はじめに
2014(平成26)年6月6日、新しい行政不服審査法などが成立し、同月13日に公布された。新法は「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」こととされており(同法附則第1条本文)、現在のところはまだその政令が公布されておらず、旧法が施行されている。そこで、まずは旧法について解説を試みる。
1.行政不服審査制度とは
行政行為など、行政庁による公権力の行使に対する不服を行政機関に対して申し立てる手続(制度)のことである。一般法として行政不服審査法が存在する。一応は私人の権利・利益の正式な救済制度として位置づけられるが、行政事件訴訟制度よりは簡略化された制度である。
行政不服審査制度は、行政事件訴訟制度と比べ、次のようなメリットがある。
第一に、簡易迅速性と経済性が高いことである。
第二に、処分の妥当性・不当性の問題をも扱うことが可能であることである。行政事件訴訟の場合、処分の適法・違法の問題だけが対象となるのであり、当・不当の問題は扱われないこととなる(裁量権の逸脱や濫用は別として)。これに対し、行政不服審査の場合は、処分の当・不当の問題も扱われることとなっている。
第三に、大量になされる処分について、争点を或る程度明確にし、裁判所の過重負担を避けうることである。
第四に、行政にとっても自己統制を図る機会となりうる。
2.行政不服審査制度の特徴(旧訴願法と比較して)
行政不服審査制度の前身は、旧訴願法に規定された訴願制度である。旧訴願法は日本国憲法の下においても効力を維持していたが、権利・利益の救済制度としては不十分な制度であり、1962(昭和37)年、行政不服審査法の施行とともに廃止された。以下、訴願制度との比較という形で、行政不服審査制度の特徴を概観する。
(1)不服申立て事項に対する概括主義
旧訴願法第1条は列記主義(対象を法令で限定すること)を採用していた。これに対し、行政不服審査法は概括主義(対象を法令で限定しないこと)を採用する。
但し、行政不服審査法第4条は、概括主義に対する例外を規定している。次のものについては、行政不服審査法による不服申立てをなすことができない。
「他の法律に審査請求または異議申立てをすることができない旨の定めがある処分」(第1項ただし書き。ただし、第2項を参照)
国会・裁判所・会計検査院に関係する行為(第1号~第4号)
行政不服審査法以上に慎重な手続によって、不服を処理することとされるもの(第5号~第7号)
処分の性質に着目して除外されているもの(第8号~第11号)
(2)事実行為および行政庁の不作為に対する不服申立てが認められること
旧訴願法には規定が存在しなかったし、列記主義を採っていたことから、事実行為および行政庁の不作為に対する不服申立てを認めていなかった。
これに対し、行政不服審査法第2条は、第1項において事実行為に対する不服申立てを認める。但し、同項においては「公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの」に限定されている。
また、同第2項は、行政庁の不作為に対する不服申立てを認めている。これについては、後に述べる。
(3)教示制度の存在
教示制度も、旧訴願法にはなかったものである。これについても後述する。
この他、(4)不服申立てに関する詳細な手続規定、(5)裁決・決定における不利益変更の禁止という特徴がある。
2.不服申立ての種類
行政不服審査法に規定される不服申立ての基本は、審査請求と異議申立てである。両者の違いは不服申立てを審理・裁断する機関による。
(1)審査請求
処分庁または不作為庁以外の行政庁に対して行うものである(第3条第2項)。第5条第1項第1号によると、処分庁に上級行政庁がある場合に審査請求を行うことができる(ただし書きに注意すること)。原則として、処分庁の直近上級行政庁に対して行う(第2項)。なお、第1項第1号に該当しないが、法律(条例も含まれる)によって審査請求をすることができる旨が規定されている場合には、第2号により、法律または条例によって定められた行政庁に対して審査請求を行う。
審査請求に対する判断を裁決という(第40条)。
(2)異議申立て
処分庁または不作為庁に対して行うものである(第3条第2項)。異議申立ては、処分庁に上級行政庁がない場合(第6条第1号)、処分庁が主任の大臣、宮内庁長官、外局、外局に置かれる庁の長である場合(同第2号)、または、法律で異議申立てを認める規定がある場合(同第3号。審査請求と異なり、条例で定めることはできない)に行うことができる。
異議申立てに対する判断を決定という(第47条)。
(3)不作為についての不服申立て
上記の審査請求および異議申立ては、行政庁の作為に対する不服申立ての方法であるが、行政不服審査法は、第2条第2項において不作為に関する規定を置くこともあって、行政庁の不作為に対する不服申立ての規定を別に置いている。第7条 がその規定であり、原則として、行政庁の不作為については、異議申立て、不作為庁の直近上級行政庁に対する審査請求のいずれかを行うことができる。ただし、不作為庁が主任の大臣、宮内庁長官、外局、外局に置かれる庁の長である場合は、異議申立てのみを行うことができる。
(4)再審査請求
審査請求の裁決を経て、さらに別の行政機関に対して行われるものである(第3条第1項)。いわば、審査請求の上訴手続のようなものであるが、いつでも認められる訳ではなく、第8条に該当する場合にのみ、再審査請求を行うことができる。すなわち、法律または条例に再審査請求をすることができる旨の規定が存在する場合(同第1号)、または、審査請求をすることができる処分について、その処分をする権限を有する行政庁Aが権限を他の行政庁に委任している場合に、委任を受けた行政庁Bが委任に基づいて行った処分に関する審査請求についてAが審査庁として裁決をした場合(第2号)である。第2号に該当する場合は、本来の権限を有するAが処分を行った場合の審査庁(Aの上級行政庁など)に対して行う(同第2項)。
なお、対象は、元々の処分でも裁決でもよいが、不作為は対象にならない。
(5)審査請求中心主義
行政不服審査法は審査請求中心主義を採る。審査請求と異議申立ては選択的なものであり、原則として、一つの処分については審査請求、異議申立てのいずれか一つしかできないこととされている。
3.行政不服審査制度の要件
(1)書面主不服申立ては、行政不服審査法第9条により、原則として書面の提出による(法律・条例で口頭によることが認められる場合もある)。また、審査請求は、処分庁を経由することもできる(これについて、第17条を参照)。
時折、提出された書類が不服申立ての申し出なのか陳情書なのかについて問題となることがある。これについては、次に示す訴願法時代の判決が参考になる。
●最二小判昭和32年12月25日民集11巻14号2466頁(Ⅱ―139)
鳥取市内で大火災が発生した後、鳥取県知事が都市計画法施行令第17条(当時)に基づいて土地区画整理施行規程を告示し、土地所有者や関係人の縦覧に供したところ、施行区域内の土地所有者から「都市計画法に基く区画整理異議申立書」が提出された。鳥取県火災復興事務所長は、この文書が同条に基づく異議の申出なのか陳情書なのかについて疑問を抱き、鳥取市長に真意を確認させたところ、提出者は陳情書であると回答した。そこで、鳥取県知事は、異議申立てがなされていないと判断して都市計画審議会の議決に付さず、施行規程などを認可し、換地予定地指定処分を行った。この処分を受けたXらが手続上の重大な瑕疵を主張し、処分の無効確認を求めた。
鳥取地方裁判所はXの請求を認容したが、広島高等裁判所松江支部はXの請求を棄却し、最高裁判所第二小法廷も、本件の文書が都市計画法施行令第17条(当時)による異議の申出であるのか陳情であるのかは、当事者の意思解釈の問題に帰すると述べて、Xの上告を棄却した。
(2)不服申立ての対象
行政不服審査法第1条第1項は、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開く」としているので、不服申立ての対象は「処分」などの「公権力の行使に当たる行為」に限定されている。問題はここにいう「処分」の意味である。
同第2条第1項において、「処分」について一応の定義 がなされているが、規定の仕方は公権力の行使による事実行為のうち、継続的性質を有するものを含めるというものであり、正面から「処分」を定義する形にはなっていない。
このことから、ここにいう「処分」は公権力の行使による「作為」一般と考えられる。次のようなものが該当する。
a.行政庁が法令に基づき、公権力を行使して(すなわち優越的立場で)、国民・住民に対して、個別的・具体的に法律上の効果を発生させる行為
これは、行政法学の行政行為を指すものである。但し、行政不服審査法による処分は除外される。また、他の法令により、行政不服審査法による審査請求または異議申立てができない処分も存在する。
b.公権力の行使にあたる事実行為であって「人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの」
その例として、出入国管理及び難民認定法第39条による外国人の送還前の収容、食品衛生法第17条による食品等の収去などがあげられる。
しかし、具体的な「処分」の意味については、行政事件訴訟法第3条第1項と同様の解釈問題がある。これについては、第25回において取り上げる 。
既に述べたように、行政事件訴訟法と異なり、行政不服審査法の下においては、違法な「処分」の他、不当な「処分」をも対象としうる。なお、不当な処分は、主に裁量行為を意味する。行政事件訴訟において、裁量行為は、裁量権行使に逸脱・濫用がなければ対象とならないのが原則である(行政事件訴訟法30条)。これに対し、行政不服審査制度の下においては、裁量権行使に逸脱・濫用がなかったとしても、裁量権行使の是非を巡って争いうることになる。
なお、処分をした行政庁を処分庁という(行政不服審査法第3条第2項)。
(3)「不作為」
不作為とは、行政庁が、法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分など、公権力の行使に該当する行為をすべきにもかかわらず、これをしないことをいう(第2条第2項)。不作為に係る行政庁を不作為庁という(第3条第2項)。
(4)不服申立ての期間
不服申立ては、権利・利益に関する争訟手段の一つであり、いつでも、いつまでも提起できるという訳ではない。行政不服審査法は、それぞれの不服申立て方法に応じて一定の期間を定めている。これが行政行為の不可争力(形式的確定力)についての実定法上の根拠ともなっている。
①審査請求
行政不服審査法第14条は、審査請求の期間について、主観的な期間と客観的な期間とに分けている。中心は主観的審査請求期間であり、「処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内(当該処分について異議申立てをした場合は、当該異議申立ての決定がなされたことを知つた日の翌日から起算して三十日以内)」とされている(第14条第1項本文。天災などの場合については同項ただし書きおよび第2項を参照)。これに対し、客観的審査請求期間は、原則として、処分がなされた日の翌日から起算して一年以内とされている(第3項)が、公示送達の場合など、限られた場合にしか適用されない。
主観的審査請求期間に関連して、処分が名宛人に対して個別に通知される場合は、処分があったことを名宛人が現実に知った日が「処分があつたことを知った日」となる。たとえば、通知書が名宛人の住居に到着した日である。但し、次の判例に注意されたい。
●最一小判平成14年10月24日民集56巻8号1903頁(Ⅱ―140)
事案:群馬県知事は、都市計画法第59条第1項に基づいて、平成8年9月5日に前橋都市計画道路事業3・4・26号県道の認可をし、同月13日に同法第62条第1項に基づいてその告示をした。被上告人(原告)は、同年12月2日、建設大臣(当時)に対して県知事の認可の取消しを求める審査請求をしたが、建設大臣は、行政不服審査法第14条第1項に定められた審査請求期間はこの認可の告示の日の翌日から起算すると解し、この期間の徒過を理由として審査請求を却下する裁決をした。そこで被上告人が裁決の取消しを求めて出訴した。東京地判平成11年8月27日は被上告人の請求を棄却したが、東京高判平成12年3月23日判時1718号27頁は、「処分があつたことを知つた日」とは現実に知った日を意味するなどとして東京地裁判決を取り消し、建設大臣の裁決を取り消した。建設大臣が上告し、最高裁判所第一小法廷は東京高裁判決を取り消し、被上告人の請求を棄却した。
判旨:行政不服審査法第14条第1項本文にいう「処分があつたことを知つた日」とは「処分がその名あて人に個別に通知される場合には、その者が処分のあったことを現実に知った日のことをいい、その者が処分のあったことを知り得たというだけでは足りない」が、「都市計画法における都市計画事業の認可のように、処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には、そのような告知方法が採られている趣旨にかんがみて、上記の『処分があつたことを知つた日』というのは、告示があった日をいうと解するのが相当である」。
②異議申立て
異議申立て期間についても主観的な期間と客観的な期間とに分けられており、主観的異議申立て期間は「処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内」とされている(第45条)。これに対し、客観的異議申立て期間は、第48条により、第14条第3項を準用することとなっている。
③再審査請求
再審査請求についても期間が設けられており、やはり主観的な期間と客観的な期間とに分けられている。主観的再審査請求期間は「審査請求についての裁決があつたことを知つた日の翌日から起算して三十日以内」とされており(第53条)、客観的再審査請求期間は、第56条により、第14条第3項を準用することとなっている。
④不作為についての不服申立て
以上の①②③は、いずれも行政庁の作為に関するものであるが、不作為についてはこれらと異なる扱いが必要である。
不作為はいつまで続くかわからないので、不作為が続く間であれば不服を申し立てることが可能でなければならない。そのため、行政不服審査法には、不作為についての不服申立ての期間に関する規定は存在しない。また、第14条第3項の準用などもなされない。結局、不作為については不服申立て期間がないから、不作為が続く間であれば不服を申し立てることが可能である。
(5)不服申立て人となる資格を有する者(不服申立て適格を有する者)
いかなるものが不服申立てを提起することが可能であるのか。これは、行政事件訴訟法における原告適格とともに大きな問題とされている。
行政不服審査法第4条によると、違法または不当な処分により、直接に自己の権利利益を侵害された者は、不服申立て人となる資格を有する。また、同条は「直接に自己の権利利益を侵害された」とは言えなくとも 「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」も不服申立て人となる資格を有する、と定めている。この要件を充たすのであれば、処分の相手方か第三者か、自然人か法人かは不問である。しかし、既に述べたように、行政事件訴訟法第9条と同様の問題がある(規定を見比べていただきたい)。ここで、判例を概観しておく。
●最三小判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁(主婦連ジュース訴訟、Ⅱ―141)
事案:公正取引委員会は、社団法人日本果汁協会などの申請に基づき、果汁飲料等の表示に関する公正競争規約を認定した。これに対し、主婦連などは、この認定が不当景品類及び不当表示防止法第10条第2項第1号ないし第3号の要件に適合せず不当であるとして、公正取引委員会に不服申立てをした。公正取引委員会は、主婦連などに不服申立て適格がないとして却下審決を出した。そこでこの審決の取消しを求める訴訟が提起されたが、第一審東京高等裁判所は請求を棄却し、最高裁判所第三小法廷も上告を棄却した。
判旨:不当景品類及び不当表示防止法第10条第6項にいう「公正取引委員会の処分について不服があるもの」とは、一般の「処分」についての不服申立ての場合と同様に「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」をいう。そして、「法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定のものが受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである」。不当景品類及び不当表示防止法の目的は公益の保護であって、一般消費者の受ける利益は「反射的な利益ないし事実上の利益」にすぎず、法律上保護された利益ではない。」
この判決は、行政不服申立ての利益を行政事件訴訟における訴えの利益と同様に解している。
●最一小判昭和56年5月14日民集35巻4号717頁(Ⅱ―142)
事案:某市議会議員のXは、同じ市議会議員のAが当選後の4ヶ月間に同市の廃棄物収集業務を請け負っている会社の取締役の地位にあり、地方自治法第92条の2に違反しているとして、同法第127条第1項によるAの議員資格の有無に関する決定を求めた。市議会はAが議員資格を有するという決定をしたので、Xは知事Yに審査の申立てをしたが、Yは却下裁決を出した。そこで、Xは却下裁決の取消を求めて出訴した。第一審および第二審は請求を認容したが、最高裁判所第二小法廷は第二審判決を破棄し、Xの請求を棄却した。
判旨:地方自治法第127条第1項による決定は「特定の議員について右条項の掲げる失職事由が存在するかどうかを判定する行為で、積極的な判定がされた場合には当該議員につき議員の職の喪失という法律上の不利益を生ぜしめる点において一般に個人の権利を制限し又はこれに義務を課する行政処分と同視せられるべきものであって、議会の選挙における投票の効力に関する決定とは著しくその性格を異に」する。そのため、「不服申立をすることができる者の範囲は、一般の行政処分の場合と同様にその適否を争う個人的な法律上の利益を有する者に限定されることを当然に予定し」ているのであって、その決定によって職を失うことになる当該議員に対して不服申立ての権利を与えたものにすぎない。
以上は行政庁の作為についてであるが、行政庁の不作為については第7条に規定がある。これによると、不服申立て人となる資格を有する者は、法令に基づいて当該不作為に係る処分その他の行為を申請した者である。
既に述べたように、不服申立て人となる資格は、要件を満たす者であればよいのであって、処分の相手方か第三者か、自然人か法人かは不問である(なお、第10条ないし第13条を参照)。但し、民衆争訟は原則として認められない(例外の代表として、公職選挙法第202条・第206条を参照)。
4.教示制度
①必要的教示
行政不服審査法第57条第1項に定められる。行政処分の決定通知書の末尾に、必ず、不服申立てのできること、不服申立てをすべき行政庁、不服申立て期間が記載される。審査請求・異議申立ては勿論、他の法令に基づく不服申立てにも適用される。
②利害関係人の請求による教示(第57条第2項・第3項)
③教示すべき場合に行政庁が教示をしなかった場合の不服申立て
第58条に定められている。この場合には、当該行政庁に不服申立書を提出することができる〔第1項。また、第2項により、第15条(第3項を除く)が準用される〕。当該処分が審査請求をすることができる処分であって、異議申立てをすることができないものである場合には、処分庁が「すみやかに、当該不服申立書の正本を審査庁に送付しなければならない(第3項。他の法令により、処分庁以外の行政庁に不服申立てをすることができる処分である場合も、同様の扱いをする)。第3項によって正本が審査庁に送付された場合、「はじめから当該審査庁又は行政庁に審査請求又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみな」され(第4項)、第1項によって不服申立書が提出された場合、「はじめから当該処分庁に異議申立て又は当該法令に基づく不服申立てがされたものとみな」される(第3項の場合を除く。第5項)。
④誤った教示と救済措置
審査請求と異議申立てと区別して規定されている。
審査請求をすることができる処分について、誤って審査庁でない行政庁Aを審査庁として教示した場合に、Aに審査請求がなされたときには、審査請求書の正本および副本を処分庁と審査庁に送付し、審査請求人に通知しなければならない(第18条)。また、処分庁が誤って法定の期間よりも長い期間を審査請求期間として教示した場合には、その教示された期間内に審査請求がなされたならば、法定の審査請求期間内に審査請求がなされたものとして扱う(第19条)。
異議申立てをすることができる処分について、誤って審査請求をなしうると教示した場合に、その行政庁に審査請求がなされたときには、審査請求書を処分庁に送付し、審査請求人に通知しなければならない(第46条)。また、処分庁が誤って法定の期間よりも長い期間を審査請求期間として教示した場合には、第48条によって第19条が準用されるため、処分庁が誤って法定の期間よりも長い期間を異議申立て期間として教示した場合には、その教示された期間内に異議申立てがなされたならば、法定の異議申立て期間内に異議申立てがなされたものとして扱う。
処分について異議申立てをすることができる場合には、異議申立てについての決定を経なければ審査請求を行うことができないが、処分庁が異議申立てをすることができる旨を教示しなかった場合には、異議申立てについての決定を経なくとも審査請求を行うことができる(第20条第1号)。
また、審査請求が不適法であるが補正が可能である場合には、相当の期間内に補正を命じなければならない(第21条。第48条により、異議申立てについても同様)。
5.不服申立ての審理手続
以下、主に審査請求について扱う。
(1)不服申立ての効果
①行政庁が不服申立てを受理した場合
不服申立人は、裁決または決定が行政庁によってなされるまで、文書によって「いつでも審査請求を取り下げることができる」(第39条。第48条、第52条第2項および第56条により準用される)。取り下げがあるまでは、受理の法理に従うことが必要とされる。
②執行不停止の原則(第34条・第48条・第56条)
不服申立てがなされた場合、原則として、処分の効果は維持される。すなわち、処分の効果は停止しない(第34条第1項。第48条および第56条により準用される)。例外は、執行停止がなされうる場合などである。
第34条第2項は、「処分庁の上級行政庁である審査庁」が「必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をすることができる」と定める。この規定は第48条および第56条により準用されるので、結局、不服審査全般について、処分庁の上級行政庁たる審査庁、または異議申立てを受けた処分庁が、不服申立人の申立てまたは職権により、執行を停止することができる、ということになる。但し、不服審査庁が「必要があると認めるとき」に執行停止をなしうると定められているので、不服審査庁に要件裁量および効果裁量が認められることとなる。
第34条第3項は、「処分庁の上級行政庁以外の審査庁」が「必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取したうえ、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をすることはできない」と定める。この規定は第56条により準用されるので、審査請求および再審査請求の場合には、処分庁の上級行政庁以外の審査庁が、不服申立人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上で、執行を停止しうる、ということになる。なお、異議申立ての場合はこの趣旨が妥当しない。
第34条第4項は、「前二項の規定による審査請求人の申立てがあつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、処分の執行若しくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない」と定める。
また、同第5項は「審査庁は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」と定める。 両規定は第48条および第56条のいずれにおいても準用されており、不服審査全般について、全ての審査庁・処分庁が執行停止義務を負う場合があることが示されている。もっとも、その判断については審査庁・処分庁に一定程度の裁量が認められるものと解される。
以上は例外的に執行停止が可能である場合を、条文を基に示したものである。これに対し、執行停止ができない場合もある。第34条第6項は「第二項から第四項までの場合において、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によつて目的を達することができるときは、することができない」と定める(第48条および第56条において準用される)。もっとも、これに関する判断も審査庁・処分庁の裁量が認められるであろう。
執行停止をなすかなさないかについては、以上の諸規定から明らかであるように、審査庁・処分庁の裁量に委ねられている。それだけに、執行停止の申立てについては、早く決定がなされる必要がある。そこで、第34条第7項は「執行停止の申立てがあつたときは、審査庁は、すみやかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない」と定める。この規定は第48条および第56条により準用される。
なお、一旦なされた執行停止が「取り消される」こともある(この「取り消される」というのは、文字通りの「取り消される」の他、「撤回される」の意味も含まれると考えられる)。第35条は「執行停止をした後において、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼし、又は処分の執行若しくは手続の続行を不可能とすることが明らかとなつたとき、その他事情が変更したときは、審査庁は、その執行停止を取り消すことができる」と定める。この規定は第48条および第56条により準用されるので、異議申立ておよび再審査請求についても妥当することになる。執行停止そのものが例外とされているのではあるが、執行停止の「取消」についても不服審査庁の裁量に委ねられることとなる。しかし、執行停止が不服申立人の利益になるものであり、それを「取り消す」訳であるから、広範な裁量が認められると解するべきではなかろう。
(2)不服申立ての審理手続
ここでも、主に審査請求について概説することとする。
まず、不服申立ての要件が審理されることとなる。これが「要件審理」である。ここでいう要件は、不服申立て適格の具備、不服申立て期間の遵守(など)を指す。不服申立てが要件を欠くことが判明した場合には、不服審査庁はその不服申立てを却下しなければならない。
要件を欠いていない不服申立てについては「本案審理」がなされる。これは、不服申立ての内容(趣旨と原因)を審理することを意味する。
不服申立ての審理手続については、次に示すような特質がある。
■職権主義 行政事件訴訟など、裁判所における手続については、基本的に当事者主義が妥当するものとされている。これに対し、行政不服審査制度については職権主義の原則が採用されている。とくにそのことがよく現われているのは、職権証拠調べに関する諸規定である。以下、その諸規定をあげておく。
第27条:「審査庁は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、適当と認める者に、参考人としてその知つている事実を陳述させ、又は鑑定を求めることができる。」
第28条:「審査庁は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、書類その他の物件の所持人に対し、その物件の提出を求め、かつ、その提出された物件を留め置くことができる。」
第29条第1項:「審査庁は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、必要な場所につき、検証をすることができる。」
同第2項:「審査庁は、審査請求人又は参加人の申立てにより前項の検証をしようとするときは、あらかじめ、その日時及び場所を申立人に通知し、これに立ち会う機会を与えなければならない。」
第30条:「審査庁は、審査請求人若しくは参加人の申立てにより又は職権で、審査請求人又は参加人を審尋することができる。」
以上は、第48条、第52条および第56条により、異議申立て、不作為についての不服申立て、および再審査請求について準用される。
また、明文の規定はないが、職権探知(当事者の主張していない事実を職権で取り上げて存否を調べること)も認められている。但し、職権探知は義務とされていない。
■書面審理主義(第25条) 第25条第1項本文は「審査請求の審理は、書面による」と定める。これが書面審理主義であり、原則とされているが、審査請求人の申立てがあった場合には、口頭による意見陳述の機会を与えなければならない(同第1項ただし書き)。また、法律によって、公開による口頭審理を定めることもある。
●最一小判平成2年1月18日民集44巻1号253頁(Ⅱ―144)
事案:某市長は、X所有の宅地に対する固定資産税につき、課税標準である価格を決定した上で固定資産課税台帳に登録し、縦覧に供した。Xは縦覧をし、Y(市固定資産評価審査委員会)に対し、登録価格に関する不服を申し立てるため、審査の申出をし、口頭での審理も申請した。口頭審理などが行われた結果、YはXの申出を棄却する決定を出した。これについて、Xは重大な手続の瑕疵を理由として棄却決定の取消を求めて出訴した。第一審はXの請求を棄却したが、第二審は請求を認容したので、Yが上告した。最高裁判所第一小法廷は第二審判決を破棄し、第二審に事件を差し戻した。
判旨:地方税法第433条第1項による口頭審理の制度は、審査申出人に対して主張や証拠の提出の機会を与えるものであるが、簡易迅速な権利救済を図るものであって「民事訴訟におけるような厳格な意味での口頭審理の方式が要請されていない」。また、Yが口頭審理を行う場合でも、口頭審理外で職権による事実の調査を行うことは妨げられておらず、審査申出人に立会いの機会を与えることも法律上は要求されていない。本件においては調査結果の取り扱いなどに違法な点がない。
▲なお、第25条は第48条、第52条および第56条により準用される。
▲審査庁が審査請求を受理した後について、第22条ないし第24条の規定を紹介しておく。
第22条第1項:「審査庁は、審査請求を受理したときは、審査請求書の副本又は審査請求録取書の写しを処分庁に送付し、相当の期間を定めて、弁明書の提出を求めることができる。」
同第2項:「弁明書は、正副二通を提出しなければならない。」
同第3項:「前項の規定にかかわらず、情報通信技術利用法第三条第一項の規定により同項に規定する電子情報処理組織を使用して弁明がされた場合には、弁明書の正副二通が提出されたものとみなす。」
同第4項:「前項に規定する場合において、当該弁明に係る電磁的記録については、弁明書の正本又は副本とみなして、次項及び第二十三条の規定を適用する。」
同第5項:「処分庁から弁明書の提出があつたときは、審査庁は、その副本を審査請求人に送付しなければならない。ただし、審査請求の全部を容認すべきときは、この限りでない。」
(第22条は審査請求に特有の手続を定めるため、第52条第2項により、不作為についての審査請求に関してのみ準用される。)
第23条:「審査請求人は、弁明書の副本の送付を受けたときは、これに対する反論書を提出することができる。この場合において、審査庁が、反論書を提出すべき相当の期間を定めたときは、その期間内にこれを提出しなければならない。」
(第23条も審査請求に特有の手続を定めるため、第52条第2項により、不作為についての審査請求に関してのみ準用される。)
第24条第1項:「利害関係人は、審査庁の許可を得て、参加人として当該審査請求に参加することができる。」
同第2項:「審査庁は、必要があると認めるときは、利害関係人に対し、参加人として当該審査請求に参加することを求めることができる。」
(第24条は、第48条および第56条により、異議申立ておよび再審査請求に関して準用される。)
また、審査請求において申立人に口頭で意見を述べる機会が与えられた場合には、第25条第2項により「審査請求人又は参加人は、審査庁の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる」(第48条、第52条および第56条により準用される)。
証拠調の基本的な対象は、審査請求人(または参加人)の提出する証拠書類・証拠物である。それらの提出期間については、審査庁が定めうる(第26条 。第48条、第52条および第56条により準用される)。処分庁も、その処分の理由となった事実を証する書類その他の物件を提出できる(正当な理由なく閲覧を拒めない。第33条 。第52条および第56条により準用される)。
審査庁に与えられた証拠調の権限について、第27条~第30条 を参照。他に第31条・第32条 、その他の手続・処置について第36条~第38条を参照。
(3)裁決・決定
いずれも、書面で行われる。裁決については第41条、決定については第47条(第41条を準用)。なお、再審査請求の裁決については第56条によって第41条が準用されることとなるが、不作為についての不服申立てについては第41条第2項が準用されないので、注意が必要である。
裁決の種類は、次のようになっている(第40条、第50条、第51条。第48条および第56条で第40条を準用)。
①却下裁決(第40条第1項、第50条第1項および第51条第1項) 審査請求が要件を欠き、不適法なときに下される。
②棄却裁決(第40条第2項および第51条第2項) 審査請求が理由のないものである場合に下される。
《③以下は認容裁決》
③取消裁決(第40条第3項) 事案に応じて、処分の「一部又は全部を取消す」。
④宣言裁決(第40条第4項・第5項。撤廃命令または変更命令) 事案に応じて、事実行為の「一部又は全部の撤廃(または変更)」を命じ、宣言する。
⑤変更裁決(第40条第5項。変更命令) 事案に応じて、処分を変更し、または処分庁に対して処分を変更すべきことを命ずる。この場合は、審査請求人の不利益になるような変更は許されない。
⑥事情裁決(第40条第6項) 処分が違法または不当であっても、取り消しや撤廃が公の利益に著しい障害を生じる場合に、処分が違法または不当であることを宣言しつつ、審査請求を棄却する裁決。 形式的には棄却裁決であるが、実質的には認容裁決であると言える。
⑦不作為庁の措置(第50条第2項) 裁決などとは異なるが、不作為庁が、申請に対する何らかの行為を行い、または書面で不作為の理由を示さなければならない、とされている。
⑧不作為違法の宣言裁決(第51条第2項) 審査庁が不作為庁に対して何らかの行為を行うことを命じ、宣言する。
裁決・決定の効力は、次の通りである。
①いずれも、行政行為としての公定力や不可争力を生じる。
②認容裁決は、「関係行政庁」に対する拘束力を有する(第43条)。
③裁決の効力が生ずるのは、審査請求人(第三者が審査請求人である場合の認容裁決については処分の相手方)に送達(公示送達も)をするときである。