時々、行政法の講義の際にローカルニュースをチェックするように言います。行政法のネタが見つかるからです。
今日(2021年11月30日)、朝日新聞社のサイトで「解任処分の執行停止を決定 医療センター問題で宮崎地裁」という記事を見つけました(https://www.asahi.com/articles/ASPCY73KDPCYTNAB00G.html)。今日の9時30分付です。
現在、宮崎地方裁判所で或る裁判が係属中です。それは、西都市長が、同市にある西都児湯医療センターという地方独立行政法人の理事長を11月30日付で解任するという処分を行ったことにつき、その処分の取消を求める訴訟です。この処分は11月22日に市長から理事長に通知されたようで、おそらく、理事長は通知を受けてすぐに提訴したのでしょう。宮崎地方裁判所がこの処分の執行を停止する決定を出したのは29日のことでした。
執行停止については、このブログに掲載している「行政法講義ノート〔第7版〕」の「第36回 取消訴訟の本案審理、執行停止制度、取消訴訟の判決」をお読みいただきたいのですが、ここでも少々記しておきましょう。
行政庁による処分は、仮に取消訴訟が提起されても、執行も効力も停止されないのが原則です。これは行政事件訴訟法第25条第1項に定められていることです。しかし、この原則を貫いてしまうと、原告の側に重大な損害が生ずることがありえます。そうなると、原状回復が困難になったり、金銭賠償が不可能になったりすることもありえます。そこで、原告側からの申立により、裁判所が執行停止の決定を出すことができるようになっています(同第2項)。
今回の宮崎地方裁判所の決定で執行停止が行われたということは、理事長解任処分が理事長に重大な損害を与えうるということです。上記記事にも「社会的信用が著しく損なわれる事態が生じうる」という言葉があり、これが宮崎地方裁判所の決定にも書かれていたようなのです。今日付で解任ということでは、訴訟の係属中に、というより提訴後に程なくして効果が発生してしまうこともあり、執行停止ということになったのでしょう。事件の詳しい状況などがわかりませんが、処分の通知から当初の効果発生時期が短いように思われますし、どのような手続によって解任処分が行われたのかと疑わしい部分もあったのではないでしょうか。行政手続法第13条第1項に従うならば聴聞が行われるべき処分ですし(市長が行った処分なので行政手続条例が適用されるべきものでしょうが)、処分による不利益も重大なものです。
執行停止はあくまでも仮の救済手続です。また、執行停止が行われたからといって処分を取り消す旨の判決が出るとは限りません。訴訟の行方を見守っていきたいものです。