昨日(2020年10月29日)付の朝日新聞朝刊33面13版に、気になる記事がありました。「議員処分は裁判対象外? 最高裁大法廷が弁論 判例変更か」です。
10月28日、最高裁判所大法廷で口頭弁論が行われました。
事件が大法廷で扱われていること自体、判例変更の可能性があるということを意味します。裁判所法第10条は「事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない」と定めています。「左の場合」とは、「当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)」(第1号)、「前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。」(第2号)および「憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。」(第3号)です。高等裁判所で出された判決について上告がなされると、通常は3つある小法廷のいずれかで扱われますから、事件が大法廷に回送されたということは、法令について初めて合憲・違憲の判断がなされるとき、法令の合憲・違憲について既に存在する判例が変更されるとき、法令の解釈運用に関する判例が変更されるときには、大法廷で扱われるということです。
また、口頭弁論が開かれることにも注意が必要です。地方裁判所や高等裁判所であれば口頭弁論が開かれるのが通常ですが、最高裁判所は違います。民事訴訟法第319条は「上告裁判所は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により、上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で、上告を棄却することができる。」と定めていますから、上告を棄却するのであれば、口頭弁論を開く必要もない訳です。同じく民事訴訟法の第321条第1項は「原判決において適法に確定した事実は、上告裁判所を拘束する。」と定めており、高等裁判所が下した判決における事実認定に、最高裁判所は拘束されます。その上での口頭弁論ですから、法令の解釈運用などに関する最高裁判所の判断が変更される可能性もある訳です。
問題となっている事件について記しておかなければなりません。2016年、宮城県は岩沼市の市議会議員であった原告は、議会における発言が理由で23日間の出席停止処分を受けました。これに対し、原告は処分の取消および議員報酬の支払いを求め、岩沼市を被告として訴訟を提起しました。仙台地方裁判所平成30年3月8日判決(判例時報2395号45頁)は原告の訴えを却下したのですが、仙台高等裁判所平成30年8月29日判決(判例時報2395号42頁)は事件を仙台地方裁判所に差し戻す旨の判決を出しました。岩沼市が上告し、今回の話につながったのです。
争点は「地方議会による出席停止処分が裁判所による審査の対象となるか」です。これについては最高裁判所昭和35年10月19日大法廷判決(最高裁判所民事判例集14巻12号2633頁)が「自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあ」り、「出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする」と述べています。ただ、除名処分のみ異なり、これは「議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止らない」ために裁判所による審査の対象になるとも述べています。出席停止は「議員の権利行使の一時的制限に過ぎない」から、ということでしょう。
このような判断が妥当なところなのか、議論はあります。懲戒処分である以上は裁判所法第3条第1項にいう「法律上の争訟」の対象であり、権利義務に関わるものなのですから、裁判所による審査の対象となると考えるべきであるという見解も有力であると思われます。国会議員の場合は憲法第55条に「両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。」という明文の規定があるので、裁判所による審査の対象になりません。しかし、地方公共団体の議会の議員については、憲法はもとより、地方自治法などにも明文の規定がありません。そうである以上、司法審査の対象から外すには十分な根拠が必要であると考えるべきでしょう。