ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ル・コルビュジエの家

2012-09-11 21:05:17 | ら行

なんというシュール、なんというシニカル!(笑)

“建築”のドキュメンタリーではないので
あしからず。

「ル・コルビュジエの家」74点★★★★


***************************

1948年にかの有名建築家ル・コルビュジエが
アルゼンチンに建てた
実在する個人住宅「クルチェット邸」。

建築ファンが“詣で”にくるようなこの家に、
成功したデザイナー(ラファエル・スプレゲルブルド)と妻、娘が住んでいる。

しかしある朝、
彼は大きな物音で目を覚ます。

なんと隣人が自宅のリフォームを始めたのだ!

しかも、こともあろうに、美しい我が家に向けて
窓を作ろうとしているらしい。

「冗談じゃない!」と発奮するデザイナーだったが――?!

***************************


古今東西、どこにでもある“隣人トラブル”を
シュールな心理劇に展開させた
痛快な作品。

それをよりによって
世界的に有名な建築家の家でやっちゃうんですからね(笑)

隣人のリフォームに
主人公はたまらず苦情を申し出るわけですが

一応、お隣さんなわけだし、
まあ穏便に、角が立たぬよう、うまくやろうとするわけです。

しかしそれが、
どんどん悪いほうに転がっていってしまうようなおかしみに
「あるある」と噴出しちゃう(笑)。

しかもこの隣人が、
マッチョでガタイもよく、
相当に手ごわい相手なんですよ。


『週刊朝日』9/14号の「ツウの一見」で
クリエイティブディレクターの
小池一子さんにお話を伺いまして、

小池さんが
「三谷幸喜の世界にちょっと似てる」とおっしゃってたのが
すごーくピッタリきました。

そう、それです!そんな感じ。

最初は主人公に同情しつつ、
しかし彼らの持つ
相当な優越感やナルシシズム
次第に“イヤ~な感じ”に増幅していく、逆転の巧み。

冒頭の仕掛けのあるシーンといい、
幾何学構図なども、かなり計算されてます。

それにやっぱり
コルビュジエの家を、あますとこなく覗ける
面白さも十分。

ぜひご堪能あれ!


★9/15(土)から新宿k's cinemaで公開。10/6(土)からシネマート六本木で公開。ほか全国順次公開。

「ル・コルビュジエの家」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラン式料理本

2012-09-10 21:28:35 | あ行

これはね~、オチも素晴らしい!(笑)

「イラン式料理本」74点★★★★


1973年、イラン・テヘラン生まれのモハマド・シルワーニ監督が
イランの家庭の台所で
母や義母、妹や妻に料理をしてもらい
その様子を映す・・・というドキュメンタリー。

な~んの仕掛けもないのに、
これがえらくおもしろい!

さすが人の「素(もと)」を作り出す台所、
人間のかもし出す「素(す)」のおかしみに溢れているんですねえ。


カメラはほぼ定点観測状態で
台所で立ち働く彼女たちを写すのみ。

分量をしっかり図る人もいれば、テキトーな人もいるし、
手も動くけど、口も動く人もいる(笑)

そうした何気なさに
世代の差や個性がハッキリ現れ、

さらに夫婦関係や、嫁と姑の関係、
イランの男女の力関係や問題までが、
そこはかとなくたち現れてくるのがおもしろいんですねえ。


例えば義母(監督の妻のお母さん)は
ものすごく時間をかけて
伝統的な料理を作る“昔の女性”なんだけど

娘のころに嫁入りし、
姑に散々いじめられたらしいんですね。

そして自身が貫禄たっぷりになったいま
隣に座るちんまりした姑に
「義母さん、なんであんなに私をいじめたんです?」なんて
チクリチクリとジャブするんです。

完全に形勢逆転(笑)。


で、その娘である監督の妻は
美人なんだけど、かなり気の強い現代女性で

ダンナがお客を連れて帰ったことにチクリチクリと文句を言い、
さらにごはんはチンで済ます、みたいな(笑)

難しいこと抜きで、その国の状況が
台所、そして“食”でわかるという
シンプルさがいい。


日本でも「サラメシ」が人気だったりしますからね。


イランは特にドキュメンタリー映画に検閲が厳しく、
この作品も国内では上映されていないそう。

しかしそんな状況のなかでも
モハマド・シルワーニ監督は、
イランの現状をさまざまな形であぶり出す術に長け、
よき作品を発表し続けているそうです。


まあなにはともあれ、お腹が空いてきましたよ(笑)


★9/15(土)から岩波ホールほか、全国順次公開。

「イラン式料理本」公式サイト
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鍵泥棒のメソッド

2012-09-09 14:18:37 | か行

やっぱり内田けんじ監督はおもしろいっ!(笑)

「鍵泥棒のメソッド」83点★★★★


*************************

売れない役者の桜井(堺雅人)は、
無職で金に困り、追い詰められていた。

そんなとき、銭湯で
高級そうなスーツの男(香川照之)と一緒になる。

すると、男は風呂場ですっころび
救急車で運ばれてしまった。

ボー然とそれをみていた桜井は、
男が落としたロッカーの鍵を拾う。

出来心でロッカーを開けると
そこには大金の入った財布が――。

さあ、どうする?!

*************************


「運命じゃない人」「アフタースクール」と
いつも「うわあ、やられた!」を提供してくれる監督の3年ぶりの新作。

脚本のセンスは本当にピカイチ

最小限かつ簡潔な描写で登場人物の個性を描き出し、
物語にノセていく、その造形の丁寧さ!

セリフもおかしく、
そしてまた、観客を見事に騙すのだ(笑)。


冒頭、
広末が生真面目に「結婚宣言」をするシーンにまず吹き(笑)

続いて
香川照之の几帳面な殺し屋ぶりと、
しまらない堺雅人、それぞれの個性を
あっという間の数分で描いてみせる。

そして
風呂屋ですっころんで運ばれた香川を見て、
出来心で鍵を取り替える堺。

後日、律儀に病院へ荷物を返しに行くと
男は記憶を失っていた……という展開。

それでもって
下手くそなヘタレ役者が殺し屋のふりをするハメになり、
生真面目な殺し屋が演技メソッドをマジメに学んで
役者をこなしていっちゃう。

そんな込み入った状況を、
いとも楽しそうにすいすい描いていくのが
なんとも痛快なんですね。


そしてただ笑うだけじゃなく
人間の生きる“姿勢”が人生を左右するのだ、という
教訓もチクリ描かれて。

違う意味で、
堺氏VS香川氏の演技合戦になっていくあたりもうまいしねえ。


特に
香川氏って、最近の邦画では
エキセントリックな悪役とか(「るろうに剣心」・・・
魔法の国の人とか(「ひみつのアッコちゃん」・・・
そんなんばっかりなんで、

「そうだよ!こう使って欲しいなア!」と
うれしくなりました。


背丈の違う二人の服ネタや、
クッキー缶に詰められた、あるものの造型にも爆笑!

もう、芸が細かい!(笑)


★9/15(土)から全国で公開。

「鍵泥棒のメソッド」公式サイト
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

白雪姫と鏡の女王

2012-09-08 16:37:26 | さ行

「スノーホワイト」とは全く違う、
ポップでギャグ満載な「白雪姫」!


「白雪姫と鏡の女王」67点★★★☆


***********************

ある王国の女王(ジュリア・ロバーツ)は
超・自己チューなわがまま女性。

夫である王を亡くした今、
散財の限りを尽くし、国は破産状態。

しかも
自分より若くてカワイイ義理の娘・白雪姫(リリー・コリンズ)
「チョーむかつく」ので
城に閉じ込めている。

だが、そんなことでめげる白雪姫ではない。

こっそり城の外に出た彼女は
森で青年に出会い、彼を助けてやる。

しばらくして、城に青年がやってきた。

彼は隣国の王子(アーミー・ハマー)だったのだ。

女王は年の差もなんのその、
彼をモノにしようと策を練るのだが――?!

***********************


「落下の王国」「インモータルズ」の鬼才
ターセム・シン監督が、ジュリア・ロバーツで撮った白雪姫。


ターセム世界にしては、意外にもポップでキュート
ギャグとジョーク満載のファンタジーになってます。


物語の大筋は、特に変更もなく
でも
ジュリア・ロバーツがやると悪役王妃も
やっぱりチャーミングになっちゃうんだな。

フィル・コリンズの娘、リリー・コリンズが
なかなかに可憐な白雪姫を演じてます。
さすがに歌もうまい。

まゆげの太さも込みで
「アメリ」のカラーに似てる気がしました。


お話は、まあ軽めでさほどではないんだけど、
やはり美術と衣装が素晴らしい。

「ザ・セル」から、彼の世界観を支えてきた
石岡瑛子氏との最後のコンビ作でもありますからね。

今回は
どこかハンドメイドチックで、
布のたふたふ感や、刺繍のチクチク感など
“手仕事”のよさを感じる温かみがいい。

クラフト感のあるモノ、映像が好きな人には
たまらないはずです。


特に舞踏会での衣装は必見!


★9/14(金)から全国で公開。

「白雪姫と鏡の女王」公式サイト
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

凍える牙

2012-09-07 20:48:59 | か行

乃南アサ原作の刑事ミステリを、
韓国が映画化。

日本では2001年に天海祐希、
2010年に木村佳乃主演で
2度テレビドラマ化されてるんだって。


映画「凍える牙」69点★★★☆


*****************************

韓国・ソウルで
奇妙な焼死体が発見された。

目撃者によると、被害者の男の身体は
突然発火し、炎上したという。

中年刑事サンギル(ソン・ガンホ)は
新米女性刑事ウニョン(イ・ナヨン)といやいやコンビを組まされ、
事件の捜査をはじめる。

さらに
大型犬に襲われた男が、死亡する事件が起こる。

すべての事件はつながっているのか?

“殺人犬”の正体は――?!

サンギルたちは
大きな闇に突き進もうとしていた――。

*****************************


なんといっても
さすがソン・ガンホ!

こんなにシビアな犯罪モノにも
フッと息をつかせてくれるのはスゴイ。
救われる~(笑)


その相棒となる女刑事が
男社会の警察で不当な扱いを受けるというのも
この作品の大きな軸だと思うんですが、

しかしこの女刑事が
ホントに顔が可愛いだけで、
どこかボーッと心ここにあらず・・・な人物になっている狙いが
よくわからない(苦笑)

とびきり腕っぷしが強いわけでもないし
いまいち魅力がないのが困ったところなんですよ。

日本でのキャスト――天海祐希とかに比べると
イメージがかなり違うしなあ。

その分、ソン・ガンホという
キャラと味つけが、活きているんだろうけど。


というか、もうなにより
犬が殺人に利用されるという酷い話なんで、
ラストが見えているのが、どうにも切なく悲しいんですよ。

動物殺しとか、こういう描写を容赦なくできるのが
韓国のお国柄であり、

ある意味、強みであり、
怖さでもあるのだとつくづく。

まあ実際はそんなに
無意味にむごい描写とかないんですけどね。


日本映画が陥りがちな、逃げやぬるさが一切なく
ハラハラと本気で胸をかきむしられる反面、
進んで見たいかと問われると微妙・・・という。

そこは趣味の問題ですが。

それでも、ソン・ガンホに一票!ですね。


★9/8(土)から丸の内TOEIほか全国で公開。

「凍える牙」公式サイト
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする