今回は、鉄道事業法に関する二つの話題を取り上げます。
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まず、昨日(1月21日)、国土交通大臣がJR北海道に対し、JR会社法(正式名称は「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道会社に関する法律」)に基づく監督命令、および、鉄道事業法に基づく事業改善命令を発する意向を通知しました。
この件については、1月20日の8時1分付で朝日新聞社が「JR北海道に監督命令へ 国交省、レール数値改ざんで」として報じており(http://digital.asahi.com/articles/ASG1M5D86G1MUTIL00V.html)、1月21日の11時50分付で、やはり朝日新聞社が「国交省、JR北に初の監督命令 数値改ざん、告発も検討」として報じています(http://digital.asahi.com/articles/ASG1P0GD0G1NUTIL05X.html)。
記事にも書かれている通り、今回なされたのは命令の通知です。これは、行政手続法第15条(聴聞の場合)・第30条(弁明の機会の付与)に定められている手続で、事前に、予定されている不利益処分の内容を相手に示し、意見表明のための機会を与えるのです。正式な命令は、その後に出されることとなります。
今回は、昨年発覚したレール点検数値の改竄問題に関連して二つの命令が出されました。しかも、刑事告発まで検討されています。改竄が、現場に留まらず上部組織、そして本社においても行われていたという重い事実があったがための命令です。上記の両記事によると、JR会社法に基づく監督命令は今回が初めてのことであり、鉄道事業法に基づく改善命令は、2011年に発生した石勝線脱線炎上事故に続いて2回目です。また、改善命令が同じ会社に対して2回も発せられたのも初めてのことです。
監督命令については、JR会社法第13条第2項に規定されています。この機会に、第13条の全文を紹介しましょう。
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(監督)
第十三条 会社は、国土交通大臣がこの法律の定めるところに従い監督する。
2 国土交通大臣は、この法律を施行するため特に必要があると認めるときは、会社に対し、その業務に関し監督上必要な命令をすることができる。
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また、事業改善命令は、鉄道事業法第23条に定められています。これについても、全文を紹介しましょう。
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(事業改善の命令)
第二十三条 国土交通大臣は、鉄道事業者の事業について輸送の安全、利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときは、鉄道事業者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
一 旅客運賃等の上限若しくは旅客の料金(第十六条第一項及び第四項に規定するものを除く。)又は貨物の運賃若しくは料金を変更すること。
二 列車の運行計画を変更すること。
三 鉄道施設に関する工事の実施方法、鉄道施設若しくは車両又は列車の運転に関し改善措置を講ずること。
四 鉄道施設の使用若しくは譲渡に関する契約を締結し、又は使用条件若しくは譲渡条件を変更すること。
五 他の運送事業者と連絡運輸若しくは直通運輸若しくは運賃に関する協定その他の運輸に関する協定を締結し、又はこれを変更すること。
六 旅客又は貨物の安全かつ円滑な輸送を確保するための措置を講ずること。
七 旅客又は貨物の運送に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保することができる保険契約を締結すること。
2 前項の規定による命令(同項第四号及び第五号に係るものに限る。)があつた場合において、当事者が取得し、若しくは負担すべき金額その他契約若しくは協定の細目について、当事者間の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、国土交通大臣の裁定を申請することができる。
3 第二十二条第六項、第七項及び第九項から第十一項までの規定は、前項の裁定について準用する。この場合において、同条第六項及び第七項中「都道府県知事」とあるのは「国土交通大臣」と、同条第九項及び第十一項中「補償金の額」とあるのは「当事者が取得し、又は負担すべき金額」と読み替えるものとする。
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この他、JR北海道の常務取締役・鉄道事業本部長の解任、故意にATSスイッチを壊した運転士の免許取消(行政法学では撤回)なども行われるようです。非常に厳しい内容ですが、重大な事故が多発しただけに、やむをえないところです。
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次は、少しばかり時間が経ってしまいましたが、岩泉線の廃止に関する5回目の記事です。
1月8日付で、朝日新聞社が「岩手)岩泉線廃止日4月に繰り上げ 国交省、認める通知」として報じていました(http://www.asahi.com/articles/ASG1764NGG17UJUB00X.html)。東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)も、1月8日付の「岩泉線の廃止日繰り上げの届出について」という文書を公表しています(http://www.jreast.co.jp/railway/pdf/iwaizumi_20140108top.pdf)。
まず、今回の話を進めるために、以前にも紹介した鉄道事業法第28条の2を再びここに引用しておきます。
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(事業の廃止)
第二十八条の二 鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするとき(当該廃止が貨物運送に係るものである場合を除く。)は、廃止の日の一年前までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。
2 国土交通大臣は、鉄道事業者が前項の届出に係る廃止を行つた場合における公衆の利便の確保に関し、国土交通省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するものとする。
3 国土交通大臣は、前項の規定による意見聴取の結果、第一項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該鉄道事業者に通知するものとする。
4 鉄道事業者は、前項の通知を受けたときは、第一項の届出に係る廃止の日を繰り上げることができる。
5 鉄道事業者は、前項の規定により廃止の日を繰り上げるときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。
6 鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするとき(当該廃止が貨物運送に係るものである場合に限る。)は、廃止の日の六月前(利用者の利便を阻害しないと認められる国土交通省令で定める場合にあつては、廃止の日の三月前)までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。
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さて、岩泉線です。JR東日本は、同線の廃止を2013年11月8日に届け出ていました。このままですと、廃止日は、第28条の2第1項により、2014年11月8日ということになります。しかし、岩手県は、同線の押角トンネルを道路化する工事を2014年度に開始する意向を示しています。そうなると、廃止日を繰り上げなければなりません。そのため、JR東日本は、当初から繰り上げを求めていました。
届出から1ヶ月以上が経過した12月19日、東北運輸局が関係者に対する「公衆の利便の確保に関する意見の聴取」を行いました。第2項に基づくものですが、法律には詳しく定められておりません。また、詳しい報道も目にしなかったのですが、鉄道事業法施行規則には、次のような規定があります。
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第四十二条の三 法第二十八条の二第二項の利害関係人(以下第四十二条の五において「利害関係人」という。)とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 法第二十八条の二第一項の規定による鉄道事業の全部又は一部の廃止の後に公衆の利便の確保を図ることが想定される者
二 利用者その他の者のうち国土交通大臣が当該廃止に関し特に重大な利害関係を有すると認める者
第四十二条の四 法第二十八条の二第二項の国土交通大臣の意見の聴取を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した意見聴取申請書を提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所
二 届出の件名及びその番号
三 意見の聴取において陳述しようとする者の氏名及び職業又は職名
四 意見の聴取における陳述の概要及び利害関係を説明する事項
2 前項の申請は、第四十二条の二の規定による公示の日から十日以内に、これをしなければならない。
第四十二条の五 国土交通大臣は、法第二十八条の二第二項の意見の聴取をしようとするときは、その十日前までに、関係地方公共団体及び前条第一項の申請書を提出した利害関係人に対し、意見の聴取の日時及び場所並びに当該廃止の内容を書面で通知する。
2 意見の聴取は、公開とする。ただし、国土交通大臣が特に必要があると認める場合には、この限りでない。
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これらの規定に基づいて意見の聴収が行われ、岩泉線については「第一項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認め」られたのでしょう。元々、茂市~岩手和井内が4往復、茂市~岩泉が3往復と、極端に少ない運転本数です。輸送密度は、第二次特定地方交通線に指定された時点で667人、1986年度に295人、1987年度に180人、2003年度には85人、2007年度には58人、2009年度には29人と、低下する一方です。これより高い密度の路線でも廃止されているのですから、残ったことが奇跡的であるとすら言えます。また、2009年度の平均通過人員数は46人で、JR東日本の路線では最下位です。
さらに悪条件が重なります。2010年7月末日の土砂崩れのために運休が続いている上に、原因調査検討委員会によって、岩盤崩落の危険箇所が23、落成崩壊の危険箇所が88と指摘されています。
これでは、鉄道路線として復旧することの意味が問われかねません。評価は様々でありましょうが、少なくとも「第一項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認めるとき」という不確定概念の解釈としては妥当である、と解するべきでしょう。
鉄道営業法施行規則第42条の6によれば、廃止日の繰り上げを認めるときには意見聴取を終えた日から20日以内に、書面によって鉄道事業者に通知することとなっています。実際に、国土交通大臣がJR東日本に対して岩泉線の廃止日を繰り上げてもよいという趣旨の通知を行ったのは、今年の1月7日です。
そして、8日、JR東日本が廃止日を今年4月1日に繰り上げる旨の届出を行いました。この届出については、鉄道事業法施行規則第42条の7が定めています。
「法第二十八条の二第五項の規定により鉄道事業の廃止の日の繰上げの届出をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した事業の廃止繰上届出書を提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所
二 廃止の日を繰り上げようとする路線
三 法第二十八条の二第一項の規定により届け出た廃止の予定日
四 繰上げ後の廃止の予定日」
なお、国土交通省のサイトで、「鉄道事業の一部廃止の日を繰上げる届出について」という文書(東北運輸局、1月8日付)が公表されています(http://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/puresu/puresu/td140108.pdf)。これは、鉄道事業法施行規則第42条の2に基づくものです。
以上の鉄道事業法および鉄道事業法施行規則の規定を改めて読むと、果たして純粋な届出制であるのかどうか、疑問が残ります。廃止の届出そのものに対する審査などはなされないので、行政手続法第37条に規定される届出制には合致します。しかし、届出がなされた後に、国土交通大臣は「公衆の利便の確保に関し、国土交通省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取する」こととされており、「意見聴取の結果、第一項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該鉄道事業者に通知する」こととされていますので、少なくとも廃止日については行政庁の判断がなされうることとなります。
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「やはり、岩泉線は廃止か」(2012年3月30日付)
「JR東日本が改めて岩泉線の廃止を提案した」(2013年9月10日付)
「岩泉線の廃止は確定的に」(2013年11月6日付)
「岩泉線の廃止が届け出られた」(2013年11月10日付)