ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

平成27年度税制改正の関連法律は成立していないのか?

2015年03月31日 22時33分58秒 | 国際・政治

 仕事の関係で衆議院のサイト参議院のサイトを見ることが多いのですが、本日、これらを参照した限りでは、平成27年度税制改正の関連法律が成立していないようです。

 現在開かれている第189回国会に提出された議案のうち、法律案をみると、法律として成立したのは内閣提出法律案第1号の「地方交付税法の一部を改正する法律」(1月30日に衆議院本会議で可決、2月3日に参議院本会議で可決、2月12日に法律第1号として公布)、および同第9号の「沖縄県における駐留軍用地跡地の有効かつ適切な利用の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律案」(3月24日に衆議院本会議で可決、3月30日に参議院本会議で可決)のみです。また、衆議院議員提出法律案第4号の「格差是正及び経済成長のために講ずべき税制上の措置等に関する法律案」は、衆議院で否決されています。

 これ以外の法律案は、今も審議中となっています。平成27年税制改正の関連法律は、とりあえず、内閣提出法律案第3号の「所得税法等の一部を改正する法律案」、同第4号の「関税法及び関税暫定措置法の一部を改正する法律案」、同第5号の「地方税法等の一部を改正する法律案」です。また、同第6号の「地方交付税法等の一部を改正する法律案」も、税制改正そのものには直接的に関連しませんが、見落とすことはできません。いずれも「参議院で審議中」となっていますが、仮に昨日か今日に可決・成立したとしても、公布に間に合うかどうかは微妙なところでしょう。可決・成立が4月にずれ込むと、いつから改正法律を施行するかという問題が出てきます。暦年内または年度内であるからと言って遡及施行(遡っての施行)はして欲しくないものです。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高津図書館(溝口緑地)の桜

2015年03月31日 15時34分24秒 | まち歩き

3月も下旬になり、つい先日までの寒さが嘘のように暖かくなりました。

高津図書館の前にある溝口緑地の桜も満開です。そこで、持ち歩いているコンパクトデジタルカメラで撮影しました。

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三保の松原 羽衣の碑

2015年03月30日 13時09分09秒 | 旅行記

今から10年ほど前、2005年6月25日、私は、当時購入して間もなかった5代目ゴルフGLiを運転して、東名高速道路を川崎から清水まで走り、三保の松原へ行きました。

三保の松原を歩くと、海岸に程近い所ですが、少々目立ちにくいような場所に「羽衣の碑」があります。しかし、実は結構有名な記念碑なのです。

 マルセル・ジュグラリス(Marcel Giuglaris)の詩の碑文で、フランス語で書かれています。

 Le vent des vagues

 De la plage de Miho

 Parle de celle dont à Paris

 Hagoromo a emportè la vie

 En l'ecoutant mes jours

 Pourront s'enfuir.

 この詩は、亡き妻の舞踊家エレーヌを偲んで書かれたものです。エレーヌは、結局日本の土を踏むことはできなかったのですが、能に魅了され、「羽衣」を上演するまでに至ったのでした。その上演にも大きな役割を果たした夫マルセルは、亡き妻の、まさに遺志を胸にして、1950年代後半に来日し、1982年まで滞在しました。ジャーナリストであり、また、ユニフランス・フィルム駐日(極東)代表として、日本の映画をフランスに紹介するという役割などを果たした、とのことです。

こちらは、ジュグラリスの詩の邦訳です。なお、この記念碑ですが、実はエレーヌの遺髪と爪が埋められているとのことです。

 三保の松原には、何箇所かわかりませんが「二世の松」があり、このように案内板が立てられています。樹齢がどのくらいになるのか、多くの松も老齢化しているようです。あと何年か経てば、立派な木に成長するのでしょう。もっとも、時間はかかるでしょうが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

法科大学院への裁判官・検察官派遣停止

2015年03月29日 13時07分01秒 | 受験・学校

 今日(3月28日)の日本経済新聞朝刊42面12版に「裁判官・検察官の教員派遣 24法科大学院 停止」という記事が掲載されています。

 見出しの24のうち、17の法科大学院は既に募集を停止しているか、今年募集を停止することが決まっていますので、大した影響はないと言えるかもしれませんが、今後も再編が進むかもしれないという点では見落とせません。

 法科大学院では、裁判官または検察官が教員として派遣され、講義が行われています。しかし、最高裁判所および法務省は、合格率の低さなどを理由に、2015年度から24の法科大学院に対する派遣を停止する意向を示しています。

 既に募集を停止している明治学院大学および東北学院大学、今年募集停止となる大東文化大学、白鴎大学、獨協大学、東海大学、関東学院大学、新潟大学、信州大学、広島修道大学、香川大学・愛媛大学連合、久留米大学および鹿児島大学、来年募集を停止する予定の東洋大学、静岡大学、京都産業大学および熊本大学については、仕方のないところと言えるでしょう。しかし、募集を継続している7校については、今後の運営に支障が出ることになります。おそらく、2015年度の時間割が組まれ、準備が進められているはずですから、穴埋めを急がなければなりません。問題は、担当者を今月中に見つけることができるかということです。場合によっては、2015年度に入ってから探し、後期のみの科目とすることになるのでしょうか。

 裁判官・検察官の派遣停止は、文部科学省による補助金減額政策と並び、法科大学院の淘汰・再編を促す効果を持つこととなるでしょう。ただ、両者は必ずしも連携しているという訳ではなく、入学者数が10人未満である法科大学院も派遣停止の対象となるとは言っても、若干の食い違いが見られます。

 ここで、2015年2月1日21時47分33秒付の「熊本大学の法科大学院も募集停止に向けて調整か」で載せた、5段階の補助金増減率を確認しておきます。なお、既に募集停止をしているところ、または募集停止を決定したところについては取り消し線を付しておきます。

【基礎額算定率】

 A(90%)

 早稲田大学(45%加算)、一橋大学(40%加算)、東京大学(35%加算)、京都大学(30%加算)、慶應義塾大学(30%加算)、北海道大学(15%加算)、大阪大学(15%加算)、上智大学(10%加算)、名古屋大学(5%加算)、学習院大学(5%加算)、中央大学(3%加算)、東北大学(1%加算)、筑波大学(加算無し)

 B(80%)

 神戸大学(20%加算)、創価大学(15%加算)、成蹊大学(5%加算)、愛知大学(5%加算)、千葉大学(5%加算)、九州大学(加算無し)、横浜国立大学(加算無し)

 C(70%)

 同志社大学(35%加算)、岡山大学(24%加算)、琉球大学(15%加算)、立教大学(10%加算)、甲南大学(5%加算)

 D(60%)

 立命館大学(7.5%加算)、金沢大学(5%加算)、明治大学(5%加算)、広島大学(5%加算)、関西大学(5%加算)、関西学院大学(5%加算)、西南学院大学(5%加算)、青山学院大学(4%加算)、静岡大学(加算無し)、熊本大学(加算無し)、法政大学(加算無し)、神奈川大学(加算無し)、中京大学(加算無し)、南山大学(加算無し)、近畿大学(加算無し)、日本大学(改革案提案無し/加算無し)、山梨学院大学(改革案提案無し/加算無し)、東洋大学(改革案提案無し/加算無し)、名城大学(改革案提案無し/加算無し)、福岡大学(改革案提案無し/加算無し)

 E(50%)

 北海学園大学(加算無し)、京都産業大学(加算無し)、國學院大學(改革案提案無し/加算無し)、駒澤大学(改革案提案無し/加算無し)、専修大学(改革案提案無し/加算無し)、桐蔭横浜大学(改革案提案無し/加算無し)、愛知学院大学(改革案提案無し/加算無し)

 2015年度からの派遣停止の対象となった法科大学院のうち、学生募集を継続する7校は、いずれも上の基準額算定率ではDまたはEに分類されています。しかし、金沢大学の法科大学院は、補助金基準額算定率60%に5%が上乗せされることとなっていますが、派遣停止の対象となりました。また、Dに分類されるところでは、他に中京大学、南山大学、近畿大学および福岡大学が対象となっており、いずれも加算額なしなのですが、同様の法科大学院は他にもあります。さらに、Eに分類される法科大学院では、愛知学院大学が募集停止を発表していますが、派遣停止の対象とはなっていないのでしょうか(それとも、既に停止されているのでしょうか)。日本経済新聞の記事によれば、Eに分類されるところで派遣停止の対象となっているのは京都産業大学、北海学園大学および専修大学であり、その他は対象となっていないようなのです。いずれも入学者数(ないし定員充足率)による判断でしょうか。基準が不明確である嫌いも否定できません。

 いずれにせよ、法科大学院の再編は今後も進められることでしょう。補助金に次いで教員の派遣停止となれば、どちらかのみが行われるとしても存続は難しくなります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

おしらせです(2015年3月28日)

2015年03月28日 12時07分01秒 | 本と雑誌

 管理人の権限を利用して、お知らせです。

 今日、日本評論社のサイトを見たら、新・判例解説編集委員会編『速報判例解説vol. 16 新・判例解説Watch【2015年4月】』が発売されるとのことで(3月下旬としか記されていません)、紹介が載せられていました。

 この中の「租税法」のうち、「No.1 法律上存在しない土地に係る固定資産税等の誤納金不還付決定の取消が認められなかった事例」(神戸地方裁判所平成24年12月18日判決に関するもの)、および「No.10 同族会社による株式譲渡損失の損金算入の否認(日本IBM事件)」(東京地方裁判所平成26年5月9日判決に関するもの)は、私が執筆を担当したものです。

 御一読をいただければ幸いです。

 なお、日本IBM事件の東京高等裁判所判決が、今月25日に出されました。日本経済新聞2015年3月26日付朝刊46面12版「IBM側、二審も勝訴 東京高裁 課税1200億円取り消し 連結納税巡り」、朝日新聞2015年3月26日付朝刊39面14版「課税 高裁も認めず 1200億円 日本IBM側勝訴」で報じられています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

租税資料館の近くで(東京メトロ中野車両基地)

2015年03月27日 22時15分33秒 | 写真

 今月(3月)9日、或る用件のために、中野区南台にある租税資料館に行きました。最寄り駅は丸ノ内線方南町支線の終点、方南町駅(杉並区)ですが、駅を出て方南通りを新宿側に向かい、しばらく歩きます。方南町支線の中野富士見町駅のほうへ戻るような感じです。

 租税資料館の真向かいに、東京メトロの中野車両基地があります。丸ノ内線の車庫となっている中野検車区と、丸ノ内線および銀座線の車両整備を担当する中野工場から構成されており、丸ノ内線の02系はもとより、銀座線の01系および1000系を、時折ですが見ることができます。

 もっとも、周囲は高い壁に囲まれていますし、当たり前のことですが通常は中に入ることができません。いずれも、歩道から、デジタルカメラの望遠機能を使って撮影したものです。

 丸ノ内線の02系、第13編成です。側面には、02系より前に在籍した300形・400形・500形・900形でおなじみだったサインウェイヴの紋様が再現されています。

 02系には本線用の6両編成と支線用の3両編成があり、後者は80番台となっています。荻窪または中野富士見町の側から02-100形+02-200形+02ー300形+02-400形+02-500形+02ー600形となっています(3両編成の場合は02-100形+02-200形+02-300形)。

 こちらは銀座線の1000系です。2012年にデビューし、2013年度のブルーリボン賞(鉄道友の会)を受賞しました。現在も増備が進められており、銀座線の全駅にホームドアが設置され、ワンマン運転が実施されるようになれば(現在のところ、2016年度中に完了する予定です)、01系は全て廃車となり、1000系に統一されることとなります。

 敢えてレトロ調を狙ったとのことで、それがブルーリボン賞受賞の理由の一つにもなっていますが、私には、スタイルの面で01系のほうが勝っているように思われます。地方の路面電車ではないのですから、(中途半端な)レトロ調にする必然性も感じられません。01系が洗練されたデザインであっただけに、残念です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2014年12月の衆議院議員選挙に関する判決 「違憲状態」は続くか

2015年03月26日 22時15分04秒 | 法律学

 昨年(2014年)の衆議院議員選挙は、いわゆる0増5減を実行した上で行われました。今月(3月)19日、東京高等裁判所が合憲判決を出しましたが、20日には名古屋高等裁判所が違憲状態であったとする判決を出しました。以降、次のようになっています(3月26日付朝日新聞朝刊39面14版の「昨年衆院選 福岡『違憲』 一票の格差判決 選挙無効は棄却」という記事に掲載されている表によります)。

 23日 大阪高等裁判所:違憲状態

 24日 広島高等裁判所:違憲状態

 24日 仙台高等裁判所秋田支部:違憲状態

 25日 広島高等裁判所松江支部:違憲状態

 25日 名古屋高等裁判所金沢支部:違憲状態

 25日 高松高等裁判所:合憲

 25日 福岡高等裁判所:違憲(但し選挙そのものは有効と判断)

 25日 東京高等裁判所:違憲状態

 25日 広島高等裁判所:合憲

 26日 大阪高等裁判所:合憲〔朝日新聞社の3月26日13時42分付「一票の格差、大阪高裁は「合憲」と判断 昨年の衆院選」(http://digital.asahi.com/articles/ASH3T554TH3TPTIL01D.html)によります〕

 26日 福岡高等裁判所那覇支部:違憲状態〔朝日新聞社の3月26日14時30分付「衆院選一票の格差、福岡高裁那覇支部も『違憲状態』」(http://digital.asahi.com/articles/ASH3V4113H3VTIPE01J.html)によります〕

 なお、東京高等裁判所、大阪高等裁判所および広島高等裁判所ではそれぞれ二つの弁護士グループが提訴しており、判決は2回出されました。今後は、明日(3月27日)に福岡高等裁判所宮崎支部、4月9日に仙台高等裁判所、4月24日に札幌高等裁判所、4月28日に広島高等裁判所岡山支部から判決が言い渡されることとなっています。

 記憶に新しいと言えるかどうかわかりませんが、私はすぐに、2012年12月の衆議院議員選挙について、広島高等裁判所が2013年3月25日判決で選挙を違憲無効と判断したことを思い出しました(広島高等裁判所岡山支部も違憲無効判決を出しています)。これは、定数配分を定める公職選挙法の該当規定が違憲かつ無効であることを意味します。2013年3月6日に東京高等裁判所が、同8日に札幌高等裁判所が違憲と宣言しており、その他にも合憲と判断した裁判所は一つもなかったのでした。最高裁判所も、2013年11月20日大法廷判決(民集67巻8号1503頁および集民245号1頁)において違憲状態であると判断しました。

 これに対し、2014年12月の衆議院議員選挙については、これまでのところ、合憲判断が3つ、違憲状態判断が7つ、違憲判断が1つとなっています。しかも、上記を御覧いただければおわかりのように、2つ出された東京高等裁判所判決のうち、1つが合憲、もう1つが違憲状態となっており、判断が分かれています。大阪高等裁判所判決および広島高等裁判所判決も同様です。

 私は、このブログにおいて「「一票の格差」に対する違憲判決(事情判決)」(2013年3月9日9時34分48秒付)、「今度は初の無効判決」(2013年3月26日9時3分10秒付)を記し、論じました。これらを読まれた方から連絡があり、日本ビデオニュース株式会社の「ニュース・コメンタリー」という記事および動画のコーナーに出演させていただくという機会まで得られました(同年3月30日付で「一票の格差訴訟続報 選挙無効判決は裁判所の危機感の表れ」として放送されました)。そういう私が、今回については何も書かないというのはおかしなものですので、今日、記すことといたしました。

 合憲判断、違憲判断は理解しやすいでしょう。これに対し、違憲状態という判断は理解しにくいかもしれません。合憲と言えない状態であることは確かですが、違憲とまで言い切っていないからです。歯切れの悪い判断に思えるかもしれませんが、これは選挙区割、定数配分を決定する過程に注意しているためです。簡単に言えば、現在の議員定数配分は違憲と言える状態にはあるが、これを是正するためには一定の時間が必要であり、現段階ではまだ一定の時間が経過したとまでは言えない、ということです。言い換えれば、違憲だとは断言しないが、そのように言える状態にあるから、早いうちに是正して違憲と思われるような部分をなくすことを国会に求めている訳です。さらに言えば、この一定の時間が経過してしまえば、是正すべきであるのに是正しなかったということになり、違憲と判断されることとなります。私はここで一定の時間と記しましたが、最高裁判所大法廷は「憲法上要求される合理的期間」と表現しています。

 やや長くなりますが、民集67巻8号1503頁所収の最高裁判所大法廷判決から一部を引用しておきます(下線は私が引いたものです)。

 「このような上記0増5減による定数配分の見直しの内容を現に実施し得るものとするためには、1人別枠方式の廃止及び定数配分と区割り改定の枠組みを定める法改正の後、新たな区割基準に従い区画審が選挙区割りの改定案の勧告を行い、これに基づいて新たな選挙区割りを定める法改正を行うという二段階の法改正を含む作業を経る必要があったところ、前者の改正を内容とする平成24年改正法が成立した時点で衆議院が解散されたため、平成23年大法廷判決の言渡しから約1年9か月後に施行された本件選挙は従前の定数と選挙区割りの下において施行せざるを得なかったことは前記のとおりであるが、本件選挙前に成立した平成24年改正法の定めた枠組みに基づき、本来の任期満了時までに、区画審の改定案の勧告を経て平成25年改正法が成立し、定数配分の上記0増5減の措置が行われ、平成22年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口較差を2倍未満に抑える選挙区割りの改定が実現されたところである。このように、平成21年選挙に関する平成23年大法廷判決を受けて、立法府における是正のための取組が行われ、本件選挙前の時点において是正の実現に向けた一定の前進と評価し得る法改正が成立に至っていたものということができる。

 もとより、上記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県については、本件旧区割基準に基づいて配分された定数がそのまま維持されており、平成22年国勢調査の結果を基に1人別枠方式の廃止後の本件新区割基準に基づく定数の再配分が行われているわけではなく、全体として新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が十分に実現されているとはいえず、そのため、今後の人口変動により再び較差が2倍以上の選挙区が出現し増加する蓋然性が高いと想定されるなど、1人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決されているとはいえない。しかしながら、この問題への対応や合意の形成に前述の様々な困難が伴うことを踏まえ、新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備については、今回のような漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも、国会の裁量に係る現実的な選択として許容されているところと解される。また、今後の国勢調査の結果に従って同条に基づく各都道府県への定数の再配分とこれを踏まえた選挙区割りの改定を行うべき時期が到来することも避けられないところである。

 以上に鑑みると、本件選挙自体は、衆議院解散に伴い前回の平成21年選挙と同様の選挙区割りの下で行われ、平成21年選挙より最大較差も拡大していたところではあるが、本件選挙までに、1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項の規定が削除され、かつ、全国の選挙区間の人口較差を2倍未満に収めることを可能とする定数配分と区割り改定の枠組みが定められており、前記アにおいて述べた司法権と立法権との関係を踏まえ、前記のような考慮すべき諸事情に照らすと、国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできず、本件において憲法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることはできない。

 (4)以上のとおりであって、本件選挙時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは、前回の平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。

 投票価値の平等は憲法上の要請であり、1人別枠方式の構造的な問題は最終的に解決されているとはいえないことは前記のとおりであって、国会においては、今後も、新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があるというべきである。

 この最高裁判所大法廷判決では、2009年の衆議院議員選挙から2012年12月の衆議院議員選挙までの間に一定の是正がなされたことを評価しつつも、根本的に改められた訳ではないとして違憲状態が続いていると判断しているのです。引用の最後の部分で、最高裁判所大法廷は1人別枠方式の廃止を含めて是正策を講じ、投票価値の平等が実現するような制度を構築することを国会に求めている、と理解してよいでしょう。

 しかし、この判決においては「憲法上要求される期間」について具体的なことが何も説明されていません。そのために新たな問題が生じます。憲法が明示的に期間を設定している訳でもありませんから、1年なのか、2年なのか、どの程度の時間を意味するのかが不明なのです。最終的には裁判所の判断に委ねられると言われるならばそれまでなのですが、2012年12月の衆議院議員選挙から2年が経過し、2014年12月の衆議院議員選挙では、1人別枠方式がそのまま残るなど、基本は変わっていないのです。0増5減だけが是正策と言えるでしょうか。

 0増5減により、一票の格差は僅かながら縮小したかに見えました。3月18日付の朝日新聞朝刊3面14版「問われる一票の格差 高裁判決 あすから各地で 昨年衆院選」〔デジタル版では同日5時付の「問われる一票の格差 昨年衆院選の高裁判決、あすから各地で」(http://digital.asahi.com/articles/DA3S11655505.html)〕には、2014年12月の衆議院議員選挙で一票の格差が最大で2.13倍であったことを指摘した上で「国会は小選挙区を『0増5減』する法律を成立させ、格差を2倍未満に抑える区割りを実施。人口変動で結果的に最大2.13倍になったが、最高裁が『合憲』とした05年衆院選の2.17倍よりも縮小した。被告の選管側は『0増5減』によって、『1人別枠方式による大きな弊害は取り除かれた』と主張している」と記しています。また、「前回の最高裁判決(引用者注:先に引用した2013年11月20日大法廷判決)以降、国会では16年をめどにした選挙制度改革を検討していた。その途中で昨年の衆院選となったことを、高裁がどう評価するかもポイントとみられる」とも指摘されています。与野党間における意見の相違などもあってなかなか進まなかったのですが、改革の努力は確かになされていました。

 果たして、3月19日の東京高等裁判所判決は0増5減を合憲判断の要素としました。結局は2.13倍になったとはいえ、0増5減が決まった当初は格差が1.998倍になっていました。2倍を切ればよいというものでもないとは思うのですが、2倍が裁判所の基準なのかもしれません。しかも、2012年の選挙では最大で2.43倍であったのが2014年の選挙では最大で2.13倍に縮小したのです。東京高等裁判所は、この2.13倍について想定内の範囲であるという趣旨を述べているようです。国会も努力をしているし、まだ「憲法上要求される期間」を経過した訳でもないから、この程度の格差は仕方のないところである、ということでしょうか。結局、国会の裁量権行使の範囲内であるという判断がなされました。

 格差が縮小すれば合憲だと短絡的にまとめたくなるような趣旨の判断にも疑問が湧きますが、もっとわからないのは、報道によれば東京高等裁判所の判決で投票価値の平等が譲歩を求められる(何についてかはわかりませんが)というような趣旨のことも述べられている点です。投票価値の平等には限界がある、ということなのでしょうか。仮に限界があるとして、それは何でしょうか。

 まさか、法学部の学生にも時々いる、国家公務員法などの法律は憲法の特別法であるという答案を書いてくる人が裁判官になっている訳ではないでしょう。それにしても、投票価値の平等に限界があるという考え方は、現実的と評価しうるものの、実は倒錯的、とは言わないまでも倒立的なものです。平等の要請は、憲法第14条だけではありません。憲法第44条を読んでみましょう。

 「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。」

 ここで力点は但し書きに置かれます。「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定める憲法第14条第1項後段と文言が似ているだけでなく、基本的な趣旨を同じくしています。投票価値の平等は書かれていませんが、列挙されている差別事由が例示であると解すれば(そうすべきです)、何の問題もありません。投票価値の不平等は、とりもなおさず、住所による差別であり、間接的ではあれ、個々の地方公共団体、とりわけ投票価値が小さい選挙区に含まれる地方公共団体に対する差別です。

 現実の人口分布が平等の限界である、または平等に譲歩を求める主体なりということかもしれませんが、それは頭が固すぎる人の考え方でしょう。都道府県、市町村を基準にして選挙区割りをすれば、どうしても格差は生じますし、不合理な結果を招来します。参議院の比例代表選出のように、日本全国を一つの選挙区とする手も考えられるのです。むしろ、大選挙区制であれ小選挙区制であれ、選挙区毎に議員を選出すること自体が、憲法の要請からは乖離している、とも考えられます。憲法第43条第1項は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と規定していますから、国会議員はどこの出身であっても「全国民を代表する」議員であって、地元の代表でもなければ選挙区の代表でもないのです。それなのに選挙区割があるために、地元の代表だの選挙区の代表だのという意識が生まれて肥大し、政治や経済をおかしくしたのである、と言えるのではないでしょうか(全てそうであるとまでは記しませんが、当たっている部分はあるでしょう)。我田引水ならぬ我田引鉄の話は典型例です。

 以上は極論であるかもしれません。現実離れしていると言われるならば、否定はできません。しかし、話は地方議会ではなく、国会です。朝日新聞朝刊17面12版の「(耕論)一票格差 正せるか」という記事に、最高裁判所判事を務められた宮川光治氏による、「都道府県を単位とする議席配分を維持することは、参院と同様にもう無理なのではないかと思います」という発言が掲載されています。大分県に住んでいた経験をもつ私も、宮川氏とはおそらく理由が異なりますが、同じようなことを考えています。人口の多寡にかかわらず各都道府県にまず一議席を割り当てることが、都道府県の実情などを無視しかねないと思うのです。もう12年前のことですが、私は2003年3月15日に中央大学駿河台記念館において行われた日本財政法学会第21回大会で、私自身の研究報告ではなく、別の方の研究報告に関連して、当時の大分県の選挙区割を例に出してコメントをしたことがあります〔日本財政法学会編『地方税財源確保の法制度(財政法叢書20)』(龍星出版)にも掲載されています〕。一応は人口比率を基準としなければならないために、端から端まで100キロメートルを優に超え、どうかすれば200キロメートルに届きかねないというような広大な選挙区から一人しか選出されないという事態が生じます。地元の代表という考え方を採るにしても、これが本当の地元の代表でしょうか。地域代表と言い換えても同様です。

 もしかしたら、それなら道州制にすればよいというような意見が出されるかもしれません。しかし、道州制であろうが都道府県制であろうが、全国民の代表を選出する際の一票の格差という問題が存在することに変わりはありません。その意味では道州制など全く役に立ちません。国民の代表なのですから、全国を単一の選挙区にするのが最も望ましいことなのです。さらに言えば、比例代表制が平等の要請に最も忠実に応えてくれるはずです。

 いや、現実的な視点に返りましょう。実際の問題として、理想型は実施が非常に困難ですし、かえって国民の選挙への関心をいっそう薄くしかねません。選挙区割を維持することといたしましょう。現在、国会がどの程度の人口を単位として想定しているのかがわかりませんが、一定の明確な基準は必要であると考えます。たとえば一選挙区あたり10万人の有権者について議員1人でもよいですし、5万人に1人でもよいでしょう。基準があるのかないのかわからないような状態が続いているから、いつまで経っても議員定数不均衡はなくならないのです。勿論、基準を設けるとしても完全なる1:1の平等は実現できないでしょうが、現状よりも格差は小さくなります。

 また、5年に1回の国勢調査を待つまでもなく、毎年、各地方公共団体が推計人口を出していますから、参照して毎年のように選挙区割を見直すという手もあります。コンピュータがこれだけ発達していますから、できないことではないはずです。むしろ、人口の流出入を念頭に置けば、国勢調査を基準にするのは悠長に過ぎます。

 19日の東京高等裁判所判決から、話がかなり発展してしまいました。ここで、違憲という判断を示した25日の福岡高等裁判所判決についても触れておくこととしましょう。今回では唯一の違憲判決です。但し、選挙そのものは有効とされたので、原告の弁護士グループの請求は棄却されました。

 判決文を手に入れた訳ではないので、先にも参照した3月26日付朝日新聞朝刊39面14版の「昨年衆院選 福岡『違憲』 一票の格差判決 選挙無効は棄却」という記事を再び参照し、引用します(但し、所々で形を変えています)。

 まず、福岡高等裁判所は1人別枠方式について「『過去の最高裁判決によって合理性が失われている」と指摘。その方式が実質的に残っていることを『構造的な問題が解決されていない』と批判した」とのことです。妥当な判断でしょう。また、2009年の衆議院議員選挙を違憲状態であると判断した最高裁判所判決から既に3年8カ月が経過しており、その間に不平等状態は解消されていないし、0増5減でも「格差縮小が不十分であるとし」て違憲という結論が導かれたようです。ただ、選挙が有効とされたのは、やはり1人別枠方式の廃止や定数削減などを国会が議論していたためであり、一定の猶予期間が設けられることも許容される、ということのようです。

 3月18日付の朝日新聞朝刊3面14版「問われる一票の格差 高裁判決 あすから各地で 昨年衆院選」にも裁判官の話として書かれているのですが、2012年衆議院議員選挙と異なり、国会が一応は選挙制度改革の議論をしていたこと、0増5減を実施したことから、違憲と判断することは難しいと思われました。2倍を超えている以上は違憲状態と判断される可能性が高いのですが、合憲と判断される可能性もありました。その中で、福岡高等裁判所が違憲という判決を下したことは、或る意味で驚かされることでした。同裁判所の判決の趣旨からすれば、違憲状態という判断が示されてもおかしくはなかったからです。勿論、選挙が無効とされなかったとは言え、違憲状態という判断よりも違憲という判断のほうが強く、国会に是正を求める姿勢を打ち出すものです。次の選挙でも是正されなければ、違憲かつ無効という判断が示されることとなるからです。

 福岡高等裁判所の判決に対しては、批判もありえます。新聞記事からのみでは、事情判決を採用したのか否かが不明確ですが、採用したとすれば根拠が問われることとなります。ただ、違憲かつ無効と判断することによって何かが是正される訳でもないので(裁判所が定数配分をするならば違憲の行為となりますし、選挙区割、定数配分は国会の任務であることに変わりはないのです)、現実的な判断であると考えられます。

 最後になりますが、先に記した地元の代表、選挙区の代表という、世の中で一般的な考え方について、もう少し記しておきます。

 どうしても議員に地元なり地域なりの代表という性格を持たせたいのであれば、それこそ憲法改正しか手はありません。私は、何故、自由民主党の憲法改正草案が第43条を表現の現代化に留め、内容の変更に至ることがなかったのか、疑問を抱いています。衆議院と参議院が同じような性格を持つ必要もなく、むしろ現在の状況では二院制の意味が薄いので、例えば参議院を都道府県の代表からなる議会とする趣旨の改正を行えば、地元の代表、地域の代表という性格を正当に持たせることができるのです。アメリカ合衆国の上院のように、各都道府県から、人口に関係なく同じ人数の議員を選出するということも考えられます。また、場合によっては、ドイツ連邦共和国の連邦参議院(Bundesrat)を参考にして、都道府県代表ということで、国民が選挙するのではなく、各都道府県の議会で参議院議員を選出するという方法を採ることも考えられます。どのような具体像にするかは自由に考えればよいのですが、衆議院を全国代表とし、参議院を地域代表とすることを、選択肢の一つとしてもよいのではないでしょうか。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

九重夢大吊橋

2015年03月25日 21時46分38秒 | 旅行記

2009年9月6日、大分県は九重町にある九重夢大吊橋に行きました。その時の写真を掲載しておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

衆議院で否決された法律案

2015年03月24日 10時36分55秒 | 国際・政治

 現在開かれている第189回国会に「格差是正及び経済成長のために講ずべき税制上の措置等に関する法律」案が提出されていました。衆議院議員提出法案第4号ですので、以下では衆法4号としましょう。今月3日に古川元久議員外三氏により衆議院に提出されたのですが、今月13日に否決されました。賛成会派は民主党・無所属クラブ、反対会派は自由民主党、維新の党、公明党、日本共産党、次世代の党、生活の党と山本太郎となかまたち、および社会民主党・市民連合です。

 衆議院で否決された以上、法律とはならない訳ですが、ここで取り上げておくのも一つの手であろうと考え、今回は衆法4号を少しばかり紹介いたします。衆議院のサイトに、法律案法律案の要綱が掲載されていますので、そちらも御参照ください。

 衆法4号にある個々の条文は改正法のスタイルです。例えば、第2条は次のようになっています。

 --- 

(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律の一部改正)

第二条 社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号。以下「税制抜本改革法」という。)の一部を次のように改正する。

  附則第一条第二号中「平成二十七年十月一日」を「平成二十九年四月一日」に改める。

  附則第十五条中「二十七年新消費税法」を「二十九年新消費税法」に、「及び次条」を「、次条及び第十八条の二」に改める。

  附則第十六条第一項中「二十七年新消費税法」を「二十九年新消費税法」に、「二十七年旧消費税法」を「二十九年旧消費税法」に、「平成二十七年十月三十一日」を「平成二十九年四月三十日」に改め、「、「同月三十日」とあるのは「同月三十一日」と」を削り、「平成二十七年四月一日」を「平成二十八年十月一日」に、「二十七年指定日」を「二十八年指定日」に改め、同条第二項中「二十七年新消費税法」を「二十九年新消費税法」に改める。

  附則第十八条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(消費税率の引上げに当たっての措置等)」を付し、同条の次に次の一条を加える。

 第十八条の二 国は、一部施行日までに、国会議員の定数削減並びに国家公務員の総人件費改革、各府省が所掌する事務及び事業の見直し並びに国の不要な資産の売却等その他の行政改革を図るための必要な措置を講ずるものとする。

 ーーー 

 従って、内容を手っ取り早く知りたければ要綱を参照するほうがよいかもしれません。

 法律案には必ず提案理由が示されます。衆法4号については、次のように述べられています。

 「社会経済情勢の急激な変化に伴い国民の間に生じている経済的格差その他の格差を是正し、及びその固定化を防止するとともに、雇用及び国内投資を拡大させること等により経済成長を促すことが、我が国の経済社会の持続的な発展のために緊要な課題であることに鑑み、消費課税、個人所得課税、資産課税及び法人課税等に関し講ずべき措置を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」

 また、「本案施行に要する経費」として「本案施行による減収見込額は、平成二十七年度約二兆三百七十一億円、平成二十八年度約四兆七百四十三億円である」とも述べられています。

 提案理由をほぼそのまま条文にしたのが、「趣旨」という見出しが付けられた第1条で、「この法律は、社会経済情勢の急激な変化に伴い国民の間に生じている経済的格差その他の格差を是正し、及びその固定化を防止するとともに、雇用及び国内投資を拡大させること等により経済成長を促すことが、我が国の経済社会の持続的な発展のために緊要な課題であることに鑑み、消費課税、個人所得課税、資産課税及び法人課税等に関し講ずべき措置を定めるものとする」というものです。一目瞭然で、格差是正、経済成長の双方を柱とする旨が示されています。しかし、この両者はトレードオフの関係にある、とまでは言い切れないまでも、両立できない部分があります。「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということになりかねません。そこで、どちらを軸にするかが問われることとなりますが、衆法4号は格差是正のほうに重きを置いているように読めます。

 さて、中身に入りましょう。上で引用した第2条は消費税に関する規定です。「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(以下、税制抜本改革消費税法)の「一部改正」で、税制抜本改革消費税法の附則第1条第2号には、現行の消費税率6.3%を7.8%に引き上げる規定の施行期日を平成27年10月1日から平成29年4月1日に遅らせることが示されています。また、税制抜本改革消費税法の附則に第18条の2を追加し、消費税率を7.8%に引き上げる日までに「国会議員の定数削減並びに国家公務員の総人件費改革、各府省が所掌する事務及び事業の見直し並びに国の不要な資産の売却等その他の行政改革を図るための必要な措置を講ずるものとする」ことを要請する旨が定められています。

 消費税の税率引き上げを延期するのであれば、地方消費税の税率も延期しなければなりません。また、税制抜本改革消費税法は国税に関する法律であり、地方消費税については別の法律が定めています。そればかりでなく、消費税は地方交付税の財源の一つですので、消費税率の引き上げを延期すれば地方交付税にも影響が出ます。そのために、衆法4号の第3条は「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(以下、税制抜本改革地方税法)の「一部改正」を定めています。かなり長く、わかりにくいかもしれませんが、要綱の第三も参照しつつ、主な内容のみを記すと次の通りです。

 ・現行の地方消費税率1.7%(消費税率換算)を2.2%(やはり消費税率換算)に引き上げる規定(税制抜本改革地方税法附則第1条第2号)を改正し、施行日を平成27年10月1日から平成29年4月1日に延期する。

 ・税制抜本改革地方税法の附則にある現行の第19条を第18条に移し、新たに第19条として「国は、一部施行日までに、国会議員の定数削減並びに国家公務員の総人件費改革、各府省が所掌する事務及び事業の見直し並びに国の不要な資産の売却等その他の行政改革を図るための必要な措置を講ずるものとする」という規定を置く。

 税制抜本改革消費税法および税制抜本改革地方税法が制定されたのは野田内閣時代で、言うまでもなく、社会保障と税の一体改革の産物でした。当初、この改革は消費税・地方消費税の税率引き上げのみならず、所得税や相続税などにも手を広げて名実ともに日本の税制を抜本的に改めることを目指したものであり、また、消費税・地方消費税を社会保障のための特定財源化または目的税化することを目論んでいました。しかし、三党合意で消費税・地方消費税の税率引き上げに矮小化され、その引き上げ分の税収を社会保障以外の分野(主に公共事業)にも使用することができるようにされたのです。そこで、衆法4号の第4条は「消費税法の一部改正」の見出しの下に、消費税法第1項第2項にある「経費に」を「経費にのみ」と改めることを規定しました。衆法4号の第5条も同様で、「地方税法の一部改正」の見出しの下、地方税法第72条の116にある「経費に」を「経費にのみ」と改めることを規定しました。これらは、要綱の説明を借りるならば「消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費にのみ充てるものであることを明確にすること」(要綱第四)、「引上げ分の地方消費税の収入(市町村交付金を含む。)について、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費その他社会保障施策に要する経費にのみ充てるものであることを明確にすること」(要綱第五)という趣旨によるものです。

 以上の他に、地方税制では自動車関連の諸税目の意義が問題となっています。軽自動車税も論議の対象となりました。衆法4号では軽自動車税の標準税率引き上げを廃止する、自動車取得税を廃止する、などの旨が示されています。

 消費税・地方消費税や自動車関連諸税目と比較すれば具体性に欠けることは否めませんが、衆法4号の第7条ないし第10条は、今後の税制の在り方につながる重要な規定であると評価することはできるでしょう。以下に紹介しておきます。

 ーーー

(個人所得課税及び資産課税に関する措置)

第七条 政府は、国民の勤労及び資産の形成の意欲を著しく阻害することのないよう配慮しつつ、経済的格差の固定化の防止、税負担の公平性等の観点から、個人所得課税及び資産課税の改革について早急に検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。

(法人の実効税率の引下げ等に関する検討)

第八条 政府は、所得税法等の一部を改正する法律(平成二十六年法律第十号)第十四条の規定による復興特別法人税の指定期間の短縮に係る政策的な効果を検証した上で、雇用及び国内投資の拡大の観点から、法人の実効税率の引下げ、社会保険料に係る事業主の負担の在り方等について検討を行うものとする。

(消費税の逆進性を緩和するための施策に関する措置)

第九条 政府は、消費税(地方消費税を含む。以下この条、次条及び第十一条において同じ。)の逆進性(所得の少ない世帯ほど、家計において消費税として支出する額の所得の額に対する割合が高くなる傾向にあることをいう。)を緩和する観点から、税制抜本改革法第七条第一号イの給付付き税額控除の導入について検討を加えた上で、必要に応じ、併せて同号イの総合合算制度、同号ロの複数税率等の施策の導入について検討を加え、その結果に基づき、税制抜本改革法第三条の規定の施行の日までに、必要な法制上の措置その他の措置を講ずることにより、消費税率(地方消費税率を含む。第十一条において同じ。)の引上げの円滑な実施を確保するものとする。

(医療、介護等に係る消費税の課税の在り方に関する措置)

第十条 政府は、医療、介護等に係る消費税の課税の在り方について、平成二十九年三月三十一日までに検討を加え、その結果に基づき、速やかに必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。

 ーーー

 まだ衆議院における審査・審議状況を細かく読んでいないので、詳しい分析は別の機会に行いたいと考えておりますが、とくに第7条および第8条については、提案者、賛成会派が何らかの分析を既に行っているのか、いかなる方向性なり展望なりを持っているのかが気になります。以上のような法律案を提出する以上、現行の所得税法や法人税法などが抱える欠陥、短所などは多少とも意識されているはずです。法人税の税率引き下げがどのような効果をもたらすのか、たとえば、引き下げによって国際競争力の向上がどの程度実現されうるのか、などの検証は「みんなでこれから行う」のではなく「こちらは既にこれだけのものを行っている。少なくとも●●の部分についてはこちらの検証に異論はあるまい」というのが、提案時の状態であるべきでしょう。所得税制についても同様で、金融資産課税のあり方など、問題は山積していますから、いかなる所得税制の像がありうるのか、端的であっても衆法4号で示されたほうが望ましかった、と言えます。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

放置自転車税の根拠条例を掲げておきます

2015年03月23日 01時23分48秒 | 法律学

 今回は、資料として「豊島区放置自転車等対策推進税条例」(平成15年12月10日条例第45号)の条文を掲載しておきます。正確を期したつもりですが、誤りがあるかもしれません。御指摘などをいただければ幸いです。

 

(課税の根拠) 

第一条 鉄道駅周辺における放置自転車等対策の推進を図るとともに、放置自転車等の撤去及び保管、自転車等駐車場等の施設整備及び維持管理その他放置自転車等対策事業に要する費用の一部に充てるため、地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号。以下「法」という。)第五条第七項の規定に基づき、放置自転車等対策推進税を課する。

(用語)

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 鉄道事業者 鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号)第七条第一項に規定する鉄道事業者のうち、豊島区の区域内(以下「区内」という。)において旅客運送事業を行う者をいう。

 二 乗車人員 区内に所在する鉄道駅から乗車した人員(ただし、同一鉄道事業者の鉄道駅において路線を乗り継いで乗車した者及び他の鉄道事業者の鉄道駅から連絡乗車券を利用して乗車した者を除く。)をいう。

(法等の適用)

第三条 放置自転車等対策推進税の賦課徴収については、この条例に定めるもののほか、法令及び豊島区特別区税条例(昭和三十九年豊島区条例第三十四号)の定めるところによる。この場合において、同条例第三条第二項中「入湯税」とあるのは「入湯税及び放置自転車等対策推進税」と、同条例第三条の二第一項中「この条例」とあるのは「この条例及び豊島区放置自転車等対策推進税条例(平成十五年豊島区条例第四十五号)」とする。

(納税義務者等)

第四条 放置自転車等対策推進税は、区内に所在する鉄道駅における前年度の旅客運送に対し、当該前年度の乗車人員を課税標準として鉄道事業者に課する。

(税率)

第五条 放置自転車等対策推進税の税率は、千人につき七百四十円とする。

(徴収の方法)

第六条 放置自転車等対策推進税は、申告納付の方法によって徴収する。

(申告納付の手続)

第七条 放置自転車等対策推進税を申告納付すべき納税者は、毎年十月一日から同月末日までに、課税標準たる前年度の乗車人員(以下「課税標準数」という。)及び税額その他規則で定める必要事項を記載した申告書を区長に提出するとともに、その申告した税額を翌年一月末日までに納付しなければならない。

2 前項の場合において、第十四条第三項の規定による減免額の決定の通知があったときは、申告した税額から当該減免額を控除して納付することができる。

(期限後申告等)

第八条 前条第一項の申告書を提出すべき者は、当該申告書の提出期限後においても、第十条第四項の規定による決定の通知があるまでは、前条第一項の規定によって申告書を提出するとともに納付することができる。

2  前条第一項又は前項の申告書を提出した者は、当該申告書を提出した後においてその申告に係る課税標準数又は税額を修正しなければならない場合においては、遅滞なく、規則で定める修正申告書を提出するとともに、その修正により増加した税額があるときは、これを納付しなければならない。

3 前項の修正申告書に係る税金を納付する場合は、当該税金に係る前条第一項に規定する納期限(納期限の延長があったときは、その延長された納期限。第十二条第二項において同じ。)の翌日から納付の日までの期間の日数に応じ、当該税額に年十四・六パーセント(修正申告書を提出した日までの期間又はその日の翌日から一月を経過する日までの期間については、年七・三パーセント)の割合を乗じて計算した金額に相当する延滞金額を加算して納付しなければならない。

(不申告に関する過料)

第九条 第七条第一項の規定によって申告すべき事項について正当な事由がなくて申告をしなかった場合においては、その者に対し、三万円以下の過料を科する。

2 前項の過料の額は、区長が定める。

3  第一項の過料を徴収する場合において発する納入通知書に指定すべき納期限は、その発した日から十日以内とする。

(更正及び決定)

第十条 区長は、第七条第一項の申告書又は第八条第二項の修正申告書の提出があった場合において、申告又は修正申告に係る課税標準数又は税額がその調査したところと異なるときは、これを更正することができる。

2 区長は、納税者が前項の申告書を提出しなかった場合においては、その調査によって、申告すべき課税標準数及び税額を決定することができる。

3 区長は、前二項の規定によって更正し、又は決定した課税標準数又は税額について、調査によって、過大であることを発見した場合又は過小であり、かつ、過小であることが納税者の偽りその他不正の行為によるものであることを発見した場合に限り、これを更正することができる。

4  区長は、前三項の規定によって更正し、又は決定した場合においては、遅滞なく、これを納税者に通知するものとする。

(更正及び決定等に関する通知)

第十一条 前条第四項の規定による放置自転車等対策推進税の更正又は決定の通知、法第七百三十三条の十八第五項の規定による放置自転車等対策推進税の過少申告加算金額又は不申告加算金額の決定の通知及び法第七百三十三条の十九第四項の規定による放置自転車等対策推進税の重加算金額の決定の通知は、規則で定める通知書により行うものとする。

(更正及び決定に係る不足税額等)

第十二条 放置自転車等対策推進税の納税者は、前条の通知書により通知を受けた場合においては、当該通知に係る不足税額(更正による不足税額又は決定による税額をいう。次項において同じ。)又は過少申告加算金額、不申告加算金額若しくは重加算金額をそれぞれ当該通知書に記載された納期限までに納付しなければならない。

2 前項の場合においては、その不足税額に第七条第一項に規定する納期限の翌日から納付の日までの期間の日数に応じ、年十四・六パーセント(前項の納期限までの期間又は当該納期限の翌日から一月を経過する日までの期間については、年七・三パーセント)の割合を乗じて計算した金額に相当する延滞金額を加算して納付しなければならない。

 (帳簿の記載義務等)

第十三条 放置自転車等対策推進税の納税義務者は、帳簿を備え、規則で定めるところにより乗車人員に関する事実をこれに記載し、第七条第一項に規定する納期限の翌日から起算して五年を経過する日まで保存しなければならない。

(減免)

第十四条 区長は、次の各号のいずれかに該当する放置自転車等対策推進税の納税者に対し、規則で定めるところにより放置自転車等対策推進税を減免することができる。

 一 区内に所在する鉄道駅周辺において自転車等駐車場を区内に設置し、運営を行っている者

 二 自転車等駐車場用地又は撤去自転車の保管用地等を豊島区に無償提供している者

 三 前二号に掲げるもののほか、放置自転車等対策に対して特別に寄与していると区長が認める者

2 前項の規定により放置自転車等対策推進税の減免を受けようとする者は、規則で定める申請書を区長に提出しなければならない。

3 区長は、前項の申請書の提出を受けた場合は、調査のうえ減免額を決定し、納税者に通知するものとする。

(委任)

第十五条 この条例の施行について必要な事項は、規則で定める。

(税収の使途)

第十六条 区長は、豊島区に納付された放置自転車等対策推進税の税収総額から放置自転車等対策推進税の賦課徴収に要する費用の総額を控除して得た金額を、放置自転車等の撤去及び保管、自転車等駐車場等の施設整備及び維持管理その他放置自転車等対策に要する費用に充てなければならない。

附則

(施行期日)

1 この条例は、法第七百三十一条第二項の規定による総務大臣の同意を得た日以後、規則で定める日から施行する。

(適用)

2 この条例は、この条例の施行の日以後に終了する年度の乗車人員に対して課すべき放置自転車等対策推進税について適用する。

(見直し)

3 区長は、この条例の施行後五年ごとに、条例の施行状況、放置自転車等対策の推進状況等を勘案し、この条例について検討を加え、その結果に基づいて条例の廃止その他必要な措置を講ずるものとする。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする