1.地方交付税制度の存在意義
地方交付税制度は財政調整制度、日本流の表現では地方財政調整制度の代表的な存在である。「第3部:地方税財政制度 第10回:地方税財政法の基本原則(地方財政権その2)」において、地方税財政法の基本原則の一つとして地方税財政自律主義を取り上げたが、いかに地方公共団体の財政を保障し、強固なものとするために地方税制度を組み立てたとしても、人口、産業基盤などの偏差により、地方公共団体の財政力に格差が生じることは避けられない。地方税制において完全な意味における普遍性を実現することは不可能に近いからである。しかし、格差を放置することは財政力の乏しい地方公共団体の存在を危うくし、ひいてはその住民の生活水準を低下させることになる。これは、憲法第14条および第25条の趣旨に鑑みても許されることではないであろう。
そのために、地方公共団体間の財政力の偏差あるいは格差を是正する必要が生ずる。こうして、財政調整制度としての地方交付税制度が存在するのである。
日本において財政調整制度に関する本格的な取り組みが始められたのは昭和時代に入ってからのことであり、1936(昭和11)年の臨時町村財政補給金制度を嚆矢として、1937(昭和12)年からの臨時地方財政補給金制度、1940(昭和15)年からの地方分与税制度と続いた※。シャウプ勧告を受けて1950(昭和25)年から地方財政平衡交付金制度※※が施行されたが、財政平衡交付金の総額をめぐる紛争が絶えなかったことから、1954(昭和29)年より地方交付税制度が採用され、現在に至っている。
※地方分与税制度は還付税と配布税とからなっていた。このうち、配布税は、所得税収入と法人税収入とのそれぞれに対する一定の割合を総額とするものであった。
※※地方財政平衡交付金制度は、地方分与税制度のうちの配付税と異なり、地方財政の必要に応じて平衡交付金の額を毎年決定し、国の一般財源から支出する、というものであった。財政平衡交付金制度の場合、たしかに、地方財政の強化や平準化には資する。しかし、総額を決定する際に国と地方公共団体との間に紛争が生じやすくなるという問題点がある。
地方交付税制度は、世界の財政調整制度の中でもとくに精緻で複雑な制度であることで知られる。後にその点について検討を進めることとして、地方交付税の総額に関する基本的な事柄から入る。
地方交付税法第6条第1項は「所得税及び法人税の収入額のそれぞれ100分の33.1、酒税の収入額の100分の50、消費税の収入額の100分の19.5並びに地方法人税の収入額をもつて交付税とする」と定めている。
次いで、同第2項は「毎年度分として交付すべき交付税の総額」として「毎年度分として交付すべき交付税の総額は、当該年度における所得税及び法人税の収入見込額のそれぞれ100分の33.1、酒税の収入見込額の100分の50、消費税の収入見込額の100分の19.5並びに地方法人税の収入見込額に相当する額の合算額に当該年度の前年度以前の年度における交付税で、まだ交付していない額を加算し、又は当該前年度以前の年度において交付すべきであつた額を超えて交付した額を当該合算額から減額した額とする」と定める。
従って、地方交付税の総額は、上記5種類の国税の、対象年度における実際の収入額によって決定される訳ではない。まずは収入見込額、すなわち、国の歳入予算に計上される額を見積もり、これによって暫定的に計算する。そして、実際の収入額と収入見込額との差額を、後の年度における地方交付税の総額において精算することとなる。
また、地方交付税は普通交付税と特別交付税とに分けられる(同第6条の2第1項)。このうち、普通交付税の総額は第6条第2項の額の94%に相当する額、特別交付税の総額は第6条第2項の額の6%に相当する額である(同第2項・第3項)。
なお、地方交付税は、普通交付税であれ特別交付税であれ、垂直的財政調整のための制度である。但し、間接的であるが、水平的財政調整にも資する制度でもある。間接的と記したのは、地方公共団体相互間における資金のやり取りがなされないためである。それでも、都市部、または富裕な地方公共団体の領域から徴収される国税収入を、都市部以外の地域、または富裕でない地方公共団体に配分するという機能が、地方交付税には存在する。
2.地方交付税の目的および性質
地方交付税は、地方財政調整制度の一種であり、地方公共団体の財政力の格差を是正するための制度である。この他に、いかなる目的があるのか。地方交付税法第1条は、次のように規定する。
「この法律は、地方団体が自主的にその財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能をそこなわずに、その財源の均衡化を図り、及び地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障することによつて、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的とする。」
ここで明示されているのは、財源の均衡化は勿論、地方行政の計画的運営の保障、地方公共団体の独立性の強化である。地方交付税は、国庫支出金と異なり、使途が限定されていないので、財政の均衡化に資するのみならず、地方公共団体の行政を執行する権能を損なわないという利点を有する。但し、その利点が逆に作用することもありうる。とりわけ、現在のように、都道府県レヴェルでみるならば地方交付税不交付団体は東京都など数団体に過ぎず(しかも、東京都以外の団体、たとえば神奈川県、景気の推移によって不交付団体にも交付団体にもなる)、市町村レヴェルでみても地方交付税不交付団体が100団体程度ほどしか存在しないという状況では、過度に依存度を高め、結果として地方税財政自律主義を減殺させることになりかねない。
また、地方交付税は、あくまでも垂直的財政調整を第一の特質とするため、国の財政状態に左右されるという問題点もある。当然のことであるが、国の歳入が少なければ、地方交付税の総額も少なくなる。これまで、地方交付税率や算定などが度々変更されているが、1990年代には歳入に占める地方交付税の割合が全体的に上昇していたのに対し、2000年代に入ってからは国の財政事情や地方分権改革における見直しなどもあって低下傾向を示している。
地方交付税は地方固有の財源である、などと表現されることもある。しかし、これは不正確である。そもそも、財政力の調整のための制度であるから、交付を受ける地方公共団体と交付を受けない地方公共団体とに分けられるから、地方税と異なって固有の財源であるとは言えない。地方交付税の配分に関する権限は、第一次的にも最終的にも地方公共団体の側ではなく、国の側にある。また、憲法上、地方交付税制度が地方自治の本旨を実現するために不可欠な制度であるとしても、具体的な制度設計などは国の側に委ねられる訳であるから、その意味においても地方固有の財源とは言えない。あくまでも、一般財源として自主財源を補助するための資源と理解すべきである。
3.地方交付税の総額の変更
既に述べたように、地方交付税の総額は、収入見込額によって暫定的に計算した上で、実際の収入額と収入見込額との差額を、後の年度における地方交付税の総額において精算することによって算出する(なお、国家予算の補正がなされた場合には、補正後の額が収入見込額となる)。このため、地方交付税の総額が減額となる補正を受ける可能性はある。
地方交付税法第16条は、交付の時期を定める。原則として、第1項の表に掲げられている時期に一定の額を交付することになるのであるが、第2項は「当該年度の国の予算の成立しないこと、国の予算の追加又は修正により交付税の総額に変更があつたこと、大規模な災害があつたこと等の事由により、前項の規定により難い場合における交付税の交付時期及び交付時期ごとに交付すべき額については、国の暫定予算の額及びその成立の状況、交付税の総額の変更の程度、前年度の交付税の額、大規模な災害による特別の財政需要の額等を参しやくして、総務省令で定めるところにより、特例を設けることができる」と定めている。ここに言う特例には増額変更と減額変更の双方が含まれると解すべきであろう。どちらかを除外する趣旨が明文に現われていないからである。
もっとも、碓井教授も指摘するように、地方交付税の規定を概観すると、減額修正に関する規定は十分であると言えない〈 碓井光明『要説自治体財政・財務法』〔改訂版〕・(1999年、学陽書房)56頁 〉。
また、地方交付税の総額の変動には、地方税も関係する。所得税や法人税の計算の際に、地方税によっては必要経費や損金に算入されるので※、地方税について超過課税などを行った場合には国税収入が減少することになり、地方交付税の総額も減少することとなる。逆の関係も成立する。
※まず、所得税法第45条第1項第4号は、必要経費に算入しない地方税として道府県民税および市町村民税をあげる。また、同第5号は、地方税法に定められる延滞金、過少申告加算金、不申告加算金および重加算金を必要経費に算入しないことを定める。
次に、法人税法第38条第2項第2号は、損金に算入しない地方税として道府県民税および市町村民税(退職年金等積立金に対する法人税に係るものを除く)をあげる。また、同第55条第3項第2号は、地方税法に定められる延滞金、過少申告加算金、不申告加算金および重加算金を必要経費に算入しないことを定める(但し、延滞金によっては損金に算入するものもある)。
なお、地方交付税法第10条第1項により、普通交付税は、毎年度、基準財政需要額が基準財政収入額を超過する、すなわち、財源不足が生じる場合に、その財源不足の額を地方公共団体に対して交付されることとなっている。仮に財源不足の合算額が普通交付税の総額を超過する場合には、同第2項ただし書きにより、次のように算出して得られた額を交付する。
A-B×(C-D)/E
A:当該地方団体の財源不足額
B:当該地方団体の基準財政需要額
C:財源不足額の合算額
D:普通交付税の総額
E:基準財政需要額が基準財政収入額をこえる地方団体の基準財政需要額の合算額
ここで、B×(C-D)/Eの部分が調整率である。これにより、基準財政需要額を圧縮することによって調整することになる。そして、その調整を経た後の額が普通交付税の合算額に満たない場合には特別交付税の総額を減額した上で普通交付税に充てることとされる(同第6項)。
4.地方財政計画
地方財政計画は、地方交付税法第7条に従い、毎年度、内閣が作成する「翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類」であり、国会に提出して審議の参考に供さなければならないとともに、一般に公表しなければならないこととなっている。その内容は、地方公共団体全体の予算とも言いうるものとなっており、地方交付税の総額は勿論、地方債発行額の総額なども決定される。
地方財政計画には、次の事項を記載しなければならない。
①地方公共団体の「歳入総額の見込額及び左の各号に掲げるその内訳」(「各税目ごとの課税標準額、税率、調定見込額及び徴収見込額/使用料及び手数料/起債額/国庫支出金/雑収入」)
②地方公共団体の「歳出総額の見込額及び左の各号に掲げるその内訳」(「歳出の種類ごとの総額及び前年度に対する増減額/国庫支出金に基く経費の総額/地方債の利子及び元金償還金」)
5.基準財政需要額および基準財政収入額
既に述べたように、普通交付税は、毎年度、基準財政需要額が基準財政収入額を超過し、財源不足が生ずる場合に、その財源不足の額として地方公共団体に対して交付される(地方交付税法第10条第1項)。そこで、基準財政需要額および基準財政収入額の意味が重要となる。
この二つは、地方公共団体の財政力を測るためにも重要な概念である。財政力指数は、基準財政需要額に対する基準財政収入額の比率として求められるからである。
(1)基準財政需要額
地方交付税法第11条により、基準財政需要額は「測定単位の数値を第13条の規定により補正し、これを当該測定単位ごとの単位費用に乗じて得た額を当該地方団体について合算した額」と定義される。すなわち、基準財政需要額は、地方公共団体が行政サーヴィスを行うために必要な財政需要を、各々の行政項目ごとに、経常的経費、投資的経費として算定した合計額を基礎とし、これに公債費(地方債の償還費)を加えた額のことである。
これをさらに詳しくみていくことにすると、経費の種類ごとに測定単位が設けられており、その数値に補正係数を乗じ、さらに単位費用を乗じて得られた額の合計額が基準財政需要額である。従って、
各行政項目の基準財政需要額=測定単位×補正係数×単位費用
という数式で表すことができる〈林宏昭・橋本恭之『入門地方財政』〔第2版〕(2007年、中央経済社)138頁による〉。
ここで測定単位は、第12条に定められるように、経費に係る財政需要の大きさを、合理的かつ客観的に反映するための指標であり、経費の種別ごとに定められている。たとえば、都道府県の警察費については警察職員数、教育費のうちの小学校費および中学校費については教職員数となっている。同条の表のみではわかりにくいが、経常的経費と投資的経費の違いは、たとえば都道府県の教育費のうちの高等学校費については、経常的経費の測定単位が教職員数、投資的経費の測定単位が生徒数というようになっている。経常的経費の測定単位と投資的経費の測定単位が同一である場合も存在する。
測定単位の数値の補正は第13条に定められる。これには種別補正、段階補正、密度補正、態容補正、寒冷補正、数値急増・急減補正、災害復旧費補正がある。
種別補正:「面積、高等学校の生徒数その他の測定単位で、そのうちに種別があり、かつ、その種別ごとに単位当たりの費用に差があるものについては、その種別ごとの単位当たりの費用の差に応じ当該測定単位の数値を補正する」ものであり(第1項)、「当該測定単位の種別ごとの数値に、その単位当りの費用の割合を基礎として総務省令で定める率を乗じて行うものとする」(第2項)。
段階補正:「人口その他測定単位の数値の多少による段階」による補正をいう(第3項第1号、第4項第1号)。
密度補正:「人口密度、道路1キロメートル当たりの自動車台数その他これらに類するもの」による補正をいう(第3項第2号、第4項第2号)。
態容補正:「地方団体の態容に応じてそれぞれ割高となり又は割安となるものについて行う」補正をいう(第3項第2号、第4項第3号)。
寒冷補正:「寒冷度及び積雪度」(第3項第4号)によって「当該行政に要する経費の測定単位当たりの額」が割高となるものについて行われる補正をいう(第4項第4号)。
数値急増・急減補正:「人口、学校数その他の測定単位の数値が急激に増加し又は減少した地方団体、廃置分合又は境界変更のあつた地方団体及び組合(地方自治法第284条第1項の一部事務組合、広域連合又は役場事務組合をいう。)を組織している地方団体に係る補正係数」(第10項)。
災害復旧費補正:「災害復旧費に係る測定単位の数値に」ついて行われる補正(第11項)。
いずれの補正についても、補正係数の算定方法につき必要な事項は、法律にも施行令にも定められておらず、普通交付税に関する省令という総務省令で定められることとなっている(第12項)。地方交付税制度が非常に理解し難い制度になっている原因の一つが、ここに現われている。
単位費用は、地方公共団体が標準的な行政活動を行う際に必要とされる一般財源の額を、測定単位1について示したもので、次のように計算される〈林・橋本・前掲書139頁による〉。
(A-B)/C=D/C
A:標準団体(これは一種の仮想団体であり、市町村であれば人口10万人、面積160平方キロメートルという想定がなされている)の標準的歳出
B:国庫補助金等特定財源
C:標準団体の測定単位の数値
D:標準団体の標準的一般財源所要額
詳細は、第12条第4項および第5項を受け、別表第一および別表第二に規定される。
(2)基準財政収入額
基準財政収入額は、地方交付税法第14条に定められるものであり、標準地方税収入の見積額である。ここで標準地方税収入は、法定普通税および一部の目的税、地方譲与税その他の収入を言い、法定普通税および一部の目的税、都道府県税交付金(市町村)については、それぞれの収入の75%、地方譲与税については100%が算入される。但し、附則第7条の2により、道府県個人住民税および市町村個人住民税の所得割については「当分の間」100%が基準財政収入額に算入される。
また、附則第7条により、「当分の間」ではあるが道路交通法附則第16条第1項に定められる交通安全対策特別交付金の収入見込額も基準財政収入額に算入される。
基準財政収入額を算出する際の地方税の税率は、地方交付税法第14条第2項により、基準税率というものが利用される。これは、地方税法第1条第1項第5号に定められる標準税率または一定税率が基礎となっており、道府県税、市町村税など、いずれについても75%となっている。
基準財政収入額に含まれない標準地方税収入は、留保財源といわれ、使途の決定が地方公共団体に委ねられている。
6.地方交付税制度の問題点
これまで、地方交付税制度の概要を述べてきたが、非常に複雑な制度であり、理解や説明に苦労する。実際の算出は、とくに補正係数が絡んでくるために面倒になる。しかも、この補正係数が法律にも施行令にも定められず、普通交付税に関する省令という総務省令で定められるのである。実際に、地方交付税制度を、そして毎年度の地方交付税の算定の様子などを正確に理解しうる者は総務省の内部にごく僅か存在するだけであるという話すらある。
また、算定時期、交付時期に不安定性があることも指摘されている。地方交付税法第8条は「各地方団体に対する交付税の額は、毎年度4月1日現在により、算定する」と定めるのであるが、総務大臣による普通交付税の額の決定は「遅くとも毎年8月31日までに決定しなければならない。但し、交付税の総額の増加その他特別の事由がある場合においては、9月1日以後において、普通交付税の額を決定し、又は既に決定した普通交付税の額を変更することができる」とされる(同第10条第3項)。従って、或る地方公共団体に普通交付税が交付されるか否か、換言すれば、或る地方公共団体が交付団体になるか否かは、通常、その年度の8月下旬頃にならなければわからないということになる。
さらに、交付団体になるか否かは、地方交付税以外の財源にも影響を与えることとなる。
普通交付税に関する省令は、基準財政収入額の算定に関する詳細などを定めるのであるが、この省令はほぼ毎年、7月下旬に改正される。そのため、とくに法人関係の地方税については、収入の伸び率などがどのように変化するかが基準財政収入額の変化に影響を及ぼすこととなる。
なお、合併を行った市町村については、市町村の合併の特例等に関する法律第17条により「国が地方交付税法(昭和25年法律第211号)に定めるところにより合併市町村に対して毎年度交付すべき地方交付税の額は、当該市町村の合併が行われた日の属する年度及びこれに続く5年度については、同法及びこれに基づく総務省令で定めるところにより、合併関係市町村が当該年度の4月1日においてなお当該市町村の合併の前の区域をもって存続した場合に算定される額の合算額を下らないように算定した額とし、その後5年度については、当該合算額に総務省令で定める率を乗じた額を下らないように算定した額とする」こととされる。
7.特別交付税
特別交付税は、地方交付税法第15条第1項により「第11条に規定する基準財政需要額の算定方法によつては捕そくされなかつた特別の財政需要があること、第14条の規定によつて算定された基準財政収入額のうちに著しく過大に算定された財政収入があること、交付税の額の算定期日後に生じた災害(その復旧に要する費用が国の負担によるものを除く。)等のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があることその他特別の事情があることにより、基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の劃一性のため生ずる基準財政需要額の算定過大又は基準財政収入額の算定過少を考慮しても、なお、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に対して、総務省令で定めるところにより、当該事情を考慮して交付する」ものとされている。
具体的な算定方法は、特別交付税に関する省令(現在は総務省令)に規定されており、この省令に基づき、総務大臣が毎年度、12月中および3月中の2回に分けて額を決定する。その際、「第1回目の特別交付税の額の決定は、その総額が当該年度の特別交付税の総額の3分の1に相当する額以内の額となるように行う」こととされている(地方交付税法第15条第2項。同第16条も参照)。
8.誘導策としての地方交付税
地方交付税は、本来、地方公共団体の一般財源を補充するための資金として位置づけられるべきものであり、何らかの政策目的のための誘導策として用いられるべきものではない。しかし、実際には、国の特定政策のための誘導策として利用される傾向が強くなっている。とりわけ、特別交付税の場合は誘導策としての機能を強く発揮する。この点については、特別交付税に関する省令を参照されたい。
しかし、普通交付税であっても誘導策としての機能を発揮することがある。私としては、このことを問題としたい。もっとも、地方交付税に特定政策のための誘導策としての機能を持たせることが、直ちに憲法上の問題などを惹起する訳ではない。それでも、数の上で交付団体が不交付団体を圧倒的に上回る状況が続いている中では、その時々の国の政策に従うか否かが地方公共団体の財政状況を左右するという結果につながりやすいだけに、地方交付税が地方を支配するための有効な道具として扱われやすいことを意味する。
その方法の第一は、地方公共団体が国の法律に従って一定の施策を実施する際にみられる。地方公共団体が地方税の課税免除や不均一課税などを行った場合には、こうした措置による減収額を基準財政収入額から控除するという方法である。この方法は多くの法律において採用されている。また、地方交付税法第14条は基準財政収入額の算定の際に標準税率を採用するので、この標準税率より低い税率によることは、地方公共団体の財政に余裕があるとみられることになる。逆に、標準税率より高い税率、すなわち超過税率を採用しても、基準財政収入額の算定に反映されない。
第二は、地方債の元利償還金の全部または一部を、普通地方交付税の基準財政需要額の計算において単位費用として算入する、という方法である。これは、旧市町村合併特例法第11条の2第2項で威力を発揮した方法であり、合併しなければ地方交付税の交付額が減少するという施策もセットされた上に、同第1項により発行される合併特例債とあいまって、多くの市町村の合併を強力に推進する役割を果たした。また、一種の変形として、事業費補正に算入するという方法もある。
碓井教授も指摘するように、地方交付税を「受け皿として一定の国の政策を推進することは、もともと交付税に期待されていた機能から相当離れたものであ」り、「地方債の元利償還金を交付税で措置することは、『もらい得』の観念を生むばかりでなく、国(納税者)の将来の負担を約束するものであり、極力抑制されなければならない」〈碓井・前掲書64頁〉。しかし、実際には、むしろ濫用ではないかと疑われるほどに多用されており、長期的に地方財政を悪化させるのではないかという懸念をぬぐえない。
第三は、やはり地方債に関連するものであるが、特定の基金に資金の拠出をなす際に地方債を発行し、元利償還金について地方交付税措置を採るという方法である。これには、特定の民間事業への融資の原資に際して地方債の発行を認め、利息負担分について地方交付税措置を採るという変形もある。
9.地方交付税の減額などに関する勧告および返還請求
地方交付税の交付については減額補正などがありうることは既に述べた。これとは別に、地方公共団体の行政活動の態様によっては、特定の地方公共団体に対し、地方交付税に関する勧告、さらには返還請求が行われることがありうる。
基準財政需要額の算定は、都道府県および市町村が法令により定められる行政事務を着実に行うことを前提としている。そこで、地方交付税法第20条の2第1項により、「関係行政機関は、その所管に関係がある地方行政につき、地方団体が法律又はこれに基く政令により義務づけられた規模と内容とを備えることを怠つているために、その地方行政の水準を低下させていると認める場合においては、当該地方団体に対し、これを備えるべき旨の勧告をすることができる」とされる。なお、この勧告をなす際には、あらかじめ、総務大臣に通知することを必要とする(地方交付税法第10条の2第2項)。
この勧告に地方公共団体が従わなかった場合には、同第3項により、関係行政機関が総務大臣に対し、当該地方公共団体に「交付すべき交付税の額の全部若しくは一部を減額し、又は既に交付した交付税の全部若しくは一部を返還させることを請求することができる」。これを受けて、第4項により、総務大臣は、当該地方公共団体の弁明を受けた上で「災害その他やむを得ない事由があると認められる場合を除き、当該地方団体に対し交付すべき交付税の額の全部若しくは一部を減額し、又は既に交付した交付税の全部若しくは一部を返還させなければならない」。これは、国が自らの政策を地方公共団体にとらせる―さらに強く表現すれば、従わせる―ために威力を発揮する、非常に強力な手段であると評価しうる。但し、第5項により、減額または返還額は「当該行政につき法律又はこれに基く政令により義務づけられた規模と内容とを備えることを怠つたことに因り、その地方行政の水準を低下させたために不用となるべき額をこえることができない」という歯止めはかけられている。
以上とは別に、地方財政法第26条第1項は、「地方公共団体が法令の規定に違背して著しく多額の経費を支出し、又は確保すべき収入の徴収等を怠つた場合においては、総務大臣は、当該地方公共団体に対して交付すべき地方交付税の額を減額し、又は既に交付した地方交付税の額の一部の返還を命ずることができる」と定める。これは、地方交付税法第20条の2と比較するならば、やむをえないもの、あるいは妥当性の高いものとも考えることができるが、裁量性が完全に否定されている訳ではないだけに、根幹に深刻な問題を抱えうるものであるとも言いうる。
10.地方特例交付金
地方交付税とは別に、地方公共団体の財源を保障する手段として、地方特例交付金制度が存在し、地方特例交付金等の地方財政の特別措置に関する法律によって規律される。
地方特例交付金は、元々、1999(平成11)年に行われた減税措置に伴い設けられた制度である。現在、同法第1条は次のように規定する。
「この法律は、個人の道府県民税(都民税を含む。第三条において同じ。)の所得割及び個人の市町村民税(区民税を含む。同条において同じ。)の所得割の収入が地方税法(昭和25年法律第226号)附則第5条の4及び第5条の4の2(同法附則第45条の規定により読み替えて適用する場合を除く。)の規定による控除(第3条において「住宅借入金等特別税額控除」という。)を行うことにより減少することに伴う地方公共団体の財政状況に鑑み、その財政の健全な運営に資するため、当分の間の措置として、地方特例交付金の交付その他の必要な財政上の特別措置を定めるものとする。」
地方特例交付金は都道府県および市町村に対するものであり(同第2条第1項)、児童手当特例交付金および減収補てん特例交付金の二種類である(同第2項)。児童手当特例交付金の額は同第3条に、減収補てん特例交付金の額は同第4条に定められている。
なお、地方特例交付金は、普通交付税の基準財政需要額に全額が算入される。
▲第6版における履歴:2022年12月25日掲載。
▲第5版における履歴:未掲載。