昨日、白川浩道『消費税か貯蓄税か』(朝日新聞出版)を買いました。書名が気になったので手に取り、読んでみようと思った訳です。
所々で「?」という記号が頭に浮かんだのですが、現在の経済が供給過剰であるということ(この点でサプライサイド的な考え方には納得できません。需要がなければ意味がない訳で、需要は無尽蔵でもないのです)、デフレのまま安定しているような傾向であるということからすれば、一つの選択肢ではあるかもしれません。
貯蓄税とはあまり聞き慣れない言葉ですが、その名の通り、貯蓄に課税するというものです。資産課税の一種ですが、固定資産などの有形資産ではなく、預貯金を中心に、国債、さらには「タンス預金」に課税するというものです。全体的に、まだ具体的な部分が明確になっていないような嫌いもなくはないのですが、著者の言葉を借りれば「経済活動に貢献していなかった、いわば休眠資金が消費や他の資産投資に向かう」というのです(同書5頁)。
著者の白川氏は、この貯蓄税で景気回復と財政再建の二兎を追うことができる、と主張します。そればかりでなく、「税負担は高所得・高齢層に集中するため、貯蓄税は低所得・若年層には優しい税制であり、また、経済成長を阻害し、格差(特に世代間格差)を拡大する恐れのある消費税増税とはまさに正反対に、経済成長を促進するとともに、盛大間格差の拡大を止める効果を持つ」とも主張します(5頁)。
私が「なるほど」と思った部分が、124頁にありました。租税の公平に関して応能負担原則と応益負担原則があげられます。この両者は、ともすれば対立する概念として捉えられがちで、実際にそのような部分もあるのですが、相互補完的な関係となることもあります。高所得層に対する税負担を求めるには、応能負担原則と応益負担原則の双方が相互補完的に役割を果たすことが求められます。著者によれば、貯蓄税は応能負担原則を満たします。著者の構想からすれば当然で、全体的に著者の議論は応能負担原則を土台にしています。これは支持されるべきでしょう。応益負担原則だけでは、現在の日本の年齢階層や消費活動を考慮したとき、若年層には極めて不利に働き、消費活動などを抑制させるからです。しかも、著者は応益負担原則も忘れてはいません。さらに、機会の平等もしっかりと盛り込んでいます(税制の議論では意外に忘れられがちですが、憲法にも大原則の一つとして定められている平等は税制にも生かされる必要があります)。
所得と資産のどちらが、担税力の指標として望ましいか。これは難問とも言えなくはないですが、著者は資産に軍配を上げています。私は、講義の場では所得が担税力の指標として望ましいと言っており、資産を指標とするには一定の条件が必要であるとも考えていますが、貯蓄が経済力のサインであることは否定できませんので、資産課税の強化も選択肢とする必要はあるでしょう(但し、高所得者が逃げ出して国内の税源が少なくなることも否定できませんが)。
世の中には消費税増税を肯定する議論も少なくなく、最近、私はこの種の議論を展開する書籍も何冊か買いました。理解できる部分もあるのですが、消費税率引き上げと景気の後退とは関係がないという主張に対しては、短期的な展望しか見ていない、視野が狭い、としか思えません。税率を引き上げれば、一時的には国庫収入が増えるかもしれません。しかし、消費税増税は、簡単に言えば物価の引き上げでもあります。そうなれば、購買意欲も減退することになるでしょう。消費者の多くが買い控えをして、安くなるまで待つというのは、当然のことです。私自身もそうで、新製品が出てもすぐには買わないことが多く、性能がよくなって安くなるまで待つというのは、或る種の製品であれば常識でもあります。
もう一つ、白川氏の主張に同意できる部分があります。消費税というと必ずヨーロッパ、とくに北欧諸国(スウェーデンなど)が引き合いに出されますが、氏は、こういう国の税制や社会はあまり参考にならないし、すべきではない、という主張です。日本とあまりに違うからです。人口や経済規模が違いすぎるという理由です。
たまたま経済書のコーナーで見つけた本書ですが、一読の価値はあります。