◇子供の成長、活力に 周囲の理解求めたい
笑顔ではしゃぐ孫そらちゃん(1)を抱き、浦塚善江さん=佐賀市大和町=の顔がほころぶ。その瞬間、腕、足、背中、全身に「カチン」とたたかれたような激痛が走る。「線維筋痛症」が招く痛みと30年以上付き合ってきた。
高校生だった18歳の頃、肩や首にだるさや痛みを感じた。整形外科や整体院を訪ねたが「異常はない」。湿布やマッサージで和らぐこともあったから、一時的な症状だと思っていた。
卒業後、「人の助けになりたい」と、病院に勤めながら看護学校へ通った。しかし授業が40、50分たつと、背中の痛みと強い吐き気に襲われる。病院でも、担架を運んだり、力を使う作業をすると痛みが広がった。
「きっと良くなる」と思ったが、痛みはやまなかった。病院を渡り歩くがレントゲンを撮って「異常なし」。懸命に訴えても、理解してくれなかった。夢だった仕事が十分にできない無力感にも悩み、自殺を図ろうとしたこともあった。
「患者の命を守る身として、これ以上は危ない」と自覚し、1年半後、離職した。外見からは分からず、周囲からは「なんで辞めると?」「もうちょっと頑張ったらいいやん」などと言われた。悪気がないとは言え、つらかった。
20歳で結婚し、4人の子供に恵まれた。布団を畳む、片付けをする「普通」の家事も難儀だった。気候にも左右され、雨が降る前になると、激しい頭痛で「寝たきりのように」体が動かなかった。
痛みと苦しみを紛らわせてくれたのは、子供の成長だった。「お母さん、休んでいいよ」。そんな心遣いに救われた。「この子たちは私が守る」と生きる活力になった。
原因を知るきっかけは、病気を紹介する新聞記事。今年5月、インターネットで県内唯一の専門医(武雄市)を見つけ、正式に診断された。
痛みが足にも広がった現在、一時的に借りた車いすを使う。購入補助などの福祉サービスを受けるためにも、障害者手帳を申請したが、医師から「難病として指定されていないし、前例もない」と断られた。紹介された大学病院も「半年様子を見てから」。「何十年も痛みと付き合ってきたのに」と、悲しくなった。
痛みの範囲は広がり、夜中に痛みで目が覚める。睡眠障害もある。でも今、同じ病気を持つ人の力になりたいと強く思う。「なぜ痛いのか分からず、周りからも理解されず、つらい思いをしている人が、きっといる」。だからこそ「私が声を出すことで、今度は私が誰かの『きっかけ』になりたい」と考えている。
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◇線維筋痛症
全身の関節や筋肉に、強い痛み、こわばりが慢性的に続く病気。直接、死に至る病ではないが、痛みに伴い睡眠障害や抑うつ気分になることもある。原因は不明。03年に厚生労働省の研究班が設置され、治療法などの研究が進められている。全国に約200万人の患者がいると推計されており、30~60歳代の女性が多い。
毎日新聞
笑顔ではしゃぐ孫そらちゃん(1)を抱き、浦塚善江さん=佐賀市大和町=の顔がほころぶ。その瞬間、腕、足、背中、全身に「カチン」とたたかれたような激痛が走る。「線維筋痛症」が招く痛みと30年以上付き合ってきた。
高校生だった18歳の頃、肩や首にだるさや痛みを感じた。整形外科や整体院を訪ねたが「異常はない」。湿布やマッサージで和らぐこともあったから、一時的な症状だと思っていた。
卒業後、「人の助けになりたい」と、病院に勤めながら看護学校へ通った。しかし授業が40、50分たつと、背中の痛みと強い吐き気に襲われる。病院でも、担架を運んだり、力を使う作業をすると痛みが広がった。
「きっと良くなる」と思ったが、痛みはやまなかった。病院を渡り歩くがレントゲンを撮って「異常なし」。懸命に訴えても、理解してくれなかった。夢だった仕事が十分にできない無力感にも悩み、自殺を図ろうとしたこともあった。
「患者の命を守る身として、これ以上は危ない」と自覚し、1年半後、離職した。外見からは分からず、周囲からは「なんで辞めると?」「もうちょっと頑張ったらいいやん」などと言われた。悪気がないとは言え、つらかった。
20歳で結婚し、4人の子供に恵まれた。布団を畳む、片付けをする「普通」の家事も難儀だった。気候にも左右され、雨が降る前になると、激しい頭痛で「寝たきりのように」体が動かなかった。
痛みと苦しみを紛らわせてくれたのは、子供の成長だった。「お母さん、休んでいいよ」。そんな心遣いに救われた。「この子たちは私が守る」と生きる活力になった。
原因を知るきっかけは、病気を紹介する新聞記事。今年5月、インターネットで県内唯一の専門医(武雄市)を見つけ、正式に診断された。
痛みが足にも広がった現在、一時的に借りた車いすを使う。購入補助などの福祉サービスを受けるためにも、障害者手帳を申請したが、医師から「難病として指定されていないし、前例もない」と断られた。紹介された大学病院も「半年様子を見てから」。「何十年も痛みと付き合ってきたのに」と、悲しくなった。
痛みの範囲は広がり、夜中に痛みで目が覚める。睡眠障害もある。でも今、同じ病気を持つ人の力になりたいと強く思う。「なぜ痛いのか分からず、周りからも理解されず、つらい思いをしている人が、きっといる」。だからこそ「私が声を出すことで、今度は私が誰かの『きっかけ』になりたい」と考えている。
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◇線維筋痛症
全身の関節や筋肉に、強い痛み、こわばりが慢性的に続く病気。直接、死に至る病ではないが、痛みに伴い睡眠障害や抑うつ気分になることもある。原因は不明。03年に厚生労働省の研究班が設置され、治療法などの研究が進められている。全国に約200万人の患者がいると推計されており、30~60歳代の女性が多い。
毎日新聞