現在開かれている第198回国会では、全体として議案としての法律案が少なく、衆議院議員提出法律案を見ると第198回国会で新たに提出されたものは5本のみ、参議院議員提出法律案に至っては審査・審議の対象とされるのが3本のみ(いずれも第198回国会において新たに提出されたもの)となっています。
その中で、法学部に勤務する者としては衆議院議員提出法律案第5号の「司法試験法等の一部を改正する等の法律案」が気になるところです。これは、4月17日に国民民主党および社会保障を立て直す国民会議(衆議院における会派)が共同で提出したものであり〔同日付の時事通信社「口述復活、予備試験廃止を=司法試験改革で対案—国民など」(https://www.jiji.com/jc/article?k=2019041700813&g=pol)によります〕、可決・成立する可能性は低いと思われますが、同時に提出された要綱も参照しながら改正案を見ていきます。
〈1〉改正案の第1条
「司法試験法の一部改正」という見出しが付されており、司法試験法の目次を改めるほか、次のような内容となっています(なお、以下においては、原則として漢数字を算用数字に改めています)。
(1)司法試験法第1条の見出しを改め、さらに同第3項を削除する。
司法試験法第1条第3項は「司法試験は、第4条第1項第1号に規定する法科大学院課程における教育及び司法修習生の修習との有機的連携の下に行うものとする」と定めています。これを削除するという訳です。
法律案の提出理由において「司法試験を広く受験しやすいものとするとともに、法曹の資質の維持向上を図るため、司法試験の受験者を法科大学院修了者及び司法試験予備試験合格者に限定する制度を廃止するほか、司法試験の方法及び試験科目の見直し並びに司法修習の期間の2月延長の措置を講じ、併せて弁護士会等による弁護士への研修機会の提供等に関する規定を設ける等の必要がある」と述べられています。完全に、とは言えませんが実質的に新司法試験を廃止し、旧司法試験を復活させて拡充させるような内容なのです。こうなると、法科大学院の設置を続ける意味が半減するでしょう。司法試験法第1条第3項の削除は、こうした提出理由をよく具体化するものにもなっているのです。
(2)司法試験法第2条の見出しを改め、同第1項に追加を行うとともに、同第2項を削除する。
現行の同条第1項は「司法試験は、短答式(択一式を含む。以下同じ。)及び論文式による筆記の方法により行う」と定めています。改正案は、これに口述試験を加えるというものです。旧司法試験においては論文式試験の合格者に対して口述試験を行い、その合格者を最終合格者としていました。新司法試験においては口述試験が廃止されていたのですが(予備試験には口述試験があります)、復活させようとするものです。このことにより、「司法試験の合格者の判定は、短答式による筆記試験の合格に必要な成績を得た者につき、短答式による筆記試験及び論文式による筆記試験の成績を総合して行うものとする」と定める同第2項は不要になるので削除する、という訳です。
(3)司法試験法第3条を改正する。
司法試験の受験科目を改めるという内容です。
まずは短答式です。現在、短答式の科目は憲法、民法および刑法ですが(同第1項)、これを憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法および刑事訴訟法に改めるというのです。新司法試験の開始からしばらくの間は行政法も短答式の試験科目となっていましたので、復活させるということになります。ちなみに、旧司法試験の短答式の科目は現在と同じく憲法、民法および刑法でした。提出理由の「司法試験を広く受験しやすいものとする」という部分とは矛盾しますが「法曹の資質の維持向上を図る」ことには資するのでしょうか。
次に論文式です。現行の同第2項は、次のように定めています。
「論文式による筆記試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な学識並びに法的な分析、構成及び論述の能力を有するかどうかを判定することを目的とし、次に掲げる科目について行う。
一 公法系科目(憲法及び行政法に関する分野の科目をいう。)
二 民事系科目(民法、商法及び民事訴訟法に関する分野の科目をいう。)
三 刑事系科目(刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目をいう。)
四 専門的な法律の分野に関する科目として法務省令で定める科目のうち受験者のあらかじめ選択する1科目」
改正案は、同項を次のように改めるとしています。
「論文式による筆記試験は、短答式による筆記試験に合格した者につき、次に掲げる科目について行う。ただし、法科大学院(学校教育法(昭和22年法律第26号)第99条第2項に規定する専門職大学院であつて、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするものをいう。)の課程を修了した者に対しては、その申請により、第2号に掲げる科目の試験を免除する。
一 前項各号に掲げる科目
二 法律実務基礎科目(法律に関する実務の基礎的素養(実務の経験により修得されるものを含む。)についての科目をいう。)」
改正案によれば、論文式試験の科目は憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法および法律実務基礎科目です。一方、現在の論文式試験では租税法、経済法、労働法などから1科目を選択することとなっていますが、改正案では選択科目が排除されています。口述試験でも問われることはないのでしょう。
また、第2号により、法科大学院の制度を存続させる意味は失われない、ということになるのでしょう。ただ、第1条第3項を削除することなどにより「司法試験の受験者を法科大学院修了者及び司法試験予備試験合格者に限定する制度を廃止する」ということになるので、改正案の第3条第2項第2号が施行されるのであれば法学部か大学院法学研究科に法律実務基礎科目を設置しなければならなくなるでしょう。あるいは、柱書のただし書きには法科大学院修了者については法律実務基礎科目の試験を免除しうる旨が示されているため、これによって法科大学院の存続を保障しようということなのかもしれません。法科大学院修了者には有利であると考えられるからです。
そして口述試験です。改正案は第3条第3項として「筆記試験に合格した者につき」、「公法系科目(憲法及び行政法に関する分野の科目をいう。)」、「民事系科目(民法及び民事訴訟法に関する分野の科目をいう。)」および「刑事系科目(刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目をいう。)」について口述試験を行うとしています。現行の第3条第2項各号をそのまま移行したようなものとなっています。
以上については「前3項に掲げる試験科目については、法務省令により、その全部又は一部について範囲を定めることができる」(改正案の第3条第4項)、「司法試験においては、その受験者が裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を備えているかどうかを適確に評価するため、知識を有するかどうかの判定に偏することなく、法律に関する理論的かつ実践的な理解力、思考力、判断力等の判定に意を用いなければならない」(同第5項)、および「筆記試験に合格した者に対しては、その申請により、次回の司法試験の筆記試験を免除する」(同第6項)としています。
(4)司法試験法第4条および第5条を削除する。
現行の第4条は「司法試験の受験資格等」に関する規定で、原則として法科大学院を修了した者に受験資格を与えるものですが、改正案ではこれを削除します。
また、現行の第5条は予備試験に関する規定ですが、改正案ではこれも削除します。
そうすると、改正案には受験資格に関する規定が存在しないことから、年齢も関係なく、誰でも受験できるということになるのでしょう。教養科目のような規定もありません。現行の第5条第2項第8号には予備試験の短答式試験の科目として一般教養科目があげられており、これは明らかに法律実務基礎科目と異なりますから、一般教養科目(何が一般教養であるかは議論があるでしょうが)は試験科目から外される訳です。実際にそのような人がどれほど現れるかはわかりませんが、中学生や高校生でも受験は可能ということになります。改正案の規定からして、具体的な受験資格を政令や省令で定めるということも許されないのではないかと思われます。こうなると、法科大学院の存在意義は、前述のように法律実務基礎科目の存在による優位という点のみとなりそうです。
(5)その他
上記の改正による条の繰り上げなど、文言の修正です。
〈2〉改正案の第2条
「裁判所法の一部改正」という見出しが付けられており、改正点は1点のみです。
現行の裁判所法第67条第1項は、「司法修習生は、少なくとも一年間修習をした後試験に合格したときは、司法修習生の修習を終える」と定めています。改正案は、司法修習の期間を最低でも1年2か月にする、というものです。
正直なところ、何故1年2か月という中途半端な期間を設けようとするのか、量りかねるところがあります。
〈3〉改正案の第3条
「弁護士法の一部改正」という見出しが付けられています。改正は2点あるのですが、「研修の機会の提供等」という見出しが付された第43条の16の新設が中心であり、もう1点はこの新設に伴う第50条の修正に留まります。
第43条の16は、次のようなものです。
「弁護士会は、法科大学院(学校教育法第99条第2項に規定する専門職大学院であつて、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的とするものをいう。)等と連携しつつ、その所属する弁護士に対しその資質の維持向上に資する研修の機会の提供を行うとともに、その所属する弁護士及び弁護士法人に係る情報その他のそのサービスの利用を容易にするための情報の提供等に努めるものとする。」
〈4〉改正案の第4条
「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」を廃止するというものです。法科大学院の教育内容の自由度が高まるとも言えますが、2000年代前半の司法改革の経緯からすれば、法科大学院の存在意義の、少なくとも半分を失わせる内容でもあります。
〈5〉附則
第1条から第8条までは施行日や経過措置を定めています。また、第10条および第11条は社会保険労務士法の一部改正および経過措置に関するものとなっています。
改正案の附則で最も目に付くのは「法曹の要請に関する配慮」という見出しが付された第9条で、「国は、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会が実現されるよう、法曹の養成に関し、弁護士又は弁護士法人に対して法律事務の取扱いの依頼が困難な地域が生じないようにするために必要な配慮をするものとする」となっています。
また、附則第12条は「法科大学院への裁判官及び検察官その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律」の第1条を改正するものとなっています。これは、改正案の本則第4条で「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」を廃止することとされているために文言の修正を行うものです。
◎以上の通りとなりますが、いかがでしょうか。何かと「抜け道」など(私はそう考えていませんが)として批判されてきた予備試験を名目的に廃止するものの、むしろ実として予備試験を行かすかのような内容ともなっています。改正案の方向性としては十分に理解できますし、このように進めるしかないだろうと考えていますが、早々の実現は難しいのではないでしょうか。
司法改革では、或る意味において法科大学院と矛盾する裁判員制度も導入されましたが、こちらは一定の成功を収めたしたと評価しうるでしょう。とは言え、問題がない訳ではありません。また、刑事裁判に限定する意味もあまりないと考えられます。むしろ、行政事件訴訟のほうが裁判員制度に向いているのではないでしょうか。市民感覚を私法に取り入れるというのであれば、その必要性は刑事訴訟より行政事件訴訟のほうが高いというべきです。