2009年度運動方針 (案)
はじめに-今大会の意義
8月30日の総選挙は劇的な政権交代を実現しました。安倍・福田と自民・公明連立政権は、次々に首相が政権を投げ出し、延命に固執した麻生政権のもと、自民党は総選挙で民主党に第一党の座を明け渡しました。これは小泉政権以来の「規制緩和」「構造改革」路線が、国民の支持を完全に失っていたことを象徴的に示す出来事でした。史上最高の好景気の中で企業の内部留保は過去最高となるのに労働者の賃金は下がり続け、格差と貧困が拡大し、自殺者は3万人を超え続けています。そして、2008年に起きたリーマンショックはこれに追い打ちをかけ、派遣切りが横行し、年末の派遣村には職も住むところも失った労働者が駆け込みました。ワーキングプアの実態、偽装請負、派遣切りの報道が相次ぎ、政権交代への世論が一挙に高まったのです。
この変化を最初に引き起こしたのは、非正規労働者のユニオンの動きです。キャノンや松下プラズマの偽装請負摘発から始まり、その後次々と非正規労働者のユニオンが結成されました。連合や全労連などナショナルセンターも呼応して、最低賃金引上げ、労働者派遣法の抜本改正と共同した動きを強めています。労働界だけではありません。後期高齢者医療制度の廃止を求め、消えた年金問題へ国民の批判が集中しました。これまで政治に黙っていた人々が声を上げ始めたのです。政権交代は国民生活重視の政府への転換を引き寄せる契機となりました。しかし、この事は、私たち自身も要求実現のために一歩を踏み出す必要があります。
川崎市では、阿部市政が「構造改革」川崎市版とも言うべき路線を未だにすすめようとしていますが、障害者施設・保育園民営化を進めれば進めるほど様々の矛盾にぶち当たり、家族・利用者からも“反対”が広がっています。市民との共同をひろげる時です。
今こそ、私たち自身が声を上げ、国政が転換した様に職場と市政を変えていく時です。
憲法9条と25条に依拠し、民生支部のたたかう三原則*を柱に、組合に結集して問題解決を図り要求を実現するという労働組合本来の運動スタイルで情勢を切り開く運動をみんなで作り上げていきましょう。
*支部運動三原則
1 こどもや対象者の権利を守る
2 自らの労働条件を守る
3 市民要求への共同行動
たたかいの総括
1.川崎市「行財政改革プラン」とのたたかい
第3次「行革」プランまでの7年間で2,370人もの職員削減を行い、2005(H17)年度以降の決算においてプライマリーバランス(基礎的財政収支)は5年連続で黒字決算になっています。第3次「行革」プランは、さらに3年間で1,000人の人員削減と同時に、「民間部門の活用」「受益と負担の適正化」を強調して、水道事業と下水道部門の一本化や市税事務所の設置、建設センター公園事務所の再編など組織削減で更に人減らしを徹底し、福祉施設の民営化推進とさまざまな保健・福祉事業の廃止・見直し、公共サービスの値上げ、保育料に至っては「認可外保育所の保育料も踏まえ見なおす」と市場原理をむき出しにした内容となっています。支部は、“官製ワーキングプア”を増大させる行革プランであり、“負担能力のない市民を公共サービスから排除するもの”と批判しました。一方で地下鉄の建設や神奈川口構想、縦貫道建設などの大規模事業は積極的推進を掲げています。しかし、市民生活を犠牲にした「行革」プラン、阿部市政の問題点を知らせる活動や市民との共同はまだ不充分な状況です。
(1)こどもの権利を守る闘争委員会
「行革」プランとのたたかいは、人員、賃金、人事評価、民営化等々さまざまな分野に及びますが、特に、こどもに関わる総合的な課題については、「こどもの権利を守る闘争委員会」体制で取り組みを進める中、課題が山積しています。保育園民営化、児童相談所体制強化・一時保護所増設、リハビリテーション福祉センター再編問題で地域療育センターの移設・民営化(2010年4月実施予定の計画)問題も当時進行しており、個別課題への対応に追われ、闘争委員会としては充分な取組みが出来ていません。
①児童相談所
格差の拡大や貧困の拡大は家庭、とりわけこどもたちの生活や育ちに影を落としています。「こどもの貧困」マスコミなどでも取り上げられているとおりです。
こどもの貧困の問題は児童相談、とくに養護問題としてあらわれています。その事を象徴的にあらわしているのが児童虐待の増加です。川崎市では、2008(H20)年度724件でその前年493件を大きく上回っています。児童相談所の現場では相談件数の増加ばかりでなく、その内容の深刻さ、複雑さが顕著であり、困難な対応を余儀亡くされる親や難しい課題を抱えている子供たちへの日々の対応に追われ、恒常的な時間外勤務と休日出勤で困難な親対応で精神的にも追い詰められている状況です。
こうした状況を踏まえ、児童福祉司や児童心理司の増員、一時保護所の体制強化に向けて交渉を行って来ました。とくに児童心理司はまったく不足しておりその増員は急務になっています。
一時保護所は、今年5月に井田分室が20名定員で開設され、職員体制についても完全夜勤体制を確保することが出来ました。長年の支部要求が現実のものとなりましたが、夜勤明けの職員が午後まで勤務せざるを得ない勤務状態など労働条件の改善が急務となっています。また、2ヶ所の一時保護所で50名定員となったにもかかわらず、定員一杯となる状況が発生しています。
社会的養護を支える体制整備は立ち遅れたままです。支部として要求してきた10代後半児童の支援の場である児童自立援助ホーム(6名定員)が今年7月に開設されましたが、児童養護を取り巻く状況は悪化する一方です。こうした状況の下、当局は今年7月に「要保護児童施設整備に向けた基本方針」を公表しパブリックコメントにかけました。
支部ではこうした状況の下、次の点を中心に取り組みを進めてきたところです。
ア 児童心理司を中心とした児童相談所の人員増
イ 社会的養護での体制整備にむけた取り組み
②保育園民営化
保育基本計画に基づき公立保育園の民営化がすすめられています。支部としては子どもの権利を守る視点から反対の立場で運動をすすめていますが、民営化を発表された園や民営化園の実態把握をおこない問題点をあきらかにする取り組みをおこなっています。
今年4月より新たに京町保育園、戸手保育園、南平間保育園、宮前平保育園、白鳥保育園が民営化されましたが、今まで以上に民営化の実態があきらかになってきました。保育士の引継ぎ要員がそろわない、途中で止めてしまい引き継ぎができない。特に看護師の確保の困難がだされ、民間労働者の低賃金の実態が大きく影響しているといえます。仕様書を守られない場合の民営化をした市の責任が問われます。
また、引継ぎについては、通常業務以外に引継ぎや工事、引渡しのための雑務など労働強化になっています。民営化後の巡回・フォローも今年4月より園長もしくは園長が無理の場合は主査が最大6ヶ月加わることになりました。改善をおこなう必要があります。
2008(H20)年8月に2010(H22)年4月民営化の提案を受けた、大師保育園、住吉保育園、坂戸保育園、宮崎保育園、宿河原保育園の保護者は、議会に計画見直し等の陳情を提出の取り組みや4園での仕様内容の統一の取り組みも行いました。民営化理由の経済効果については独自の調査で根拠がないことも証明しました。
当初から小田中保育園保護者をはじめとした保護者間の情報交換が行われたことが保護者の立ち上がりを早めることに繋がりました。民生支部もつながりの援助を積極的におこない、「かわさきの保育をよくする会」を立ち上げました。今後につなげていく取り組みを行います。
粘り強い小田中保育園の民営化裁判の判決では棄却となってしまいましたが、判決が不当であるとして高裁に控訴しました。棄却とはなったものの、判決の中で「民営化はこどもへの影響はある」「削減効果はない」ことは認められました。
今年8月に保育基本計画改訂版(骨子)がだされましたが、主な内容は「民営化予定園の発表を現在の1年半前から2年半前にする」「公立老朽化保育園の建て替えによる民営化の推進」でした。しかし、例外として末長保育園を仮園舎設置場所の都合を優先とした2011(H23)年に民営化することを発表しました。こどもの処遇が優先されていないことがまたあきらかになりました。川崎市の保育計画をこども優先の立場をとるよう働きかける運動が求められています。
また、2年半前計画発表後の具体的なスケジュール内容や老朽化による建て替えを理由とした民営化推進の問題点や今後指定管理はおこなわないのかについて追及をおこないます。
③ 保育基本計画
保育基本計画改訂にむけての取り組みでは事業推進計画の見直しを行ったにも係わらず、毎年待機児童が増えている状況に対して当局は本年度の早い時期に保育基本計画の改訂を行うことを明言していました。民生支部ではこの改訂に組合から意見の提案をおこない、反映させるという方針で短期間でしたが取り組みをおこないました。
保育研究センターとの共同の取り組みと位置づけながら、明星大学教授の垣内國光氏やNPOかながわ総研にも協力してもらいながら、「待機児アンケートの取り組み」と川崎市の状況の調査や他都市との比較、そして必要な受入れ枠の算定も行い、今年8月に「川崎市の待機児を本気で解消するための保育現場からの提案」をまとめ、当局への申し入れや報道各社への情報提供もおこないました。
さらに提案をもとにQ&A「保育園に入りたい!」パンフを作成し、分会を中心とした職場の工夫を生かした配布活動をすすめています。アンケートに答えてくれた方をはじめ保育園に入りたい多くの人に届けて行きたいと認可保育園増設を求める項目の入った「かわさき子育てing」の署名もあわせて取り組んでいます。
(2)リハビリテーションセンター再編整備計画への取り組み
2008(H20)年3月、利用者・家族との合意もないまま短期間の「パブリックコメント」を経て「障害者施策推進協議会」の「決定」という形を取り策定された「リハビリテーション福祉・医療センター再編整備計画」。利用者やその家族、利用者の成長や生活を支える職員の意向を聞かずして提案されたこの計画は、指定管理者制度による民間委託と自立支援法への移行を前提としており、日本政府が批准手続きに入る予定の「障害者権利条約」が掲げる項目にも反するものです。
支部は2006(H18)年3月、「障害者施策推進協議会」の「川崎市リハビリテーション福祉センター再編計画中間報告書」がまとめられた段階から取り組みを開始。2007(H19)年末の計画の提案以後は、職員による学習会や検討委員会を重ねて理解を深め、支部社会福祉研究センターと分会共催による連続学習会では①自立支援法下の民間事業者の現状②地域リハビリテーションを考える③障害者自立支援法と療育の課題の3つのテーマで各々25名~30名の参加で学習と討議を深めました。
そして支部より当局に対して質問状を発し、回答書にもとづいて職場組合員の参加も得て交渉を行い、その矛盾を追及してきました。
同時に利用者、家族にも呼びかけ「施設運営は行政と職員と利用者・家族が力を合わせて行うものである」という従来原則にのっとって協力関係を作りました。再編整備計画をきっかけに構成された陽光園、明望園、しいのき学園の3施設家族会との3回の共同学習会で相互の認識を深め、「利用者・家族の合意なしに再編整備を進めないでください」と訴え、議会請願や本庁舎ビラまき等の取り組みを行ってきました。
各施設の最近の取り組み状況は以下の通りです。
①障害者更生相談所
再編整備計画の第一弾として中央療育棟の建て替えに伴い2008(H20)年8月に高津区二子へ仮移転しましたが、それに伴い2008(H20)年4月、職員配置の見直し提案が行われました。
・電話交換手3人の削減に伴い、交換手の配転先の本人の了解を徹底させること
・事務職1人の削減-スポーツ施設管理業務の明望園への移管についてはスポーツ施設の管理については園長直属の業務として処理すること、非常勤職員の産休、病休等の必要な対応を行うこと
・電気職の明望園への移籍については、リハビリテーションセンター内施設の電気設備等の維持管理に関する相談・指導、明望園業務の補助を行うこと
以上をもって了解となりました。
②しいのき学園
当初支部は職場の意向を受ける形で、プレハブ移転によりこどもの生活の場が短期間で繰り返し変わることによってこどもが不安定になる恐れがあること、加えて当初計画では建て替え後の園舎が2~3階におかれることによる事故等の不安がある点を指摘し、計画の見直しを求め、変更が加えられました。
今年3月、プレハブ園舎へ引っ越しを行いましたが、簡易な設備のプレハブ施設のため、破壊された箇所もすでに多く、寒さ暑さや風の影響も大きいため、決して住みやすい環境とは言えません。
③中部地域療育センター
2010(H22)年4月からの指定管理制度導入が、突如今年3月議会に条例改正案として提出されました。市内最初の民間の運営する西部療育センターの開所と同時期であることから、民間での運営実績も評価できぬままの委託であることなどたくさんの問題を抱えています。
職場では検討を重ね、パンフレット「全てのこどもが療育を受ける権利を保障するために・中部地域療育センターの指定管理者かは川崎市の責任放棄です!」を作成。3000部以上を配布しました。今年2月には家族の方々より川崎市議会へ3通の陳情書の提出があり、それに伴う署名は1万筆(人)を超えました。今年3月には「中部地域療育センターの指定管理者制度導入に反対する民生支部集会」を開催し、支部組合員全体の問題として意思統一しました。議会では賛成多数で可決となりましたが、今後も保護者の支援など継続した取り組みをしていくことなどを支部見解として出しています。
④障害者支援施設めいぼう
「陽光園を残して欲しい」という利用者の訴えも虚しく陽光園は廃園となり、今年4月、明望園との統合が図られて自立支援法へ移行した障害者支援施設めいぼうが開所されました。身体障害者と知的障害者が同じ空間を共有することで事故のリスクは高まっています。開所前の改修もされましたが、不十分な箇所も多く、職場からの要求により改修や設備の設置が行われました。また、2名の欠員が出ていましたが、支部交渉を行い今年10月より補充されました。
家族会から市議会への陳情として「職員寮グループホームではなく、安全で安心できる市営の入所施設としてください」という要求が出されていましたがこれも叶わず、職員寮を改修したグループホームケアホームである陽光ホームも指定管理者制度により同時に開所となりました。
さらなる計画の変更も検討されているようです。現在の利用者の生活をさらに脅かすことのないよう、今後も支部全体の課題として、利用者の権利と生活を守るための取り組みを継続して行う必要があります。