5月20日(水)
世の中には、どうしょうも無い馬鹿者も掃いて捨てる程いるが、反面「何て凄い人なんだ。」と感心する立派な人も存在する。千葉市で老人介護施設を運営する「石井英寿氏」も正にそんな人だ。
先日テレビで紹介されたからご存じの方もいるだろうが、認知症老人に対する彼の対応が実に素晴らしい。色黒ギョロ目で愛嬌のある石井さんはとに角よく笑う。すると隣で能面のように無表情で会話も出来ぬお年寄りが一緒になって笑い出した。彼の笑い声には伝染する魔力があるみたいだ。
テレビを観ているとこんな場面があった。元証券マンだったという認知症のお爺ちゃんが、「駄目だ。」と言って頑なに送迎車から降りようとしない。そこで石井さん、やおら書類のようなものを手に「この書類の決裁をお願いします。」とお爺ちゃんに頭を下げるのだ。すると気を良くしたお爺ちゃん石井さんと一緒に介護施設の中へ入って行く。
又、お風呂が大嫌いというお爺ちゃんがいる。今度は石井さん、白衣を着てお爺ちゃんに「今から健康診断をします。」と言う。お医者さんには逆らえないお爺ちゃんは、されるがまま石井さんに服を脱がされ一緒に裸になって浴室へ、身体を洗ってもらったお爺ちゃんは「ありがとう。」と石井さんにお礼を言う。
もう一つ、徘徊してすぐ行方不明になるお爺ちゃんがいた。石井さんはこのお爺ちゃんに「貴方を交通情報調査員に任命する。」と書かれた手書きの辞令書を渡し、「道路を通る車や自転車の数をチェックしなさい。」と指示したそうだ。
このお爺ちゃん元警備員で実直な人柄だそうだ。その後施設にいる間はズーッと施設前の道路に置いた椅子に座り一生懸命車や自転車の数をチェックして、行方不明になる事は無くなったと言う。
まるでコントを見ているようで微笑ましくもあるが、これは石井さんがそれぞれのお年寄りを知り尽くしているからこそできるのだろう。彼は認知症の人が何をしても怒らないし、お年寄りに話を合せて常に笑顔で接すのだ。
口で言うのは容易いけれど常人の出来る事では無い。深い情愛があるから出来るのだろう。お世話になっている認知症老人のある家族も、「石井さんは普通の人では無い。」とまるで神様のような言い方をしていた。この施設でお世話になるお年寄りは幸せだなあと思った。
毎年春・秋の叙勲では、長らく役所に居座っていたというだけで、あるいは議員の椅子に踏ん反り返っていたというだけで、「旭日何とか章」やら庶民にはさっぱり意味の判らぬ勲章を授与される輩を数多く見受けるが、社会の底辺を人間愛で明るく支える「石井英寿さん」みたいな人にこそ、一番光り輝く大勲章を授与されるべきと強く思うのだ。