚だしいのです。むしろ、ただ給与所得控除と記して余計な説明を加えないほうがはるかによいでしょう。

 そもそも、給与所得控除という名称がよくありません。これでは所得控除(同第72条以下)とどう違うのかと思われてしまいます。講義の際に私が何度も「給与所得控除は所得控除ではない」、「給与所得控除と所得控除は違う」と説明せざるをえないので、より適切な名称はないかと考えています。

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おしらせです(2017年12月28日)

2017年12月28日 17時16分35秒 | 本と雑誌

 管理人の権限を利用して、おしらせです。

 ぎょうせいから、日本財政法学会編『地方財務判例質疑応答集』(加除式)が刊行されました(https://shop.gyosei.jp/products/detail/9558)。

 私も担当させていただきました。

 加除式である故に特殊で、一般の書店や図書館では購入または参照が難しいかもしれませんが、御一読を賜れば幸いです。

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行政法1A・行政法1B(大東文化大学)、行政法1(国学院大学)で扱った判決(13)

2017年12月28日 08時00分00秒 | 法律学

 今回は、情報公開に関する判決です。これで終了となります。

 

 ●最一小判平成6年1月27日民集48巻1号53頁(大阪府知事交際費公開請求訴訟)

 事案:大阪府の住民等であるXらは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和60年1月から3月までの大阪府知事の交際費に関係する文書の公開を請求した。これに対し、知事Yは一部を公開したが、債権者の請求書および領収書、歳出額現金出納簿、支出証明書について、同条例第8条第1号・第4号・第5号、第9条第1号に該当するとして非公開とした。大阪地判平成元年2月14日判時1309号3頁はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高判平成2年10月31日行集41巻10号1765頁は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所第一小法廷は破棄差戻判決を下した。

 判旨:

 (1)「知事の交際費は、都道府県における行政の円滑な運営を図るため、関係者との懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費である。このような知事の交際は、懇談については本件条例八条四号の企画調整等事務又は同条五号の交渉等事務に、その余の慶弔等については同号の交渉等事務にそれぞれ該当すると解されるから、これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否かは、これらの情報を公にすることにより、当該若しくは同種の交渉等事務としての交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か、又は当該若しくは同種の企画調整等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ適正に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定されることになる。」

 (2)「知事の交際事務には、懇談、慶弔、見舞い、賛助、協賛、餞別などのように様々なものがあると考えられるが、いずれにしても、これらは、相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的して行われるものである。そして、相手方の氏名等の公表、披露が当然予定されているような場合等は別として、相手方を識別し得るような前記文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば、懇談については、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、今後府の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ、また、一般に、交際費の支出の要否、内容等は、府の相手方とのかかわり等をしん酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから、不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに、これらの交際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事例ごとに、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には、知事においても前記のような事態が生ずることを懸念して、必要な交際費の支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって、本件文書のうち交際の相手方が識別され得るものは、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の氏名等を公表することによって前記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き、懇談に係る文書については本件条例八条四号又は五号により、その余の慶弔等に係る文書については同条五号により、公開しないことができる文書に該当するというべきである。」

 (3)「本件における知事の交際は、それが知事の職務としてされるものであっても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。本件条例9条1号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが、知事の交際の相手方となった私人としては、懇談の場合であると、慶弔等の場合であるとを問わず、その具体的な費用、金額等までは一般に他人に知られたくないと望むものであり、そのことは正当であると認められる。そうすると、このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表、披露されることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきである」。

 

 ●最三小判平成6年2月8日民集48巻2号255頁(大阪府水道部文書公開請求訴訟または大阪府食糧費情報公開訴訟)

 事案:大阪府の住民であるXは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和59年12月に行われた大阪府水道部の会議接待費および懇談会費についての公文書の公開を請求した。これに対し、Yは、この請求に対応する文書を支出伝票、債権者の請求書および経費支出伺と特定した上で、同条例第8条第1号・第4号・第5号に該当するとして非公開とした。Xは異議申立てを行ったがYは棄却の決定を行った。このため、Xが出訴した。大阪地裁平成元年4月11日判例タイムズ705号129頁はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高判平成2年5月17日判時1355号8頁は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所第三小法廷は、Yの上告を棄却した。

 判旨:

 (1)「本件文書には飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件文書の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない」。

 (2)「本件文書に記録されている情報は、府水道部の懇談会等に関するものであるが、このような懇談会等の形式による事務は、前記のとおり、単なる儀礼的なものではなく、すべて府水道部の事務ないし事業の遂行のためにされたものであって、その内容いかんにより、4号の企画調整等事務ないし5号の交渉等事務に該当する可能性があることは十分考えられる。しかし、右情報は、前記のとおり、懇談会等の開催場所、開催日、人数等のいわば外形的事実に関するものであり、しかも、そこには懇談の相手方の氏名は含まれていないのがほとんどである。このような会合の外形的事実に関する情報からは、通常、当該懇談会等の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等の内容が明らかになるものではなく、この情報が公開されることにより、直ちに、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは断じ難い」。本件懇談会等に関する文書を公開することにより、大阪府公文書公開等条例8条4号・5号にいう事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるというためには、「上告人の側で、当該懇談会等が企画調整等事務又は交渉等事務に当たり、しかも、それが事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書に記録された情報について、その記録内容自体から、あるいは他の関連情報と照合することにより、懇談会等の相手方等が了知される可能性があることを主張、立証する必要があるのであって、上告人において、右に示した各点についての判断を可能とする程度に具体的な事実を主張、立証しない限り、本件文書の公開による前記のようなおそれがあると断ずることはできない」。

 

 ●最二小判平成6年3月25日判時1512号22頁(京都府鴨川ダムサイト情報公開訴訟)

 事案:京都府知事Yは、鴨川の河川管理者であり、鴨川の改修計画について幅広く意見を聴くために鴨川河川協議会を設置した。この協議会においてダムサイト候補地点選定位置図(以下、本件文書)が提出された。そして、協議会が終了した後、ダム構想の存在と先の位置図が提出されたことが記者会見で発表された。これを知ったXは、京都府情報公開条例に基づいて本件文書の公開を請求したが、Yは、これが条例第5条第6号に規定される意思形成過程情報に該当するとして非公開の決定をした。なお、本件文書は初期の段階の資料であり、地質などの自然要件や用地確保の可能性などといった社会的条件については全く考慮されていなかった。

 京都地判平成3年3月27日判タ775号85頁は、Yの処分を違法とした。これに対し、大阪高判平成5年3月23日判タ828号179頁は、Yの処分が相当であるとしてXの請求を棄却した。この判決は、理由として、本件文書が「ダム構想が構想として成立し得るかどうかの検討資料とするため、京都府土木建築部河川課(協議会の庶務を処理する部課)が鴨川流域において貯水が可能な地形を25000分の1の地形図から読み取り、それを流域図に示したものにすぎず、ダムサイト候補地選定の重要な要素となる地質・環境等の自然条件や用地確保の可能性等の社会的条件についての考慮を全く払うことなく、作られたものである」こと、前記記者会見の後に「協議会委員に対し、ダム建設について、交渉を申入れる団体や面談を強要する者があり、また、協議会委員宅に無言電話があり、また、電話で種々強い調子で申し入れをする者が現れ、委員の中には、その職を辞任したい意向を示す者がいた」ことなどをあげ、本件文書を「いわば協議会の意思形成過程における未成熟な情報であり、公開することにより、府民に無用の誤解や混乱を招き、協議会の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるものといえる」と判断している。

 判旨:最高裁判所第二小法廷は、大阪高等裁判所の判断を正当として是認し、京都府情報公開条例第5条第6号が憲法第21条などに違反するというXの主張を退けた。

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東急田園都市線の新車2020系(2121F)

2017年12月28日 00時00分00秒 | 写真

 

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行政法1A・行政法1B(大東文化大学)、行政法1(国学院大学)で扱った判決(12)

2017年12月27日 00時00分00秒 | 法律学

 今回は、最初の一件が行政罰に関する判決、他は行政手続(法)に関する判決です。再掲載のものもあります。

 

 ●最二小判昭和39年6月5日刑集18巻5号189頁

 事案:この事件の被告人らは、別の裁判で住居侵入等被告事件の証人として出廷し、宣誓を行ったが、裁判官からの尋問に対し、正当な理由がないのに証言を拒んだ。そのため、被告人らは刑事訴訟法第160条による過料に処された。その後、同第161条違反として起訴された。第一審は被告人らに免訴を言い渡したが、第二審は第一審判決を破棄し、事件を差し戻す判決を下した。そのため、被告人らが上告したが、最高裁判所第二小法廷は上告を棄却した。

 判旨:刑事訴訟法第160条は「訴訟手続上の秩序を維持するために秩序違反行為に対して(中略)科せられる秩序罰としての過料を規定したものであり」、同第161条は「刑事司法に協力しない行為に対して通常の刑事訴訟手続により科せられる刑罰としての罰金、拘留を規定したものであって、両者は目的、要件及び実現の手続を異にし、必ずしも二者択一の関係にあるものではなく併科を妨げないと解すべきであ」る。これらの規定は憲法第31条および第39条後段に違反しない。

 

 ●最一小判昭和46年10月28日民集25巻7号1037頁(個人タクシー事件)

 事案:Xは新規の個人タクシー営業免許を申請した。陸運局長Yはこれを受理し、聴聞を行ったが、道路運送法第6条に規定された要件に該当しないとして申請を却下する処分を行った。Xは、聴聞において自己の主張と証拠を十分に提出する機会を与えられなかったなどとして出訴した。東京地判昭和38年9月18日行集14巻9号1666頁はXの請求を認め、東京高判昭和40年9月16日行集16巻9号1585頁も原告の請求を認めた。最高裁判所第一小法廷も原告の請求を認め、本件の審査手続に瑕疵があったとしてYの申請却下処分を違法と判断した。

 判旨:「本件におけるように、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもつともと認められるような不公正な手続をとつてはならないものと解せられる」。道路運送法第6条は「抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。免許の申請人はこのような公正な手続によつて免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によつて免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである」。

 ●最一小判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁(群馬中央バス事件)

 事案:X(バス会社)は営業路線の延長を求めて免許を申請した。東京陸運局長は聴聞を行い、運輸審議会に諮問した。同審議会も公聴会を開き、原告や利害関係人などの意見を聴取して、Xの申請を却下すべしとする答申を陸運局長に対して行った。これを受け、陸運局長は却下処分をした。これに対し、Xは訴願を提起せずに直ちに出訴した。東京地判昭和38年12月25日行集14巻12号2255頁はXの請求を認めたが、東京高判昭和42年7月25日行集18巻7号1014頁はXの請求を棄却している。最高裁判所第一小法廷もXの上告を棄却した。

 判旨:「一般に、行政庁が行政処分をするにあたつて、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保することを法が所期しているためであると考えられるから、かかる場合における諮問機関に対する諮問の経由は、極めて重大な意義を有するものというべく、したがつて、行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。そして、この理は、運輸大臣による一般乗合旅客自動車運送事業の免許の許否についての運輸審議会への諮問の場合にも、当然に妥当する」。

 

 ●最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁(成田新法事件)

 事案:新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(いわゆる成田新法。現在は成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法)の第3条第1項に定められた工作物使用禁止命令の合憲性が問われたものである。この規定には、命令の相手方に対する告知、弁解、防御の機会を与えるという趣旨が盛り込まれていない。Y(運輸大臣)は、毎年、Xに対し、空港の規制区域内所在のX所有の小屋につき、暴力主義的破壊活動者の集合や活動などへの供用を禁止する処分を繰り返した。Xは処分の取消および国家賠償を求めて出訴したが、千葉地判昭和59年2月3日訟月30巻7号1208頁は、取消請求については却下し、国家賠償については棄却した。東京高判昭和60年10月23日民集46巻5号483頁は、千葉地方裁判所判決の一部を変更したものの、やはりXの請求を一部却下し、一部棄却した。最高裁判所大法廷も、Xの請求を一部却下し、一部棄却した。

 判旨:「憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」が、「同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である」。

 園部裁判官の意見:一般的に不利益処分については原則として法律に弁明や聴聞など適正な事前手続の規定を置くことが必要であるものの、具体的な規定の仕方については立法裁量に委ねられる、という趣旨を述べている。

 可部恒雄裁判官の意見:憲法第31条説によりつつ、本件の場合については財産権に対する重大な制限に該当するかが疑問であるとして、合憲という判断を示している。

 〔なお、この最高裁大法廷判決の多数意見と同じ趣旨を述べるものとして、最一小判平成4年10月29日民集46巻7号1174頁(伊方原子力発電所訴訟)、最三小判平成5年3月16日民集47巻5号3483頁(家永第一次教科書訴訟)などがある。〕

 

 ●最三小判昭和47年12月5日民集26巻10号1795頁

 事案:法人Xは法人税について青色申告の承認を受けていたが、事件当時は解散しており、清算手続をしていた。Xが確定申告をしたところ、Y税務署長は増額更正処分(本件更正処分)を行った。しかし、その通知書には理由が書かれているとはいえ、金額が記載されているにすぎなかった。これを不服としたXは、国税局長への審査請求を経て出訴した。Yは、更正処分の理由が審査請求に対する裁決書において明確にされたと主張したが、大分地判昭和42年3月29日行集19巻1・2号320頁はXの請求を認めて本件更正処分を取り消した。福岡高判昭和43年2月28日行集19巻1・2号317頁はYの控訴を棄却し、最高裁判所第三小法廷もYの上告を棄却した。

 判旨:

 (1)本件更正処分に付記された理由から「更正理由を理解することはとうてい不可能であり、その記載をもってしては、更正にかかる金額がいかにして算出されたのか、それがなにゆえに被上告会社の課税所得とされるのか等の具体的根拠を知るに由ないものといわざるをえない」ので、「処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的として更正に附記理由の記載を命じた前記法人税法の規定の趣旨にかんがみ、本件更正の附記理由には不備の違法があるものというべきである」。

 (2)「処分庁と異なる機関の行為により附記理由不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。そして、更正が附記理由不備のゆえに訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限によりあらたな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから、審査裁決に理由が附記されたからといって、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない」から、「更正における附記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではないと解すべきである」。

 

 ●最三小判昭和60年1月22日民集39巻1号1頁

 事案:Xは、Y(外務大臣)に対してサウジアラビアを渡航先とする一般旅券の発給を申請した。Yは拒否処分を行ったが、その際、「旅券法13条1項5号に該当する」という理由を付した。Xはこの処分の取消と国家賠償を請求して訴訟を提起し、拒否処分に付された理由が単に根拠条文をあげているだけで具体的な理由が何も記されていないことが違法である、などと主張した。大阪地判昭和55年9月9日行集33巻1・2号229頁はXの請求を認容して拒否処分を取り消した。Yが控訴し、大阪高判昭和57年2月25日行集33巻1・2号217頁は大阪地裁判決を取り消してXの請求を棄却した。Xが上告し、最高裁判所第三小法廷は大阪高裁判決を破棄してYの控訴を棄却した。

 判旨:

 (1)「外国旅行の自由は憲法22条2項の保障するところであるが、その自由は公共の福祉のために合理的な制限に服するものであり、旅券発給の制限を定めた旅券法13条1項5号の規定が、外国旅行の自由に対し公共の福祉のために合理的な制限を定めたものであつて、憲法22条2項に違反しない」(最大判昭和33年9月10日民集12巻13号1969頁を参照)。

 (2)「一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」(最二小判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁を参照)。

 (3)「旅券法が(中略)一般旅券発給拒否通知書に拒否の理由を付記すべきものとしているのは、一般旅券の発給を拒否すれば、憲法22条2項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、拒否事由の有無についての外務大臣の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによつて、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによつて当該規定の適用の基礎となつた事実関係をも当然知りうるような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として十分でないといわなければならない。この見地に立つて旅券法13条1項5号をみるに、同号は『前各号に掲げる者を除く外、外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者』という概括的、抽象的な規定であるため、一般旅券発給拒否通知書に同号に該当する旨付記されただけでは、申請者において発給拒否の基因となつた事実関係をその記載自体から知ることはできないといわざるをえない。したがつて、外務大臣において旅券法13条1項5号の規定を根拠に一般旅券の発給を拒否する場合には、申請者に対する通知書に同号に該当すると付記するのみでは足りず、いかなる事実関係を認定して申請者が同号に該当すると判断したかを具体的に記載することを要すると解するのが相当である」。

 

 ●最一小判平成4年12月10日判時1453頁116頁

 事案:Xは、東京都公文書の開示等に関する条例に基づき、警視庁から東京都に提出された文書(個人情報実態調査に関するもの)の開示を請求した。これに対し、東京都知事は、この文書が同条例第9条第8号に該当するものとして非開示とする決定を行った(その際、理由として「本条例9条8号に該当」と記載されていたのみであった)。Xは非開示決定の取消を求めて出訴した。

 東京地判平成3年3月1日行集42巻3号371頁はXの請求を棄却したが、東京高判行集42巻11・12号1806頁は東京地裁判決を取り消し、非開示決定を取り消した。東京都知事が上告したが、最高裁判所第一小法廷は上告を棄却した。

 判旨:

 (1)「一般に、法令が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」(前掲最二小判昭和38年5月31日を参照)。

 (2)「本条例が右のように公文書の非開示決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは、同条例に基づく公文書の開示請求制度が、都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的とするものであって、実施機関においては、公文書の開示を請求する都民の権利を十分に尊重すべきものとされていること(本条例1条、3条参照)にかんがみ、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してそのし意を抑制するとともに、非開示の理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、公文書の非開示決定通知書に付記すべき理由としては、開示請求者において、本条例九条各号所定の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、本条例7条4項の要求する理由付記としては十分ではないといわなければならない」。

 (3)「公文書の開示の請求は、開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事項を記載した請求書を提出してしなければならないとされている(本条例6条3号)ので、当該公文書の非開示理由として本条例九条八号に該当する旨の記載のみによって、開示請求者において、当該公文書の種類、性質あるいは開示請求書の記載に照らし、非開示理由が同号所定のどの事由に該当するのかをその根拠とともに了知し得る場合があり得るとしても、同号に該当する旨の記載だけでは、開示請求者において、非開示理由がいかなる根拠により同号所定のどの事由に該当するのかを知り得ないのが通例であると考えられる。これを本件についてみるに、被上告人によって前示のとおり特定された本件文書の種類、性質等を考慮しても、本件付記理由によっては、いかなる根拠により同号所定の非開示事由のどれに該当するとして本件非開示決定がされたのかを、被上告人において知ることができないものといわざるを得ない。そうであるとすれば、単に『東京都公文書の開示等に関する条例第9条第8号に該当』と付記されたにすぎない本件非開示決定の通知書は、本条例七条四項の定める理由付記の要件を欠くものというほかはない」。

 (4)「公文書の非開示決定通知書に理由付記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることからすれば、これに記載することを要する非開示理由の程度は、相手方の知、不知にかかわりがないものというべきである」(最一小判昭和49年4月25日民集28巻3号405頁を参照)。「また、本件において、後日、実施機関の補助職員によって、被上告人に対し口頭で非開示理由の説明がされたとしても、それによって、付記理由不備の瑕疵が治癒されたものということはできない」。

 

 ●最三小判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁

 事案:原告X1は一級建築士としてX2社に勤務していたが、建築基準法に定められた基準に適合しない建築物が設計され、建築されたなどとして、国土交通省北海道開発局長による聴聞手続(建築士法第10条第1項による懲戒処分のための)を受けた。その結果、X1は、国土交通大臣より建築士法第10条第1項第2号・第3号に該当するとして一級建築士免許取消処分を行った。本件の争点はいくつか存在するが、その一つが理由不備の違法であり、X1は、国土交通大臣が該当する懲戒事由および処分ランクを理由として付記すべき義務があるのに、本件においては処分ランクが告知されなかったことが理由不備の違法であると主張した。札幌地判平成20年2月29日民集65巻4号2119頁はX1の請求を棄却し、札幌高判平成20年11月13日民集65巻4号2138頁もX1の控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷は、札幌高裁判決を破棄し、X1に対してなされた一級建築士免許取消処分を取り消した〔一裁判官の反対意見(一裁判官が同意)、一裁判官の補足意見がある〕。

  判旨:

 (1)「行政手続法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである」。

 (2)「建築士に対する上記懲戒処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例であると考えられる。(中略)本件免許取消処分は上告人X1の一級建築士としての資格を直接にはく奪する重大な不利益処分であるところ、その処分の理由として、上告人X1が、札幌市内の複数の土地を敷地とする建築物の設計者として、建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させ、又は構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったという処分の原因となる事実と、建築士法10条1項2号及び3号という処分の根拠法条とが示されているのみで、本件処分基準の適用関係が全く示されておらず、その複雑な基準の下では、上告人X1において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は相応に知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知ることはできないものといわざるを得ない。このような本件の事情の下においては、行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分でないといわなければならず、本件免許取消処分は、同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるというべきであって、取消しを免れないものというべきである」。

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行政法1A・行政法1B(大東文化大学)、行政法1(国学院大学)で扱った判決(11)

2017年12月26日 00時01分00秒 | 法律学

 今回は、行政上の義務履行確保に関する判決です。

 

 ●最大判昭和41年2月23日民集20巻2号320頁

 事案:原告Xは農業共済組合連合会であり、A市農業共済組合を構成員とする。そしてA市農業共済組合は組合員Yらを構成員としている。XはAに対して保険料や賦課金の債権を有し、AはYに対して共済掛金、賦課金、拠出金の債権を有している。Aの債権については行政上の強制徴収が認められている。しかし、農業災害補償法により、YらとAの共済関係は同時にAとXの保険関係を成立させることとされており、仮にYらがAに納付すべき共済掛金などに延滞があれば、AはXに対して保険金などを支払うことができなかった。そこで、XはAの債権を保全するため、Aに代位して共済掛金などの支払いを求める民事訴訟を提起した(民法第423条に基づく債権者代位権の行使)。第一審、第二審ともXの請求を棄却した。最高裁判所大法廷は、次のように述べてXの上告を棄却した。

 判旨:農業共済組合が組合員に対して有する債権について農業災害補償法第87条の2が特別の扱いを認めるのは、「農業災害に関する共済事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保するためには、農業共済組合が強制加入制のもとにこれに加入する多数の組合員から収納するこれらの金円につき、租税に準ずる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが、もっとも適切かつ妥当であるとしたから」である。このような行政上の強制執行手続が設けられている以上、民事訴訟上の手段によって債権の実現を図ることは立法の趣旨に反し、公共性の強い事業に関する権能行使の適正を欠く。「元来、農業共済組合自体が有しない権能を農業共済組合連合会が代位行使することは許されない」。

 

●最三小判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁(Ⅰ―115)

 事案:宝塚市は「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」を制定し、施行していた。Yは宝塚市内でパチンコ屋を営業することを計画し、宝塚市長に建築の同意を申請したが、市長は同意を拒否した。Yは同市建築主事に建築確認の申請を行ったが、市長の同意書がないことを理由に申請を受理しなかった。そこでYは、不受理処分の取消しを求めて同市の建築審査会に審査請求を行い、請求を認容する裁決を受けて工事を開始した。市長は同条例第8条に基づき、建築中止命令を発したが、Yが建設を続行しようとしたため、同市は建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。神戸地判平成9年4月28日行集48巻4号293頁は、大阪高判平成10年6月2日判時1668号37頁も控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷は、破棄自判の上、宝塚市の訴えを却下した。

 判旨:「行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう『法律上の争訟』、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる」〔最三小判昭和56年4月7日民集35巻3号443頁(「板まんだら」事件最高裁判決)を参照〕。「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される」。

 

 ●最一小判昭和56年7月16日民集35巻5号930頁

 事案:豊中市内に賃貸用共同住宅を所有するXは、増築工事を行い、豊中市の建築主事に対して建築確認の申請をした。この増築部分は建築基準法に適合しなかったので建築確認が得られなかったが、Xはそのまま同市水道局に給水装置新設工事の申込みをした。水道局は、建築基準法違反の是正を行い、建築確認を受けた後に申し込むよう勧告し(給水制限実施要綱に基づいていた)、受理を拒否した。1年半ほど後になり、Xは給水装置工事の申込みをした。これは受理され、工事が完成した。Xは、最初の申請の受理を拒否したことが水道法第15条第1項に違反するとして損害賠償を請求した。

 大阪地判昭和52年7月15日民集35巻5号935頁は、最初の申請の受理が違法であるとしつつも請求を棄却し、大阪高判昭和53年9月26日民集35巻5号940頁は、最初の申請の受理を拒否したことが行政指導の限界を超えているとは言えず、水道法第15条第1項に違反することが不法行為法上の違法と評価することはできないとして控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷も上告を棄却した。

 判旨:「被上告人市の水道局給水課長が上告人の本件建物についての給水装置新設工事申込の受理を事実上拒絶し、申込書を返戻した措置は、右申込の受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく、上告人に対し、右建物につき存する建築基準法違反の状態を是正して建築確認を受けたうえ申込をするよう一応の勧告をしたものにすぎないと認められるところ、これに対し上告人は、その後一年半余を経過したのち改めて右工事の申込をして受理されるまでの間右工事申込に関してなんらの措置を講じないままこれを放置していたのであるから、右の事実関係の下においては、前記被上告人市の水道局給水課長の当初の措置のみによつては、未だ、被上告人市の職員が上告人の給水装置工事申込の受理を違法に拒否したものとして、被上告人市において上告人に対し不法行為法上の損害賠償の責任を負うものとするには当たらないと解するのが相当である。」

 

 ●最三小判平成10年10月13日判時1662号83頁

 独占禁止法第7条の2第1項に規定される課徴金が刑事罰(罰金など)と併科されうることについて、憲法第39条に違反しないと判断した。

 

 ●最大判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁

 当時の追徴税(現在の加算税)と刑罰の併科が憲法第39条に違反しないとした。理由として、刑罰としての罰金は「脱税者の反社会性や反道徳性に着目して制裁として科されるものである」こと、これに対して追徴税は「申告納税の実を挙げるために、本来の租税に附加して租税の形式により附加せられるものであ」り、「納税義務違反の発生を防止し、以って納税の実を挙げんとする趣旨に出でた行政上の措置であ」ることをあげている。

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東武日光線栃木駅にて

2017年12月26日 00時00分00秒 | 写真

 

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地方税の入門書として

2017年12月25日 22時34分33秒 | 本と雑誌

 日本経済新聞朝刊の広告で知り、12月22日に青葉台で買ってきました。

 山形富夫『税務の基礎からエッセンスまで 主要地方税ハンドブック』(2017年12月、清文社)

 国税と異なり、地方税については入門書などがあまりありません。その意味でもおすすめです。

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