8月も終わりに近くなってきました。近所の小学校では、既に2学期が始まっています。
さて、本題に入りましょう。7月31日の23時31分30秒付で「近江鉄道の今後は?」という記事を掲載しました。今回は続編です。
滋賀県と沿線自治体が、今月(8月)27日に東近江市で会合を開きました。京都新聞社が8月27日の23時50分付で「赤字の近江鉄道、上下分離で存続へ法定協 滋賀県と沿線自治体」として報じています(https://www.kyoto-np.co.jp/shiga/article/20190827000106)。
この会合では、10月下旬に法定協議会を設置し、近江鉄道の存廃、存続する場合の財政負担などを議論していくことで合意されたようです。法定協議会は地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に基づいて設置されるものです。同法の第6条を示しておきます。
(協議会)
第6条 地域公共交通網形成計画を作成しようとする地方公共団体は、地域公共交通網形成計画の作成及び実施に関し必要な協議を行うための協議会(以下「協議会」という。)を組織することができる。
2 協議会は、次に掲げる者をもって構成する。
一 地域公共交通網形成計画を作成しようとする地方公共団体
二 関係する公共交通事業者等、道路管理者、港湾管理者その他地域公共交通網形成計画に定めようとする事業を実施すると見込まれる者
三 関係する公安委員会及び地域公共交通の利用者、学識経験者その他の当該地方公共団体が必要と認める者
3 第1項の規定により協議会を組織する地方公共団体は、同項に規定する協議を行う旨を前項第2号に掲げる者に通知しなければならない。
4 前項の規定による通知を受けた者は、正当な理由がある場合を除き、当該通知に係る協議に応じなければならない。
5 協議会において協議が調った事項については、協議会の構成員はその協議の結果を尊重しなければならない。
6 主務大臣及び都道府県(第一項の規定により協議会を組織する都道府県を除く。)は、地域公共交通網形成計画の作成が円滑に行われるように、協議会の構成員の求めに応じて、必要な助言をすることができる。
7 前各項に定めるもののほか、協議会の運営に関し必要な事項は、協議会が定める。
近江鉄道に関する法定協議会については、滋賀県が運営を主導する方針を示しており、また、同協議会が地域公共交通網形成計画を2020年度中に策定することとされました。メンバーは、上記の第6条に従って「県や沿線市町の担当者、有識者、地元企業や観光関係者などで構成する」とのことです。地域公共交通網形成計画については地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の第5条が法的根拠となりますので、ここで引用しておきましょう。
(地域公共交通網形成計画)
第5条 地方公共団体は、基本方針に基づき、国土交通省令で定めるところにより、市町村にあっては単独で又は共同して、都道府県にあっては当該都道府県の区域内の市町村と共同して、当該市町村の区域内について、持続可能な地域公共交通網の形成に資する地域公共交通の活性化及び再生を推進するための計画(以下「地域公共交通網形成計画」という。)を作成することができる。
2 地域公共交通網形成計画においては、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 持続可能な地域公共交通網の形成に資する地域公共交通の活性化及び再生の推進に関する基本的な方針
二 地域公共交通網形成計画の区域
三 地域公共交通網形成計画の目標
四 前号の目標を達成するために行う事業及びその実施主体に関する事項
五 地域公共交通網形成計画の達成状況の評価に関する事項
六 計画期間
七 前各号に掲げるもののほか、地域公共交通網形成計画の実施に関し当該地方公共団体が必要と認める事項
3 地域公共交通網形成計画においては、前項各号に掲げる事項のほか、都市機能の増進に必要な施設の立地の適正化に関する施策との連携その他の持続可能な地域公共交通網の形成に際し配慮すべき事項を定めるよう努めるものとする。
4 第2項第4号に掲げる事項には、地域公共交通特定事業に関する事項を定めることができる。
5 地域公共交通網形成計画は、都市計画、都市計画法(昭和43年法律第100号)第18条の2の市町村の都市計画に関する基本的な方針、中心市街地の活性化に関する法律(平成10年法律第92号)第9条の中心市街地の活性化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するための基本的な計画及び高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)第25条の移動等円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な推進に関する基本的な構想との調和が保たれたものでなければならない。
6 地方公共団体は、地域公共交通網形成計画を作成しようとするときは、あらかじめ、住民、地域公共交通の利用者その他利害関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
7 地方公共団体は、地域公共交通網形成計画を作成しようとするときは、これに定めようとする第2項第4号に掲げる事項について、次条第1項の協議会が組織されている場合には協議会における協議を、同項の協議会が組織されていない場合には関係する公共交通事業者等、道路管理者、港湾管理者その他地域公共交通網形成計画に定めようとする事業を実施すると見込まれる者及び関係する公安委員会と協議をしなければならない。
8 地方公共団体は、地域公共交通網形成計画を作成したときは、遅滞なく、これを公表するとともに、主務大臣、都道府県(当該地域公共交通網形成計画を作成した都道府県を除く。)並びに関係する公共交通事業者等、道路管理者、港湾管理者その他地域公共交通網形成計画に定める事業を実施すると見込まれる者及び関係する公安委員会に、地域公共交通網形成計画を送付しなければならない。
9 主務大臣及び都道府県は、前項の規定により地域公共交通網形成計画の送付を受けたときは、主務大臣にあっては地方公共団体に対し、都道府県にあっては市町村に対し、必要な助言をすることができる。
10 第6項から前項までの規定は、地域公共交通網形成計画の変更について準用する。
問題は具体的な内容です。上記京都新聞記事では「存続の場合には、運行・運営(上部)と設備保有(下部)の組織を分離して会計を独立させる『上下分離方式』の導入や、自治体の負担割合なども議論する」と書かれています。
実は、まだ決定事項でも何でもないようであるとはいえ、7月3日に開かれた「近江鉄道線活性化再生協議会」の第2回会合においては、仮に上下分離方式が採用された場合には近江鉄道が「線路や車両など鉄道事業に関わる約48億円相当の設備を関係自治体に無償で譲渡する意向を示した」、「コスト削減は限界でこれ以上の経費削減策がなく、状況によっては鉄道事業の分社化の検討も必要などとした」とのことです〔7月4日19時28分付の京都新聞社「近江鉄道、上下分離なら設備無償譲渡へ 滋賀県沿線市町会議」(https://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20190704000132)によります〕。
そもそも鉄道路線として存続するか否かが最初の(あるいは最後の)選択肢となる訳ですが、近江鉄道の鉄道路線は正式に3つあります。本線(米原〜貴生川)、多賀線(高宮〜多賀大社前)および八日市線(近江八幡〜八日市)です。近江鉄道の公式サイトでは彦根・多賀大社線(米原〜高宮〜多賀大社前)、湖東近江路線(高宮〜八日市)、万葉あかね線(近江八幡〜八日市)および水口・蒲生野線(八日市〜貴生川)となっており、地域別に愛称を付けた形となっています。
路線を正式の3路線と考えるよりは地域別の愛称に即した4路線と考えるほうがよさそうですが、いずれにしても、近江鉄道線として一体として考えるのか、各路線毎に検討するのかという問題もあります。ただ、或る部分に極端な赤字があるからそこだけを廃止することとした場合、残りの部分についても長期的に乗客減少などの影響が出かねません。
例えば、甲線というA〜Cの路線があるとします。営業係数、輸送人員、輸送密度といった要素によってA⇔B、B⇔Cの2区間に分かれており、A⇔BよりもB⇔Cのほうが営業係数、輸送密度などが低いとしておきます。そこでB⇔Cを廃止したとします。A⇔Bが残されることにより、甲線の営業係数、輸送人員、輸送密度は上昇するでしょう。しかし、この効果が永続的なのか一時的なのかが問題となります。一時的な効果に留まり、数年でA⇔Bの営業係数、輸送人員、輸送密度の低下が見られる可能性もあるのです。B⇔Cの廃止によって利便性がいっそう低下することもあるからです。
他方、全線を廃止して路線バス化またはBRT化をしたとしても、それで状況が改善するとは限りません。1980年代に相次いで廃止された国鉄の特定地方交通線の状況を見ても、バス化したら輸送人員がさらに低下し、赤字に耐えかねて廃止あるいは縮小されるという例も少なくありません。公共交通機関の衰退を通り越して空洞化する地域が少なくないということです。モータリゼイションと少子高齢化社会の進展によるものと考えてよいでしょう(もう一つあげるとすればインターネット・ショッピングの普及ですが、都市部と非都市部とでは状況が異なるでしょう)。公共交通機関空洞化地帯では、自家用車がなければ、あるいは車を運転できなければ、日常生活に支障を来します(完全な自給自足が達成されていれば話は別ですが)。今では、佐賀県上峰町のイオン上峰店が2019年2月に閉店したことが全国ニュースになるほどで、郊外型ショッピングモールの閉鎖や縮小の話も聞かれるようになりました。既に商店街がシャッター街化しており、郊外型ショッピングモールも閉鎖ということになれば、地域の経済活動がどうなるのかは、かなりの程度で具体的に想像することができます。
一度はこの目で見なければと思いながら、まだ近江鉄道線に乗ったことがないのですが、滋賀県、沿線自治体がどのような未来像を描こうとしているのか、注目しておかなければなりません。
次に、鉄道線の存続を選択した場合に上下分離方式を採るのか、第三セクター化するのか、などの問題が出てきます。近江鉄道が鉄道線全線を従前通りに経営するというのであれば、滋賀県および/または沿線自治体が補助金を支出するという関与に留めておくこととなります。しかし、近江鉄道が会社として示す姿勢からして、これは現実的な選択肢ではありません。
ここで念頭に置いておかなければならないことは、近江鉄道が西武グループの一員であり、「鉄道・運輸機構だより」44号(2015年冬)16頁によると西武鉄道が近江鉄道の発行済み株式の94.8%を保有していましたが、2016年1月14日付の「西武鉄道株式会社による近江鉄道株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」(http://fs.magicalir.net/tdnet/2016/9024/20160113487018.pdf)によると同年2月29日に西武鉄道が近江鉄道の株を全て取得するとのことです。おそらく実行されているでしょうから、近江鉄道は西武ホールディングスの完全孫会社ということになります(西武鉄道が西武ホールディングスの100%子会社であるため)。
西武グループが近江鉄道についてどのような考え方をとっているのかわからないので何とも言えない部分もありますが、鉄道路線を維持し、かつ、上下分離方式などを採用するのであれば、近江鉄道の全株式を西武グループが保有し続けるのは非現実的でしょう。かつて福井鉄道が経営再建の一環として名鉄グループから離脱したように(名古屋鉄道は福井鉄道の発行済み株式の3分の1程を保有していましたが、全て売却しています)、近江鉄道も西武グループから離脱することになるのか、あるいは西武グループから離脱はしないが同グループの出資比率を下げるか、ということになります。かつての近鉄養老線を運営する養老鉄道の場合、近鉄グループから離脱してはいないものの、近鉄の出資比率は下がっています。伊賀鉄道(かつての近鉄伊賀線を運営する企業)もそうです。
上下分離方式を採用した場合には、鉄道施設など「下」の部分を滋賀県や沿線自治体が直接保有する(例:伊賀鉄道、四日市あすなろう鉄道)または滋賀県や沿線自治体が出資する別法人(例:一般社団法人養老線管理機構)が保有する、という形になります。近江鉄道の場合は沿線自治体として米原市、彦根市、東近江市、甲賀市などがあるため、沿線自治体が出資して別法人を設立するとともに、「上」を担う近江鉄道にも出資するということになるはずです。これから具体的に検討しなければならないのは出資額、出資比率、固定資産税の免除の有無、などということになります。
鉄道路線を存続するにせよ、廃止するにせよ、様々な問題が残っています。法定協議会においてどのような結論が導き出されるのか、注意を向けておかなければなりません。
なお、近江鉄道は2018年12月18日に公式サイトで「近江鉄道線の経営状況について」という文書を公表しています(http://www.ohmitetudo.co.jp/file/group_oshirase_20181218.pdf)。これについては機会を改めることとします。