3月11日に発生した東日本大震災は、直後の通話の輻輳、通信障害にとどまらず、唐突に始まった計画停電によって、多くのユーザー企業のITインフラに影響を及ぼした。電力供給の安定性が失われる事態に、企業ユーザーは被災の有無に関係なく、従来想定してきたシステムの災害対策、事業継続計画(BCP)の大幅な見直しを迫られている。多くのユーザーが、「数週間も電力供給が不安定になることは想定していなかった」「これを機に、電力確保まで含めてBCPを練り直す」と動き出した。
電力危機への対策が優先課題に
経済産業省は、東京電力、東北電力管内での電力消費量を一律15%分抑制するという目標を掲げている。企業から家庭まで、この節電目標への協力を呼びかける。混乱の元となった計画停電については、「不実施を原則とする」ことになった。だが需給がひっ迫すれば、大規模停電を避けるためのセーフティネットとして引き続き発動することも示唆している。
電力不足はこの夏だけの問題ではない。電力会社の中長期的な発電能力の安定化は、まだ解決の糸口が見えていない。企業ネットワークの安定運用を考えると、停電への対応力や、ICTを活用した節電への貢献は今後2~3年間の優先課題になっていきそうだ。また、節電や停電を想定して対策を打っていけば、中長期的な災害対策、事業継続体制の強化につながる側面もある(図1)。これを機に、先を見据えたBCPの一環として対策に取り組みたい。
有力な手段はアウトソースとバッテリー駆動
節電や停電対策は、昔ながらの手段から最新技術を使うものまで、いろいろ考えられる。自前で対策する場合は無停電電源装置(UPS)や自家発電装置の導入が定石である。稼働させるシステムの消費電力にもよるが、導入していたユーザーは、「計画停電で実施された3時間程度は維持できた」と話す。
サーバー設置環境を見直す動きも加速している。自社拠点内で稼働させているサーバー群をデータセンターに預ければ、その分、自社内の電力消費を抑えられる。データセンターでは多数のユーザーの集約効果で、コンピュータリソースや空調を効率的に利用できる。最近はサーバー仮想化技術の浸透により、リソースの利用効率が向上しているため、1サーバー当たりの電力消費の抑制効果は一層大きい。
データセンター事業者を選ぶ際には、UPSや自家発電装置の規模、燃料確保の体制まで把握しておけば停電のリスクだけでなく、災害発生直後の被害への対応力も高められる。
ネットワーク面では、社内のLANやPBXが停電で停止してもいいように、第3世代移動体通信(3G)回線やソフトフォンなど複数の通信手段を確保しておくと良い。どこかの拠点のネットワークがダウンしても代替経路を確保できるよう、回線を冗長化したり、拠点間をメッシュ状に接続にしたりという、広域分散型の視点も必要だろう。
社内端末や電話機を、バッテリー駆動型の持ち運び可能な機種に替えるといった対策も効果的である。社内が停電してもある程度の業務は遂行できるし、在宅勤務の支援にもつなげられるからだ。在宅勤務を推進できれば、企業としては節電になる。
このような停電、節電対策を取れば、同時に災害発生直後に問題になるネットワークの輻輳、電源喪失による交通手段の停止、といった事態にも対応しやすくなる。
直近の対策はリードタイムが命
ただし、これらの策に手当たり次第に取り組んでいくわけにはいかない。この1~2カ月という視点が重要になる。
例えばデータセンターにサーバーを移設するにしても、企業の根幹を支える基幹システムは停止させるわけにもいかず、そう簡単には移せない。UPSや自家発電装置の設置は電源供給の安定化にはつながるが、現在は流通量が限られており入手が困難な場合がある。自家発電装置は、消防法上の届け出などの手続きや、燃料の供給確保など導入に時間がかかるため、短期的な対策としては取りにくい。
拠点間を結ぶ有線ネットワークの変更も、運用設計から開通までに一定の時間がかかる。バッテリー駆動の端末を、全社一斉に切り替えるにはコストも調達時間もかかる。キッティングなど利用環境を整える作業も欠かせない。
考えるべき条件は三つ。(1)電力消費の削減や供給体制の安定化につながること、(2)導入にかかる期間が短いこと、(3)テレワークなど、就業体制の変化に柔軟に対応できること─が挙げられる
ベンダーも節電/停電対策に向けたソリューションを打ち出してきている。例えば在宅勤務に焦点を当てた仮想デスクトップソリューションがその一つ。「一般的なOAアプリを備えたスタッフ部門向けの環境なら2週間程度で提供可能」(インターネットイニシアティブの小川晋平マーケティング本部GIOマーケティング部部長)という。
もちろん、既に手元にあるリソースを活用する手はある。後述するユーザーの事例では、震災前に「サーバーをクラウドに置き換える予定だった」「たまたま社内のパソコンを低消費電力の新製品に買い換える予定だった」という運の良いユーザーもいる。既に発注してある新規導入プロジェクトを前倒しで導入することで、節電や災害対策に生かすことも考えたい。
電力危機に備える策は、停電してもなんとか業務を継続できるようにする停電対策と、停電が発生しないよう社会に協力する観点での節電対策に分けられる。次回からは、事例を交えながら、サーバー関連とネットワーク関連に分けて停電対策および節電策を解説する。
電力危機への対策が優先課題に
経済産業省は、東京電力、東北電力管内での電力消費量を一律15%分抑制するという目標を掲げている。企業から家庭まで、この節電目標への協力を呼びかける。混乱の元となった計画停電については、「不実施を原則とする」ことになった。だが需給がひっ迫すれば、大規模停電を避けるためのセーフティネットとして引き続き発動することも示唆している。
電力不足はこの夏だけの問題ではない。電力会社の中長期的な発電能力の安定化は、まだ解決の糸口が見えていない。企業ネットワークの安定運用を考えると、停電への対応力や、ICTを活用した節電への貢献は今後2~3年間の優先課題になっていきそうだ。また、節電や停電を想定して対策を打っていけば、中長期的な災害対策、事業継続体制の強化につながる側面もある(図1)。これを機に、先を見据えたBCPの一環として対策に取り組みたい。
有力な手段はアウトソースとバッテリー駆動
節電や停電対策は、昔ながらの手段から最新技術を使うものまで、いろいろ考えられる。自前で対策する場合は無停電電源装置(UPS)や自家発電装置の導入が定石である。稼働させるシステムの消費電力にもよるが、導入していたユーザーは、「計画停電で実施された3時間程度は維持できた」と話す。
サーバー設置環境を見直す動きも加速している。自社拠点内で稼働させているサーバー群をデータセンターに預ければ、その分、自社内の電力消費を抑えられる。データセンターでは多数のユーザーの集約効果で、コンピュータリソースや空調を効率的に利用できる。最近はサーバー仮想化技術の浸透により、リソースの利用効率が向上しているため、1サーバー当たりの電力消費の抑制効果は一層大きい。
データセンター事業者を選ぶ際には、UPSや自家発電装置の規模、燃料確保の体制まで把握しておけば停電のリスクだけでなく、災害発生直後の被害への対応力も高められる。
ネットワーク面では、社内のLANやPBXが停電で停止してもいいように、第3世代移動体通信(3G)回線やソフトフォンなど複数の通信手段を確保しておくと良い。どこかの拠点のネットワークがダウンしても代替経路を確保できるよう、回線を冗長化したり、拠点間をメッシュ状に接続にしたりという、広域分散型の視点も必要だろう。
社内端末や電話機を、バッテリー駆動型の持ち運び可能な機種に替えるといった対策も効果的である。社内が停電してもある程度の業務は遂行できるし、在宅勤務の支援にもつなげられるからだ。在宅勤務を推進できれば、企業としては節電になる。
このような停電、節電対策を取れば、同時に災害発生直後に問題になるネットワークの輻輳、電源喪失による交通手段の停止、といった事態にも対応しやすくなる。
直近の対策はリードタイムが命
ただし、これらの策に手当たり次第に取り組んでいくわけにはいかない。この1~2カ月という視点が重要になる。
例えばデータセンターにサーバーを移設するにしても、企業の根幹を支える基幹システムは停止させるわけにもいかず、そう簡単には移せない。UPSや自家発電装置の設置は電源供給の安定化にはつながるが、現在は流通量が限られており入手が困難な場合がある。自家発電装置は、消防法上の届け出などの手続きや、燃料の供給確保など導入に時間がかかるため、短期的な対策としては取りにくい。
拠点間を結ぶ有線ネットワークの変更も、運用設計から開通までに一定の時間がかかる。バッテリー駆動の端末を、全社一斉に切り替えるにはコストも調達時間もかかる。キッティングなど利用環境を整える作業も欠かせない。
考えるべき条件は三つ。(1)電力消費の削減や供給体制の安定化につながること、(2)導入にかかる期間が短いこと、(3)テレワークなど、就業体制の変化に柔軟に対応できること─が挙げられる
ベンダーも節電/停電対策に向けたソリューションを打ち出してきている。例えば在宅勤務に焦点を当てた仮想デスクトップソリューションがその一つ。「一般的なOAアプリを備えたスタッフ部門向けの環境なら2週間程度で提供可能」(インターネットイニシアティブの小川晋平マーケティング本部GIOマーケティング部部長)という。
もちろん、既に手元にあるリソースを活用する手はある。後述するユーザーの事例では、震災前に「サーバーをクラウドに置き換える予定だった」「たまたま社内のパソコンを低消費電力の新製品に買い換える予定だった」という運の良いユーザーもいる。既に発注してある新規導入プロジェクトを前倒しで導入することで、節電や災害対策に生かすことも考えたい。
電力危機に備える策は、停電してもなんとか業務を継続できるようにする停電対策と、停電が発生しないよう社会に協力する観点での節電対策に分けられる。次回からは、事例を交えながら、サーバー関連とネットワーク関連に分けて停電対策および節電策を解説する。