ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

非正規公務員の問題

2012年10月30日 07時34分56秒 | 国際・政治

 世の中で繰り広げられている公務員バッシングを見ると「馬鹿の一つ覚え」という言葉が思い浮かびます。はっきり言えばただの「ひがみ根性」でしょう。バブル期には公務員など就職先としては人気が薄かったのです。不景気になってから、安定している、給料が良い、などということで叩いているのです。仕事の内容もろくに知らないから大騒ぎができるのかもしれませんが、もう少し、実態などをよく理解して欲しいものです。こう書いたところで、バッシングを繰り返している連中には何を言ったって最初から理解の外に置いていることくらい、私もわかっていますが。

 さて、今日の朝日新聞朝刊5面14版に「自治体の非正規、3割超  全国70万人■4年で2割増  財政規模小さな町村に集中」という記事が掲載されています。「官製ワーキングプア」という言葉も定着し、非正規公務員の問題はここのところ注目されるようになっていますが、今日の記事を見ると、より深刻化していると思わざるをえません。

 自治労が調査したところによると、全体で3分の1が非正規の公務員ですが、その調査は全自治体を対象とした訳ではありません。それでも70万人ほどが非正規公務員と見込まれており、確実に数字は上がっています。時給900円未満、月給16万円未満、どちらのばあいも期末手当(民間で言う賞与またはボーナス)はありません(あっても僅少額です)。昇給もないという場合が多いでしょう。年間での収入は200万円を割り込みます。

 上記の朝日新聞記事にはグラフがあります。これを見ると、図書館職員の非正規公務員の率は実に67.8パーセントで、学校給食関係も64.1パーセントと、3分の2を占めています。また、保育士も52.9パーセントです。

 この問題をややこしくしているのは勤務時間で、正規と非正規とではそれほど変わりがない場合があります。上記の記事にも「勤務時間が正規の4分の3以上ある非正規は6割を超え」ていると書かれています。以前に読んだ本では、たったの数分しか勤務時間が違わないという非正規公務員がいるという職場があるそうです。こうなると濫用ではないかと思うのですが、財政状況の故でしょうか。

 2013年4月から改正労働契約法が施行されます。しかし、公務員には適用されません。法制度の違いによるものですが、この際、行政法理論などでも見直しを進め、非正規公務員については公務員法ではなく、労働法(労働基本法など)の適用があると考える方向に改めるべきではないでしょうか。

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Jan Bang / Erik Honore / David Sylvian / Sidsel Endresen / Arve Henriksen, Uncommon Deities

2012年10月25日 20時54分18秒 | 音楽

 常に成長、発展を続ける音楽家、常に歩み続ける音楽家と言えば、すぐに思い浮かぶのがマイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンであるが、21世紀の今であれば、デイヴィッド・シルヴィアンを筆頭としてあげることができるだろう。その彼が主宰するサマディサウンドから、9月下旬に発売されたCD(日本盤はPヴァインから発売)、Jan Bang / Erik Honore / David Sylvian / Sidsel Endresen / Arve Henriksen, Uncommon Deitiesは、こうした評価と期待を裏切らない作品である。

 一聴して「デイヴィッド・シルヴィアンはどこまで先に進んでいくのだろうか?」と思わせられる内容である。確実に、「ブレミッシュ」、「マナフォン」、そして今作と、水準は上がってきており、前進している(但し、今作は彼のソロアルバムではない)。何ならジャパン時代から順番に通して聴いてみるとよい。ソロの作品はどれも素晴らしいし、同時代の音楽からみれば前衛的な位置にあり、サマディサウンド設立以降はその傾向が強まっていることを確認できるであろう。1970年代後半から1980年代前半にかけてのニュー・ウェーヴ期に台頭したイギリスのミュージシャンの中で、シルヴィアンが突出した位置にあることは否定できない。彼以外に、ひたすら歩み続けた人が、他にいるであろうか。

 おそらく、CD屋でもネットでも、ロックかポップスか、どちらかの棚に置かれるであろうが、内容は現代音楽の範疇であろう。いや、ジャンルは関係ない。我々がいかに聴くか、という点に尽きる。

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「植草甚一コラージュ日記 東京1976」

2012年10月23日 00時09分21秒 | 本と雑誌

 閉店してから10年以上が経ちますが、今でも、高校1年生の時分から通っていた六本木WAVEを思い出すことがあります。このレコード屋で、ジャズやクラシック、その他の音楽の良さ、楽しさを学んだのです。LPやCDの置き方など、他のレコード屋にはないものがありました。「こんなものもあるんだぞ」とか「こんなものも楽しいよ」と訴えかけるようでした。HMVにもタワーレコードにも石丸電気(現在のエディオン)にもディスクユニオンにも新星堂にもツタヤにもその他のレコード屋にもない空気が、たしかに六本木六丁目にはあったのです。10代後半の私は、1984年8月31日に初めてWAVEに入ってから、すぐさまその雰囲気に魅了されました。3時間か4時間くらい、棚を眺めては楽しんでいたのです。

 その後、同じ六丁目にあるABCに行くと、晶文社から刊行されていた「植草甚一スクラップ・ブック」が揃っていました。私は、ジャズに関係する巻を中心に買いましたので、全巻を揃えてはいないのですが、買っては読んで楽しんでいました。植草甚一氏の、あの独特の文体にひかれて、ジャズの面白さを知り、深みにはまり込んでいったのです。

 植草氏は1979年に亡くなっていますが、そんなことを感じさせないものが「植草甚一スクラップ・ブック」にはあります。とくに「植草甚一日記」は、戦時中の日記と1970年頃の日記が掲載されていますが、時代に左右されない一貫した自由さがあり、驚かされたものです。私が日記をつけるようになったのも、植草氏の日記を読んだからです。経堂に住んでいた彼は、三軒茶屋、池尻、渋谷、下北沢、神保町、本郷、銀座、新宿、六本木(植草氏は誠志堂へ行っていたのでした)などをまわり、散歩し、古本を買い漁ります。そんな生活の姿に、何の気なしに引き込まれます。

 さて、「植草甚一スクラップ・ブック」ですが、これは彼の全集でして、月報が付いています。その月報に1976年の日記が連載されていました。しかも、活字になっていない、植草氏の自筆のままの日記です。これもなかなかのもので、鶴見俊輔氏も「植草甚一日記」への解説で書かれているように、自然に引き込まれ、勇気付けられるように思えてくるのです。心のどこかで「まとめて読みたい」という願望を抱くものでした。私のようなジャズファンは勿論、映画ファン、英米文学ファン、フランス文学ファンも、同じような思いを抱くでしょう。

 つい先日、たまたま某書店で、「植草甚一スクラップ・ブック」の月報に掲載された日記をまとめた文庫本を見つけ、すぐさま買いました。平凡社ライブラリーの「植草甚一コラージュ日記  東京1976」です。月報と全く同じ体裁ですので、植草氏の日記は活字化されていません。多少の読みにくさはあるものの、よくぞ文庫本で出してくれたと拍手を送りたいような気分です。

 今年の夏に出たばかりの、1976年の日記。東京に生まれ育った者の、世田谷区を中心として東京を歩き回ることによって生まれた日記。ジャズファンならずとも一読、二読、多読の価値はあります。一日で何度も繰り返して読める本は、そう滅多にあるものではありません。

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おしらせです(2012年10月20日)

2012年10月20日 21時16分42秒 | 本と雑誌

 管理人の権限を利用して、お知らせです。

 有斐閣から、宇賀克也・交告尚史・山本隆司編『行政判例百選Ⅰ』〔第6版〕が発売されました。この中の「83  公務員懲戒処分と裁量審査」を、私が担当しています。

 これは最三小判昭和52年12月20日民集31巻7号1101頁についての解説で、第5版の78と題名は同じですが、解説の内容を変更しております。

 御一読をいただければ幸いです。

 なお、上記の本を、私が担当する講義「行政法1」(大東文化大学法学部)および「行政法Ⅰ」(国学院大学法学部)の参考書とさせていただきます。

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井笠鉄道事業廃止の続報

2012年10月17日 12時13分05秒 | 社会・経済

 おそらく地元ではだいぶ前から噂にはなっていたはずなのですが、井笠鉄道の事業廃止、そして会社の精算は、あまりにも突然の、あるいは唐突な話である、と評価してもよいでしょう。もっと早いうちに手を打っておかなかった、あるいはおけなかったことが悔やまれます。

 さて、この問題の続報とも言える話が、今日の読売新聞岡山版に取り上げられているようです。同紙のサイトには「井笠鉄道路線を『公設民託』に」という記事(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/okayama/news/20121016-OYT8T01351.htm?from=popin)が掲載されており、今後の公共交通機関のあり方を考える上で参考になると思われます。

 中国バスへの移管の話は、前にも取り上げました。この中国バスという会社は岡山県の両備グループの傘下にあるのですが、広島県東部にも路線網を持っているということになります。さて、その両備グループは、井笠鉄道のバス路線を引き継ぐことになる訳ですが、無条件で、ということにはならないようです。具体的には「公設民託」方式の導入を求めているのです。あまり聞き慣れない言葉かもしれません。鉄道であれば「公設民営」とか「上下分離」という言葉のほうがなじみ深いでしょう。東北本線の一部であった目時~青森を運行する青い森鉄道がこの方法で運営しており、線路などの施設は青森県が所有し、電車の運行を同社が行っているのです。こうすると固定資産税の負担なども減ることとなります。

 井笠鉄道のバス路線はすべて赤字であり、とても全路線を引き受けて中国バス単独で運行することができない、という判断があるのでしょう。両備グループは、バス車両、車庫、営業所などを地方自治体(おそらく笠岡市など)が所有し、運行のみを中国バスが行うという方式を提唱しています。同じような方法をコミュニティバスが採用していますが、それよりもっと踏み出しています。コミュニティバスの場合は、バスの車両を地方自治体が所有している訳ではないからです。

 しかも、現在の井笠鉄道のバス路線の半分ほどは廃止する、という方針を示しています。そこまで行かなくとも減便の必要性を主張しています。こうなると、いっそう不便になることは明らかで、いまや県庁所在地でも珍しくない公共交通機関空白地帯が増加するでしょう。人口減少が加速することも考えられます。

 以前から気になっていることは、日本では公共交通機関といえども民間会社が運営する以上は独立採算制を原則としている、という建前です。実際のところは破綻していると思われるのですが、建前は維持されています。従って、現在でも政府関係者の間に根強い規制緩和、民営化、民間活力、自己責任などの思考(新自由主義的思考)によれば、バス路線や鉄道路線が赤字だからといって運営会社が地方自治体に補助金なり赤字補填なり活性策なりを求めることはおかしいのであって、バス会社や鉄道会社の「甘え」なり「おごり」なりとしか言えないはずです。私がこうした思考を持つ地方自治体関係者(知事、市町村長)などであれば、こんな「甘え」や「おごり」を拒絶して、それこそ自己責任で処理しろとでも言うでしょう。しかし、実際にはそんな関係者はほとんど存在しません。なければ困るものであるからです。

 中国バスは、とりあえずは11月から5ヶ月間について、井笠鉄道のバス路線の代替運行をするということで、中国運輸局に申請しています。来年の4月以降がどのようになるのかが注目されますが、おそらく、廃止路線が少なからず発生することでしょう。

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井笠鉄道が事業を廃止、そして会社清算へ

2012年10月15日 01時50分58秒 | 社会・経済

 今月13日に読売新聞の岡山版の記事「井笠鉄道  事業廃止へ」(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/okayama/news/20121012-OYT8T01477.htm?from=popin)、および同広島版の「井笠鉄道  事業廃止へ  福山の市民にも影響」(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hiroshima/news/20121012-OYT8T01642.htm)で報じられていた話ですが、公共交通機関の問題を考えるに際して、これは非常に深刻な状況ではないかと思われます。

 井笠鉄道という会社があります。名称の通り、元々は鉄道路線(しかも軽便鉄道)を運営していましたが、1971年に鉄道路線を全廃して以来、バス会社として存続しました。しかし、帝国データバンクのサイト(http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/3674.html)によれば、同社は「10月12日に債務整理を森倫洋弁護士(港区赤坂1-12-32、電話03-5562-8500)に一任し、10月31日に事業を停止することを記者会見にて発表した」とのことです。この旨は、10月12日に中国運輸局岡山運輸支局にも届け出られています。

 帝国データバンクの上記サイトには次のように記されています。「マイカー通勤の増加や路線地域の過疎化などが進むなか、運行地域での鉄道開通などもあって乗客数は大幅に減少していた。このため、赤字路線の統廃合や遊休資産売却、経営多角化などの対応をとってきたが、中小業者の参入が相次いで低運賃化による競争が激化、収入高の減少に歯止めがかからず、2012年3月期の年収入高は約9億円に落ち込み、燃料価格の高騰もあって大幅な赤字を計上していた。その後も不採算路線の廃止などリストラを進めたものの、借入金負担が資金繰りを圧迫する状況が続き、乗客数が増える見通しも立たないことから、事業の継続を断念した。10月31日に71路線の運行を停止することを決定し、うち主要路線を11月1日より同業他社に引き継ぐことを検討し、近日中に決定する見通しとしている」。そして、負債額は「2012年3月期末で約32億3600円」が見込まれているとのことです。

 岡山県の西部にある笠岡市に本社を置き、広島県の福山市にもバス路線網(かつては鉄道路線網も)を広げていた同社の事業廃止および会社清算は、公共交通機関の衰退という長らくの問題に更なる側面を付加したこととなるでしょう。現在、井笠鉄道は5の高速バスと76の路線バスの路線網を持っていますが、高速バスについては福山市の中国バスが受け継ぎ、路線バスの一部については中国バスと、矢掛町の北振バスが受け継ぐとのことですが、上記読売新聞岡山版および広島版の記事によればあくまでも「主要路線の一部」とのことなので、中国バスおよび北振バスの判断によっては引き継がれないままに廃止される路線も少なからず発生するおそれがあります。

 発表が突然なされたという憾みは否めません。しかも、定期券や回数券、そして同社専用のバスカードが使えなくなる上に払い戻しもなされないという危険性があるというのは、利用客にとって非常に困る話です。この辺りの手当てが十分になされないというのでは、たまったものではないでしょう。読売新聞の記事によると、10年ほど前から慢性的な赤字が続いていたというのですから、中国バス、大分バスなどのように整理回収機構による私的再生手続の途も選択肢として存在していたのではないでしょうか。あるいは、その選択もできないような状態であったのかもしれませんが、もう少し、準備期間のような時間をとることができなかったのか、という疑問は残されるでしょう。

 鉄道事業をやめてからも会社名に鉄道の名を残す会社は意外に多く、千葉県の九十九里鉄道、新潟県の蒲原鉄道、広島県の鞆鉄道、山口県の船木鉄道を例としてあげることができます。また、岡山県の中鉄バスも、名称が示しているように、元は中国鉄道という会社でしたし、山口県のサンデン交通も、元は山陽電気軌道という名称でした。

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法学部の1年生は、社会思想史を勉強しなさい!

2012年10月10日 21時40分45秒 | 法律学

 大分大学時代の7年間は、基本的に1年生向けの科目を担当していました。その頃から強く思っていたことですが、再び昨年から1年生向けの科目を担当するようになり、その思いがさらに強まりました。

 それは、社会思想史に弱い学生があまりに多いということです。これで、どうやって法律学の勉強を続けていけるのか、と心配になります。

 私自身は、学部1年生であった時に教養科目として履修しました。その教科書を現在でも所持しています。学生時代には何度も読み返していました。法律学に取り組む学生については必修にしてもよいでしょう。いや、社会科学全般に取り組むならば、社会思想史は必須です。この分野に関する知識(さらに言えば見識)があるかないかで、理論の深みなども違ってくるほどです。

 以前にも何度か書いていますが、私は、神奈川県立多摩高等学校を卒業しました。現在はどうか知りませんが、当時、この高校では、文系・理系を問わず、社会科の全分野(地理、日本史、世界史、倫理、政治・経済)と理科の全分野(物理、科学、生物、地学)は必修でした。私は理科で非常に苦労しましたが、こと社会科に関する限り、全分野を勉強したことはよかったと感じています。

 現在の高校では、社会科は完全に選択制を採っているといいます。そのような馬鹿なことをいつまで続けるつもりかと思います。小学校でダンス(それもヒップホップか何か)を必修化するというのですが、「何を考えているのか?」と言いたくなります。歴史的背景などを知らないのでしょうか。経済こそ、小学校から必修とすべきでしょう。そうすれば、数学の勉強も楽になります。身も蓋もない話ですが、金の計算こそ、算数や数学に興味を持たせるのに適切なものではないかと思うのです。いや、そればかりでなく、経済を学ばせることこそ、社会全体を学ばせることにつながります。

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吉都線100周年の記事に見る、ローカル線の問題

2012年10月05日 22時54分50秒 | 社会・経済

 新聞社のサイトには地域面のニュースも掲載されていますから、神奈川県に住んでいながら宮崎版の記事を読むことも可能です。新聞紙だけでは無理ですので、便利なものです。

 さて、10月3日付で、朝日新聞宮崎版に吉都線関係の記事が掲載されていることがわかりました。デジタル版では「『小林市の未来へレールを』 吉都線100年祝う 宮崎」という見出しが付けられています(http://digital.asahi.com/articles/SEB201210020010.html?id1=2&id2=cabcbaad)。過疎とローカル線の問題を一緒に考えるにはうってつけの記事とも言えます。

 吉都線は、肥薩線との乗換駅である吉松(鹿児島県)から、日豊本線との乗換駅である都城(宮崎県)までのローカル線です。歴史はかなり複雑で、1912年に、宮崎線として、当時の鹿児島本線の吉松から小林までが開業しました。その翌年に小林から都城までが開業するのですが、建設はさらに進み、当初の線名の通り、宮崎まで延長します。この頃から宮崎本線と称されています。1923年、小倉~吉松が日豊本線となります。つまり、吉都線はかつて日豊本線の一部であったという歴史を持っているのです。この点は、かつて東海道本線の一部であった御殿場線や、長崎本線の一部であった佐世保線の肥前山口~早岐、同じく長崎本線の一部であった大村線とよく似ています。

 1932年に都城~隼人(西都城、霧島神宮経由)が開業したことにより、吉松~都城は日豊本線から切り離されて吉都線となりました。ついでに記すならば、1927年、八代~人吉~吉松~隼人が鹿児島本線から切り離され、肥薩線となっています。鹿児島本線のルートが変更されたのは、人吉~吉松で急勾配が連続するためでした。肥薩線となってからは純粋なローカル線となり、人吉~吉松は一日の本数が僅か5往復程度という閑散区間で、よくぞ廃止されなかったと思うのですが、九州新幹線の開業に伴い、鹿児島本線の八代~川内がJR九州から切り離されて肥薩おれんじ鉄道に移管され、ローカル線の肥薩線がJR九州に残ったというのも、皮肉な話です。

 肥薩線にも触れたのは、九州自動車道および宮崎自動車道という強敵がいるからです。吉都線と肥薩線には特急おおよど号も走っていたのですが、自動車社会の進展のために廃止されています。単線非電化の吉都線と肥薩線では、スピードアップを図るにも難しく、高速バスや自家用車に輸送量を奪われるのも当然の成り行きでしょう。いまや、吉都線はJR九州で最も輸送密度が低い路線となっています。国鉄最後の年度である1986年度には1338人であった輸送密度が、2007年度に576人にまで落ち込んでいるのです。もっとも、1338人という数字でも、国鉄時代の末期であれば特定地方交通線に指定されてもおかしくありません。廃止されなかったのは、何らかの除外要件に該当したからではなかったでしょうか。

 また、九州新幹線の開業が、吉都線に悪い影響を与える可能性も否定できません。新八代駅から宮崎駅方面へのバス路線が開業しているからです。当然、九州自動車道および宮崎自動車道を経由することになる訳で、人吉IC、えびのIC、小林ICにも停車します(但し、えびのICを通過する便もあります)。宮崎交通のサイトによると、新八代駅から宮崎駅まで2時間15分ほど、片道4150円です。新幹線およびバスの往復運賃は、福岡市内から宮崎駅まで1万円です。本数は、宮崎交通、JR九州バス、九州産業交通を合わせて16往復です。現在の吉都線および肥薩線では太刀打ちできないでしょう。

 以上のような状況の吉都線ですが、今月1日、吉都線開業100周年および小林駅開業100周年の記念行事が小林駅で行われました。この駅は、同線の途中駅では唯一の有人駅です。上記記事ではあまり詳しく書かれていませんが、1984年に吉都線の利用者が一日平均で3364人であったのに対し、2009年には1689人となっている旨が示されています(輸送密度ではないことに注意が必要です)。

 九州内の鉄道路線も随分と利用しました。福岡県、佐賀県、長崎県および大分県の鉄道路線は、ケーブルカーやロープウェイなどのような特殊なものを除き、現在営業中のものについて全て利用しています(このうち、佐賀県と長崎県については、今年の集中講義期間中に完乗となりました)。JR九州の路線では、肥薩線、吉都線、日南線の田吉~志布志、指宿枕崎線の山川~枕崎を利用したことがないのですが、どの路線・区間も本数が少なく、不便であるためです。大分県に住んでいた頃には、九州島内を車で走り回ることが当然という状況でした。鉄道路線を利用したくとも、本数が少ない上に時間もかかり(自家用車のほうが速いという場合も少なくないのです)、おまけに乗換駅での接続が悪いときては、利用するのをためらいます。

 ローカル線の問題については、折りに触れて、今後も取り上げていきます。

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いまや大井町線の主力?

2012年10月05日 08時33分04秒 | 写真

 来年(2013年)3月開始と決定されている、東横線・副都心線の相互直通運転を前に、数年前から9000系が次々に5両編成化されて大井町線に転籍しています。最初から5両編成で同線を走る9007Fも含めて、今や、大井町線各駅停車の主力は9000系であると言ってもよいでしょう。

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 上の写真の9002F(二子玉川駅で撮影)も、長らく東横線で運用されてきました。いつ大井町線に移ってきたのか、はっきりしたことはわかりませんが、ここ2、3年の間であるはずです。転籍後にシングルアーム式のパンタグラフに換えられていますが、行先表示は方向幕のままです(フルカラーのLED式に変えられた編成が多いのですが)。

 9000系は、東急で最初の本格的なVVVF制御車で(試験運用では初代6000系が最初です)、1986年に登場しました。元々は地下鉄南北線に乗り入れることが予定されていたのですが、南北線の建設の遅れと、同線の勾配などのため、南北線(および三田線)への乗り入れには2代目3000系が使われることとなりました。8000系に代わる東横線の主力として、特急、通勤特急、急行、各駅停車とオールラウンドに運用されてきましたが、副都心線直通運転を前にして2代目5000系シリーズの5050系と横浜高速鉄道Y500系に統一するようです。

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読売新聞兵庫版の記事(臨時教員の退職手当)

2012年10月03日 22時05分21秒 | 社会・経済

 大分大学時代から、朝日と読売のサイトは欠かさずチェックしています。今日は、読売新聞社のほうの兵庫版で見つけた「県臨時教員『退職手当は非課税』」(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/hyogo/news/20121001-OYT8T01678.htm)という、昨日付けの記事を取り上げます。

 県採用の臨時教員がどのような待遇を受けているのかということについて、私は多少なりとも知ってはいます。私のゼミにいた卒業生の中にも、臨時教員となった者が何人かいるからです。任期は最大でも1年で、非常に不安定な立場にあります。更新される場合もあれば、そうでない場合もあるからです。そもそも、教諭と異なる待遇ですから、期末手当も出ないか、出たとしても大した額ではありません。その意味で、僅かであっても退職手当くらいは出すのが筋というものでしょう。ちなみに、一人について平均で15万円程度であったそうです。

 この退職手当について、兵庫県内の姫路税務署、豊岡税務署などが、退職所得ではなく、給与所得とみなして課税する旨を兵庫県教育委員会に通知したそうです。対象は2007年度から2010年度までの、延べ人数で1530人分です。退職所得の場合でも源泉徴収ですが、税務署側は給与所得として源泉所得税や不納付加算税など、合わせて1570万円を兵庫県教育委員会に支払うように請求しました。この請求が通知という手段で行われた訳で、しかも通知は処分、行政法で言うところの行政行為です。今年6月の話でした。

 兵庫県教育委員会は、以上の通知につき、8月に税務署長に異議を申し立てていました。10月1日、税務署長は通知を取り消したとのことです。

 公務員法の理屈から言えば、税務署の通知処分はおかしいのですが、臨時教員の任期が満了して、数日間空けてから再任用という場合が多いそうで、ここに税務署が目をつけたということなのです。兵庫県の再任用率が高かったのでしょうか。税務署は、再任用が実質的に継続雇用であるとみなしたのでした。こうなると、退職手当は文字通りの退職手当ではなく、期末手当に近いものということになるのでしょう。税法の講義で扱う5年退職金事件を想起させます。

 たしかに、再任用に継続雇用の面があることは否定できません。しかし、公務員の場合、雇用契約が取り交わされる訳ではなく、任用権者である行政機関の長による行政行為という一方的な手段に委ねられています。しかも、誰を任用するかは行政側の裁量に委ねられています。再任用についても同様です。そもそも、再任用という表現自体が法律上のものではなく(と記すと行き過ぎかもしれませんが)、希望者には事実上の期待しかなく、その希望が法的に保護される訳でもないのです。このようなことは、やはり期限付任用が非常に多い国家公務員であれば、容易に理解できるはずなのですが、税務署には期限付任用の例が乏しいのでしょうか。

 この記事を読んでいて、改めて期限付雇用の問題を考えざるをえません。先日、日本評論社から出版された『非正規公務員』という本は、公務員問題に取り組む際の必読の書と言えるでしょう。

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