■障害者の将来 託す記録
■オホーツク発 福祉の継続助ける
もし、障害のある子どもが親の亡き後、独りぼっちになったら――。こうした不安を少しでも解消させたいという試みが昨年2月、オホーツク地方で始まり、全道に広がりを見せている。自閉症の子を育てる母親らが、子どもの成長記録、相続の考え方、人脈マップなどを記入する冊子「親心の記録」を作成し、普及に
取り組んでいる。将来に「希望」を託す命の伝言。各地で影響を受けたご当地版も誕生している。
■親がつづる「支援ノート」
「本人が自分らしく生きていけることが望みです。私たち夫婦に生まれてきてくれて本当によかったし、私たちも強くなり、成長し、優しく、幸せになれました。ありがとう」
オホーツク版「親心の記録」には、記入例文を書いた手引書がある。冒頭の文章は最終章「子の人生について願うこと」に関した親の記入例だ。作成したNPO法人網走市手をつなぐ育成会(阿部有市代表理事、会員35人)が標準モデル(両親は60代、障害者の子どもが20代)を想定した。
「残された子どもが福祉の手から漏れるのが一番怖い。子どものことを分かってもらいたい、そんな思いで作りました」と自閉症の子を育てる同会理事の渡部智子さんは語る。
知床財団提供の親子アザラシが表紙を飾るオホーツク版「親心の記録」。口コミで延べ1200冊の注文が全国からあった=網走市
発端は、2008年9月に札幌市であった知的障害の子を育てる親や福祉関係者で組織する全日本手をつなぐ育成会(東京都港区)の全国大会。千葉県船橋市の育成会が同年1月に作成した「親心の記録」という親の亡き後の記録集の報告を会員が聞き、「ぜひオホーツク版を」と考えた。
「この時期、会員の母親が交通事故や心臓の発作で急逝する事例が続き、10代後半の子どもが残されました。親が亡くなった後の福祉の継続が課題となりました」と事務局長の小西栄理さんは振り返る。
船橋市の育成会に冊子の継承を申し入れ、09年3月からオホーツク版の検討を始めた。「成年後見人の依頼や相続手続き、福祉関係手続きでも、これ一冊あればスムーズに出来る」と司法関係者や公証人も高く評価する冊子が10年2月に出来た。
会では普及活動にも取り組んでいる。事務局長の小西さんは昨年度、道内21カ所で「勉強会」の講師役を務めた。「各地で親心の記録が継承され、ご当地版が生まれています。親や行政機関からも問い合わせが絶えません。安心して暮らせる地域づくりの一助になればうれしい」という。
一方、課題も見つかってきた。今年3月11日の東日本大震災。災害時に子どもをどう守るか。網走の育成会では「親心の記録」に書かれた支援マップから会員の緊急避難場所を把握する取り組みを始めた。また、「親心の記録」の保管場所を、支援を託す人に伝えるという検討も進めている。
網走市手をつなぐ育成会の活動の詳細は、同会のホームページ(http://abaiku.web.fc2.com/)。
「親心の記録」の普及のため各地で開く記入体験の講師役を務める網走市手をつなぐ育成会事務局の小西栄理さん=北見市
一方、課題も見つかってきた。今年3月11日の東日本大震災。災害時に子どもをどう守るか。網走の育成会では「親心の記録」に書かれた支援マップから会員の緊急避難場所を把握する取り組みを始めた。また、「親心の記録」の保管場所を、支援を託す人に伝えるという検討も進めている。
網走市手をつなぐ育成会の活動の詳細は、同会のホームページ(http://abaiku.web.fc2.com/)。
■各地で多様なご当地版
道内で発行されている主な「支援ノート」を調べてみた。
相続手続センター札幌は障害者向けの「親心の記録」のほか、一般人が自分の死後を見据えて人生の記録や遺産、遺言について書き込める「まごころの記録」も作った。
社会福祉士会釧根地区支部作成の「マイノート」は、誰もが記入出来る「万能型」。点字での記入メッセージも添えた。自身の歩みと遺志まで届けることが出来る。
北斗市や芽室町が作成する「療育カルテ」や「子育て支援ファイル」は、発育の記録、医療の記録などが記入できる成長ノートだ。「学校、医療機関などが変わるたび、一から説明するのは大変」という障害児の親の悩みから生まれた。「医師や教師など第三者も記入できる。生涯にわたる支援も大事だという願いから生まれました」と、北海道自閉症協会道南分会の葛西るり子会長は語る。
朝日新聞