ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

コッホ先生と僕らの革命

2012-09-16 23:09:01 | か行

1874年、ドイツにサッカーを持ち込んだ
実在の人物の物語です。


映画「コッホ先生と僕らの革命」69点★★★☆

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1874年、ドイツのある学校に
英語教師のコッホ(ダニエル・ブリュール)がやってきた。

当時、帝国主義下のドイツでは
反イギリス感情が強く
「英語なんて学ぶ必要あるの?」と、生徒たちも反抗的でやる気ゼロ。

そこでコッホ先生はある秘策をとる。

それは、イギリスで流行のサッカーを
授業に取り入れるというものだった――?!

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生徒を服従と規律で支配する
ドイツ式教育から脱却しようと奮闘する教師と、

それよって生徒たちの心が開いていく様子が、
生き生きと描かれた優良作です。

まずはドイツがサッカーを始めたのって
意外に遅かったんだ・・・とびっくりしたなー。


英語に興味を持たせるためにサッカーを始める・・・という授業方法は
現役先生の参考にもなりそう。


さらにこの映画のポイントは
サッカーの話だけでなく

“先生”はじめ身の回りにいる"大人"の姿勢が
子どもに与える影響の大きさを
大人に知らしめようとしているところではなかろうか。


劇中に、親が偉くて優等生の少年を首謀者に

クラスで唯一、労働者階級出身の小柄な少年が
影でいじめられている、という話が出てくる。

いじめてるのは首謀者とその取り巻きで、
他の子は見て見ぬ振りをしているんですが、

コッホ先生はうわべ取り繕う首謀者の少年の
裏をすぐに見抜くんですね。

で、サッカーを通じて、
うまい対処をする。

そういうキチンとした大人の態度が、
いかに子どもたちに影響を与えるか。
教えられますねえ。


「自分が学校が楽しくなかったから教師になった」という
コッホ先生はエライ!

序盤もっさりさしたおデブの子の、
意外な活躍にも拍手!

激烈感動作!とかではないけれど、
キラリ光るいい作品でした。


★9/15(土)からTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開。

「コッホ先生と僕らの革命」公式サイト
コメント (2)
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スケッチ・オブ・ミャーク

2012-09-15 15:20:45 | さ行

ミャークとは宮古島のことです。

「スケッチ・オブ・ミャーク」70点★★★★


沖縄・宮古島に伝わる“神歌”を
歌い継いできた人々を記録したドキュメンタリー。

その多くが90代(!)という貴重さもあり、

彼女たちの経験や、歌も飽きないけど、
やはり文献でしか知らなかった神事の場面を
見られるのが凄い。


50歳~57歳までの既婚女性がクジ引きで選ばれ、
歌や行事を執り行う“神女(ツカサンマ)”となるそうで、

選ばれた方々は
ごく普通のお母さんたちなんですが、

これがみなさん
フツーに神の化身を見るし、予知夢も見るんですわ。


「神女に選ばれるかどうか、緊張しました?」とか聞いても
「え?いや、前の日にね、もう見たからさ(夢でね)」とか(笑)
取材者と話が一瞬噛み合わなくなるさまも可笑しいですよ。

この地では、あちらとこちらは、地続きなんだなあと
つくづく思い知りました。

映画に登場する人々は
2009年に青山の草月ホールで公演を行っており、

そのときの模様も映し出されて聴き応えあります。


特に見事な三線と歌を聴かせる10歳の少年が愛おしい。

これからのミャークの
たくましい希望ですねえ。


本企画の発端であり案内人ともなる音楽家・久保田麻琴氏は
劇中で
「人頭税にあえぎ、苦しい中で生まれた宮古の歌は、
洗練された沖縄民謡より、ソウルフルでエッジが利いている」と話していました。

確かにそんな感じ。

沖縄に興味ある人には特にオススメです。


★9/15(土)から東京都写真美術館ホールで公開。ほか全国順次公開。

「スケッチ・オブ・ミャーク」公式サイト
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ヴァンパイア

2012-09-14 23:51:13 | あ行

どこに行っても、どこで撮っても
岩井俊二は岩井俊二。

ある意味、さすがだ。

「ヴァンパイア」69点★★★★

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舞台はカナダ。

男(ケヴィン・セガーズ)が、
初対面の女性(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)と待ち合わせをしている。

二人はネット上で知り合い、
ともに死ぬ場所を探しているらしい。

見栄え悪く死にたくない、と言う女性に
男は静かに提案する。

「全身の血を抜くという方法があるよ」――。

そして、女性は死に、
男だけが生き残る。

ビンに溜まった大量の血液とともに――。

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岩井俊二監督、なんと8年ぶりの長編劇映画。

カナダを舞台に、全編英語で、
外国人俳優を使って撮っています。

お話は
インターネットの自殺サイトで自殺志願者を募り、
彼らから血を頂いて生きながらえている

現代のヴァンパイアの悲哀
そして死を望む若者たちの悲哀を描いているんですが、


まあ全編を覆うこの刹那、このリリシズム!


完璧に切り取られた構図、
柔らかい映像、優しいピアノ曲。
死に憧れる少女たちの最期まで完璧に白く“純潔”なイメージ・・・と、

場所が変わっても、言語が変わっても
その一貫性が揺るがない、というのがすごいなあと思いました。


言ってみれば少女小説のようなものなんですよね。


例えば若い時代の自分に
「スワロウテイル」がガツンとヒットしたように
この映画も若い世代の心には、かなりヒットしそう。

しかし、もう私には青々としすぎました(笑)

もう遠くなってしまった、
昔の自分の“欠片”を見るような
そんな気持ちになった(笑)

わかるんだけど、自分にはハマらない、というのかな。


雰囲気に流されてずーっときて、
ようやくある女性(ミシェル・ウィリアムズふうの可愛い娘)の
死にたい動機が明らかになる後半で、
やっと物語が立ち上がって来て、いい感じになってくる、という。

なんにせよ

死のうとする人々にとって
死の前の一瞬の出会いとか、

死ぬ前に処理するべき些末な日常――
コーヒーや食事をどうしようとか、
飼っていた鳥をどうするかとか、

そういったものすべてに
現在進行形の“生”のリアリティがあるのに、

それらはしかし容易に
未来の“生”につながることはないんだなあと
切なさは残りました。


★9/15(土)からシネマライズほか全国順次公開。

「ヴァンパイア」公式サイト
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ライク・サムワン・イン・ラブ

2012-09-13 23:33:09 | ら行

外国人が日本で映画を撮ると、大抵失敗するけど
これは成功例すね。

「ライク・サムワン・イン・ラブ」73点★★★★


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夜の新宿。

賑やかなバーにいる明子(高梨臨)
電話で呼び出され、タクシーである場所に向かう。

着いた先は、
80歳を超えたタカシ(奥野匡)の部屋。

どうやらこれは彼女の仕事らしい。

タカシは明子を亡妻に似ていると言う。

翌朝、タカシが車で明子を大学に送ってやると、
そこに
明子の婚約者だという男(加瀬亮)が現れて――?!

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「友だちのうちはどこ?」、最近では「トスカーナの贋作」で知られる
イランのアッバス・キアロスタミ監督が、
日本人俳優を使い、日本語で撮った作品。

おそらく、会話や翻訳に
さほど干渉していないのでしょう、
役者の演技もセリフも自然で見やすかったですね。

しかし
登場人物たちの素性や関係性がまったく不明なまま、
会話と物語がどんどん進むので

どこか人物たちが「プレイ」しているような、
まあもともと演技なんだけど、
そのなかでまた嘘っこのプレイをしているような?
不思議なフェイク感覚がある。


そこらへん前作「トスカーナの贋作」に通じてる感じなんですが、

まあ
最初はワケわからず、ちょっと退屈したりして。

しかしこれが
気づくとズブズブとその世界に引きずりこまれており、
「えっ?終わっちゃった?」という、
典型的な麻薬ムービーでした(笑)。

人をくったような終わりかたも、たまりません。


主演の奥田氏の、
一拍置いたリズムが落ち着くし、

彼が住む“昭和の匂いプンプンなインテリの部屋”にもグッとくる。

さらに
そんなゆっくりしたムードを一変させる
加瀬亮がいい。

彼の登場で、場が一気に「芝居」に転換しましたね。
なかなか見事でした。

こういう役もイケるなあ。


★9/15(土)から渋谷ユーロスペースほか全順次公開。

「ライク・サムワン・イン・ラブ」公式サイト
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わたしたちの宣戦布告

2012-09-12 23:15:46 | わ行

実際のカップルだった俳優と女性監督が経験した実話を、

自分たちが演じて、監督して
魅せる映画にしちゃうっていう

そのことが、まず、すげえ。


「わたしたちの宣戦布告」73点★★★★


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パリで出会った
ロメオ(ジェレミー・エルカイム)とジュリエット(ヴァレリ-・ドンゼッリ、監督も)。

またたく間に恋に落ちた二人の間に、
やがて愛らしい男の子アダムが誕生する。

泣いてばかりのアダムに
若いカップルは正直、辟易しながらも
「赤ん坊なんて、こんなもの?」と思っていた。

が、あるときジュリエットは
アダムの様子がおかしいことに気づく――。

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監督、主演のヴァレリー・ドンゼッリと、
ダンナ役のジェレミー・エルカイムの身に実際に起こったことを、
劇映画として制作した作品。

冒頭、MRIのガンガン鳴り響く耳障りな音が、
映画のリアリティを保証します。


二人の若い恋人たちの出会いを
わざとコミカルに描いたり

全体をポップな調子で描くところなどに、

「重苦しいのはいや!」という作り手の思いが
よく伝わってきます。

実際、重い印象はなくて
とてもうまい作りだと思います。


障害や難病を持つ子の親を取材をした経験からも、
我が子を「どこかおかしい?」と感じつつも
そのことを認めるまでがすごく大変だ、ということは知っていたので、

この夫婦が経る紆余曲折は
実にリアルだった。

どこにでもありそうな子育ての悩みが、
異常に変わっていく、その課程はとても辛いんだけど、

しかし、この映画の真骨頂は
息子アダムの問題が明らかになってからなんですね。

お涙頂戴のヒマもなく、
終始テンポよく物語は進んでいくんです。

だって「闘い」だから!

そう、いざとなったら悩んでるヒマなんてない。

やれることは「我が子を救うこと」だけ。
とにかく、前に進むしかないのだ。

さらに夫婦だけでなく、それぞれの両親、友人など
関わる人々すべてが自然に団結していくさまに
心打たれます。

それでも予想以上に
闘いは長引いていくわけで、

「なぜ、あの子が(こんな目に)?」と思わずつぶやく父親に、
母である監督が答える言葉に
真の強さを見ました。

アダムは、主人公たちは、どうなっていくのか?!

現在進行中の物語を
こんな形で見るのって、やっぱすごいかもね。


★9/15(土)からBunkamuraル・シネマ、シネ・リーブル梅田で公開。ほか全国順次公開。

「わたしたちの宣戦布告」公式サイト
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