ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

錦川鉄道錦川清流線の存廃論議はどうなるか

2024年12月06日 20時30分00秒 | 社会・経済

 1980年代の国鉄改革で特定地方交通線が指定され、廃止が議論されました。この時は、住民などの意見に流されず、比較的に徹底して廃止が行われました。ただ、少し甘いとも考えられました。第三セクター化による存続の方法が残されていた上に、除外要件もあったからです。俎上に上がった路線の全てを完全に廃止していれば、現在も再び存廃論議になることはなかったでしょう。もとより、日本全体で人口が減少しているので他の鉄道路線の多くについても存廃論議の対象になったでしょうが、今ほど少なくはなかったはずです。

 このブログで錦川鉄道錦川清流線の話題を取り上げたのは、2023年9月9日7時0分0秒のことです。それから1年以上が経過し、2024年11月29日10時30分付でに朝日新聞社が「岩国・三セク錦川鉄道の清流線 存廃どうなる 沿線住民は『存続を』」(https://digital.asahi.com/articles/ASSCX3R1XSCXTZNB019M.html)として報じていました。月が変わってから気付きました。

 さて、2023年9月の時点においては、錦川鉄道錦川清流線の存廃を2024年度中に岩国市長が決定する旨が報じられていましたが、1年延びたのでしょうか。上記朝日新聞社記事によると、2024年度末に報告書がまとまり、2025年度に結論を出すとのことです。

 岩国市は、2023年5月から錦川鉄道錦川清流線の在り方を見直すことにして検討プロジェクトチームを設置しました(副市長がトップに立っているとのことです)。また、有識者会議も設置しており、2024年11月14日の有識者会議(第3回)において市が具体案を示したのでした。

 その具体案は、一部を上記朝日新聞社記事の表現を借りるならば、①現状維持、②「鉄道の運行・管理方法を見直して全線を存続させる」、③「路線の一部をバスに代替させて存続させる」、④完全バス路線化です。

 岩国市は、廃線ありきではないという立場を採ると言っていますが、これは表面的な態度なのでしょうか。錦川鉄道の経営状況も悪いでしょうし、岩国市の財政状況も悪いはずで、第三セクターが地方公共団体の懐に悪影響を及ぼしかねないことは、いくつかの住民訴訟が提起されたことからしても明らかです。1988年度の輸送人員が584,170人であったのに対し、2023年度の輸送人員は130,643人でした。つまり、2023年度の輸送人員は1988年の輸送人員の約22.4%でしかないということです。過疎化、少子化、自家用車社会化という御馴染みのセットで、一度も黒字になったことがなく、鉄道経営対策事業基金の取り崩しで何とか維持されているという状況ですが、その基金の残高も錦川鉄道設立時には6億6190万円であったのが、2023年度には3378万9千円にまで減りました。つまり、2023年度の残高は当初残高の5.1%にまで減った訳です。赤字額も2017年度に1億円を超えており、さらに岩国市が過疎債を起債しています。これでは廃止が検討されてもおかしくありません。

 上記朝日新聞社記事には、住民アンケートのことが書かれています。中学生以上4500人を対象としており、回答は2086人、率は46.4%でした。

 このような記事を読む度に思うのですが、住民アンケートにどの程度の意味があるのでしょうか。むしろ有害にしか思えません。

 理由は簡単です。存続を求めることが多数となるからです。また、設問の仕方によって回答は変わりうるものですし、回答者の住所などにも左右されます。例えば駅から半径500メートル以内に住む人と、半径3キロメートル超に住む人とでは、利用の頻度なども変わってきます。

 アンケートで存続を求める意見が多かったとしても、実際に利用する人が一定の水準を超えなければ、存続する意味はありません。

 よくあることで、私が最も憤りを感じるのが、次のような住民の意見あるいは態度です。

 自分は乗らない(利用しない)けれど、鉄道路線は必要である。

 無責任以外の何物でもありません。自分にとって要らないのであれば、素直に廃止を選択しなさい。

 こと鉄道路線の存廃については、住民アンケートを行わず、客観的なデータだけで決定する。住民や鉄道ファンの意見に流されず、むしろ存続を求める意見ほど当てにならないものはないことを常に念頭に置く。

 これこそ基本線にすべきことです。

 また、上記のアンケートでは、回答率が半数に達していないことにも注意を向ける必要があります。

 アンケートの回答では、存続を求めるとする人が50.8%、廃止もやむをえないとする人が49.2%だったそうです。拮抗しているとしか言いようがないのですが、46.4%の中の50.8%と49.2%であるということを忘れてはなりません。結局、アンケート対象者全体からすれば、存続を求める意見は23.5%、廃止もやむをえないとする意見は22.8%、その他は無回答なのです。せいぜい参考意見程度にすぎないことがわかります。

 そして、岩国市には、全体的な交通政策の見通しを立てることが求められるでしょう。その際、錦川清流線を抜きにして検討することも必要になります。大正時代の鉄道敷設法、赤字83線、特定地方交通線。この三つの要件が錦川鉄道錦川清流線に揃っています。『鉄道ほとんど不要論』(中央経済社)という本において、福井義高教授は、1980年代の時点で赤字ローカル線は全て廃止すべきであったと記しています。2023年には極論と考えていましたが、2024年12月においては極論ではなく、全ての路線に妥当する訳ではないものの、多くの路線について正論であると認めざるをえません。

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弘南鉄道大鰐線の廃止は確定のようです

2024年11月28日 02時00分00秒 | 社会・経済

 昨日(2024年11月27日)の19時50分0秒付で「久留里線と大鰐線(メインは大鰐線)」を掲載しましたが、今回は続編です。

 やはり、大鰐線の廃止は事実上決まったようです。東奥日報社が昨日付で「弘南鉄道大鰐線廃線へ/27年度末で運行休止」として報じているのですが、全文を読むには会員登録が必要な記事でしたので、仕方がなく、Yahoo! Japan Newsに掲載された同タイトルの記事を参照しておきます。

 弘南鉄道が昨日の協議会(非公式の会合であったようです)において表明した大鰐線の運行休止の方針は、やはり廃止の方針と同じことであったようで、沿線自治体である弘前市および大鰐町のほうから異論は出されなかったとのことです。2027年度末で運行休止としたのは、2025年の春に高校に入学する生徒たちが卒業するまで交通手段を確保したいからとも表明されています。大鰐線には弘高下駅、弘前学院大学前駅、聖愛中高前駅および義塾高校前駅と、学校名に由来する駅名が4つもあるからでしょう。

 ただ、2028年3月まで維持できるのかという疑問は残ります。弘南鉄道の本線級路線である、というより本来の弘南鉄道の路線である弘南線でも輸送人員が減少し、赤字を計上するようになっています。弘南線の営業状況が良くなるのであれば大鰐線の維持も可能かもしれませんが、それも大鰐線次第であることに変わりがありません。実際、弘南鉄道の社長はCOVID-19の勢いが減っても利用客が戻らなかった旨を述べています。既にモータリゼイションが進行している地域ですから、公共交通機関から自家用車や自転車にシフトしていてもおかしくありません。

 東奥日報社記事によると、大鰐線の利用客は1974年度がピークで390万人ほどでしたが、2023年度には27万1777人でした。つまり、2023年度の利用客は1974年度の約7%しかいないということです。また、非常に乱暴な計算ではありますが、2023年度の利用客を単純に365日で割ると、1日あたりで744.6人しか利用していないということになります。これでは、廃止もやむをえないでしょう。

 気になる赤字額は、2023年度で1億3068万円でした。この数字は、沿線自治体からの支援の存続のための条件を満たしていないものです。このブログでは詳細がわからなかったので記さなかったのですが、2020年に沿線自治体などが維持活性化のための基本方針を定めていました。それによると「2023年度末の営業成績で中長期計画に基づく収支改善がなされない場合、支援は2025年度までとする」となっていたそうです(東奥日報社記事およびYahoo! Japan News記事によります)。とりあえず、2025年度までは沿線自治体が支援するということですが、2026年度および2027年度については未定ですが、弘前市および大鰐町は支援を決定するかもしれません。ただ、市議会および町議会では議論が行われることでしょう。休止の時期が早まる可能性も否定できません。

 私にとってまだよくわからないのは、2027年度末で休止し、その後に廃止に向けた手続を進めるとしていることです。何らかの理由なり事情なりがあるのでしょう。休止予定日まであと3年以上もありますし、休止した後の再開も考えられていないようですから、2027年度末で廃止、より正確には2028年4月1日廃止としてもよいように思われるのです。あるいは冬季の輸送手段としての意義も考慮されているのかもしれませんが、わざわざ休止期間を置く必要もないのではないでしょうか。

 いずれにしても、東北地方から、また、一つの私鉄の路線が消滅することとなります。

 やはり、東急東横線や田園都市線に馴染んでいる私としては、弘南鉄道を走っている初代東急7000系を見に行こうか、などと考えました。10年程前には福島交通飯坂線で初代東急7000系に乗りましたし、5年前には養老鉄道養老線で初代東急7000系の改造車である東急7700系に乗っています。

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久留里線と大鰐線(メインは大鰐線)

2024年11月27日 19時50分00秒 | 社会・経済

 今日は三題噺ならぬ二題噺です。二題ともこのブログで取り上げたことがあります。

 まずはJR東日本の久留里線です。2024年11月27日、つまり今日、JR東日本千葉支社長が記者会見の場で例の久留里線の末端区間について発表しました。内容は「鉄道運行を取りやめる方針」であり、「今後、バスなど新たな交通体系への移行について市と協議する」とのことです(共同通信社が今日の15時41分付で報じた「JR東日本、久留里線の一部廃線発表 久留里~上総亀山間―バスなどへ移行協議」より)。但し、あくまでも方針を発表したのであり、廃止の時期などについては明言されなかったようです。実際のところ、明確な時期を示すことは無理でしょう。

 もう一つ、私にとってはこちらのほうが驚きでもあり、実は容易に予想されたことでもありましたが、弘南鉄道の大鰐線です。東奥日報社が今日付で「弘南鉄道、大鰐線を27年度末で運行休止の意向」として報じています。速報扱いですので短いですが、今日、弘前市役所で沿線市町村側との協議会が開かれたとのことです。2027年度末で運行休止する意向の理由として「物価高騰や人員不足で、収支改善が見込めない」ことがあげられています。こちらのほうも、弘南鉄道が一方的に決めるという訳にも行かないでしょう。そのため、もしかしたら運行休止にならないかもしれませんが、現在の大鰐線の状況からすれば、せいぜい、運行休止の時期がずれるくらいでしょう。

 むしろ、よくぞここまで延命したものだと思います。元々は弘前電気鉄道という会社によって運行されていた路線ですが、1960年代に廃止の危機に見舞われ、結局、弘前電気鉄道が解散し、大鰐線は弘南鉄道の手に渡ります。救済というところでしょうか。しかし、あまり儲かる路線でもなく、乗客も少なかったのか、弘南線と比較してもあまりに古すぎて見劣りする車両ばかりが走っていたくらいで、黒字になったことは一度もなかったとのことでした。弘南線が黒字であったから続けられたという訳でしょう。もっとも、弘南鉄道は国鉄の赤字ローカル線であった黒石線を引き受けて運行していましたが、この路線を1990年代に廃止させています。内部補助の限界に達した可能性もありますし、そもそも電化線と非電化線との違いなども理由として考えられるでしょう。

 私が知る限りですが、21世紀に入ってから、まず2013年6月27日、弘南鉄道の株主総会において大鰐線廃止の方針(のようなもの)が弘南鉄道社長から発せられました。このことについては「弘南鉄道の大鰐線が廃止されるか」(2031年6月30日15時8分8秒付)において取り上げました。株主総会の議題にも入っておらず、総会の冒頭における挨拶で述べられたので、会社として正式に決定した方針ではないということにはなりますが、どう考えても会社としての検討事項が公表されたと考えるべきでしょう。ただ、2016年度末、つまり2017年3月末に廃止という方向性も示されたことが周囲の反発を受けた可能性もあります。

 その後、2020年に沿線自治体(弘前市、平川市、黒石市、田舎館村および大鰐町)が弘南鉄道に対して2019年度および2020年度における経常損益の赤字分の全額補塡を行う方針を固めたと報じられました。このことは「鉄道関係二題」(2020年2月15日11時35分0秒付)で取り上げています。弘南線は2016年度まで黒字でしたが、2017年度から赤字が続いていたのでした。なお、「弘南鉄道への財政支援/JR北海道への支援策」(2021年1月25日0時0分0秒)も御覧ください。

 そして2024年2月28日、弘前市議会で大鰐線の廃止を求める発言が相次いだと報じられました。これについては「弘南鉄道大鰐線の廃止を求める声が」(2024年3月4日20時30分0秒付)で取り上げました。その記事で私は次のように述べました。

 「大鰐線の廃止は現実的に最も大きな選択肢であると思われます。この路線は、起点の大鰐駅から義塾高校前駅までJR奥羽本線と完全に並行しており、義塾高校前駅から中央弘前駅まではJR奥羽本線から少し離れた所を走っているものの、並行路線と言えます。また、終点の弘前中央駅は大鰐線のみの駅であり、弘南線の起点でもある弘前駅から1キロメートル以上離れています。弘南鉄道の路線となる前に廃止の議論が出ており、しかもその原因の一つが弘南バスとの競争に敗れたことという歴史を考えると、存続してきたことが一つの驚異とも言えます。」

 こうした流れを見ていけば、2027年度末、つまり2028年3月末で運行休止という選択も理解できます。むしろ、もう少し早めるほうがよいとも考えられます。下手な延命では傷もふさがらず、出血が続くでしょう。

 また、運行休止という表現に引っかかる方もおられるでしょう。おそらく、弘前市および大鰐町の住民などからの反発を予想して、廃止ではなく運行休止としたのでしょう。しかし、弘前市議会での動きなどを見ると、弘前市で大鰐線の廃止に反対する声は出るとしても大きくならないでしょうし、普段利用もしない人が廃止に反対する資格などありません。はっきりと廃止と表明すべきでしょう。遅きに失したとも言いうるからです。

 休止と言えば、同じ青森県に南部縦貫鉄道の例があります。野辺地駅〜七戸駅の南部縦貫鉄道線は、1997年に運行を休止しました。直接の理由は、野辺地駅〜西千曳駅の区間の路盤でした。ここは元々が東北本線であった区間であり、千曳駅の移転に伴って南部縦貫鉄道が国鉄から借り入れていたのです。JR東日本発足後も同様でしたが、1995年12月、当時の国鉄清算事業団はこの路盤の買い取りを南部縦貫鉄道に要請しました。これが南部縦貫鉄道にとっては大きすぎる負担であるということで、1997年5月の連休明けから南部縦貫鉄道線は運行休止となりました。その後、南部縦貫鉄道線はこの路盤を購入したそうです。しかし、休止の間に南部縦貫鉄道線全線の鉄道施設が荒廃してしまったようで、復活運転をするには多額の費用がかかるということで、結局2002年8月1日に廃止されてしまいました。

 弘南鉄道大鰐線が実際に運行休止するとなると、直接の理由は南部縦貫鉄道と異なりますが、結末は同様になるでしょう。つまり、休止が始まってから何の維持管理もなされなければ鉄道施設は(おそらく短期間で)荒廃してしまう訳です。そうなったら、営業を再開するにしても莫大な費用がかかることになります。まして、大鰐線の場合、2023年8月に脱線事故が発生し、同年9月25日には線路の不具合を理由として弘南線とともに運休が始まりました。元々路盤がよくないという可能性もあります。少なくとも線路規格はJR奥羽本線よりも格段に落ちるでしょう。無期限の運行休止ということであれば、とりもなおさず廃止ということです。

 今後、事態がどのように展開するかをみていく必要がありますが、大鰐線の運行休止あるいは廃止は、時間の問題でしょう。初代東急7000系が今でも運転されているので、見に行ってみたいとは思っていますが……。

 

 最後に。時代遅れのリニア新幹線と全国新幹線整備計画は一刻も早く廃止すべきです。北陸新幹線と西九州新幹線がいつまで経っても全通の見込みがないという無様さなのに、四国新幹線だの何だのと狂気の沙汰です。北陸新幹線の敦賀駅から新大阪駅までの区間やリニア新幹線を早く建設して開通させろという鉄道ファンもいますが、「何を考えているのやら」と言いたいところです。筒井康隆さんのエッセイ集のタイトルではないけれど「狂気の沙汰も金次第」なのでしょうか。

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烏山線の話

2024年11月24日 00時00分00秒 | 社会・経済

 栃木県といえば、宇都宮ライトレールによるLRTの隆盛が最近の明るい話題と評価できるでしょうが、勿論、公共交通機関の状況が全県で良好という訳ではありません。

 同県におけるJR東日本の鉄道路線は、東北新幹線の他、東北本線、日光線、両毛線、水戸線および烏山線です。このうち、東北本線、両毛線および水戸線が幹線に、日光線および烏山線が地方交通線に分類されています。とくに烏山線は、県内のJR路線では唯一の非電化路線であるとともに(但し、電車が走っています。後に述べます)、1960年の時点で廃止が提言され、1960年代後半には赤字83線に指定されたほどです。しかし、それほど営業係数などが悪くなかったということなのか、以後は特定地方交通線に指定されることもなく、存続しています。

 そうは言っても、輸送人員が多いという訳でもなく、JR東日本が2024年10月29日付で発表した「ご利用の少ない線区の経営情報(2023年度分)の開示について」によると、烏山線(宝積寺〜烏山)の状況は次の通りです。

 運賃収入:6200万円

 営業費用:7億8900万円

 収支:7億2700万円の赤字

 営業係数:1265円

 収支率:7.9%

 1987年度の平均通過人員:2559

 2023年度の平均通過人員:1144

 1987年度の平均通過人員と2023年度の平均通過人員とを比較した場合の増減率:55%減

 平均通過人員の増減率が−90%以上となっている路線(奥羽本線の新庄〜湯沢が93%減、久留里線の久留里〜上総亀山が92%減、飯山線の戸狩野沢温泉~津南が90%減 )もあり、減少率が80%台や70%台となっている路線・区間も少なくないことからすれば、烏山線は健闘していると言えるかもしれません。ただ、赤字額は大きく、営業係数も4桁となっています。しかも、赤字額が2022年度より9300万円ほど増えていますし、営業係数も2022年度より悪くなっています。ただし、平均通過人員は2022年度より24人増えているそうです。

 そこで、沿線自治体である那須烏山市(鴻野山駅、大金駅、小塙駅、滝駅および烏山駅の所在地)は、乗客の増加に向けての取り組みを行っています。朝日新聞社2024年11月23日10時45分付記事「JR烏山線、23年度は7億2700万円の赤字 地元は乗客増へ催し」(https://www.asahi.com/articles/ASSCQ3R53SCQUUHB00HM.html)によると、那須烏山市は2023年秋には烏山線全線開業100周年記念イベントを実施しており、「利用客への助成金制度もつくった。小学生から高校生までを対象に通学定期券の料金の4分の1を補助したり、市民3人以上で利用すると運賃を全額補助したり。市はこうした取り組みが増客に奏功したとみる」とのことです。助成金制度がどの程度まで乗客増に貢献したかは検討の対象となるでしょうが、何もしないよりはよいということです。とくに、烏山線の場合、ほとんどの列車が宇都宮駅から烏山駅までの運行となっているため、那須烏山市の住民にとって同線は通勤通学のための重要手段であるということです。

 また、那須烏山市は、2024年6月に市長を委員長とするJR烏山線利用向上委員会を設置しており、11月8日に開かれた委員会では「助成金制度の条件を緩和して通勤定期券も対象にする案や、車両に自転車を持ち込める『サイクルトレイン』の導入案などを検討していくことが決まった」とのことです。

 私が気になるのは、烏山線で運行されているEV-E301系(通称ACCUM)という、蓄電池駆動電車です。これは、電化区間(東北本線)ではパンタグラフを上げて架線から集電し、非電化区間(烏山線)ではパンタグラフを下げて蓄電池でモーターを回して運行するというものです。ディーゼル車よりは環境に優しいと言えるかもしれませんが、現在のところ、電気自動車と同じで走行可能距離が短く、烏山駅には充電のための架線が張られているそうです。一体、どの程度の費用がかかるのか、気になっているのです。世界的には蓄電池駆動電車の例が増えているかもしれませんが、日本では、最初に営業運転を開始した烏山線の他、筑豊本線(とくに若松線という通称がある若松〜折尾)、男鹿線(但し、奥羽本線の秋田駅まで直通運転)および香椎線でのみ運行されています。第三セクターの鉄道では導入例がないことからしても、それなりのコストがかかるのではないでしょうか。那須烏山市は、JR東日本の協力を得ながらACCUM運行のための費用と効果との関係を調査する必要があると考えられます。

 

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南武線などで2025年春からワンマン運転開始

2024年11月07日 00時00分00秒 | 社会・経済

 以前から知っていた話ではありますが、共同通信社が2024年11月6日17時05分付で「常磐線、来春からワンマン運転 南武線も、JR東が省力化実現」(https://nordot.app/1226805176662900858)として報じていました。

 JR東日本が11月6日に正式に発表したことで、南武線の川崎駅から立川駅までの区間(どうして共同通信社は起点と終点を逆に書いているのでしょうか? 誰が考えても東海道本線の古い駅を起点にするでしょう。裏街道が起点で表街道が終点だって?)、常磐線の各駅停車が運行される綾瀬駅から取手駅までの区間において、2025年春からワンマン運転を開始するということです。

 南武線の浜川崎支線、すなわち尻手駅から浜川崎駅までの区間では、既にワンマン運転が行われています。これに対し、川崎駅から立川駅までの区間は、とくに川崎市内で混雑度も高く、本数も多いので、その割にはホームドアの設置率も高くないので、ワンマン運転を開始しようとすることには不安もあるのですが、省力化の動きは止められないということでしょう。今後、乗務員を確保することが難しくなることは確実であるためです。首都圏では今後予測される人員不足に対処するためのワンマン運転が広がっており、東京メトロ丸ノ内線などが代表例としてあげられるでしょう。

 東京メトロ、都営地下鉄、東急、横浜高速鉄道みなとみらい線で行われているワンマン運転では、ATO(自動列車運転装置)またはTASC(定位置停止装置)を採用しています。こうした路線で運行されている電車の運転席にはモニターが設置されています。JR東日本でもこうした仕様にするようです(ただ、ATSがベースになると思われます)。

 ワンマン運転は、今後も導入されるようです。2026年には横浜線(東神奈川駅から八王子駅まで)および根岸線(横浜駅から大船駅まで。但し、横浜線直通列車のみのようです)、2030年までには山手線、京浜東北線+根岸線、中央本線各駅停車+総武本線各駅停車、埼京線+川越線で実施される方向とのことです。

 ちなみに、私鉄でまだワンマン運転が行われていないところもあり、大手私鉄では小田急、相鉄および京浜急行の3社となっています。

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美祢線の復旧は困難か、本音は廃止か?

2024年11月02日 23時10分00秒 | 社会・経済

 平成筑豊鉄道の話を昨日(2024年11月1日)に取り上げましたが、同じ日にJR西日本美祢線に関する記事も朝日新聞社のサイトに掲載されていました。「美祢線復旧後の運営方式めぐり JR西、自治体と共同参画『不可欠』」(https://www.asahi.com/articles/ASSB03QQFSB0TZNB00FM.html?iref=pc_preftop_yamaguchi)です。

 10月31日に山陽小野田市で美祢線利用促進協議会の部会が開かれました。その席で、JR西日本は、美祢線を復旧するならば上下分離方式が不可欠という考え方を示しました。

 昨今の鉄道事情に多少とも関心のある方であれば「やはり」と納得されることでしょう。JR西日本は、美祢線を単独で鉄道路線として復旧し、運行することは困難であるという態度を既に示しています。また、部会において、JR西日本は同社単独で維持して運行を続ける際の経費などを明らかにしていません。これは、上下分離方式でなければ美祢線を捨てる、つまり廃線にするということを意味するものと考えて間違いないでしょう。

 強気な沿線自治体ならば、JR西日本に対して「あんたはタカリ屋か?」と尋ねるでしょう。「いい加減にしろ! ふざけるな!!」と、多少は態度を荒げてもよいでしょう。こういう自治体が一つでも二つでも出てくれることが望ましいとも思うのですが、いかがでしょうか。大なり小なり、鉄道会社にはこういう気質があるように思われますし、「走らせてやってるんだぞ!」という意識が行動などに見え隠れしています(昔の国鉄について度々指摘されていたことでもあります)。

 JR西日本は、次のような試算を示しました。意味がわからないところがあるので、上記朝日新聞社記事をそのまま引用しますと「同社単独で復旧させる場合では、自治体は4億円を負担するのに対し、上下分離方式を前提に復旧させる場合には、自治体の負担額は5.3億円に膨らむ」とのことです。何のことはない、JR西日本単独では復旧できないか復旧する意思がないということです(その後の維持管理はJR西日本が行うということでしょうが)。沿線自治体の費用が4億円か5億3000万円というのは、果たして適正な算定なのかという問題もありますし、取りも直さず財政規模に比して額が大きすぎるとも言えるでしょう。

 また、同社の試算には続きがあり、上下分離方式を作用した場合の1年あたりの維持費は、JR西日本が2億5000万円、自治体が3億円以上とのことです。思い切ってJR西日本から美祢線を分離したほうがよいのではないかとすら思えてきますが、どうなのでしょうか。

 美祢線の被害状況は甚大であり、復旧工事には5年程度が必要であり、第6厚狭川橋梁(正式な名称かどうかわかりません)の改築などが必要であるために少なくとも58億円が必要とのことです。1980年代に幹線に指定された理由でもある貨物輸送が現在も行われていれば、莫大な費用をかけてでも復旧する意味はありますが、その貨物輸送はほぼゼロです。ちなみに、10月29日にJR西日本は「利用者が特に少ないローカル線の2021〜23年度の平均収支」を発表しており、「美祢線は年度平均で4.3億円の赤字」であるとともに、同線の収支率(費用に対する収入の割合)は10.9%であったとのことです。

 上記朝日新聞社記事によれば、「JR西は部会で、『利便性と持続可能性を確保した地域公共交通の復旧は必要だ』と強調した」とのことです。JR西日本ではなく沿線自治体の台詞なのではないかとも疑ったのですが、JR西日本が代行バスを運行しているようなので、JR西日本の台詞だったのでしょう。

 なお、今年12月には、代行バスについて、利用者や沿線住民を対象としたアンケート調査を行うことになるようです。その結果次第では、鉄道復旧は断念されるでしょう。

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平成筑豊鉄道に関して法定協議会が設置されるか

2024年11月01日 12時30分00秒 | 社会・経済

 平成筑豊鉄道が地域公共交通活性化再生法に基づく法定協議会の設置を要請したと報じられたのは、今年(2024年)の6月29日のことでした。それから4か月ほど経過して、平成筑豊鉄道の沿線自治体9市町村の首長が、昨日(2024年10月31日)、福岡県に対して法定協議会の設置を要請しました。朝日新聞社が、今日(2024年11月1日)の10時30分付で「平筑の今後を検討『法定協』設置へ 沿線自治体が県に要請」(https://digital.asahi.com/articles/ASSB04RXFSB0TIPE003M.html)として報じています。

 「ついに動いた」ということでしょうか。今年も平成筑豊鉄道は3億4000億円の経営安定化助成金の交付を受けているのですが、同鉄道が2億5000万円の追加支援を打診していました。しかし、9市町村がどのように対応するかが問われていました。助成金(補助金)の交付額は増加の一途となっていますので、とりもなおさず、平成筑豊鉄道の経営は危機的状況にあるということです。

 そこで、沿線9市町村(本社のある福智町、直方市、田川市、行橋市など)が法定協議会の設置を福岡県に要請したということなのです。これからも助成金(補助金)の増額が続くことが確実であるということからでしょう。田川市長が福岡県知事に「地域公共交通活性化再生法に基づく法定協の設置や地域公共交通計画の作成を求める要請書を」手渡しており、福岡県知事も「設置に向けて動く意向を示した」とのことです。平成筑豊鉄道に福岡県も出資している以上、当然と言えるでしょう。また、「設置されると、バスの運行実験など、新たな交通網整備を想定した調査などに国の補助金を利用できる。参加自治体は協議に応じ、結果を尊重することが求められる」ので、今後の動きが気になるところです。

 法定協議会が設置されるならば、存続するのか廃止されるのかが議論されることになりますが、JR西日本芸備線と異なり、存続一本槍とはならないと思われます。実際、上記朝日新聞社記事によると「現状からの変更案としては、①路線バス②バス高速輸送システム(BRT)③鉄道上下分離、の3案を中心に検討が進む見通しだ」とのことで、少なくとも現状維持は難しいのでないかと考えられます。もっとも、北陸鉄道石川線のように消極的選択として現状維持もありうるのですが、そうなれば9市町村の負担は増えるだけで、財政にも影響が出てくる可能性があります。「現状からの変更案」のいずれを選んでも最善の選択肢と言いうるかどうかはわかりませんので「どれを取っても……」ということになりかねません。

 一方、9市町村を通るということで、それぞれの市町村によって態度が異なるということもありえます。実際、上記朝日新聞社記事によると「沿線では、平成筑豊鉄道が観光の鍵となっている自治体もあり、鉄道存続の是非は自治体によって温度差が大きい」ようです。具体的に何処の市町村で、何線のことかは不明ですが、ありえないことではありません。平成筑豊鉄道には、かつての国鉄赤字ローカル線である伊田線(直方〜田川伊田)、田川線(行橋〜田川伊田)および糸田線(金田〜田川後藤寺)、北九州市が第三種鉄道事業者である門司港レトロ観光線(平成筑豊鉄道は第二種鉄道事業者)の4路線がありますが、記事の内容からして伊田線、田川線および糸田線の境遇が問題とされているのでしょう。

 これから本格的に議論が開始されることになるでしょうが、どのような選択をするにせよ、伊田線、田川線、糸田線、門司港レトロ観光線をひとまとめにするのではなく、線区別に考える必要があるでしょう。門司港レトロ観光線は特殊ですので脇に置いておくとしても、伊田線、田川線および糸田線の3路線は一体として考えられがちです。しかし、私がここにあげた全ての路線に乗った限りでは(一度しかないのですが)、それぞれ性格が異なるように思えます。とくに伊田線と田川線は、一体で運行されているとは言え、かなり性格が違います。伊田線は全線複線で開けた場所を通っているのに対し、田川線は山間地帯と言えるような場所を通り、しかもカーブが多く、伊田線より乗客が少なかったような記憶があります。そうは言っても、伊田線も乗客が多いという訳でもないので、さしあたりは単線化が現実的でしょう。

 ともあれ、今後の動きを注視していこうと考えています。

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久留里線の末端区間 廃止への布石か

2024年10月23日 12時40分00秒 | 社会・経済

 このブログでは久しぶりとなります。JR東日本の久留里線です。

 久留里線は木更津駅から上総亀山駅までの路線で、2022年度の平均通過人員が770となっています。2017年度の平均通過人員が1147となっていますので、COVID-19の影響も否定できないのですが、元々低い数値であったのがさらに低くなったということです。何せ、1960年代後半に赤字83線にあげられていました。1980年代の特定地方交通線には指定されず、検討の対象にもならなかったようなので、地方交通線となって存続しました。当時の平均通過人員の数値を知りたいところですが、少なくとも、2017年度の平均通過人員の数値は1980年代の数値の4分の1ほどまで落ち込んだということでしょう。本来であれば久留里線とつながる予定であった木原線が特定地方交通線に指定され、いすみ鉄道に移管されたことも、房総半島の交通事情を反映しているように見えます。

 全体の平均乗車人員の数値も低いのですが、JR東日本の公表データに従って同線を二つの区間に分けますと、末端区間というべき久留里駅から上総亀山駅までの区間で平均通過人員の数値が極端に低くなっています。2022年度で54なのです。これは、JR東日本では下から2番目ということになります。残る木更津駅から久留里駅までの区間では1074です。

 参考までに、JR東日本の路線・区間で平均通過人員の数値が二桁になっているところを示しておきましょう(2022年度のものです)。

 1.陸羽東線  鳴子温泉駅〜最上駅:44

 2.久留里線  久留里駅〜上総亀山駅:54

 3.花輪線  荒屋新町駅〜鹿角花輪:55

 4.山田線  上米内駅〜宮古駅:64

 5.磐越西線  野沢駅〜津川駅;70

 6.飯山線  戸狩野沢温泉駅〜津南駅:76

 7.山田線  全線(盛岡駅〜宮古駅):79

 8.津軽線  中小国駅〜三厩駅:80(但し、参考値)

 9.北上線  ほっとゆだ駅〜横手駅:90

 ちなみに、2022年度における、JR西日本芸備線の東城駅から備後落合駅までの区間での平均通過人員は20であり、JR西日本木次線の出雲横田駅から備後落合駅までの区間での平均通過人員は56です。

 さて、今回、久留里線を取り上げることとしたのは、東京新聞社のサイトに、今日(2024年10月23日)の7時31分付で「JR久留里線・久留里-上総亀山間 検討会議が報告書 『自動車中心』へ移行示す」(https://www.tokyo-np.co.jp/article/361985?rct=chiba)という記事が掲載されていたためです。なお、千葉日報社のサイトには10月21日20時11分付で「久留里-上総亀山間、『自動車交通』への移行示す JR久留里線、検討会議が報告書 君津」(https://www.chibanippo.co.jp/news/economics/1291644)という記事が掲載されていますが、非会員では全部を読むことができないので、東京新聞社記事をベースとします。また、それぞれの見出しに示されている「報告書」を読んでみたいのですが、今のところ、君津市のサイトにも千葉県のサイトにも掲載されていないようです(理由は後に示されます)。ただ、千葉県のサイトには、10月21日の14時から君津市保健福祉センター(ふれあい館)2階のコミュニティホールにて「第5回JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」が開かれること、議題は「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議検討結果報告書(案)について」であることが明示されています

 「報告書」をまとめた「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」(以下、検討会議)は、JR東日本千葉支社、君津市、千葉県、住民代表から構成されています(座長は日本大学理工学部交通システム工学科の藤井敬宏特任教授)。こうしたメンバーが、議論の結果として結論を出したということです。もっとも、これは暫定的なもので、今後、追加修正をした上で最終版を作成するというのですが、基本線は変わらないでしょう。最終版がまとめられるならば、公表される可能性が高いと思われます。

 「報告書」は一つの小前提を置いています。それは、久留里駅から上総亀山駅までの区間(以下、末端区間)が廃止されたとして、他の交通手段を考えるというものです。

 検討会議の事務局が示した報告書案によると、君津市の上総地区(同市東部南側)の移動需要は「平日最大15人程度、休日最大20数人程度と、それ以外の散発的な移動」でしかなく、久留里線の末端区間は「移動需要に対して輸送力が過大」であり、さらに現在同地区において「提供されている交通サービスでは移動需要に適していない」とのことです。それでは、どのような交通手段が望ましいのかと言えば「平日の朝夕や休日の日中をピークとした通勤通学や観光客など一定のまとまった移動需要には『バスを中心とした定時定路線型の交通手段』、買い物や通院などには『デマンド型の交通手段』が考えられるとした」とのことです。以上は上記東京新聞社記事を引用しつつ記しましたが、上記千葉日報社記事には「報告書は『自動車中心の交通体系への移行により、より利便性を有する地域公共交通が実現する』と指摘。通勤通学や観光客はバスを中心とした交通手段で対応し、買い物や通院など時間帯やエリアが散発的な需要には現在運行されているデマンドタクシー『きみぴょん号』の交通手段を挙げた」と書かれています。

 鉄道ファンや、地域公共交通の活性化を唱える方々からは批判を受ける内容であると思われるのですが、少なくとも両記事を参考にする限り、検討会議は現実的で妥当な結論を導き出したと評価すべきである、と私は考えています。検討会議は末端区間の廃止を大前提においていないらしいのですが、それは建前であって、本音は逆であるということではないでしょうか。

 そもそも、最近よく使われる、存続、廃止のいずれも前提にしないという言い回しは、なかなか巧妙な、悪い表現を使うならば狡猾なものです。最初から「存続を前提としない」と言い切ってしまうと、あちらこちらから反発を受けることなど簡単に予想されます。そのために、何らの前提も置かないというように中立を装うような表現が採用されたのでしょう。

 10月21日で検討会議は終了し、今後は君津市地域公共交通会議で議論が続けられるようですが、今回の報告書暫定版で末端区間の廃止への布石は打たれたと評価すべきではないでしょうか。

 
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第2回芸備線再構築協議会が開かれた

2024年10月18日 22時00分00秒 | 社会・経済

 2024年10月16日、岡山市内で第2回芸備線再構築協議会が開催されました。朝日新聞社が2024年10月17日付で「広島・安芸高田市 芸備線再構築協に参加」(https://www.asahi.com/articles/ASSBJ4511SBJPPZB00BM.html)として報じています。

 今回は、8月下旬に参加の意向を示していた安芸高田市が協議会の構成員として加わることなどが決まったとのことです(規約が改正されることになり、承認を受けました)。また、2024年度内に実施する調査事業の予算(2000万円)も承認されました。調査は野村総合研究所に委託されるようです。

 この協議会において協議の対象とされているのは、芸備線の起点である備中神代駅(岡山県新見市)から備後庄原駅(広島県庄原市)までの68.5キロメートルの区間です。そのため、岡山県、広島県、新見市および庄原市が構成員に入っているのは当然です。しかし、広島県三次市と広島市も構成員となっているので、安芸高田市が不参加であったのが不思議でした。安芸高田市にある甲立駅、吉田口駅および向原駅は三次駅から下深川駅までの区間の平均通過人員は、2022年で988、2023年度で998です。微増とはなっていますが1000を下回っているので、1980年代の国鉄改革の水準であれば確実に第一次か第二次の特定地方交通線に指定され、廃止のための議論の対象になるところです(当時は路線が単位でしたので、単純な比較はできません)。

 ともあれ、これからは沿線全体で協議するという体制が整えられたことになります。

 また、記事には「JR西日本は、同区間の2023年度の輸送密度(1キロあたりの1日平均乗車人数)が62人で、コロナ禍だった20年度の47人と比べわずかに回復したことを報告した」と書かれています。おそらく、全国から鉄道ファンが訪れたからでしょう。YouTubeにたくさん動画がアップされているくらいですから。しかし、数値が上がったと言っても、鉄道路線として持続可能とは到底言えない水準であることに変わりはありませんし、鉄道ファンにしか見向きもされない区間であるとも言えます。芸備線の部分廃止が与える影響を算定しなければならないとは言え、存続することにどの程度の意味があるのかわからない話になっています。いかに沿線自治体が騒ごうが、住民はとうの昔に見捨てているということです。沿線自治体も、建前と本音はどうなのか、というところでしょう。

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東京地下鉄株式会社(東京メトロ) 10月23日に上場する

2024年09月21日 06時00分00秒 | 社会・経済

 朝日新聞社のサイトに、2024年9月20日19時4分付で「東京メトロ、来月23日上場へ 時価総額6400億円規模」(https://www.asahi.com/articles/ASS9N35PGS9NULFA01PM.html?iref=comtop_Business_04)という記事が掲載されていました。

 この話はかなり前から気になっていたので、どうなるのかと思って見ていました。何せ、帝都高速度交通営団から東京メトロに変わったことにより、それまでの東京急行電鉄を抜いて資本金、輸送人員数などがトップという大手私鉄になったのですから。

 東京メトロ(正式には東京地下鉄株式会社です)は、東京証券取引所に対し、プライム市場への上場を申請していました。東京証券取引所が承認したのが9月20日であったということです。その上で、上場予定日が10月23日になるとのことです。

 東京メトロの株式上場は予定路線でした。東京地下鉄株式会社法(平成14年法律第188号)附則第2条は「国及び附則第11条の規定により株式の譲渡を受けた地方公共団体は、特殊法人等改革基本法(平成13年法律第58号)に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と定めていますし、2021年には東京地下鉄株式会社法附則第11条によって帝都高速度交通営団から国および東京都に無償譲渡された東京メトロの株の一部について売却の準備をすることが国と東京都との間で合意されていたからです。

 現在、東京メトロの発行済み株式の保有割合は、国が53.4%、東京都が46.6%となっています。株式上場によって国および東京都が株式を売却することにより、保有割合は国が26.7%、東京都が23.3%になるとのことです(国および東京都が保有する株式が全て売却される訳ではないので、東京地下鉄株式会社法が廃止されるのはまだ先のことでしょう)。また、売却による収入のうち、国の分については「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号。以下、記事に合わせて復興財源確保法と記します)第72条第3項により、東日本大震災に関連する償還費用に充てられることとなります(上記記事には「国の売却分は東日本大震災の復興財源に充てられる」と書かれていますが、不正確です)。参考までに、規定を引用しておきましょう(漢数字の一部を算用数字に替えました)。

 

 (復興特別税の収入の使途等)

 第72条 平成24年度から令和19年度までの間における復興特別税の収入は、復興費用及び償還費用(復興債(当該復興債に係る借換国債を含む。次条、第74条第1項及び附則第18条において同じ。)の償還に要する費用(借換国債を発行した場合においては、当該借換国債の収入をもって充てられる部分を除く。)をいう。以下同じ。)の財源に充てるものとする。

2 平成24年度から平成27年度までの間における第3条の規定による財政投融資特別会計財政融資資金勘定からの国債整理基金特別会計への繰入金及び平成28年度から令和4年度までの間における第三条の二の規定による財政投融資特別会計投資勘定からの国債整理基金特別会計への繰入金は、償還費用の財源に充てるものとする。

3 次に掲げる株式の処分により令和9年度までに生じた収入は、償還費用の財源に充てるものとする。

 一 第4条第1項の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本たばこ産業株式会社の株式

 二 特別会計法附則第208条第4項の規定により国債整理基金特別会計に帰属した東京地下鉄株式会社の株式

 三 第5条の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした東京地下鉄株式会社の株式

 四 第5条の2及び特別会計法附則第12条の2の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本郵政株式会社の株式

 五 特別会計法附則第12条の3の規定により国債整理基金特別会計に所属替をした日本郵政株式会社の株式

4 前3項に規定する収入のほか、平成23年度から令和9年度までの各年度において、国有財産の処分による収入その他の租税収入以外の収入であって国会の議決を経た範囲に属するものは、復興費用及び償還費用の財源に充てるものとする。

 

 既に、財務省は国の売却収入が1700億円程度になるという見通しを、2024年度予算の編成時に示していました。想定売り出し価格が1株につき1100円で、上場時の時価総額がおよそ6400億円程度になるとも記事に書かれています。

 ここで、現段階で思い付いたことを記しておきましょう。

 第一に、おそらく上場初日は御祝儀相場ということになると思われますが、このところの平均株価の動きを見ていると、想定通りの売却収入になるか否かという懸念があるかもしれません。それよりも、上場以後の株価の推移が問題になるかもしれません。

 第二に、東京メトロの株式上場により、東京の地下鉄網の統一は完全に夢物語で終わるということです(東京都が筆頭株主になれば話は変わってくるかもしれませんが)。

 元々、帝都高速度交通営団は、当時の東京市にあった東京地下鉄道および東京高速鉄道の地下鉄路線(いずれも現在の銀座線の前身)を一体的に経営するために、昭和16年、西暦に直せば1941年に作られた特殊法人です。この年号からおわかりのように、帝都高速度交通営団は、戦時体制に入っていた日本の経済統制の産物でもありました。戦後、各種の営団は解散しましたが、帝都高速度交通営団のみは存続します。この際に帝都高速度交通営団が解散していたならば、東京の地下鉄は全て東京都交通局が経営することになっていたかもしれませんが、様々な理由なり思惑なりがあって実現しなかったのでした。その後、東京都交通局は自ら1号線(浅草線)などを建設し、運行します。

 このように帝都高速度交通営団と東京都交通局という複数の主体によって地下鉄網が作られていった理由については、今後調べてみたいと考えていますが、私のように東京メトロ線と都営地下鉄の双方を利用する者にとっては、運賃だの何だのが面倒なことになります(もっとも、複数の鉄道会社を利用することによる運賃などの問題は、別に東京の地下鉄に限った話ではないのですが)。東京以外の都市、例えば大阪市、名古屋市などにおいては地下鉄と言えば公営でしたが(現在、大阪市の地下鉄は大阪市高速電気軌道によって運営されています)、他の都市と違い、東京の場合は山手線の中に限定すれば地下鉄網は帝都高速度交通営団、東京都交通局のいずれかに統一しやすかったはずです(現に、路線バスはほぼ都営バスに統一されています)。東京の地下鉄が東京メトロと都営地下鉄に分かれている点は、鉄道に詳しい人を除けば首都圏以外の場所に住む人にとって、あるいは首都圏に住む人にとってもわかりにくいものです。私も何度か他のお客さんに尋ねられたことがあります。外国人観光客にとってはもっとわかりにくいでしょう。やはり、私も何度か尋ねられましたし、駅の運賃表を怪訝な顔つきで眺めている観光客を見たこともあります。

 第二の話が長くなりましたので、第三に移ります。東京地下鉄株式会社法の廃止、すなわち(とは言えないかもしれませんが)完全民営化が実現するかどうかです。あるいは、完全民営化が望ましいかどうかと考えたほうがよいかもしれません。東京メトロの株式上場は、帝都高速度交通営団の解散と東京メトロの発足が行政改革の一環であったことを想起すれば、完全民営化は望ましいことでしょう。しかし、それが交通政策にとって良いことであったということは、全く別の話となります。東京メトロも、御多分に漏れず、COVID-19による極端な乗客減に苦しめられましたが、そのようなことが二度と発生しないとは考えないほうがよいですし、そうでなくとも今後は緩やかながらも乗客は減少していきます。公共交通を誰が支えるかが久しく問われていますが、東京の地下鉄についても妥当する日が来る可能性はあると言えるでしょう。

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