栃木県といえば、宇都宮ライトレールによるLRTの隆盛が最近の明るい話題と評価できるでしょうが、勿論、公共交通機関の状況が全県で良好という訳ではありません。
同県におけるJR東日本の鉄道路線は、東北新幹線の他、東北本線、日光線、両毛線、水戸線および烏山線です。このうち、東北本線、両毛線および水戸線が幹線に、日光線および烏山線が地方交通線に分類されています。とくに烏山線は、県内のJR路線では唯一の非電化路線であるとともに(但し、電車が走っています。後に述べます)、1960年の時点で廃止が提言され、1960年代後半には赤字83線に指定されたほどです。しかし、それほど営業係数などが悪くなかったということなのか、以後は特定地方交通線に指定されることもなく、存続しています。
そうは言っても、輸送人員が多いという訳でもなく、JR東日本が2024年10月29日付で発表した「ご利用の少ない線区の経営情報(2023年度分)の開示について」によると、烏山線(宝積寺〜烏山)の状況は次の通りです。
運賃収入:6200万円
営業費用:7億8900万円
収支:7億2700万円の赤字
営業係数:1265円
収支率:7.9%
1987年度の平均通過人員:2559
2023年度の平均通過人員:1144
1987年度の平均通過人員と2023年度の平均通過人員とを比較した場合の増減率:55%減
平均通過人員の増減率が−90%以上となっている路線(奥羽本線の新庄〜湯沢が93%減、久留里線の久留里〜上総亀山が92%減、飯山線の戸狩野沢温泉~津南が90%減 )もあり、減少率が80%台や70%台となっている路線・区間も少なくないことからすれば、烏山線は健闘していると言えるかもしれません。ただ、赤字額は大きく、営業係数も4桁となっています。しかも、赤字額が2022年度より9300万円ほど増えていますし、営業係数も2022年度より悪くなっています。ただし、平均通過人員は2022年度より24人増えているそうです。
そこで、沿線自治体である那須烏山市(鴻野山駅、大金駅、小塙駅、滝駅および烏山駅の所在地)は、乗客の増加に向けての取り組みを行っています。朝日新聞社2024年11月23日10時45分付記事「JR烏山線、23年度は7億2700万円の赤字 地元は乗客増へ催し」(https://www.asahi.com/articles/ASSCQ3R53SCQUUHB00HM.html)によると、那須烏山市は2023年秋には烏山線全線開業100周年記念イベントを実施しており、「利用客への助成金制度もつくった。小学生から高校生までを対象に通学定期券の料金の4分の1を補助したり、市民3人以上で利用すると運賃を全額補助したり。市はこうした取り組みが増客に奏功したとみる」とのことです。助成金制度がどの程度まで乗客増に貢献したかは検討の対象となるでしょうが、何もしないよりはよいということです。とくに、烏山線の場合、ほとんどの列車が宇都宮駅から烏山駅までの運行となっているため、那須烏山市の住民にとって同線は通勤通学のための重要手段であるということです。
また、那須烏山市は、2024年6月に市長を委員長とするJR烏山線利用向上委員会を設置しており、11月8日に開かれた委員会では「助成金制度の条件を緩和して通勤定期券も対象にする案や、車両に自転車を持ち込める『サイクルトレイン』の導入案などを検討していくことが決まった」とのことです。
私が気になるのは、烏山線で運行されているEV-E301系(通称ACCUM)という、蓄電池駆動電車です。これは、電化区間(東北本線)ではパンタグラフを上げて架線から集電し、非電化区間(烏山線)ではパンタグラフを下げて蓄電池でモーターを回して運行するというものです。ディーゼル車よりは環境に優しいと言えるかもしれませんが、現在のところ、電気自動車と同じで走行可能距離が短く、烏山駅には充電のための架線が張られているそうです。一体、どの程度の費用がかかるのか、気になっているのです。世界的には蓄電池駆動電車の例が増えているかもしれませんが、日本では、最初に営業運転を開始した烏山線の他、筑豊本線(とくに若松線という通称がある若松〜折尾)、男鹿線(但し、奥羽本線の秋田駅まで直通運転)および香椎線でのみ運行されています。第三セクターの鉄道では導入例がないことからしても、それなりのコストがかかるのではないでしょうか。那須烏山市は、JR東日本の協力を得ながらACCUM運行のための費用と効果との関係を調査する必要があると考えられます。