この講義ノートにおいて用いる「地方財政権」という語は、北野弘久博士、碓井光明教授などが用いる「自治体財政権」と同じ意味である。また、私が今回の講義で用いる「地方税財政法」は、碓井教授のいう「自治体財政・財務法」と同義と考えてよい。
碓井光明『要説自治体財政・財務法』〔改訂版〕(1999年、学陽書房)3頁は、「自治体財政法」を「自治体の財政権力に関する法や、国・他の自治体との財政関係を規律する法の色彩が強」いもの、「自治体財務法」を「内部的な財政事務の統制ないし財政管理に関する法、すなわち、財政管理法(本書においては、この意味に用いることとする)という色彩が比較的強い」ものとして位置づけている。
ここで、まずは地方税財政法について、さらに詳しくみていくこととする。
既に、第1部において財政および財政法の定義を示した。念のため、ここに再現しておく。
財政:国または地方公共団体が、その存在目的、およびそれを実現する任務を果たすため、必要な財力を調達し、維持・管理し、使用する作用のことである。
形式的意義における財政法:財政法という名称の法律のことである。
実質的意義における財政法:国または地方公共団体が必要な財力を調達するための法、財力を維持・管理するための法、財力を使用するための法、これらの総体である。
従って、地方財政という場合には、上の定義から国を除けばよいことになる。そして、地方財政法という場合、それらの意義は、一応、次のようになる。
形式的意義における地方財政法:地方財政法という名称の法律のことである。
実質的意義における地方財政法:地方公共団体が必要な財力を調達するための法、財力を維持・管理するための法、財力を使用するための法、これらの総体である。なお、この講義においては、実質的意義における地方財政法を地方税財政法と表現している。
碓井・前掲書6頁は「憲法92条及び94条から自治体財政権を抽出するならば、自治体財政権とは、自治体が、その事務処理に必要な経費に充てるために必要な財源を調達し管理する権能であるということができる」としている。
但し、地方税財政法の場合、一の地方公共団体自体で完結するものではなく、国との関係などが含まれる。しかし、それを念頭に置くとしても、地方税財政法の定義は、上記のままでよいと思われる。
それでは、地方税財政法の構造には、いかなる特徴があるのであろうか。碓井教授は「複合的構造」として、次の3点をあげている〈以下の記述を含めて、碓井・前掲書8頁による〉。
まず、地方税財政法のうちの財務管理に関する法は、主として地方公共団体の内部法としての性格を有し、形式的経理手続法とも言われる。主に行政組織法の一部として扱われることになるのであるが、時には外部法としての性格、さらに住民訴訟制度を通じて裁判規範としての性格を有することもある。むしろ、昨今においては裁判規範としての性格の度合いが高まっている、と考えてよい。
次に、地方税財政法には、財政権力法というべきものが存在する。地方税法が代表的な存在である。地方税は一種の法定債務であり、法律および条例によって地方公共団体の債権および住民の債務が創造されることとなる。また、地方税の賦課徴収に権力的な側面が多いことは否定できない。しかも、地方税の場合は普通徴収方式(国税で言えば賦課徴収方式)によることが多く、申告制度によることが多い国税の場合よりも権力性が高いとも言える。但し、住民との関係が常に権力性を有する訳ではないという点には、注意を要する。
そして、地方税財政法には、国または他の地方公共団体との関係を規律する法が存在する。これも行政組織法の一種と捉えることが可能であるが、地方自治法第2条第1項によって地方公共団体は法人とされており、国または他の地方公共団体との関係は行政主体間の関係であるから、行政組織法とは言っても単なる内部法ではありえない※。碓井教授の表現を借りるならば「行政主体間関係法」または「政府間関係法」ということになる。この講義ノートにおいては、行政主体間財政関係法と銘うつこととしておく。形式的な意味における地方財政法、地方交付税法などが、この種の法の代表である。もっとも、地方税法などにも、この種の性格がみられることがある。
※但し、碓井・前掲書9頁も指摘するように、この種の地方税財政法は、国も地方公共団体も行政機能を分担するがために狭義の法規としての性質を有しない、とする見解がある。この場合には、仮に地方公共団体と国との争訟が発生するとしても機関争訟としか位置づけられないこととなる。
後に述べるように、行政主体間財政関係法は、とくに国との関係という側面に注目するならば、地方公共団体の財源を保障する機能と、その逆の機能とが同居するというものである。また、財政調整(Finanzausgleich / Fiscal Equalization System)の観点で記すならば、国と普通地方公共団体との税財政関係を規律する場合は垂直的財政調整が問題となり、普通地方公共団体同士の税財政関係を規律する場合は垂直的財政調整と水平的財政調整とが存在しうることとなる。
本来、地方自治法第2条に示されているように、都道府県と市町村とは同格である。しかし、多くの場合において、同格ではなく、都道府県のほうが上に位置づけられることもある。このような場合には、都道府県と市町村との関係は垂直的な関係にある。他方、都道府県相互、または市町村相互の関係は水平的な関係である。
ここで、地方税財政法とされる法律のうち、基本的なものをあげておく。
①日本国憲法
当然のことながら、地方自治制度の大原則は日本国憲法に示されている。とくに、第92条および第94条は、地方税財政法に一貫すべき大原則を定めるのであり、地方財政権の根拠もこれらの条文に求められる。
②地方自治法
日本国憲法を踏まえつつ、地方自治法が、地方自治に関する基本法として、地方自治制度の大枠を定めている。この中には、予算・決算、地方税や分担金などの収入に関する規定、支出に関する規定、財産の管理や処分に関する規定などが含まれている。その意味において、地方自治法は地方税財政法の基本法でもある。但し、地方自治法が地方税財政法の全領域を細かく規定する訳ではなく、この他の法律、政令、条例などに規律を委任している場合も多い。
③地方財政法
地方自治法第243条の4は、「普通地方公共団体の財政の運営、普通地方公共団体の財政と国の財政との関係等に関する基本原則については、この法律に定めるもののほか、別に法律でこれを定める」と規定する。これを受ける形で地方財政法が存在する。同第1条に示されているように、地方財政の運営という、普通地方公共団体内部の事柄、そして「国の財政と地方財政との関係」などに関する基本原則を定めるものである。その意味において、国の財政を規律する形式的意味における財政法よりも規律の範囲が狭く、地方財政全般を規律するものではない。
杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)372頁は、地方財政法について「その名称の示唆するような地方財政に関する法典を意味するものではない。その内容の重要性も国と地方公共団体との間における経費の配分、国の地方公共団体に対する負担強制の抑制等、国自身の行為の規制に見出されるのである」と述べる。
④地方税法
この法律は、普通地方公共団体の地方税立法権、課税権などの根拠となる地方自治法第223条を受けたものである〈拙稿「地方税立法権」日本財政法学会編『財政法講座3 地方財政の変貌と法』(2005年、勁草書房)36頁)〉。また、地方自治法第96条第1項第4号にも関係する。
国税については、所得税法、消費税法などのように、税目毎に法律が制定され、手続などについても国税通則法や国税徴収法のように個別に制定される。これに対し、地方税の場合は、税目に関係なく、地方税法によって統一的に定められる。税目のみならず、賦課徴収などの手続についても、地方税法によって統一的に定められる。その意味において、地方税法は地方税に関する統一的法典と言いうる。但し、地方税法の規定がそのまま各普通地方公共団体(東京都の特別区を含む)に適用されるのではなく、各普通地方公共団体の地方税条例(など)に規定されることによって、各普通地方公共団体は地方税の賦課徴収などをなしうるのである。地方税法は、普通地方公共団体の収入たる地方税に関する規定を置くことによって、普通地方公共団体の課税権を根拠づける一方、それに対する制約をなすものでもある。
なお、法定外普通税・法定外目的税とは、地方税法に定められていない地方税のことである。地方税条例とは別個の条例によって規律される。
⑤地方交付税法
地方自治法には対応する規定が存在しないが、これも地方公共団体の収入に関する法律である。それとともに、国と地方公共団体との財政関係を規律する、非常に重要な法律の一つである。地方交付税は、国税の一定割合を普通地方公共団体に交付することによって、地方財源の均衡化を図り、地方行政の計画的運営を保障することとされているのであるが(地方交付税法第1条)、実際には補助金に近い存在とも言われ、また、均衡化の役割も失われている。
⑥地方公営企業法
地方自治法第263条を受けたものである※。国も一定の事業を行う際に企業を経営することがありうるが、地方公共団体についても同様である。そのため、企業の組織、企業に従事する職員の身分取り扱い、財務などに関して、地方自治法に対する特例法としての位置づけにある。公営企業については、特別会計が設けられ(地方公営企業法第17条)、発生主義に基づく企業会計原理が採用され(同第20条)、予算などについても特例が設けられている。
※この他、地方自治法第263条に基づく法律として地方公営企業労働関係法がある。
⑦地方独立行政法人法
既に、国の行財政改革の一環として独立行政法人通則法が存在していたが、行財政改革の必要性は地方公共団体についても変わりがないため、地方公共団体が独立行政法人を設立する際の根拠法として制定されたのが地方独立行政法人法である。
⑧地方公共団体の財政の健全化に関する法律
地方税財政法の基本的部分を構成すると言いうるか否か、私自身には明確ではない。しかし、昨今の地方財政の状況に鑑みると、いつ、どの地方公共団体がこの法律の適用を受けるかということも考えられうる。また、国と地方との関係、そして普通地方公共団体と住民との関係に重大な影響を及ぼすものなので、ここで取り上げておく。
この法律に関する入門書的な文献として、月刊「地方財務」編集局編『スラスラわかる! 自治体財政健全化法のしくみ』(2007年、ぎょうせい)、兼村髙文『財政健全化法と自治体運営』(2008年、税務経理協会)がある。また、批判的な文献も少なくないが、ここでは平岡和久・森裕之『地方財政改革の焦点 新型交付税と財政健全化法を問う』(2007年、自治体研究社)をあげておく。
地方公共団体の財政の健全化に関する法(以下、自治体財政健全化法)は、地方財政再建促進特別措置法に代わる法律として、2007(平成19)年6月22日、法律94条として公布され、一部の規定を除いて2009(平成21)年4月1日より施行された。地方公共団体の財政の健全化については、2006(平成18)年1月より、当時の総務大臣の私的懇談会として設置された「地方分権21世紀ビジョン懇談会」において議論されていた。同年、夕張市定例市議会において市長が地方財政再建促進特別措置法の準用団体となって財政再建に取り組む決意を述べたことがきっかけとなり、新しい法制度の設置が急がれたことによって、自治体財政健全化法が制定されたのである。
なお、夕張市が準用再建団体に指定されたのは2007年3月である。
自治体財政健全化法について述べる前に、廃止された地方財政再建促進特別措置法について若干の説明をしておこう。この法律は、本来は臨時立法であり、都道府県の約8割、市町村の約7割、町村の約2割が赤字決算だったと言われる1953(昭和28)年度決算の状況に鑑みて制定されたものである〈杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)373頁による〉。赤字決算に陥った普通地方公共団体を救済するという意味を有するが、地方債についての特例※を設ける一方、財政再建計画に対する国の承認、計画の実施状況の調査など、国による強い関与を受け、それに応じて自治権が制約されることになる※※。
※2006(平成18)年度より、地方公共団体が地方債を起こす際には総務大臣または都道府県知事との協議を行うこととされた(地方財政法第5条の3第1項・第3項・第4項、地方自治法第250条。原則として総務大臣または都道府県知事の同意を要するが、同意を得ないで起こすことも可能である)。しかし、財政再建団体となり、財政再建債を起こすには、総務大臣の許可を必要とした。2005(平成17)年度まで一般的に採用されていた許可制が残されている訳である。なお、地方財政法第5条の4にも、総務大臣または都道府県知事の許可を得なければならない場合が規定されている。
※※碓井・前掲書18頁は、地方財政再建促進特別措置法に対する批判説を紹介し、「財政再建団体の自律性が著しく制限されていたことは疑いない」としつつも、この法律による普通地方公共団体の自治権(財政権)の制約はやむをえないものであると評価する。
なお、地方財政再建促進特別措置法の適用を受ける地方公共団体を財政再建団体というが、これは同第3条第4項により、「財政再建計画について承認を得た昭和29年度の赤字団体」、さらに言えば、同第2条第1項により、「昭和29年度において、歳入が歳出に不足するため昭和30年度の歳入を繰り上げてこれに充て、又は実質上歳入が歳出に不足するため昭和29年度に支払うべき債務の支払を昭和30年度に繰り延べ、若しくは昭和29年度に執行すべき事業を昭和30年度に繰り越す措置を行つた地方公共団体」を指す。このため、1955(昭和30)年度以降の年度に「歳入が歳出に不足するため翌年度の歳入を繰り上げてこれに充て、又は実質上歳入が歳出に不足するため当該年度に支払うべき債務の支払を翌年度に繰り延べ、若しくは当該年度に執行すべき事業を翌年度に繰り越す措置を行つた地方公共団体で既に財政再建団体となつているもの以外のもの(以下「歳入欠陥を生じた団体」という。)」は、同第22条第2項および第3項に従い、準用再建団体という。最近では、1992(平成4)年度から2001(平成13)年度まで、福岡県赤池町※が準用団体であった。また、2007(平成19)年度に、北海道夕張市が準用再建団体となっている。
※2006(平成18)年3月、金田町および方城町と合併し、福智町となっている。
しかし、地方財政再建促進特別措置法には、次に示すような重大な問題点があった〈以下、宇賀克也『地方自治法概説』〔第9版〕(2021年、有斐閣)217頁を基にしている〉。
第一に、財政の早期是正ないし再建に重点を置いた財政指標の開示がなされず、その財政指標および算定根拠の客観性や正確性などを担保するための手段が不十分であった。
第二に、再建団体の基準は存在したが、早期に是正する機能がなかった。このために、再建が長期にわたらざるをえないこととなった。
第三に、再建団体の基準として実質収支比率というフローの指標のみが用いられていた。このため、実質公債費比率などが悪化した地方公共団体や、ストックベースで財政状況の面において問題を抱える地方公共団体が対象から外れていた。
第四に、主に普通会計のみが対象とされており、地方公営企業や地方公社などとの関係が考慮の外に置かれていた。莫大な赤字を抱える地方公営企業、地方公社、さらに第三セクターなどを抱える地方公共団体には有効に対処しえなかったという訳である。
第五に、地方公共団体における再建制度と地方公営企業における再建制度とが全くの別物であり、しかも後者についても財政情報の開示が不十分であった。
第六に、再建を促進するための仕組みがほぼ限定されていた。
以上の問題点を克服し、地方公共団体の破綻を防ぎ、「再建制度から再生制度へ」の転換※を図ることを目的として自治体財政再建法が制定された。第1条は「この法律は、地方公共団体の財政の健全性に関する比率の公表の制度を設け、当該比率に応じて、地方公共団体が財政の早期健全化及び財政の再生並びに公営企業の経営の健全化を図るための計画を策定する制度を定めるとともに、当該計画の実施の促進を図るための行財政上の措置を講ずることにより、地方公共団体の財政の健全化に資することを目的とする」と定めている。
※この表現は、兼村・前掲書3頁による。
兼村髙文教授は、自治体財政再建法が地方財政再建促進特別措置法と異なる点として、主に「①自主再建の選択はないこと、②全ての自治体を対象としていること、③破綻の前に『早期健全化』の段階を設け2段階で健全化に取組むこと、④監査委員と議会にも責任を求めたこと、⑤健全化の財政指標(健全化判断比率)を法定したこと」をあげる〈兼村・前掲書23頁〉。また、平岡和久教授と森裕之准教授は、自治体財政再建法の特徴を「新たな自治体財政規律のルールとそれにもとづく国による行政的統制の強化」であるとした上で、同法の重要な点として「①財政の健全化を判断する指標として4つの指標を導入すること、②早期是正制度を導入すること、③早期是正段階での個別外部監査契約の義務づけ、④財政再生団体(従来の財政再建団体)の基準に実質赤字比率に加えて新たに連結実質赤字比率と実質公債費比率を入れたこと、⑤公営企業の経営の健全化を促進(資金不足比率が基準以上になった場合、経営健全化計画策定を義務付け)、⑥議会と監査委員の役割の拡大、など」をあげる〈平岡・森・前掲書102頁〉。
ここで、自治体財政健全化法第3条第1項が「健全化判断比率」としている4つの指標について概観しておく。同第2条がこれらの定義に関する規定を置くが、いずれも難解であるので簡略化する。
第一に、実質赤字比率(同第1号)は、地方公共団体(都道府県、市町村および特別区のみを指す)の前年度一般会計等の歳入における実質赤字額を、標準財政規模の額※で除して得た数値のことである。
※これは、地方財政法第5条の4第1項第2号に規定されており、標準的な規模の収入の額として政令で定められる額をいう。
第二に、連結実質赤字比率(同第2号)は、地方公共団体の連結実質赤字額を前年度の標準財政規模の額で除して得た数値のことである。結局、全会計の実質赤字額を前年度の標準財政規模の額で除して得た数値であるということになる〈平岡・森・前掲書102頁、宇賀・前掲書219頁〉。
第三に、実質公債費比率(同第3号)は、地方債の元利償還金(地方財政法第5条の4第1項第2号)の額と準元利償還金(同第2号)の額との合計額から一定の経費を控除して得られた額を、標準財政規模の額から一定の額を控除して得られた額で除して得られた数値である(但し「当該年度前三年度内の各年度に係るものを合算して得られた額」の3分の1の数値を用いる)。
第四に、将来負担比率(自治体財政健全化法第2条第4号)は、地方公共団体の地方債の残高や債務負担行為に基づく支出予定額などの実質的な負債に地方公営企業や出資法人などの実質的負債を加えた額を、前年度の標準財政規模の額から算入公債費等の額を控除した額で除して得た数値である。
地方公共団体の長は、毎年度、前年度の決算の提出を受けた後、速やかに以上の健全化判断比率およびその算定の基礎となる事項を記載した書類※を監査委員の審査に付し、その意見を付けて当該健全化判断比率を議会に報告し、かつ、当該健全化判断比率を公表しなければならない(同第3条第1項)。そして、この健全化判断比率を、都道府県知事および政令指定都市の市長は総務大臣に報告しなければならず、その他の市町村の長および特別区長は都道府県知事に報告し、その報告を受けた都道府県知事は総務大臣に報告しなければならない(同第3項)※※。
※これについては、自治体財政健全化法第3条第6項によって備え付けの義務が課されている。また、包括外部監査団体については同第7項を参照。
※※報告の取りまとめおよび公表については、第4項および第5項に規定されている。
上記4種の健全化判断比率のいずれかが早期健全化基準以上の数値を示した場合には、原則として地方公共団体の長が財政健全化計画を作成し、議会の議決を経て定めなければならず(同第5条第1項、同第4条第1項)、この計画の内容を公表しなければならず、都道府県知事および政令指定都市の市長は総務大臣に報告しなければならず、その他の市町村の長および特別区長は都道府県知事に報告し、その報告を受けた都道府県知事は総務大臣に報告しなければならない(同第5条第2項)。
この計画の内容は「財政の状況が悪化した要因の分析の結果を踏まえ、財政の早期健全化を図るため必要な最小限度の期間内に、実質赤字額がある場合にあっては一般会計等における歳入と歳出との均衡を実質的に回復することを、連結実質赤字比率、実質公債費比率又は将来負担比率が早期健全化基準以上である場合にあってはそれぞれの比率を早期健全化基準未満とすることを目標とし」なければならず、「次に掲げる事項について定めるもの」とされる。
「一 健全化判断比率が早期健全化基準以上となった要因の分析
二 計画期間
三 財政の早期健全化の基本方針
四 実質赤字額がある場合にあっては、一般会計等における歳入と歳出との均衡を実質的に回復するための方策
五 連結実質赤字比率、実質公債費比率又は将来負担比率が早期健全化基準以上である場合にあっては、それぞれの比率を早期健全化基準未満とするための方策
六 各年度ごとの前二号の方策に係る歳入及び歳出に関する計画
七 各年度ごとの健全化判断比率の見通し
八 前各号に掲げるもののほか、財政の早期健全化に必要な事項」(以上、同第2項)
また、「財政健全化計画は、その達成に必要な各会計ごとの取組が明らかになるよう定めなければならない」(同第4条第3項)。
なお、早期健全化基準は「財政の早期健全化(地方公共団体が、財政収支が不均衡な状況その他の財政状況が悪化した状況において、自主的かつ計画的にその財政の健全化を図ることをいう。以下同じ。)を図るべき基準として、実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率及び将来負担比率のそれぞれについて、政令で定める数値をいう」と定義されている(同第2条第5号)。
また、上記4種の健全化判断比率のいずれかが財政再建基準以上の数値を示した場合には、財政健全化計画ではなく、財政再生計画の策定が義務づけられることとなる。自治体財政健全化法第8条第1項本文は「地方公共団体は、実質赤字比率、連結実質赤字比率及び実質公債費比率(以下「再生判断比率」という。)のいずれかが財政再生基準以上である場合には、当該再生判断比率を公表した年度の末日までに、当該年度を初年度とする財政の再生のための計画(以下「財政再生計画」という。)を定めなければならない」と定める。
財政健全化計画を定めている地方公共団体(財政健全化団体)が財政再生計画を定めた場合には、財政健全化計画の効力が失われる(自治体財政健全化法第8条第2項)。
ここで財政再生基準は「財政の再生(地方公共団体が、財政収支の著しい不均衡その他の財政状況の著しい悪化により自主的な財政の健全化を図ることが困難な状況において、計画的にその財政の健全化を図ることをいう。以下同じ。)を図るべき基準として、実質赤字比率、連結実質赤字比率及び実質公債費比率のそれぞれについて、早期健全化基準の数値を超えるものとして政令で定める数値をいう」と定義されている(同第2条第6号)。早期健全化基準の数値を超える場合には再生判断比率とも呼ばれる。
財政再生計画は、やはり地方公共団体の長が作成し、議会の議決を経て定めなければならない(同第9条第1項)。これについても財政健全化計画とほぼ同様の報告義務が課されている(同第2項)。財政再生計画の内容は「財政の状況が著しく悪化した要因の分析の結果を踏まえ、財政の再生を図るため必要な最小限度の期間内に、実質赤字額がある場合にあっては一般会計等における歳入と歳出との均衡を実質的に回復することを、連結実質赤字比率、実質公債費比率又は将来負担比率が早期健全化基準以上である場合にあってはそれぞれの比率を早期健全化基準未満とすることを、第十二条第二項に規定する再生振替特例債を起こす場合にあっては当該再生振替特例債の償還を完了することを目標とし」なければならず、「次に掲げる事項について定めるものと」される。
「一 再生判断比率が財政再生基準以上となった要因の分析
二 計画期間
三 財政の再生の基本方針
四 次に掲げる計画(ロ及びハに掲げる計画にあっては、実施の要領を含む。次号において同じ。)及びこれに伴う歳入又は歳出の増減額
イ 事務及び事業の見直し、組織の合理化その他の歳出の削減を図るための措置に関する計画
ロ 当該年度以降の年度分の地方税その他の収入について、その徴収成績を通常の成績以上に高めるための計画
ハ 当該年度の前年度以前の年度分の地方税その他の収入で滞納に係るものの徴収計画
ニ 使用料及び手数料の額の変更、財産の処分その他の歳入の増加を図るための措置に関する計画
ホ 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第四条第二項若しくは第五条第二項に掲げる普通税について標準税率を超える税率で課し、又は同法第四条第三項若しくは第五条第三項の規定による普通税を課することによる地方税の増収計画※
五 前号の計画及びこれに伴う歳入又は歳出の増減額を含む各年度ごとの歳入及び歳出に関する総合的な計画
六 第十二条第二項に規定する再生振替特例債を起こす場合には、当該再生振替特例債の各年度ごとの償還額
七 各年度ごとの健全化判断比率の見通し
八 前各号に掲げるもののほか、財政の再生に必要な事項」(以上、同第8条第3項)
※「財政の再生のため特に必要と認められる地方公共団体に限る」(自治体財政健全化法第8条第3項ただし書き)。
また、「財政再生計画は、その達成に必要な各会計ごとの取組が明らかになるよう定めなければならない」(同第4項)。
再生判断基準および財政再生計画に関連して、地方公共団体は次のような制約を受ける。
第一に、再生判断比率のいずれかが財政再生基準以上であり、かつ、財政再生計画について総務大臣の同意(同第10条第3項・第7項)を得ていない地方公共団体は「地方債をもってその歳出の財源とすることができない」(同第11条本文)。
第二に、財政再生団体は、財政再生計画について総務大臣の同意を得ている場合に限り、収支不足額を地方債に振り替え、その収支不足額を財政再生計画の計画期間内に計画的に解消するため、地方財政法第5条の規定にかかわらず、当該収支不足額の範囲内で、地方債(再生振替特例債)を起こすことができる(自治体財政健全化法第12条第1項)。財政再建団体は、再生振替特例債を財政再生計画の計画期間内に消化しなければならないが、国も法令の範囲内において、かつ資金事情の許す限りにおいて適正な配慮をしなければならない(同第2項・第3項)
第三に、財政再生団体、および財政再生計画を定めていないが再生判断比率のいずれかが財政再建基準以上である地方公共団体は「地方債を起こし、又は起債の方法、利率若しくは償還の方法を変更しようとする場合は、政令で定めるところにより、総務大臣の許可を受けなければならない。この場合においては、地方財政法第五条の三第一項の規定による協議をすること並びに同法第五条の四第一項及び第三項から第五項までに規定する許可を受けることを要しない」(自治体財政健全化法第13条第1項)。
この他、財政再生団体に係る総務大臣から各省各庁の長への通知(同第14条)、財政再生団体の長による財政再生計画の実施状況の報告・公表(同第18条)、総務大臣による財政再生計画の実施状況の調査や報告(同第19条)などがある。
▲第6版における履歴:2022年12月24日掲載。
▲第5版における履歴:未掲載。