日常の「戦場」見つめた
野良猫や人間たちの何気ない日常を通して、平和と共存についての思考を促す「Peace」が16日から、渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開される。
想田和弘監督=写真=は、テーマの中に現実をはめこむのではなく、あるがままの現実を見つめながら何かを発見する“観察映画”という手法でのドキュメンタリー作りを提唱。このスタイルでの初長編「選挙」と第2作「精神」は、世界の映画祭で数々の賞をとった。第3作「Peace」も観察映画だが、前2作と違うのは、事前にテーマが決まっていたこと。韓国の映画祭から「平和と共存」を主題とする作品制作の依頼を受けて作り始めたためだ。
断るつもりだったが、岡山にある妻の実家に帰った時、気持ちが動いた。義父が世話する野良猫の共同体が、よそもの猫の出現によって緊迫していると知ったからだ。
「テーマを聞いて、最初に考えたのは戦場に行くということ。でも、猫社会にも戦場はある。身近な日常の中にある戦場を見つめることによって平和と共存について考える方が実り多いものがあるのではないかと」
興味の対象は徐々に連鎖。猫たちと義父との濃密な関係、その義父が障害者や高齢者のために行っている「福祉有償運送」の仕事と、その利用者たち、彼らの生活を支援する義母にもカメラを向けるようになった。2か月間、断続的に撮影を行ったが、その間に猫社会は静かに変わり、人間たちからは思わぬ状況下でどきりとするような言動が飛び出してきた。実は、ある人物に関しては、なかなかテーマとのリンクが見いだせず、途中で撮影をやめようと思ったこともあった。
「でも、それこそ僕が批判している、テーマに縛られること。とにかく興味の赴くままカメラを回すことにした。と、不思議なことに、求めていたことを忘れた時に戦争体験の話が出てきた」。こうも言う。「なぜドキュメンタリーを撮るのかというと、偶然がとりこめるから面白いということが多分にある。そこを最大限に追求したい」
一見、ばらばらの日常から、いまの社会の姿が立ち上ってくる作品でもある。
「個と社会は密接にかかわっているし、政治と日常生活は反映しあっている。普段は気づきにくいけれど、カメラを向けると、そういうことが映りこんでくるんです」
(2011年7月8日 読売新聞)
野良猫や人間たちの何気ない日常を通して、平和と共存についての思考を促す「Peace」が16日から、渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開される。
想田和弘監督=写真=は、テーマの中に現実をはめこむのではなく、あるがままの現実を見つめながら何かを発見する“観察映画”という手法でのドキュメンタリー作りを提唱。このスタイルでの初長編「選挙」と第2作「精神」は、世界の映画祭で数々の賞をとった。第3作「Peace」も観察映画だが、前2作と違うのは、事前にテーマが決まっていたこと。韓国の映画祭から「平和と共存」を主題とする作品制作の依頼を受けて作り始めたためだ。
断るつもりだったが、岡山にある妻の実家に帰った時、気持ちが動いた。義父が世話する野良猫の共同体が、よそもの猫の出現によって緊迫していると知ったからだ。
「テーマを聞いて、最初に考えたのは戦場に行くということ。でも、猫社会にも戦場はある。身近な日常の中にある戦場を見つめることによって平和と共存について考える方が実り多いものがあるのではないかと」
興味の対象は徐々に連鎖。猫たちと義父との濃密な関係、その義父が障害者や高齢者のために行っている「福祉有償運送」の仕事と、その利用者たち、彼らの生活を支援する義母にもカメラを向けるようになった。2か月間、断続的に撮影を行ったが、その間に猫社会は静かに変わり、人間たちからは思わぬ状況下でどきりとするような言動が飛び出してきた。実は、ある人物に関しては、なかなかテーマとのリンクが見いだせず、途中で撮影をやめようと思ったこともあった。
「でも、それこそ僕が批判している、テーマに縛られること。とにかく興味の赴くままカメラを回すことにした。と、不思議なことに、求めていたことを忘れた時に戦争体験の話が出てきた」。こうも言う。「なぜドキュメンタリーを撮るのかというと、偶然がとりこめるから面白いということが多分にある。そこを最大限に追求したい」
一見、ばらばらの日常から、いまの社会の姿が立ち上ってくる作品でもある。
「個と社会は密接にかかわっているし、政治と日常生活は反映しあっている。普段は気づきにくいけれど、カメラを向けると、そういうことが映りこんでくるんです」
(2011年7月8日 読売新聞)