ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

これを言ってしまったら話が止まるか、相手を怒らせるか…

2025年03月08日 00時00分00秒 | 国際・政治

 兵庫県議会の百条委員会が、3月4日に調査報告書を全会一致で可決しました。そして、5日には兵庫県議会がこの調査報告書を了承しました。

 これに対する形で、兵庫県知事が5日の定例記者会見で、次のように発言しています。

 「議会側からの文書問題に関する一つの見解が示された。しっかり受け止めていきたい。そして改めるべきことは改めていく。例えば、物品受領のルール作り。それからハラスメント研修をしっかりやっていく。斎藤県政にとって大事なことなので、議会からの声を受け止めて、県政を進めていきたいと考えている。」

 「県としては、文書問題に関する初動対応、懲戒処分の対応も、弁護士とも相談しながらやってきた。文書については誹謗(ひぼう)中傷性が高い文書ということで、作られた方を調査したということ。四つの非違行為も判明したので、懲戒処分した。内容、手続きともに問題なかったと考えている。」

 「公益通報の関係については、有識者の中でも様々な見解がある。違法性があると指摘する方も百条委にいたが、違法性がなかったとおっしゃる方もいる。県としては違法性の問題はなく、適切だったと考えている。」

 「違法性についての可能性ということを言っているので、可能性というからには他の可能性もあるということだと思う。」

 〈以上は、朝日新聞社のサイトに2025年3月5日20時50分付で掲載された「斎藤知事、処分の元局長に『不服申し立てしなかった』 会見一問一答」(https://digital.asahi.com/articles/AST353GF3T35PIHB003M.html?iref=pc_extlink)より引用しました。この後の引用も同じです。〉

 記事を見て「いやあ、これを言っちまったか」と思いました。百条委員会の調査報告書を「一つの見解」というあっさりとした、というより冷ややかな表現で切り捨てています。しかもこのフレーズが繰り返されたとのことです(似たような単語が使われることによって結果的な繰り返しになったのかもしれません)。妻とも話したのですが、こんな言葉を口に出されたら、話が止まるか、火に油を注ぐかのどちらかでしょう。後にも発言は続いていますが、「そして改めるべきことは改めていく」や「議会からの声を受け止めて、県政を進めていきたいと考えている」の意味が薄められています。

 それに、「一つの見解」が流行したら困ったことになるでしょう。例えば、子供が悪いことをして親なり教師なりが叱ったとして、子供が「それは一つの見解だよね」なんて言うかもしれません。これでは躾も教育も成り立ちません。ただ、有名な誰かが多用したことで人口に膾炙した「それはあなたの意見ですよね」、「それはあなたの感想ですよね」と根は同じです。これらも話、議論などを止めてしまいます。コミュニケーションを断ち切ってしまいかねません。

 まあ、「それは一つの見解だよね」、「それはあなたの意見ですよね」、「それはあなたの感想ですよね」の応用範囲は広いのかもしれません。あまり使って欲しくないのですが……。

 もう一つ、この定例記者会見で、次のようなやりとりがありました。元県民局長への救済、具体的には「処分の撤回」(と上記記事には記されていますが、行政法学の観点からすれば、懲戒処分が違法であるならば取消、当初は適法であったなら撤回です〕や名誉回復はあるのかという質疑に関連するものです。

 質疑:「知事は亡くなった県民局長をあえて毀損(きそん)しようとしている。今日の記者会見での県民局長へのプライバシー情報に対する言及を取り消さないのか。」

 応答:「倫理上極めて問題のある文書というものは、これまでも申し上げてたし、その内容について申し上げるということ。」

 質疑の言葉をどなたが発したのかはわかりませんが、憤怒、義憤の念がかなり強く表されています。これに対し、応答は、おそらく、良く言えば冷静沈着という感じでなされたのでしょう。要するに「死人に口なし」または「死者に鞭打つ」ということでしょうか。

 以上を見てすぐに思い出したのが森友問題です。近畿財務局の職員が自死に追い込まれたことがわかった時の政府の反応がまさにこれでした。言葉などは全く違っていますし、たしか森友問題の際には何ら積極的反応が示されなかった、あるいは「トカゲの尻尾切り」のような対応であったと記憶していますが、それらが「死人に口なし」または「死者に鞭打つ」という態度の表明でした。

 しかも、「倫理上極めて問題のある文書」を御本人は目にしていないことも明言されています。私は「確認してないのに、よく断言できるな」と感心しました。また、「倫理上極めて問題のある文書」は百条委員会の調査報告書で問題とされた公益通報と全く関係のない事柄であり、懲戒処分を正当化することはできないと考えられます。

 兵庫県政の混乱が続いていますが、百条委員会の調査報告書を了承した以上、兵庫県議会は知事への不信任決議を行うべきでしょう。私がここに記すよりも前に少なからぬ方々が指摘されているはずですが、不信任決議が筋です。昨年の秋に知事選が行われましたが、議会議員選挙は行われていませんし、昨年9月に兵庫県議会は不信任決議を行いました(勿論、可決です)。これに対して知事が県議会を解散するかもしれませんが、地方自治法が想定しているのですから、法律上の問題は全くありません。むしろ、このままゴタゴタを抱えて続けるほうが問題です。

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ようやく、オンラインでの出席が可能に

2025年03月07日 00時00分00秒 | 国際・政治

 2020年のCOVID-19によって、国会や地方公共団体の議会に様々な問題があることが表面化しました。その一つが、オンライン会議の応用であるオンライン議会の実現が困難であることであることです。法律の解釈の問題があったからですが、即時的な対応ができなかったのも事実です。

 そして、オンライン会議は、感染症の流行という事態に対処するためだけでなく、何らかの事情によって会議場に足を向けることができない人であっても会議に出席できるようにするものであることが理解されてきました。実際に、業種によってはオンライン会議(併用を含みます。以下も同様です)の活用が進んでいます。

 このように記したのは、朝日新聞2025年3月6日付朝刊19面14版(神奈川、川崎版)に「オンライン出席 市議会委可能に 川崎 育児・介護などで」という記事が掲載されているからです。朝日新聞社のサイトには、同日11時0分付で「育児、介護でもオンラインで委員会出席可 川崎市議会が条例改正へ」(https://digital.asahi.com/articles/AST3540XHT35ULOB00CM.html?iref=pc_preftop_kanagawa)として掲載されています。

 実は、川崎市議会については既にオンライン開催が可能であるようにされています。川崎市議会委員会条例には「委員会開催の特例」と見出しが付けられた第13条の2があり、次のように定められています。

 同第1項:「委員長は、新型コロナウイルス感染症その他重大な感染症のまん延を防止するために必要があると認める場合又は大規模な災害の発生等により委員会を招集する場所に参集することが困難であると認める場合は、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法(以下「オンラインによる方法」という。)を活用した委員会を開催することができる。」

 同第2項:「委員は、前項の場合において、オンラインによる方法により委員会に出席することを希望するときは、あらかじめ委員長の許可を得なければならない。」

 同第3項:「前項の許可を得て委員会に出席した委員は、次条、第15条第1項及び第29条の出席委員とする。」

 同第4項:「オンラインによる方法を活用した委員会の開催方法その他必要な事項は、議長が別に定める。」

 現在は、川崎市議会の委員会をオンラインで開くことができる場合、またはオンラインで出席できる場合は、重大な感染症または大規模災害の発生に限られている訳です。しかし、川崎市議会の女性議員が組織する「女性議員ネットワーク会議」は、2024年7月に、委員会へのオンライン出席について柔軟な対応を求める提言書を、市議会議長に提出していました。ようやく、今月開かれている市議会において、川崎市議会委員会条例の改正が行われることになりました(他の条例などの改正かもしれません)。3月5日に開かれた議会運営委員会で決められました。

 改正案は、上記記事の表現を借りるならば「妊娠や育児、介護、病気、けがを理由に市議がオンラインで委員会に出席できるようにする」というものです。現在、川崎市議会では定例会が開かれており、その最終日である3月19日に改正案を議決するとのことです。おそらく、全会一致か賛成多数で可決されるでしょう。

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この修正案は通るのか

2025年02月22日 00時00分00秒 | 国際・政治

 第217回国会が開かれています。

 衆議院のサイトをチェックしたところ、内閣提出法律案第1号の「所得税法等の一部を改正する法律案」に対する修正案(「所得税法等の一部を改正する法律案に対する修正案」)が提出されています。どの会派によるものか、いつ提出されたものであるかはわかりませんが、果たして、この修正案は衆議院財務金融委員会において可決されるのでしょうか。

 否決される可能性は高いと思われますが、修正案は納税者権利憲章についての規定を置くことを求めています。ここに私の目が止まりました。衆議院議員提出法律案および参議院議員提出法律案であればともあれ、内閣提出法律案に対して納税者権利憲章の制定を求める修正案が出されたのを初めて見たからです(実際には過去に例があるかもしれませんが、ここでは遡って調べることをいたしません)。

 修正案による納税者権利憲章についての規定の提案は、国税通則法の改正を定める「所得税法等の一部を改正する法律案」第7条に対する修正としてなされています。

 まずは国税通則法第1条の改正です。赤字や取消線が、修正案による追加や修正の部分です。

 「この法律は、国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め、税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にするとともに、国税に関する国民の権利利益の保護を図りつつ税務行政の公正な運営を図り運営を確保し、もつて国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを目的とする。」

 国税通則法には権利利益の保護を明示する規定がありません。そこで、納税者権利憲章に関する規定を置くこととの兼ね合いで第1条を修正しようというのでしょう。

 ②国税通則法第4条の2の追加

 ここは修正案からの完全な引用としておきましょう。次のような規定です。

 

 (納税者権利憲章の作成及び公表)

 第四条の二 国税庁長官は、納税者の権利に関する事項として次に掲げる事項を平易な表現を用いて簡潔に記載した文書(第一号において「納税者権利憲章」という。)を作成し、これを公表するものとする。

 一 納税者権利憲章を作成する目的及びその根拠となる法律の規定

 二 第十七条(期限内申告)に定める納税申告書の法定申告期限内の提出及び第三十五条(申告納税方式による国税等の納付)に定める納期限内の納付並びに第十一条(災害等による期限の延長)に定める災害等による期限の延長

 三 第二十三条(更正の請求)に定める更正の請求

 四 第二十四条(更正)又は第二十五条(決定)に定める更正又は決定

 五 第三十四条(納付の手続)に定める国税の納付の手続

 六 第三十七条(督促)及び第四章第一節(納税の猶予)に定める督促及び納税の猶予並びに国税徴収法に定める滞納処分、換価の猶予及び滞納処分の停止

 七 第五十六条(還付)及び第五十八条(還付加算金)に定める国税の還付金又は過誤納金の還付及び還付加算金の加算

 八 第六章第一節(延滞税及び利子税)に定める延滞税及び利子税の納付並びに納税の猶予等の場合の延滞税の免除

 九 第六章第二節(加算税)に定める加算税の賦課及びその減免

 十 第七十条(国税の更正、決定等の期間制限)に定める国税の更正決定等の期間制限並びに第七十二条(国税の徴収権の消滅時効)及び第七十四条(還付金等の消滅時効)に定める国税の徴収権及び還付金等の消滅時効

 十一 第七章の二(国税の調査)に定める質問検査権、調査の事前通知、調査の終了通知及び身分証明書の携帯

 十二 国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長が国税に関する法律に基づき申請により求められた許認可等を拒否する処分又は不利益処分をする場合の行政手続法(平成五年法律第八十八号)第八条(理由の提示)及び第十四条(不利益処分の理由の提示)の規定に基づく理由の提示

 十三 第七十五条(国税に関する処分についての不服申立て)及び第百十四条(行政事件訴訟法との関係)に定める国税に関する法律に基づく処分に関する不服申立て及び訴訟

 十四 税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)に定める税理士(同法第四十八条の二(設立)に規定する税理士法人を含む。)又は同法第五十一条第一項(税理士業務を行う弁護士等)の規定による通知をした弁護士(同条第三項の規定による通知をした弁護士法人又は弁護士・外国法事務弁護士共同法人を含む。)が同法の規定により行う同法第二条第一項各号(税理士の業務)に掲げる税務代理、税務書類の作成及び税務相談

 十五 納税者からの照会、相談又は苦情への対応その他納税者による申告及び納付を適正かつ円滑なものとするために国税庁、国税局及び税務署の行う情報提供

 十六 国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の当該職員がその職務の遂行に当たり法令に従う義務及びこれらの当該職員が職務上知り得た秘密を守る義務

 十七 前各号に掲げるもののほか、国税庁が行う事務の実施基準その他当該事務の実施に必要な準則に関する事項その他国税に係る手続並びに納税者の権利及び義務に関する事項

 

 納税者権利憲章は、カナダ、イギリス、オーストラリア、韓国などで制定されています。修正案の提案者は、おそらく、これらの内容を読了した上で、それなりのイメージを持っているのでしょう。その上で記すならば、納税者権利憲章の制定を国税庁長官に委ねるだけでよいのでしょうか。納税者権利憲章の具体的中身をどのようにするかについて国税庁長官の裁量に委ねるのでは、あまり意味がありません。

 また、修正案による第4条の2は、納税者権利憲章を法的拘束力のあるものとすることを想定しているのでしょうか。この点も疑問です。全く法的拘束力のないものとするならば、納税者権利憲章を設ける意味があるのかどうかもわかりません。納税者権利憲章の性質上、通達などの行政規則(つまり行政の内部法)に留まることはありえないと考えられるので、法的拘束力がないとするならばただのプログラムにしかなりません。そうなると、法的拘束力のある法規命令になるのでしょうか。いずれにせよ、行政立法に留めるとなれば、具体的な内容を定めるのみならず、改正についても法律より容易に行われうることになってしまいます。もっとも、行政手続法により、納税者権利憲章の案に対するパブリック・コメントを行うこととなりますから、国税庁長官の裁量に対する一定の歯止めはありますが、どの程度の実効性があるかは別問題です。そもそも、納税者権利憲章が納税者(納税義務者などを指します)の権利や義務に関する基本原則を定めるものであることからすれば、むしろ、立法府たる国会が積極的に関与すべきでしょう。場合によっては、納税者権利憲章を別につくるのではなく、国税通則法、国税徴収法、所得税法、消費税法などの改正により対処するほうがよいとも考えられます。

 付け加えるならば、地方税についても納税者権利憲章を設ける必要があるのではないでしょうか。

 (なお、納税者権利憲章については、さしあたり、石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第12版〕(清文社、2024年)76頁以下をお読みください。)

 納税者権利憲章とは別に、修正案は「所得税法等の一部を改正する法律案」の附則に2箇条を加えるとしています。次のとおりです。

 

 (地方揮発油税の税率の特例の廃止に伴う措置)

 第八十一条 政府は、地方揮発油税の税率の特例の廃止に伴う地方揮発油譲与税の額の減少が地方公共団体の財政に悪影響を及ぼすことがないよう、当該額の減少に伴う地方公共団体の減収を補填するために必要な措置を講ずるものとする。

 〈引用者注:衆議院のサイトでは「補」となっているため、文脈などを考えて「補填」としておきました。「補塡」かもしれません。〉

 

 (検討)

 第八十二条 政府は、この法律の施行後一年以内に、次に掲げる事項について検討を行い、その結果に基づいて必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。

 一 金融所得課税について、一定以上の高額所得を有する者の実効税率が低位である問題を解決するため、当面、分離課税のまま累進性を有する税率構造とすることとし、将来において総合課税に移行すること。

 二 使用者が役員又は使用人に対し支給する食事について、当該役員又は使用人が当該食事の支給により受ける経済的な利益がなく所得税が課されない限度額を、一月当たり三千五百円から七千円に引き上げること。

 三 災害による担税力の喪失を勘案し、被災者の負担軽減及び実額控除の機会を拡大する観点から、個人の有する住宅、家財等につき災害により損失が生じた場合において、当該個人の所得から控除することができる当該損失の金額の一定額を、独立した所得控除の対象とする制度を創設するとともに、当該制度による控除については人的控除を行った後において行うものとすること。

 四 給与等の支給額が増加した場合の所得税額及び法人税額の特別控除に関する制度を廃止すること。

 五 奨学金の返済額を所得控除の対象とすることその他の教育に関する経済的負担の軽減に関する施策に充てるため、法人課税について、所得の高い法人に対してその所得に見合う税負担を求めること。

 六 輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税に関する制度について、その縮減その他の措置を講ずること。

 七 相続税及び贈与税について、資産に係る格差が拡大し、固定化している現状に鑑み、税率構造、非課税措置等の見直しにより累進性を強化すること。

 

 第81条および第82条は、衆議院議員提出法律案および参議院議員提出法律案と同様のスタイルであり、内容を見ても、現在の国会では通りそうにないものです。修正案は「所得税法等の一部を改正する法律案」の一体に対するものなので、部分的に「これは修正として通そう」、「この部分だけ否決しよう」ということはできないはずです。仮に与党が実質的に修正案の内容を受け入れるとしても、別の修正案を出すか、将来の国会に改正法律案を出すという形になるでしょう。勿論、第81条および第82条に示された内容が全く検討に値しない、という訳ではありません。

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市長選挙が行われない市 今後は増えるのではないか

2025年02月11日 00時00分00秒 | 国際・政治

 2025年2月9日付で、朝日新聞社のサイトに「一度も市長選がない『市』で6回目の無投票 『津軽選挙』も背景?」という記事(https://digital.asahi.com/articles/AST292DRBT29UBNB001M.html)が掲載されました。

 一読して、「これは今後、日本の至る所で起こりうることではないか」と思いました。もとより、大分県姫島村など、長らく地方公共団体の首長(本来であれば「しゅちょう」と読むべきでしょうが、「くびちょう」と読み慣わされています)の選挙が行われなかった地方公共団体は、これまでにもいくつか存在しています。また、このブログでは、2017年の高知県大川村の話題2022年の神奈川県大井町の話題を取り上げました。大川村や大井町の場合は議員の成り手がいないということですが、議員であれ首長であれ、根は同じと考えてよいでしょう。

 しかし、今回の話は、平成の市町村合併の大波の結果として成立した市の話です。私がまだ大分大学教育福祉科学部の講師および助教授であった時、大分県が特に市町村合併に積極的であったという事情もあって、或る意味では成り行きで市町村合併を研究対象としていました。それだけに、合併後の地方公共団体において選挙が行われないという事態になるとは、平成の市町村合併を推進した人たちのうちの誰が予想していたのでしょうか。私は、当時を思い起こしながら「今更ながらに、市町村合併は一体何だったのだろう」と思わざるをえません。

 2005年2月11日に、合併によって成立したのが「つがる市」です(平仮名の市名のため、「 」を付けます)。つまり、今日、2025年2月11日に20周年を迎える訳です。

 その2日前、2025年2月9日に「つがる市」長選挙が告示されたのですが、立候補を届け出たのが現職市長のみであったため、無投票再選ということになりました。これで6回連続とのことです。「つがる市」が成立してから一度も市町村選挙が行われていないということで、これは平成の大合併によって成立した市では最多です(ちなみに、2番目は5回連続の和歌山県海南市です)。

 上記朝日新聞社記事には、次のように書かれています。

 「市町村合併後に行われる首長選では、新市町村のまちづくりをめぐり、旧市町村を地盤とする候補者同士の争いとなることが多い。つがる市も旧木造町、旧森田村、旧柏村、旧稲垣村、旧車力村の1町4村による新設合併。新市発足時の人口約4万人のうち、約1.9万人を占めた旧木造町の影響力が強く、旧同町長だった福島弘芳氏がつがる市長を無投票で4期務めた後、副市長だった倉光氏が継いだ。」

 たしかに、そのような面はあるでしょう。私は地元の事情を知らないので、ここで引用したところを前提としておきます。

 その上で、上記朝日新聞社記事は、「つがる市」議会がいわゆるオール与党体制となっていること、および、「つがる市」を含む津軽では「津軽選挙」(要するに金権選挙)の体質が染みついていることを指摘しています。これでは市議会も硬直化するでしょうし、市長選挙が行われないのも当然です。納得される方がおられてもおかしくありません。

 しかし、地元の事情は別として、今後、市町村長選挙が行われない市は増えるのではないかと考えられます。前述のように、議会議員選挙については無投票となる地方公共団体があります。何を隠そう、川崎市高津区も、2015年の神奈川県議会議員選挙区で無投票選挙区となりました。この他、横浜市西区、同市金沢区、川崎市幸区、相模原市緑区、鎌倉市、小田原市、三浦市、厚木市、伊勢原市および足柄上郡(中井町、大井町、松田町、山北町および開成町)において無投票となっています。人口が多いかどうかの問題でもなさそうです。首長選挙でも同様のことが生じうるはずです。理由はおわかりでしょう。

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現職の大統領が拘束される

2025年01月15日 12時10分00秒 | 国際・政治

 今年(2025年)の正月三が日に、いきなりという感じでニュースが流れた時には驚かされました。結局は目的が果たされなかったものの、その後も一種の膠着状態が続き、ついに、今日、大韓民国の現職大統領が拘束されました。勿論、私は速報で知りました。

 大韓民国の歴史において初めてのことです。しかも内乱容疑ときています。現職の大統領が内乱を起こした、あるいは起こそうとしたということは、一般的に理解不能の領域でしょう。政権が内乱を起こされることはあっても、起こすことはないと考えますし、政権が内乱を起こすのは余程のことですから。

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令和7年度税制改正の大綱に見る「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」

2025年01月03日 12時00分00秒 | 国際・政治

 このブログでは度々税制を取り上げています。カテゴリーとしては「社会・経済」のほうが相応しいのかもしれませんが、私は「国際・政治」に記事の多くを入れています。税制改正大綱を見れば、そして数多くの租税特別措置を見れば、税制は政治の一環であることが明白であるからです。「税制は政治である」と断言してもよいかもしれません。

 さて、今回取り上げようとする「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」は、まさしく政治の観点から捉えるべき事項です。2024年12月20日に与党がまとめた「令和7年度税制改正大綱」(以下、2025年度与党税制改正大綱)および2024年12月27日に閣議決定された「令和7年度税制改正の大綱」(以下、2025年度政府税制改正大綱)は、まさに政治的決断が下されたことがわかります。

 「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」は、2022年12月16日に与党がまとめた「令和5年度税制改正大綱」(以下、2023年度与党税制改正大綱)において打ち出されたものです。その21頁には次のように書かれていました(このブログに2023年12月15日7時0分0秒付で掲載した「令和6年度税制改正大綱が公表された」において引用の上で紹介しましたが、今回も重複をいとわず紹介致しましょう)。

 「わが国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。

 ①法人税

 法人税額に対し、税率4〜4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税から500万円を控除することとする。

 ②所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。

 廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。

 ③たばこ税

 3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。

 以上の措置の実施時期は、令和6年以降の適切な時期とする。」

 ここに登場するたばこ税は国税です。たばこに関する税金は、このブログに掲載している「講義内容を公開します たばこ税その1」(2020年7月1日0時33分9秒付)および「講義内容を公開します たばこ税その2」(2020年7月2日0時0分1秒付)において述べたように、たばこ税の他、都道府県たばこ税、市町村たばこ税、たばこ特別税がありますが、地方公共団体の財源確保のため、ならびに日本国有鉄道および国有林野事業の長期債務・累積債務の償還のために、国のたばこ税以外には手を入れないということなのでしょうか(違うであろうとは思っています)。

 2024年度税制改正において何らかの手が打たれるのかと予想していたのですが、2023年12月14日に与党がまとめた「令和6年度税制改正大綱」においては、次のように方針が述べられるに留まりました。

 「防衛化強化に係る財源確保のための税制措置については、令和5年度税制改正大綱に則って取り組む。なお、たばこ税については、加熱式たばこと紙巻たばことの間で税負担の不公平が生じている。同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方に反って税負担差を解消することとし、この課税の適正化による増収を防衛財源に活用する。その上で、国税のたばこ税率を引き上げることとし、課税の適正化による増収と合わせ、3円/1本相当の財源を確保することとする。」

 あわせて、令和5年度税制改正大綱及び上記の基本的方向性により検討を加え、その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる趣旨を令和6年度の税制改正に関する法律の附則において明らかにするものとする。」(25頁。なお、この引用部分も、既にこのブログの「令和6年度税制改正大綱が公表された」において引用の上で紹介しています。

 おそらく、法人税および所得税について反対意見などが多かったものと考えられます。国家の基本にして最大の任務が安全確保・秩序維持であるということに鑑みれば、何よりも防衛力の強化こそ喫緊の課題であると言えますし、日本国民や内国法人が防衛力の強化に反対することなど「もってのほか!」のはずですが、反発が強かったように記憶しています。そのため、慎重に検討を重ねてきたというところでしょうか。

 そして、ようやく、2025年度与党税制改正大綱および2025年度政府税制改正大綱において「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」がまとめられました。2023年度与党税制改正大綱において取り上げられた3種の租税のうち、所得税以外のものについて具体的な像が示されました。2025年度政府税制改正大綱78頁以下の「六 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」を見ましょう。

 まずは「防衛特別法人税(仮称)の創設」です。法人に課される租税には、法人税の他に地方法人税(名称と異なって国税です)、特別法人事業税(これも国税ですが、都道府県が法人事業税の賦課徴収と併せて行います)などがあります。さらに別の租税が課されることとなる訳で、既存の租税とまとめることはできなかったのかと疑いましたが、とりあえず内容を見なければなりません。

 納税義務者は「各事業年度の所得に対する法人税を課される法人」とされており、その法人には「人格のない社団等及び法人課税信託の引受けを行う個人を含む」となっています。

 次に「課税の範囲」で、「法人の各課税事業年度の基準法人税額について、当分の間、防衛特別法人税を課する」とされています(基準法人税額については後に触れます)。「当分の間」とされていますので、実質的には恒久的措置ということになります。「当分の間」はいつまで経っても「当分の間」であり、期限が切られている訳でも何でもないからです。

 「防衛特別法人税(仮称)」の税額の計算は、次のとおりとされます。

 「①防衛特別法人税の額は、各課税事業年度の課税標準法人税額(課税標準) に4%の税率を乗じて計算した金額とする。」

 「② 課税標準法人税額は、基準法人税額から基礎控除額を控除した金額とする。

 「③ 基準法人税額は、次の制度を適用しないで計算した各事業年度の所得に対 する法人税の額とする。ただし、附帯税の額を除く。

 イ 所得税額の控除

 ロ 外国税額の控除

 ハ 分配時調整外国税相当額の控除

 ニ 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除

 ホ 戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置の税額控除及び同措置に係る通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額の加算

 ヘ 控除対象所得税額等相当額の控除」

 ④基礎控除額は、年500万円とする。なお、通算法人の基礎控除額は、年500 万円を各通算法人の基準法人税額の比で配分した金額とする。」

 基礎控除額の配分については「通算法人の基準法人税額が期限内申告における基準法人税額と異なる場合には、原則として期限内申告における基準法人税額により配分する」と注記がなされています。

 以上を前提として、税額控除として「外国税額の控除」、「分配時調整外国税相当額の控除」、「控除対象所得税額等相当額の控除」および「仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の控除」が行われることとなります。

 「防衛特別法人税(仮称)」は賦課課税方式ではなく、申告納税方式を採用します。基本が法人課税ですから当然のことでしょう。「申告及び納付等」については、次のとおりです。

 「①各事業年度の所得に対する法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税の中間申告書を提出しなければならない。」

 この中間申告書の提出については「令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度から適用する」とされています。

 「②防衛特別法人税の申告期限及びその申告に係る防衛特別法人税の納期限は、 各事業年度の所得に対する法人税の申告期限及び納期限と同一とする。」

 「③電子申告の特例については、各事業年度の所得に対する法人税と同様とする。」

 「④防衛特別法人税中間申告書を提出した法人からその防衛特別法人税中間申告書に係る課税事業年度の防衛特別法人税確定申告書の提出があった場合において、その防衛特別法人税確定申告書に中間納付額で防衛特別法人税の額の計算上控除しきれなかった金額の記載があるときは、その金額に相当する中間納付額を還付する。」

 「⑤各事業年度の所得に対する法人税につき欠損金の繰戻しによる法人税の還付の請求書を提出した法人に対して還付所得事業年度に該当する課税事業年度に係る法人税を還付する場合には、その課税事業年度の防衛特別法人税の額でその還付の時に確定しているもののうち、法人税の還付金の額に4%を乗じて計算した金額にその課税事業年度の課税標準法人税額を乗じてこれをその課税事業年度の基準法人税額で除して計算した金額に相当する金額を併せて還付する。」

 申告および納付については、基本的に法人税と同様であり、法人税と同一の申告手続となることでしょう。質問検査や罰則などについても「各事業年度の所得に対する法人税と同様とし、 その他所要の措置を講ずる」とされています。また、「令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用する」とされております。準備などからすれば妥当なところでしょうか。

 「防衛特別法人税(仮称)」については以上のとおりです。続いてたばこ税です。2025年度政府税制改正大綱では80頁以下に記されています。

 たばこにも様々な種類がありますので、種類ごとの見直しとなりますが、最初にあげられているのが加熱式たばこです。次のように書かれています。

 「①加熱式たばこに係る国及び地方のたばこ税の課税標準について、当分の間、次に掲げる加熱式たばこの区分に応じ、それぞれ次に定める方法により換算した紙巻たばこの本数とする。

 イ 紙その他これに類する材料のもので巻いた加熱式たばこ 当該加熱式たばこの重量の0.35gをもって紙巻たばこの1本に換算する方法

 (注)1本当たりの重量が0.35g未満のものについては、当該加熱式たば この1本をもって紙巻たばこの1本に換算することとする。

 ロ 上記イ以外の加熱式たばこ 当該加熱式たばこの重量の0.2gをもって 紙巻たばこの1本に換算する方法

 (注1)品目ごとの1個当たりの重量が4g未満のものについては、当該加熱式たばこの品目ごとの1個をもって紙巻たばこ20本に換算するこ ととする。

 (注2)製造たばことみなされる加熱式たばこの喫煙用具で、上記イに掲げる加熱式たばこと併せて喫煙の用に供されることが明らかなもの等については、(注1)を適用しない。」

 ②上記①の改正は、令和8年4月1日から実施するが、激変緩和等の観点から、その実施時期について次のとおり経過措置を講ずる。

 イ 第一段階 令和8年4月1日

 ロ 第二段階 令和8年10月1日

 ③上記①の改正に係る上記②の実施時期における加熱式たばこの具体的な課税標準は、次のとおり、現行の換算方法により計算した紙巻たばこの本数 (③において「現行の換算本数」という。)及び改正後の換算方法により計算した紙巻たばこの本数(③において「新換算本数」という。)のそれぞれに一定の率を乗じて計算した本数の合計本数とする。」

 ここで表が登場しますが、このブログでは上手く示すことができないので(フォーマットのためです)、少々手直しをしました。わかりにくくなるかもしれないことをお断りしておきます。

          現行の換算方法      改正後の換算方法

現行        現行の換算本数×1.0       ―

改正案 第一段階  現行の換算本数×0.5    新換算本数×0.5

    第二段階      ―         新換算本数×1.0

 「④ 加熱式たばこの課税標準の算定において、重量から除外されるものの範囲を明確化する。

 ⑤ その他所要の措置を講ずる。」

 加熱式たばこは、紙巻きたばこへの換算方法が問題となってきました。そのために何度かの改正が行われてきたのです。さらに課税が強化される方向にあるということでしょう。

 続いて「たばこ税の税率の特例」です。実質的には特例ではないと思われるのですが、とりあえず見ていきましょう。

 「①国のたばこ税の税率を、当分の間、1,000 本につき8,302 円(本則税率:6,802 円)とする。

 (注)上記のほか、特定販売業者以外の者により保税地域から引き取られる製 造たばこに係るたばこ税の税率については、1,000 本につき15,924円(本則税率:14,424 円)とする。

 ②上記①の改正は、令和9年4月1日から実施するが、激変緩和等の観点や 予見可能性への配慮から、税率改正の実施時期について次のとおり経過措置を講ずる。

 イ 第一段階 令和9年4月1日

 ロ 第二段階 令和10年4月1日

 ハ 第三段階 令和11年4月1日

 ③上記②による税率改正の実施時期における具体的なたばこ税の税率は、1,000 本につき、次のとおりとする。

 イ 第一段階 7,302 円(本則税率:6,802 円)

 ロ 第二段階 7,802 円

 ハ 第三段階 8,302 円

 (注 上記のほか、特定販売業者以外の者により保税地域から引き取られる製造たばこに係るたばこ税の税率を、1,000本につき、第一段階で14,924円(本則税率:14,424円)に、第二段階で15,424円に、第三段階で15,924円に引き上げる。)

 ④手持品課税を実施する。

 ⑤その他所要の措置を講ずる。」

 たばこ税法ではなく、租税特別措置法で定めようとする意図が明確にされています。「本則」とは別の税率などを租税特別措置法や地方税法附則に定めて、特例を廃止して「本則」に戻すことは滅多に行われませんし、いたずらに複雑にする必要もないので、たばこ税法を改正すべきであろうと思うのですが、いかがでしょうか。

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鉄道・軌道と令和7年度税制改正

2024年12月31日 11時00分00秒 | 国際・政治

 本当は「103万円の壁」がどのように変わるのかを書こうとしたのですが、私が担当している講義「税法B」のレポート課題になっているため、ここでは記さないこととします。ちなみに、以前記した結婚・子育て資金に関する贈与税の特例も、別の講義のレポート課題になっていますが、これは出題の仕方が異なるので、このブログに書いています。

 その代わりと言えるかどうかはわかりませんが、タイトルに示したことを、12月27日の閣議決定「令和7年度税制改正の大綱」(以下、政府税制大綱)から紹介しておきます。

 まず、政府税制大綱22頁です。固定資産税の特例措置で、新設となっています。

 「鉄軌道事業者が豪雨対策のために取得した一定の償却資産(次の線区に存するものに限る。)に係る固定資産税について、課税標準を最初の5年間価格の3分の2(一定の鉄軌道事業者については4分の3)とする特例措置を令和9年3月31日まで講ずる。

 ①1日当たりの片道断面輸送量が1万人未満の線区

 ②1日当たりの片道断面輸送量が1万人以上15万人未満の線区(一定の鉄軌道事業者の線区を除く。)

 ③1日当たりの片道断面輸送量が15万人以上の線区であって、貨物運送を行う列車又は運賃のほかに特別の料金の定めがある旅客運送を行う列車が運行する線区(一定の鉄軌道事業者の線区を除く。)」

 ここ数年の間に多発し、鉄道・軌道の存廃問題にすら至ってしまう激甚災害ヘの対処ということでしょう。そのことは、「1日当たりの片道断面輸送量が1万人未満の線区」などと書かれているところからわかります。実際に必要とされるのは①であることが多いと考えられますが、1万人未満であるということは、現在存廃議論の対象となる輸送密度1000人/日未満の路線・区間も対象になるということでしょう。なお、気になるのは「一定の鉄軌道事業者の線区を除く」で、12月20日の与党税制改正大綱40頁でもあげられているものの、具体的なことは書かれていません。

 政府税制大綱25頁以下では、固定資産税の特例措置のうち、適用期限の延長を行う予定であるものについて次のように掲げられています。

 「(18)鉄軌道事業者が政府の補助を受けて取得した車両の運行の安全性の向上に資する一定の償却資産に係る固定資産税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。

 (19)鉄軌道事業者が取得した新造車両で高齢者、障害者等の移動等の円滑化に資する一定の構造を有する車両に係る固定資産税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。

 (20)都市鉄道等利便増進法に規定する都市鉄道利便増進事業により取得した鉄道施設に対して、次の措置を講ずる。

 ①鉄軌道事業者又は一定の第三セクター若しくは独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が取得した駅施設の用に供する一定の家屋及び償却資産に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。

 ② 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が整備した線路設備等のうち市街化区域のトンネルに係る固定資産税の非課税措置の適用期限を2年延長する。

 (21)地域公共交通の活性化及び再生に関する法律に規定する鉄道事業再構築事業を実施する路線において政府の補助を受けて取得した一定の家屋及び償却資産に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。

 (22)鉄道事業者等がその事業の用に供する鉄道施設等を高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律に規定する公共交通移動等円滑化基準に適合させるために実施する一定の鉄道駅等の改良工事により取得した一定の家屋及び償却資産に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。」

 「(27)鉄軌道事業者が首都直下地震・南海トラフ地震に備えた鉄道施設等の耐震補強工事によって新たに取得した一定の償却資産に係る固定資産税の課税標準の特例措置の適用期限を2年延長する。」

 固定資産税は、その性格上、鉄道・軌道に関係の深い地方税となっています。おそらく、上記の特例措置の多くは地方税法の本則ではなく、附則に規定されることでしょう。よく講義の場で言うのですが、租税法や財政法の場合は他の法分野と異なって当該法律の附則を見なければ正確なことがわかりません(国税の場合は租税特別措置法です)。このことは地方税法について特に妥当しますし、地方財政法や地方交付税法についても同様です。注意しなければなりません.

 鉄道・軌道は、固定資産税だけに関係するものではありません。続いて、政府税制改正大綱の64頁です。軽油引取税(都道府県税)の特例措置について、次のように記されています。

 「(3)免税軽油を使用する鉄道事業又は軌道事業を営む者(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律に基づき国土交通大臣が指定する特定旅客輸送事業者等に限る。)が、非化石エネルギーへの転換のための措置として、鉄道用車両又は軌道用車両の燃料タンクにバイオディーゼル燃料等を給油し、当該鉄道用車両又は当該軌道用車両の動力源の燃料として消費する場合について、次の措置を講ずる。

 ①製造の承認を受ける義務を免除する。

 ②軽油引取税のみなす課税を適用しないこととする。

 ③その他所要の措置を講ずる。」

 バイオディーゼルは、以前、何処かの鉄道会社で盛んに宣伝されていたような記憶があります。自動車の世界であればフォルクスヴァーゲンのゴルフが何かの本で紹介されていました。ただ、JRグループで採用されていたことがあったのかはわかりませんし、JR東日本やJR九州では蓄電池電車やハイブリッドディーゼル車が投入されていますので、実際のところ「バイオディーゼル燃料等を給油し、当該鉄道用車両又は当該機同様車両の動力源の燃料として消費する場合」がどの程度広がるのかはわかりません。

 また、ここの「等」は具体的に何を意味するのかが明らかにされていません。「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」を参照すると、第2条(多くの法律と同様に定義規定です)において次のように規定されています。

 第1項:「この法律において『エネルギー』とは、化石燃料及び非化石燃料並びに熱(政令で定めるものを除く。以下同じ。)及び電気をいう。」

 第2項:「この法律において『化石燃料』とは、原油及び揮発油、重油その他経済産業省令で定める石油製品、可燃性天然ガス並びに石炭及びコークスその他経済産業省令で定める石炭製品であつて、燃焼その他の経済産業省令で定める用途に供するものをいう。」

 第3項:「この法律において『非化石燃料』とは、前項の経済産業省令で定める用途に供する物であつて水素その他の化石燃料以外のものをいう。」

 第4項:「この法律において『非化石エネルギー』とは、非化石燃料並びに化石燃料を熱源とする熱に代えて使用される熱(第五条第二項第二号ロ及びハにおいて「非化石熱」という。)及び化石燃料を熱源とする熱を変換して得られる動力を変換して得られる電気に代えて使用される電気(同号ニにおいて「非化石電気」という。)をいう。」

 第5項:「この法律において『非化石エネルギーへの転換』とは、使用されるエネルギーのうちに占める非化石エネルギーの割合を向上させることをいう。」

 第6項:「この法律において「電気の需要の最適化」とは、季節又は時間帯による電気の需給の状況の変動に応じて電気の需要量の増加又は減少をさせることをいう。」

 こうしてみると、政府税制改正大綱の64頁における「等」は、水素燃料、燃料電池、ハイブリッドディーゼルを含むものではないかと考えられます。そうすると、鉄軌道用車両のための現実的な選択肢としてハイブリッドディーゼル車ということになるのではないでしょうか。

 また、「非化石エネルギー」ということでは蓄電池電車も選択肢となりえます(厳密に考えれば、蓄電池に充電する電気が化石エネルギーの産物ではないかと思われますが、そこまで考える必要はないということでしょう)。ただ、蓄電池電車はディーゼルカーではないので、軽油引取税の対象にはなりません。だからこそ、路線の条件次第では蓄電池電車ということになります。

 問題は、JRグループ以外の鉄道会社でしょう。関東地方を例に挙げるならば、関東鉄道、小湊鉄道、いすみ鉄道、鹿島臨海鉄道、真岡鐵道、わたらせ渓谷鉄道、ひたちなか海浜鉄道といったところです。会社の規模、営業成績にもよりますが、ハイブリッドディーゼル車などの導入が難しいところがあるはずです(これらの鉄道会社の路線の場合、蓄電池車両は現実的な選択肢とは言えないと思われます)。

 鉄道や軌道の維持・発展に、税制改正がどの程度寄与するのかは、少なくとも私にとっては不明であり、検証の必要はあります。とは言え、全く何らの手をも打たないよりはよいということでしょう。

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結婚・子育て資金に関する贈与税の特例は2年延長されることに

2024年12月30日 00時00分00秒 | 国際・政治

 2024年12月27日に、令和7年度税制改正の大綱が閣議決定されました。しかし、財務省のサイトに掲載されたのは12月29日のことです。

 いかに与党税制改正大綱の決定が遅かったとしても、年内に政府の大綱が閣議決定されるはずだと思っていました。越年するならば一大事である、という訳でもないのでしょうが、珍しい話にはなるからです。ただ、12月27日中には財務省のサイトに掲載されず、28日になっても掲載されなかったので、「もしや」と思っていました。

 与党税制改正大綱には既に掲載されていることですので、御存知の方も多いとは思います。ただ、与党税制改正大綱と政府の大綱とで内容が違うこともありえない話ではないので、待っていました。そう、このブログで2024年12月1日付で取り上げた、結婚・子育て資金に関する贈与税の特例です。

 廃止の方針という報道もなされていましたが、結局、適用期限が2年延長されることとなりました。令和7年度税制改正の大綱の20頁に明記されています。また、与党税制改正大綱の13頁から14頁にかけて、次のように書かれています。

 「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、令和5年度税制改正大綱で『制度の廃止も含め、改めて検討する』とされた後も、利用件数が低迷する等の状況にあり、関係省庁において、子育てを巡る給付と負担のあり方や真に必要な対応策について改めて検討すべきである。他方、現在、『こども未来戦略』の集中取組期間(令和8年度まで)の最中にあり、こども・子育て政策を総動員する時期にある。このため、本措置は、特に集中取組期間であることを勘案し、適用期限を2年延長する。」

 何処かズレているような気がします。「こども・子育て政策を総動員する時期にある」ことはわかるのですが、贈与税の特例を利用できるのは富裕層である、と言えるのではないでしょうか。もっとも、富裕層という言葉の具体的な意味が問われることとなりますので、ここではあまり厳密に考えず、或る程度は資産を持っていて自分の子や孫に結婚や子育てのための資金を支出するだけの余裕がある人々の意味くらいで捉えておきましょう。その上で、改めて、結婚・子育て資金に関する贈与税の特例を活用できる国民がどの程度存在しうるのかを、調査の上で検討すべきではないでしょうか。「利用件数が低迷する等の状況にあ」ることは政府も与党も認めている訳ですから、その原因を探ることくらいは容易に行えるはずです。

 

(二子玉川駅にて。)

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臨時財政対策債の発行額が零に

2024年12月29日 00時00分00秒 | 国際・政治

 2025年度予算の案が決まりました。そのような中で、私が気になった記事が、朝日新聞2024年12月26日付朝刊⒋面14版に掲載されていました。「地方自治体の借金 臨時財政対策債 初の発行額ゼロ」という記事です。サイトには「臨時財政対策債、初の発行額ゼロ 地方自治体の借金」(https://digital.asahi.com/articles/DA3S16114476.html)として掲載されています。

 何故目に止まったかといえば、私が地方交付税法や地方税法の研究に取り組んでいるからです。また、臨時財政対策債にはいくつかの問題があるからです〔この点については「地方交付税法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律(平成30年3月31日法律第4号)」、「地方交付税法等の一部を改正する法律(平成31年3月29日法律第5号)」および「地方交付税法等の一部を改正する法律(令和2年3月31日法律第6号)」を御覧ください)。

 2001年度に設けられてから初めて、新規発行額が零になる見通しとのことで、その理由は地方税収が増えたことです。

 12月25日、総務大臣と財務大臣との折衝が行われ、方針が固まったそうです。そして、12月27日、総務省自治財政局が「令和7年度地方財政対策のポイント」および「令和7年度地方財政対策の概要」を公表しました。

 「令和7年度地方財政対策のポイント」には「通常収支分」として次のように書かれています。

 「1 一般財源総額の確保等

 ・一般財源総額(交付団体ベース)を63.8兆円(対前年度比+1.1兆円)確保

 ・地方交付税総額を19.0兆円(対前年度比+0.3兆円)確保」

 一般財源総額は、不交付団体を含めると67.5兆円で、対前年度比+1.8兆円となっており、交付団体ベースで「給与改善費(仮称)」計上分を除いた場合には対前年度比+0.9兆円となります。

 そして、一般財源総額(交付団体ベース)の内訳を見ると、地方税・地方譲与税が48.4兆円で対前年度比+3.0兆円、地方特例交付金等が0.2兆円で対前年度比▲0.9兆円、地方交付税が19.0兆円で対前年度比+0.3兆円、そして臨時財政対策債が0円で対前年度比皆減となっています。

 また、「いわゆる『103万円の壁』に係る令和7年度の地方交付税の減収影響(0.2兆円)を含めても、上記のとおり適切に地方財源を確保」とされています。

 「2 地方財政の健全化

 ・臨時財政対策債は、平成13年度の制度創設以来、初めて新規発行額ゼロ

 ・交付税特別会計借入金について、これまで償還を後年度に繰り延べてきたもののうち、令和6年度までの繰延べ分2.2兆円について、令和7年度に償還」

 余程のことであるということなのか、「初めて新規発行額ゼロ」の部分には太字および下線での強調もなされています。たしかに、臨時財政対策債の新規発行額が零になったことは良いと思われます。地方公共団体の財源不足について国と地方公共団体が「折半」で補塡するもので、元利償還金相当額が基準財政需要額に算入されるものですが、借金であることには変わりがないからです。地方交付税法第6条の3第2項による措置であるとはいえ、根本的な解決とは程遠いものでした。また、令和7年度すなわち2025年度に新規発行額が零となったのは地方税収が増えたことによるのですが、それは2024年度の実績(といっても見込みでしょう)の結果であって、2025年度にどうなるのかわからず、2026年度も新規発行額が零になるとは限りません。ここで、地方交付税法の2019年改正で削除された附則第4条の3(臨時財政特例加算に関する規定)が2020年改正で復活したことを想起すべきでしょう。

 一方、「3 DX、防災・減災対策の推進」の中で「自治体DX・地域社会DXを推進するため、『デジタル活用推進事業費(仮称)』(0.1兆円)を創設(地方財政法の特例を設け、地方債の発行を可能とする)」という部分は気になります。「デジタル活用推進事業費(仮称)」は「令和7年度地方財政対策の概要」のほうに書かれており、次のように書かれています。

 「担い手不足が急速に深刻化するおそれがある中、デジタル技術を活用した行政運営の効率化・地域の課題解決等に向けた取組をしていくため、「デジタル活用推進事業費(仮称)」を創設。地方財政法の特例を設け、情報システムや情報通信機器等の整備財源に活用できるデジタル活用推進事業債(仮称)の発行を可能とする。」

 まず、対象事業は「デジタル活用推進計画(デジタル活用による効率化の効果等を記載)に位置づけて実施する以下の事業」とされており、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律に基づく標準化のために必要な経費を除く」という注意書きも加えられています。その上で、次のように説明されています。(なお、写真などもありますが、その部分は省略します)。

 「(1)行政運営の効率化・住民の利便性向上を図る自治体DXの推進

 ①システムの導入(初期経費)

 ア 住民サービスの提供に必要なシステムの導入

 イ 共同調達によるシステムの導入

 ②情報通信機器等の整備

 ア 住民利用の情報通信機器、住民サービスの提供に必要な職員利用の情報通信機器の購入

 イ 工場施設のネットワーク環境の整備

 (2)地域の課題解決を図る地域社会DXの推進

 地方団体及び公共的団体等による地域の課題解決に資するシステムの導入及び情報通信機器等の整備

 (地域の課題解決)

 ・医療、交通等日常生活に不可欠なサービスの確保

 ・農林水産業、観光など地域産業の生産性向上等

 ※公営企業が実施する事業については、一般会計からの補助を対象とするほか、公営企業債(資金手当)も可能とする。」

 次に、地方財政措置は「地方債充当率:90% 償還年限:5年」、「交付税措置率(地方単独事業):50%」となっています。

 続いて、事業期間は「令和11年度までの5年間」とされており、事業費は1000億円となっています。

 以上は、2024年通常国会(第213回国会)において成立した「地方自治法の一部を改正する法律(令和6年6月26日法律第65号)」を受けて地方自治法に第2編新第11章「情報システム」として第244条の5および第244条の6が追加されたこと、および第2編第16章に第260条の49が追加されたことを受けたものでしょう。これらの規定については、実のところ、私にも意見はありますが、ここでは記さないこととします。ただ、事業費として十分なものなのかという素朴な疑問だけを示しておきます。

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埼玉県議会がインボイス廃止を求める意見書を可決した

2024年12月21日 10時20分00秒 | 国際・政治

 今日(2024年12月21日)に報じられたことですが、これには驚きました。それとともに中途半端にも思えました。朝日新聞社が今日の6時付で「インボイス廃止求める意見書、自民県議団が主導し可決 埼玉県議会」(https://digital.asahi.com/articles/ASSDN3QTPSDNUTNB00BM.html)として報じています。

 昨日の午後、埼玉県議会でのことです。インボイス制度の廃止を求める意見書案が提出され、埼玉県議会自由民主党議員団、埼玉民主フォーラム、日本共産党埼玉県議会議員団、無所属改革の会の各会派、および無所属議員のうちの3氏が賛成し、成立しました。なお、埼玉県議会公明党議員団および無所属県民会議は反対しています。

 意見書では、上記朝日新聞社記事によると「経理事務などが小規模事業者に過大な負担となっていることや、国の支援措置が不十分なことなど」が理由としてあげられています。また、上記朝日新聞社記事の表現を借りるならば「意見書では、エネルギー価格や原材料費の高騰によって小規模事業者などの経営は厳しさを増していると指摘。インボイス制度にかかる負担を求めることができる状況にないとして、『経営の持続化や県内の経済活性化の重要性を考えると、制度そのものを廃止することが最良の策と言わざるをえない』としている」とのことです。付け加えるならば、埼玉県議会自由民主党議員団の白土幸仁政調会長は、おそらく本会議終了後の記者会見か何かの席であると考えられますが「中小企業の負担は政府が思っている以上に大きい。政府への批判ではなく、地方の声を届けるべきだという判断だ」と語ったそうです。

 しかし、記事でも指摘されていますが、自由民主党は政権与党として消費税・地方消費税の税率引き上げやインボイス制度の導入を推進してきました。国レヴェルだけでなく、地方レヴェルでもそうであったはずです。それが、県議会であるとは言え、廃止を求めるという立場にまわったことは、実のところ票田からの反発が大きく、これを受け止めざるをえない状況になったということなのでしょう。

 それだけではありません。実は、現在開かれている埼玉県議会には、インボイス制度廃止の「意見書の提出を求める請願が共産2県議の紹介で先に出されていた。だが、委員会で自民から動議が出て、継続審議になった」とのことでした。つまり、請願の趣旨と意見書の趣旨とは同じものであったということになります。敢えて、という表現がピッタリであると思われますが、埼玉県議会自由民主党議員団は今月12日ひ開かれた議会運営委員会に意見書の案を出しました。この委員会には17人の委員がいますが、埼玉県議会自由民主党議員団が主導した上で「4会派14人の議員の連名」により本会議に提出されたということです。それなら最初から請願の採択に賛成すればよかった話で(これは意見書に反対した議員のコメントとしても掲載されています)、面子なのかな、などとも考えました(あれこれあるのはわかります)。

 記事には意見書に反対した議員の意見も掲載されています。引用しながら紹介しますと、まず、埼玉県議会公明党議員団の萩原一寿議員が本会議で「廃止となると、これまで定着に向けて進めてきたところから一転して困難をきてしてしまうのではないか。廃止ではなく丁寧に現場の声を聞きながら改善を求めていくべきだ」と述べています。また、無所属県民会議の松坂喜浩議員は「負担が増えたとの声は把握している」としつつ「制度廃止は政治への信頼を大きく損ねる。小規模事業者の厳しい経営環境は、エネルギー価格や原材料費の高騰などさまざまな要因がある。県議会は省力化や価格転嫁の支援を国に求め、経営悪化の要因の解消のためにこそ声を上げるべきだ」と述べました。両者の意見は、埼玉県議会が2022年および2023年に「小規模事業者の負担軽減策などを求める意見書」を採択したことと関連があると思われます。

 賛成、反対のどちらにも一理があるでしょう。ただ、肝心なことを忘れてはいけません。

 一つは、インボイス方式の廃止を訴えるのであれば、軽減税率の廃止も訴えることこそ合理的です。インボイスは、消費税の中核と言える仕入税額控除を確実に行うために必要とされます。軽減税率のない、つまり税率が一つしかなければ、インボイス方式でなくても(そう、かつて日本で行われていたアカウント方式であっても)よいかもしれませんが、複数税率となると正確な仕入税額控除が難しくなります。それなら、税率を一つに戻すほうが事業者にとっても楽ですし、消費者も混乱しないでしょう。

 もう一つ、実はこちらのほうが重要なのですが、日本と同じように付加価値税型の消費税を導入している国の圧倒的多数はインボイス方式を採用しており、事業者の規模を問わずインボイス発行業務を行っています。慣れていますし、こなしてきたのです。日本だけは、消費税を導入してから長らくアカウント方式を続けていましたし、最初からインボイス方式を採用できなかったのです。事務負担がどうのこうのという声がこれほど大きく叫ばれているのも日本だけでしょう。

 私は、このブログで何度か、日本人には付加価値税型の消費税を扱うだけの能力がないと書いてきました。残念ながら厳然たる事実であることを、埼玉県議会の意見書採択は示しています。ただ、埼玉県議会は消費税に関する日本国民の無能を自覚していないと思われます。だからインボイス方式の廃止という中途半端な意見書に賛成したのでしょう。

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